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どんな時でも一緒にいたいから 大切なペットのために防災を

CREA WEB / 2021年9月11日 11時0分


 大きな災害があった時、自分は大切な愛犬や愛猫を守れるのか、避難所で受け入れてもらえるだろうか……。CREA WEBで実施した防災に関するアンケートでは、そんな風に不安を感じているという声が多くありました。

 そこで今回は、ペットの防災に力を入れている熊本市の竜之介動物病院院長・德田竜之介先生にお話を伺いました。

ペットがいるから、人は災害を乗り越えられる


――読者アンケートでは、ペットと一緒に避難することに不安がある、という声が非常に多く聞かれました。德田先生は、これまでたくさんの被災した飼い主とペットの救援にあたられていますが、どのようなことをお感じですか?

 私が強く思うのは、災害時に人とペットは離れ離れになってはいけない、ということです。2011年の東日本大震災の際に被災地を視察したのですが、現地の状況は凄まじいものでした。飼い主と一緒に避難できず取り残されてしまった動物たちや、一瞬にしてペットを亡くされた方もいて。

 もともと、環境省や各自治体では災害時にペットと一緒に逃げる「同行避難」を原則としています。しかし、東日本大震災では、ペットは避難所の中に入ることを許されず、飼い主と隔離されて別の建物でお互いに不安そうにしていたり、ペットと離れてしまったことで体調を崩された方もいた、と聞きました。

 被災地の動物のことは、なかなかニュースにならず伝わってこないのですが、実際に現地の様子を見て、獣医師としてこの現状をなんとかしなくては、と思うようになりました。

 世の中には、動物が苦手だったりアレルギーを持つ方もいて、さまざまな人が集まる避難所にペット同伴のスペースを作ることは難しいのが現状です。これまでは、別の場所に動物だけのシェルターを作るというのが一般的でした。しかし、冷暖房完備の立派なシェルターを作るよりも、10のうち1つでもいいからペット同伴避難所を作ることが必要なのではないか、と私は考えます。

 それは動物のためでもありますが、何より家族の一員であるペットの存在に支えられている「人」を助けたい、という思いがあるからです。

 そこで、ペットと「同伴避難」ができる場所にするため、13年に竜之介動物病院をマグニチュード9の地震にも耐えられるように建て替えました。そして16年の熊本地震。震災の少ない熊本で、まさかと思っていたのですが、2度にわたる震度7の大地震に見舞われたのです。SNSや口コミで情報を広げ、1カ月の間にのべ1,500人の飼い主さんとペットを受け入れました。

ペットのいる避難所には笑顔がありました


 災害時に人は、「守る人」と「守られる人」の2種類に分かれると感じます。往診に出かけることもあったのですが、通常の避難所はやはり雰囲気が暗かった。しゃべってはいけないし、笑い声も不謹慎なように感じられるのでしょうか。避難している方も、食事や日用品が届けられるのを静かにじっと待っている、という印象でした。

 一方で、私の病院もそうでしたが、動物と一緒に避難されている方のほうが圧倒的に明るく、強かった。自分のペットを守らなくてはいけないから、やることがたくさんあるし、周囲の方と共通の話題もある。自分がしっかりしなくちゃと思うと気丈でいられるし、笑顔も出てくる。動物は繊細なので、飼い主さんが不安そうにしていると伝わってしまいますからね。守るべきものがある人は、強いですよ。

 防災がなかなか自分ごとにならないという人や、大切と分かっていても考えること自体が辛いという人も多いと思います。でも、ペットがいると、この子のために何ができるだろう、という考え方になる。何が必要なのか、避難所はどこか。動物を介して防災を見つめなおす機会をくれるんです。

「災害に備えて何か準備するものはありますか?」と聞かれた時、私は「ペットを飼ったほうがいい」とお答えしています。そのくらい、はっきりとした違いがあるんですよ。

ペットの防災「か・き・く・け・こ」


 德田先生に、もしもの時の備えとして、大切なものをまとめた5項目を教えていただきました。ペットの防災「か・き・く・け・こ」と覚えれば安心です。

◆「か」……飼い主のマナー・責任

 非常用持ち出し袋の準備なども大切ですが、普段から飼い主としてマナーを守り、愛犬・愛猫のしつけがきちんとできていることも重要な防災対策です。避難所には、動物が苦手な人もいるかもしれません。吠えたり騒いだりしないようにしつけておく、においや抜け毛で迷惑をかけないようにケアを行う、などを日頃から心がけましょう。

 また、災害時にはペットが驚いて家の外に飛び出したり、避難の途中ではぐれてしまうことも。首輪や迷子札、犬なら鑑札が必須アイテムですが、外れてしまうことも想定して、マイクロチップを装着する二重の対策がおすすめです。

◆「き」……キャリーバッグ(クレート)


 ハードタイプ、布製、リュックタイプなど素材や形状はさまざまですが、避難の際に安全にペットを運ぶために非常に有用です。キャリーバッグは犬や猫にとって安心して過ごせるプライベートルームとして活用できます。大型犬でも用意しておきましょう。

