猫好きたちを共感の渦に巻き込んだ 漫画家・オキエイコさんの話題作! 「もしも」に備え飼い主ができること
CREA WEB / 2024年5月17日 17時0分
漫画家のオキエイコさんが、2023年3月から毎日1ページずつX(旧Twitter)で更新し続けた話題の猫漫画を一冊にまとめた『もしもなんて来ないと思っていた猫』(実業之日本社)。
飼い主に「もしも」が起きた時、家に残された猫たちはどうなるのか。そんな猫たちの様子を描き、猫好きたちを感動と共感の渦に巻き込んだ。
更新の度に大きな反響を呼んだが、オキさんはこの漫画にどんな思いを込めたのか。物語やキャラクターを生み出す時に大切にしたことは? 制作にまつわる話はもちろん、「もしも」の時に飼い主が取るべきアクションについても伺った。
悲しい思いをする猫を減らしたい
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――『もしもなんて来ないと思っていた猫』を描こうと思ったのはなぜですか?
これまでも猫の漫画は描いてきたんですけど、今回は飼い主の緊急時に飼い猫を助ける手帳「ねこヘルプ手帳」を制作したことが大きいですね。人間の都合で死んでしまう動物を減らしたいという思いから制作したのですが、もう少しその重要性を知っていただきたかったんです。
手帳を手にしていただいた方からは、「動物と暮らすことに、そんなリスクがあるなんて知らなかった」という声も多くいただいて、このリスクを知っているのと知らないのでは、「もしも」の時への意識と対策がだいぶ変わってくるなって。注意喚起というとおこがましいですが、そういうリスクを知っていただくための漫画があってもいいんじゃないかと思って描き始めました。
――確かに、自分自身にそんな「もしも」が訪れるなんて思わないかもしれません。
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飼い主のみなさん、猫ちゃんたちのことはうんと大切にするのに、自分の健康は二の次なんですよね。一人暮らしの年配の飼い主さんにとくに多いのが、体調を崩していたとしても猫がいるから入院できないとおっしゃる方。私も猫を飼っているので気持ちが痛いほどわかるのですが、飼い主の自分自身が健康でないと猫ちゃんだって生きていけないんですよね。飼い主の健康がその子にとっての幸せになる、というか。だから、自分の心と体の健康をしっかりと見つめ直すことが大事だと感じています。
――そういう思いが今回の漫画に投影されているのですね。
そうですね。主人公は一人暮らしで猫2匹と暮らす凛(りん)ちゃんなのですが、不慮の事故にあってしまい、愛猫たちが待つ家に帰ってこられてなくなるんです。そんな物語からスタートするので、Xで公開し始めると「怖くて見られない」という声がたくさん届いて。
だから、猫好きさんたちを安心させたくて「バッドエンドじゃない」とポストしたんですよ。そうしたら、いろいろな漫画家の友達から「それ、先に言っちゃダメでしょ」って、突っ込まれちゃいました(笑)。だけど、私も読者のみなさんと一緒で、悲しい結末が待っているなら見たくないんですよね。
――結末は最初から決めていたのでしょうか?
実はXに投稿し始めた時には、ラフで100話くらいまでは描き上げていたんです。だから、その時点で終わりも頭の中にはありました。
人と猫が成長していく姿を描きたかった
――漫画では主人公が飼っている三毛猫のマメちゃんと黒猫のクロちゃんのほか、野良猫のサビ猫のボスやシャム猫のセンバなどたくさん猫ちゃんたちが出てきます。キャラクターづくりで大切にされたことは?
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クロちゃんは語り部的な役割もあって、漫画の中でもたくさんしゃべる一方、マメちゃんは全くしゃべりません。なぜかというと、読者のみなさんが飼っている猫ちゃんをこの2匹に投影してほしかったから。
元野良猫のクロちゃんはクールでたくましいけど、飼い主のことを俯瞰的に捉えられる子。一方、マメちゃんは内気で言葉も少ないけれど、その行動から飼い主ことを信頼していることがわかります。黒ちゃんとマメちゃん、それぞれ違った性格なんだけど、どこか自分が飼っている猫のように感じる。そう思ってもらいたいと思いながら描きました。
「猫にはこう思っていてほしい」という私の願望みたいなものも含まれていますが(笑)。
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キャラクターのモチーフになったのは、うちの子たちですね。マメちゃんは我が家の先住猫のしらす、クロちゃんは2匹目として迎えたおこめがモデルなんです。しらすはビジュアルも性格もマメちゃんに似ていますが、おこめは天然系の性格なのでクロちゃんと結構違うかな。どちらかというと、物忘れが激しいセンバのモデルですね。お昼ごはんを忘れちゃううっかり猫なので。
――かわいい(笑)。マメちゃんとクロちゃんは帰ってこない飼い主を探しに、外の世界に飛び出していきます。冒険物語にしたのはなぜでしょうか?
