「母ではなく個人として接したい」3児の母の杏が子どもたちに伝えたい“ちょっと難しい話”
CREA WEB / 2024年6月7日 11時0分
虐待を受けている子どもを目の前にした時、自分に何ができるのか。ヒューマン・ミステリー『かくしごと』で、社会のルールも人の目も関係なく一人の子どもへの愛を貫こうとする女性、千紗子を演じたのは、自身も三人の子育て中の杏さんです。日本とパリを往復する暮らしぶりや、今回の作品で感じたことなどを語ってもらいました。
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個人として子どもたちと接したいなと思っている
――『かくしごと』では、他人である少年に深い母性愛を注ぐ千紗子を演じたわけですが、杏さんご自身はどのようにお子さんたちと向き合っていますか?
最近私は、母という部分はあえて抜いて、個人として子どもたちと接したいなと思っています。母親だからといって私の言うことを絶対的に聞いてほしいとは思わないし、私が間違っていたら正してほしい。だから、ちょっとずつ自分のことを「私」って言うようにしているんです。「お母さんはこう思うよ」とかじゃなく。
必ずしも私が言っていることが正解かどうかは、誰も決められないし、分からない。今の常識も50年たったら違っているかもしれない。ちょっと難しい話にはなっちゃうんですけど、ここだけが世界のすべてじゃないよっていうのは、繰り返し伝えたいなと思っています。
――杏さんにとっても、お子さんとの時間だけが全てではない?
そうですね。仕事の都合などで、1週間ぐらい一人で日本に帰ったりすることもあって、それもお互いにとって良い距離感につながっている気がします。三人の子どもたちは年齢的にお団子状態なので(笑)、そういう意味では寂しさも軽減しているのかなとも。
私自身も仕事の合間にマッサージとかに行ってセルフケアしたり、友だちと会ったり、子どもと一緒に帰国する時とは違う過ごし方ができています。一時期の子育てでワーッてなっていた時期から、ちょっと落ち着いてきたかな。
――とはいえ、映画の長期ロケが入ったりすると大変ではありませんか?
今回は神奈川と長野でロケがあったので、もちろん例外もありましたが、神奈川の時は子どもたちを送り出してから撮影に行って、できるだけ彼らが寝る前には帰れるように、スケジュールを組んでいただきました。
長野でのロケには、ちょうど夏休みだった子どもも連れていきました。友だち家族も一緒に来てもらって、撮影がない時はみんなで高遠そばを食べに行ったり、花火大会を見に行ったり。本当に景色がきれいだったので、いい具合にオン・オフを切り替えて日本の夏を満喫しました(笑)。
ジグソーパズルの世界大会に出場
――今後はそういう形でうまくスケジュールを組みながら、子育てとお仕事を両立していくのでしょうか。
子どもたちは日々成長して変わってはいくので、その様子を見ながら、子どもとの時間と仕事の時間のバランスをとっていく感じかなぁ。いただくお話を一つひとつ考えて、これは今だったらできるかなとか、この作品は今はまだ難しいかも、と判断しながらやっていければと思います。
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――日本とフランスという二拠点生活も長くなってきたと思いますが、これからチャレンジしたいことはありますか?
好奇心は私の中で大きな原動力なので、知らないことを知りたい、知らない場所に行ってみたい、という気持ちは大事にしたいです。
特に子どもたちなんて一緒に行動してくれるのはせいぜいあと10年そこらなんだろうなと思うので(笑)、今のうちにいっぱいいろんなところに一緒に行きたいですね。
――「千紗子の不可能を可能にしていく力は、是か非かはともあれすごい」とおっしゃいましたけど、杏さんもジグソーパズルの世界大会に出場するなど、かなりアクティブですよね。
もちろんすべて自分一人で行動しているわけではないんですけど、周りに話をしたら意外なところとつながった、みたいなことがけっこうあるんですよね。ジグソーパズルも、雑談で『ジグソーパズルって世界大会とかないのかな』みたいな話をしていたら、『あれ、隣のスペインでやってるじゃん! 行ってみる?』みたいな感じで(笑)。
だから、興味のあることとか楽しみなことは、なるべく人に話したりするようにしているんです。ダメもとで、その時はあまり成果がなくても、数年たってから『これ好きだって言ってたよね』って情報が回ってきたりするので、雑談って大事だなと思います。
最近の読書量は?