 動物は狭くて暗い場所のほうが落ち着くもの。普段からキャリーバッグに慣らしておくことも必要です。

◆「く」……薬・ごはん(備蓄品)

 何より大切なのが、薬や療法食など、その子に特別に必要なもの。動物病院が被災すれば、長期間に渡ってこれらが手に入りにくくなるので、ある程度余裕をみて持っておけるようにしましょう。ローリングストック法がおすすめです。それから、最低3日分、できれば1週間分のフードと水を用意しておくと安心ですね。

 また、ペットの写真や健康状態を記した手帳などがあると、はぐれてしまった時や他の人に世話してもらう時に安心です。写真は、さまざまな角度から撮っておくといいでしょう。痩せて顔つきが変わると、飼い主さんでも分からなくなることがあります。また、飼い主さんとの2ショットも飼い主特定の決め手になります。

 他にも、ペットのにおいがついた毛布やバスタオル、トイレ用品、遊びなれたおもちゃ、ブラシなどもあるとよいですが、優先順位をつけて効率よく持ち出すことが大切です。

◆「け」……健康管理


 災害時、普段とは違う環境の中で、ペットは恐怖やストレスにさらされ、食欲不振や下痢など体調を崩しがちに。そんな時、飼い主さんが日頃の健康状態を正確に知っていることが、ペットの命を左右することもあります。小さな病気のサインも見逃さないように、コミュニケーションもかねて、毎日体のすみずみまで触ってチェックすることが大切です。

 誰かに預かってもらう可能性も考えて、必要なワクチン接種、ノミ・ダニ・シラミ予防や駆除、避妊・去勢手術、犬の場合はフィラリア予防など、平時にできることをしっかりしておきましょう。不特定多数の動物が集まる避難所では、感染症やノミ・ダニなどが発生しやすいもの。予防が大切なペットを守ってくれます。

◆「こ」……行動・しつけ

 非常時に役立つペットのしつけとは、特に日頃からいろいろな環境に慣れさせておくこと。たくさんの人や動物が集まる避難所で、少しでもストレスを軽減し、落ち着いて過ごさせてあげるために、苦手なものを少なくしておきましょう。

 具体的には、ケージやクレート(キャリーバッグ)などに慣らす「クレートトレーニング」や、家族以外の人や動物、音などに慣らす「社会化」などがあります。また、体のどこを触っても嫌がらないように日頃からスキンシップやブラッシングをしたり、猫はハーネスやリードに慣らしておくことも大切です。

コロナ禍の今、気を付けることは?
何を優先して持ち出せばいい?

 次に、読者から寄せられたさまざまな質問を、德田先生にお伺いします。

Q1 コロナ禍の今だからこそ、備えるべきもの・ことはありますか?


 先日も、熊本でコロナ陽性と分かったのにペットを預ける先がなくて、飼い主さんが自宅で亡くなるという悲痛なニュースがありました。コロナで心配なのは、陽性になった時に飼っているペットをどうするか、だと思います。本当は、陽性者のペットを預かってくれる施設があるといいのですが、そうもいかないので、日頃から預け先を考えておくことが必要です。

 すべての災害に共通して言えることですが、避難所で生活するにしろ、誰かに預けるにしろ、事前の準備をしっかりすることが大切です。「ペットの防災 か・き・く・け・こ」とも重複しますが、最低限、予防注射を済ませておく、ノミ・ダニ・シラミや寄生虫の駆除をしておく、ネームタグやマイクロチップを入れておく、そして、少しでもペットが社交的でいられるように、他の人や動物に慣らして「社会化」することを心がけてください。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、台風などと一緒である程度予測がつくもの。いつ、どこで起こるか分からない震災などに比べて、具体的な準備ができるのです。もし自分がそうなってしまったら、と考えて、日頃からできることをやっておくことが安心につながります。

Q2 持ち出すものが多くなりそうで心配です。優先順位をつけるなら?


 一番大切なのは、薬や療法食などその子に特有のもの。大きな災害の場合、全域で動物病院の機能がストップしてしまうことも考えられますよね。病院だけではなく、薬の流通ルートが壊滅してしまうこともある。持病などがある場合は、かかりつけ医に相談して、少なくとも1カ月分の予備を持っておくことをおすすめします。それを、ローリングストックしながら使っていくようにしましょう。

 間違えがちなのはドッグフードやキャットフード。これを大量に持ち出そうとする人がいます。でも、ワンちゃんにしろ猫ちゃんにしろ、災害の時に山ほど食べる子はいません。むしろ緊張して1週間くらいは何も食べられなくなるもの。雨にぬれたり、カビが生えてしまう可能性もあるので、フードほど重たくて邪魔になるものはありません。

 もちろん、ペットに食欲があって、飼い主さんに持ち出す余裕があるのが一番ですが、犬も猫も1週間くらいは食べなくなっても心配しなくて大丈夫ですよ。その代わり、脱水症状は怖いので、水分補給をしっかりとさせてあげてください。

 逆に、心配だからと無理に食べさせようとしたり、栄養剤などをあげたがる人もいますが、普段食べなれないものは避けた方がいい。下痢に繋がる可能性があります。そもそも災害時はストレスで、動物は消化器にトラブルを抱えがちです。

Q3 ペットを連れて避難する時は、何を使うのが便利ですか?