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内気なマメちゃんがクロちゃんをはじめとしたいろいろな猫たちと出会うことで、自分の感情を表に出す姿を描きたかったというのもありますが、実は同じように主人公の凛ちゃんの成長も描きたかったんです。
凛ちゃんは内向的な性格で、人とのコミュニケーションを避けてきた人。それがマメちゃんやクロちゃんの冒険をきっかけに、凛ちゃんも人と関わりを持ち始めます。ちょっとしたきっかけで、人が変われる姿を描ければと思いました。
――冒険を通して猫も人間も成長していくんですね。その物語の中でも、飼い猫、野良猫、人間、それぞれのコミュニティを行き来する様子が描かれているのが印象的でした。
20〜30年前は家猫と野良猫の境目があまりなくて、家と外を自由に行き来したいたんですよね。そういう世界観の漫画や絵本が好きで、今回の『もしもなんて来ないと思っていた猫』は、その影響を受けているんです。『みかん絵日記』とか、『ルドルフとイッパイアッテナ』とか。人と猫の友情物語にも憧れがあるんだと思います。
――Xで半年かけて公開していきましたが、読者の反響の多かったエピソードは?
クロちゃんとお母さんのエピソードは「心が動かされた」とおっしゃってくれる方が多かったですね。
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すごい反響があったのは、凛ちゃんを探しに外へ出たマメちゃんが一人でお家に帰って、凛ちゃんを待っているシーン。マメちゃんしか出てこないし、セリフもないんですが、マメちゃんが思っていることは読者のみなさんにも伝わっていたのかなって思います。私自身もこのエピソードが思い出深くて。私が考えて描いたというより、マメちゃんがそう思ったから自然に生まれたエピソードなので。
「猫を残して死ねない問題」を解決するために
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――ここからはオキさんご自身についても教えてください。2匹の猫ちゃんたちと暮らしていますが、ご自身の成長や変化を感じることはありますか?
う~ん、そうですね……。私は子育てもしているんですけど、猫を育てることもそれと変わらないなと思います。だけど一番の違いは、猫は最後を受け止めてあげないといけないこと。最後の瞬間を思うと悲しくて仕方ないですが、そのことをしっかりと考えないといけないんですよね。命を預かっているという責任は日々感じていますし、猫と暮らし始めてから命について考えることが増えたと思います。
もちろん考えたくないほど辛いですし、きっと一緒に成長してきた子供たちも辛い思いをします。だけど、きっと命の尊さを知るという意味でも、子供たちにとっても大切な時間になると思っています。
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――今回の漫画もそうですが、オキさんが「猫を残して死ねない問題」をライフワーク的に発信するのはなぜですか?
悲しむ猫を1匹でも減らしたいですし、それを防げるのなら防ぎたいからです。「もしも」の時が絶対に来ない人なんていないんですよね。私自身、過去に家に不審者が入ってきたことがあって、死が頭をよぎったことがありました。そういう経験もあって、誰にでも「もしも」があることが知ってほしいという気持ちがあるんです。
――壮絶な経験ですね……。ではその「もしも」の時に備えて、私たちがしておくべきアクションはありますか?
災害対策と同じで、「もしも」の時のために準備をしておく必要はありますね。例えば、地震や洪水などの災害時。人命が優先される中で飼い主の私たちは何ができるのか。そう考えた時に、猫のために水や餌を何週間分か用意しておくことはできるはず。災害時に備えて、できることはやっておいた方がいいと思います。
それから、自分に何か起きた時に、飼い猫を預かってくれたり、引き取ってくれたりする民間のサービスもあります。そういうものを頼るのもいいかもしれません。
――なるほど。オキさんはこの先、猫ちゃんたちのためにどんな活動をされる予定ですか?
私が制作している「ねこヘルプ手帳」は外出時に活用できるものなので、家の中で「もしも」が起きた時にカバーできるものを作りたいと考えています。例えばアプリを立ち上げるだけで飼い主の生存確認ができ、アプリを開いた形跡がない場合は予め登録しておいた家族や友人たちに連絡がいく、みたいな。そんな飼い主も猫も幸せに暮らしていけるようなアプリを作れたらいいなと思っています。
オキエイコさん
漫画家。3児の母であり、2匹の猫たちと暮らす。「猫を残して死ねない問題」をライフワークとし、飼い主の緊急時に飼い猫を助ける手帳「ねこヘルプ手帳」を考案。動物と暮らす人の意識改善を目標に掲げ活動している。著書に『ねこ活はじめました』(KADOKAWA)など。
文=船橋麻貴
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