――杏さんといえば無類の本好きとして知られていますが、最近でもかなりの読書量ですか?
あー、それはすごく減りました~! やっぱり心に隙間がないと入れられなくて。
――子育てとお仕事が重なると、時間的にも気持ち的にも余裕がなくなりますよね。
そうですね、最近どうしても隙間が大きくとれないような感じはありますね。選ぶ本も軽いストーリーのものが多くなりました。重めのもの、ちょっと昔の難しい文体もなかなか読めなくなって、古い版の文庫本とか、カバーがかかったままになっていることも(笑)。
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――『かくしごと』では、子どもへの虐待や親の認知症など、さまざまな社会問題について考えさせられました。杏さんご自身は、こういった問題について意識されている部分はありますか?
大人になって年月を重ねるにつれ、子どもが巻き込まれる虐待や傷害事件の報道などを見て、怒りや悲しみを覚えることがどんどん増えてきています。ただ、個別の事件の裏には、社会制度や構造の問題があるとも感じます。それでも、自分も含め、子育て中の世代って、忙しさもあってなかなか声を上げる気力も余裕もないという面があるんです。
――確かに、目の前の子育てでせいいっぱいで、それどころじゃないというところはありますよね。
そうこうしているうちにどんどん子どもが大きくなって辛い時期を卒業し、その場の問題からも脱却していく。そしてまた次の新しい世代が大変なフェーズに直面していくというように、ベルトコンベアのように時間と共に状況が変わっていくので、親が抱える問題ってなかなか見えづらいというか、可視化しづらいんじゃないかと思うこともあります。
だからこそ、今感じていることは忘れないでいたいし、チャンスがあったり必要だと思ったりしたら臆さず声を上げたい。何より、考え続けるということ自体がすごく難しくて、だからこそやらなければならないし、そのためにも情報をキャッチしていくことが大事だとも思います。
──千紗子は目の前の少年を救うために「あなたは私の子どもなの」と大きな嘘をつき、かくまいます。
自分だったらどうするかっていう確たる答えはもはや出ないんですけど、千紗子は普通ならなかなかできないことを行動に移して、束の間かもしれないけれども、本当の幸せを体現するために、社会からは隔絶された自分の空間を作り上げる。もし私が同じ状況になっても同じようにできるか分からないなと感じました。
誰でも、いろんな事件が実際に起こった後の情報を聞いて、私がもしそこにいたら何かしてあげたかったなって思った経験がありますよね。じゃあ本当に目の前でそれが起こって、自分が何かできるってなったら、あなたはどうしますか、と。そういうことをすごく考えさせられる作品だと思います。
杏(あん)
1986年生まれ。2001年にモデルとしてデビューし、2005年からはニューヨークやパリ、東京などの主要ファッションショーで活躍。2007年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」やドラマ「花咲舞が黙ってない」シリーズなどで主演を務めるほか、『キングダム 運命の炎』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』など数々の映画やドラマに出演している。
衣装
シャツ 269,500円、スカート 294,800円
Bottega Veneta/Bottega Veneta Japan
ピアス K18RG,MALACHITE,WHITE DIAMONDS 473,000円
ブレスレット K18RG,1 MALACHITE,1 WHITE MOTHER OF PEARL,WHITE DIAMONDS 341,000円
POMELLATO/ポメラート クライアントサービス
文=張替裕子(Giraffe)
撮影=橋本 篤
スタイリスト=中井綾子(crêpe)
ヘアメイク=犬木愛(AGEE)
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