 スリングが一番便利だと思います。キャリーケースも後で必要になるのですが、慌てている時にはなかなか入ってくれないもの。とっさに中に入れて連れて行くのは難しい。キャリーケースには、必要なグッズを一式入れておいて、ワンちゃん猫ちゃんは抱っこして逃げるのが現実的です。

 ただ、そのまま抱きかかえると、何かの拍子に逃げてしまう可能性もあるので、リードをつけるなどした上で、スリングがとても使いやすいと思います。飼い主さんの身体にぴったりと密着するので、ペットもすごく安心して落ち着いていられますし、飼い主さんは両手が空いて移動もしやすい。

 これも日頃から慣らしておくことが大切で、例えばワンちゃんの雨の日の散歩はスリングで連れ出してみるなどするといいですね。楽しんでくれると思います。また、乳母車形のペットカートやバギーなども、実は便利です。一見、邪魔になるように思うのですが、飼い主さんの荷物も含め、どんどん物が積めて転がしていける。避難所でも立派なベッドになりますよ。

避難生活が心配です。
ペットにしてあげられることは?

Q4 ペット連れで避難所に入れなかった、という話を聞きました。避難所以外の選択肢は?


 残念ながら、ペットを飼っていない人との間でトラブルが起こったり、飼い主さんが迷惑をかけまいとせっかく入れた避難所から出て行ってしまうケースは多いです。日本ではペットと暮らす人の数は、全体の1割くらい。マイノリティーなんですね。欧米のようにペットを飼う人口が増えて、ペットが社会の一員になれば状況は変わってくるはずですが、今はまだ、通常の避難所に行きにくいという場合も。住んでいる地域に、ペット同伴の避難所があるか、一度調べてみるといいでしょう。

 もし車があれば、最初は車中泊がおすすめです。プライバシーも確保できて他人に迷惑をかける心配もないので、ペットも安心して避難できます。ただし、あまり長期間では動物にもストレスになるので、2、3日、長くても1週間くらいが限度でしょう。まずは一度、車中泊をして、落ち着いて今後のことを考える。そこから避難所に向かってもよいと思います。

 安全がしっかりと確保できる場合は、もちろん自宅避難も考えられます。当たり前ですが、ペットにとっても人間にとっても、一番安心できる場所ですので。日頃から、大型の家具を固定したり、キャットタワーやサークル、ケージの転倒防止やガラスに飛散防止フィルムを張るなど、室内の安全対策を心がけましょう。

 飼い主さんの留守中に災害が起こる可能性を考えて、キャリーバッグなどペットが逃げ込める場所を作っておくことも大切です。

Q5 避難生活中に、ペットのためにしてあげられることはありますか?


 何よりも、一緒にいてあげることが一番です。周りの状況が見えるとストレスで不安になってしまうので、キャリーケースの中にいれて、毛布を掛けてあげるなどするといいですね。スリングに入れてあげるのもいいです。動物は狭くて暗いところを好むので、人間からすると狭すぎないかな? と思うくらいでもちょうどいいんです。

 もう一つは、安定剤を使用すること。これは、熊本地震の際にとても有効でした。処方箋が必要ない、医薬部外品で効き目が緩やかな漢方のようなものでいいので、飲ませてあげると落ち着きます。猫の場合は、マタタビも有効です。興奮する子もいるのですが、穏やかになる子もいるので、与えてみるといいと思います。

 犬の場合に多いのは、環境が変わったストレスによる嘔吐と下痢。緊張によって消化器に症状が出やすいので、出てしまったら吐き気止め、下痢止めを飲ませる必要がありますが、事前に安定剤を与えておけば、原因となるストレスを緩和することができます。


●お話を伺ったのは……
德田竜之介(とくだ りゅうのすけ)さん

獣医師。竜之介動物病院(熊本市)院長。麻布大学院獣医学修士課程修了。1994年に竜之介動物病院を開院。早朝から深夜まで診療を行う。九州動物学院の理事長を務め、動物業界に携わる若者の育成にも取り組む。

竜之介動物病院

所在地 熊本市中央区本荘6-16-34
電話番号 096-363-0033
診察時間 7:00~12:00、17:00~22:00
年中無休
http://ryunosuke.co.jp/

ペットと防災ハンドブック『どんな災害でもネコといっしょ』(左)
ペットと防災ハンドブック『どんな災害でもイヌといっしょ』(右)


災害が起こった時、大切なペットを守るにはどうすればよいか。飼い主が普段からしておくべきことや心構えを分かりやすく、しっかりとまとめた本書。ペット同伴避難の必要性を訴え続け、環境省のガイドライン作りにも協力している獣医師・德田竜之介先生の監修のもと、災害とどう向き合うべきかを総合的に提案してくれます。防災に関する書籍は多くても、ペット防災の関連書籍は少ない中で、本当に頼りになる2冊。

文=CREA編集部

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