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「人生って残酷な気もしますね」杏が映画「かくしごと」のために“内緒を抱えた”2週間

CREA WEB / 2024年6月7日 11時0分

 心に深い傷を抱えながら認知症の父と暮らす孤独な女性が、思いがけない事故によって出会う記憶喪失の少年。三人を結びつけた“嘘”が、やがて衝撃的な結末を引き寄せる――。『生きてるだけで、愛。』で高い評価を博した関根光才監督の長編第二作となるヒューマン・ミステリー『かくしごと』が、6月7日に全国公開を迎えます。

 過酷なシチュエーションに身を置く主人公・千紗子という役に、「今の自分だからこそ演じることができるかもしれない」と体当たりでぶつかったのは、『キングダム 運命の炎』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』など話題作への出演が続いている杏さん。公開を控えた今の気持ちや、母として女性として日々想うことなどをお聞きしました。


杏さん。

消えるタトゥーシールをこっそり貼って、“かくしごと”しました

――血のつながらない少年に向けられる激しい母性、血のつながった父への憎しみと愛情。千紗子の複雑な心情が生々しく伝わり、いろいろなことを考えさせられる作品でした。脚本を読んだ時にはどのような印象を持ちましたか?

 最初に感じたのは、ラストシーンの面白さです。原作である北國浩二さんの小説『噓』とは少し違う終わり方なのですが、脚本も手掛けられた関根監督はすごく潔く、しかも余韻のあるラストシーンを書いていらして、それが衝撃的だったんです。すばらしい脚本だと感じ、ぜひやりたいなと。

 私自身母親となって数年がたちますし、これまで生きてきた積み重ねがある中で、今の自分だったら演じられるかもしれないと思いました。

――主人公の千紗子は、虐待を受けている少年をかくまい、息子の拓未として育てようと決意します。千紗子自身も辛い過去を背負っていて、かなり難しい役どころだったと思いますが、千紗子というキャラクターとご自身とのリンクを感じたところはありますか?

 自分が年を重ねるにつれ、動物や子どものように立場が弱く、自分で何も選べないまま理不尽な状況に巻き込まれてしまう存在に思いを馳せることが多くなってきています。そんなところにこの千紗子というキャラクターが飛び込んできたんです。


©️2024「かくしごと」製作委員会

 虐待などを目の当たりにした時、誰でもまず社会的な倫理やルールに照らし合わせてどう行動するべきかを考えると思うんですけど、千紗子はそこをひっくり返して、今目の前にある命を助けるということを最重要視している。もちろんそこには彼女自身のバックグラウンドもあるとは思いますが、他人でありながら一人の子どものためにどんどん不可能を可能にしていく力は、是か非かはともあれすごいと思いましたし、私もやっぱり応援したくなりました。

――役作りのために何か具体的になさったことはあるんですか?

 今回は殺陣があるとか職業的な特性があるとかという役柄ではなかったので、そんなに事前準備はしなかったんですけど、とりあえず誰にも内緒の何かを抱えているっていう気持ちになろうと思って、2週間ぐらいで消えるタトゥーシールを誰にも見えないところにペタッと貼って、誰にも見られないように過ごしてみました(笑)。

どんどん子供に戻っていく父親と対峙する

――タトゥーシール!?

 そう(笑)。海と太陽みたいなデザインだったんですけど、自分だけの海の思い出をずっと持っているという気持ちで。まぁ、何かに生かされたということは全くないんですけどね(笑)。

――関根監督からは、「誰かになる、演じるのではなく、セリフが言いづらければ変えてもいいから、自分の生の言葉を大事にしてほしい」と言われたそうですね。

 ニュアンスが合っていれば、多少てにをはなどが違っても構わないから自分の感情を出してほしい、と。そのことも含め、関根監督は自然体というものを重視してくださる方でした。少年役の中須翔真くんのシーンでは、フレッシュな画を撮りたいから、あんまりテイクを重ねず、まず翔真くんの表情から撮りましょうとか。

 また、千紗子がすごく感情を高めて涙を流すシーンで、私自身の復旧がちょっと大変になりそうな場合は、テストというよりぶっつけで本番の回数を重ねるとか、カメラの前での自然な表情をとにかく大事に撮影されていたのが印象的でした。


杏さん。

――千紗子は、長く絶縁状態にありながら認知症となった父親の孝蔵を介護することになるわけですが、二人の関係もまた重く切ないものでしたね。

 そうですね。威厳ある父親に抑圧されていた千紗子が、今度はどんどん子供に戻っていく父親と対峙しなければならない。自分が知っている父親の像がどんどん崩れていく悲しさや戸惑いというものは本当に大きなものだと思いますし、しかもこの先まだまだ続いていくわけですよね。

 もしかしたら自分も現実に直面するかもしれないことだし、これからの社会が抱えていく大きな課題なのだろうと思います。

人生って残酷な気もしますね

――日常では会話もままならない孝蔵が、ある夜、長年抱えていた本心を言葉にし、慟哭する場面が圧巻でした。

 父親から優しい言葉をかけてもらったことなどないと千紗子は思い続けてきたんです。でも、子どもはそう感じていたとしても、親の思いはまた違うっていうこともすごくあるだろうなって、自分も親になってみて思います。

 それにいつ気付くかは人によって違うけれど、千紗子の場合は父親が認知症になって初めてそれに気付いたし、父親もそういう状態にならなければ口にできなかったかもしれない。そう考えると、人生って残酷な気もしますね。

――孝蔵役の奥田瑛二さんとは初共演でしたね。

 そうですね。奥田さんは、現場でもずっとあのキャラクターを抜かない状態でキープされていたんです。その没入ぶりが本当にすごかったですし、そのおかげで私も孝蔵の印象のまま、現場でいることができました。


©️2024「かくしごと」製作委員会

――一方、中須翔真くんとの共演はいかがでしたか?

 翔真くんは年齢的にも子役というより、ちゃんと自分で演技プランを持って演じている役者の一人でした。周りから見たらしっかり演技できているのに「うまくできない」って言って悔しがったりして、私がケアしてあげなきゃって思うような存在では全然なかったです。本当にしっかりしていて、奥田さんと翔真くんと私の三本柱で進めていくことができた映画でした。

――川釣りなどの牧歌的な場面もあり、重いテーマの中で救いになりました。杏さんも「現代のおとぎ話みたいだと思った」と語っていますね。

 想像でしかありませんが、千紗子は本当におとぎ話というかおままごとみたいな時間を過ごしたんだと思うんです。学校の手続きとか煩雑なことは一つもなく、社会から隔絶され、なんというか楽しいところだけを味わっているような日々だったんじゃないかと。

 もちろんそんな暮らしが永遠に続くはずはなく、だからこそのはかなさとか虚しさが常に漂う。長い長い前と後ろのストーリーがある中の、ひと夏の夢みたいな、そんなお話なのかなって思いました。

翔真くんの演技に生の感情を引き出されました

――今回、孝蔵の家は神奈川県で、川釣りのシーンなど村の風景は長野県でとオールロケの撮影だったそうですね。自然光を生かした映像の美しさが印象的でした。

 夕方になるとどんどん暗くなってしまうので、光があるうちに撮らなければと毎日が光との戦いみたいな感じでした。8月の終わりだったので、みんなの肌がだんだん汗ばんでいくのもわかりますし、日本の夏の湿度感まで伝わるような、作りものではない本当に自然な映像でした。

 もし何かの都合で撮影の時期が少しでもずれていたらあの季節感は出なかったと思いますし、奇跡のような映像を切り取ることができたので、やっぱり映画館で観たいし、観てほしいなと思います。


杏さん。

――最後の場面について聞かせてください。杏さんが脚本を読んで衝撃を受けたとおっしゃっていたとおり、強烈なクライマックスとなっていました。

 このシーンに関しては、あまりテストせずにやってみたいと前々から監督に相談していました。カメラワークとしては何度かテストを重ねる構成だと思うんですけど、私はとにかく生の感情をいちばんに出したかったので。

 とはいえ、自分が千紗子をどう演じるかというイメージはほとんどなくて、やはり翔真くんありきでした。私の中でどういう感情がいちばんに出てくるだろうといろいろ考えていたのですが、実際に拓未であって拓未ではない彼が最後に見せた淡々とした表情に、「怖い」って思ったんですよ。

――怖い、ですか?

 温かい感情とか、悲しいとか愛おしいとかではない、何か背中に雨だれが落ちてきたような、ヒヤッとするもの。もちろん愛おしさや悲しさが全くないっていうわけではないんですけれども、最後にそういう感情がバーンと入ってきたんです。

 たった1回の本番で、まさに生の感情を出すところまで揺さぶってくれた翔真くんの演技って、本当にすごい。撮影からもう2年たっているので、たぶんまたすごく成長していますよね。なので、あの時の彼がこの映像の中にいたというのは、本当に奇跡だと思います。

――最後に、完成作をご覧になった感想を聞かせてください。

 やっぱりこれはミステリーだな、とすごく感じました。母性だったり、人と人との愛だったりという温かい部分ももちろんあるんですけど、ちょっとヒヤッとするような、ブルっと震えるような恐ろしさみたいな部分が、翔真くん演じる少年のキャラクターに潜んでいて、映像だからこそそれが描き出されている。観た後に誰かと話したくなるような作品だと思いますし、私自身、参加できてよかったと心から思える作品です。

杏(あん)

1986年生まれ。2001年にモデルとしてデビューし、2005年からはニューヨークやパリ、東京などの主要ファッションショーで活躍。2007年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」やドラマ「花咲舞が黙ってない」シリーズなどで主演を務めるほか、『キングダム 運命の炎』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』など数々の映画やドラマに出演している。

衣装

シャツ 269,500円、スカート 294,800円
Bottega Veneta/Bottega Veneta Japan

ピアス K18RG,MALACHITE,WHITE DIAMONDS 473,000円
ブレスレット K18RG,1 MALACHITE,1 WHITE MOTHER OF PEARL,WHITE DIAMONDS 341,000円
POMELLATO/ポメラート クライアントサービス

文=張替裕子(Giraffe)
撮影=橋本 篤
スタイリスト=中井綾子(crêpe)
ヘアメイク=犬木愛(AGEE)

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