青木崇高が演じる役がどれも圧倒的に “リアル”な理由。「スパイのように石原さとみさんを観察して…」
CREA WEB / 2024年5月17日 11時0分
『空白』『ヒメアノ~ル』ほか、悲喜が入り混じった人間の不格好な真実の姿を描き続けてきた“人間描写の鬼”𠮷田恵輔監督。彼の最新映画『ミッシング』が、5月17日に劇場公開を迎える。幼い一人娘が公園から帰宅中に消息を絶って3カ月。懸命に行方を探す両親とふたりを取材する地方テレビ局員の姿を中心に、「親の真実」「マスコミの在り方」「ネット社会の現実」に斬り込んでいく骨太な一作だ。
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7年前に石原さとみが𠮷田監督に直談判し出演が実現したオリジナル作品。石原扮する沙織里の夫・豊役を務めるのは、『ゴジラ-1.0』での好演が記憶に新しい青木崇高。一児の父でもある彼は、どこまでもリアルで人間味に溢れた人物像をどう構築したのか。そして、現代社会をどのように見つめているのか――。率直な想いを明かしてくれた。
「父親なりたてほやほや」だからこそ表現したい役柄
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――青木さんは「一児の親として読むのがとても怖い脚本だった」とお話しされていましたが、最初に出演のお話が来たときにはもう脚本があったのでしょうか。
お話をいただいたときは企画書段階だったかと思います。ただ、𠮷田恵輔監督の作品は拝見していてどれもすごく面白かったので「ぜひやりたいです」とお返事しました。
その後に脚本をいただいて――読んでいるときは自分が出ることを忘れていたような感じで世界観にどっぷり入り込んでいました。とても重く、辛くて悲しくはありましたが、その中に光が差す物語で、1つの作品として感動はしました。
――僕自身も親になったことで、自分の親としての感覚を抜きにして作品に相対することがなかなか難しくなってしまったのですが、青木さんはいかがですか?
社会上では役者という立場ではありますが、とはいえ一人の人間ではあるため自分の生活や環境の変化によって心持が変わってきたところはあるかと思います。父親の役自体は以前からやっていますが、いずれはこうした作品をやるかもしれない……という気持ち自体はありました。『ミッシング』を受けないという選択肢は自分の中にはありませんでしたが、やっぱりとても繊細な作品ではあるので監督への信頼が大きかったとは思います。「𠮷田さんが脚本を書いて監督もされるのであればやりたい」という想いでした。
自分自身もまだまだ父親なりたてほやほやの感覚ではありますが、この世界にしっかりと向き合ってあふれ出るものをちゃんと画面に表現したいという気持ちで臨みました。
石原さとみの“熱量”と同じレベルに高めるためにやったこと
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――撮影現場では、𠮷田監督とどんなお話をされたのでしょう。
『ミッシング』は夫婦の物語ではありますが、やはり中心になるのは沙織里という母と美羽という娘との関係性なので、そのうえで自分のポジションをどこに取るかが重要だと考えていました。現場では、石原さとみさんが𠮷田監督とディスカッションしている姿をスパイのように観察していました。彼女がどういうところを不安に思い、沙織里をどのように捉えているのか――。そこから導き出される距離感を第一に考えていました。
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美羽がいなくなる前の夫婦の距離感、そしていなくなってしまった後の距離感について、撮影をしながら限られた状況の中でエッセンスを抽出していく必要があり、ずっと沙織里としての石原さんを見ていたように思います。
そして、𠮷田監督の現場は、彼の人柄がにじみ出ているような明るくてリラックスした空気が流れていました。だからこそ、芝居の中で緊張や興奮を自然に出せたように思います。
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――石原さんは現場でカメラが回り始める前からお芝居を始めていたそうですが、「青木さんが毎度付き合って下さった」と仰っていました。
いやいや、当然のことです。作品が目指すクオリティを生み出すために必要なことをやるのが僕らの仕事ですから。特に石原さんは𠮷田監督の作品への出演を熱望していたわけですから、本作に懸ける想いは計り知れません。でも、僕が後から参加するといっても同じような想いは持たないといけませんし、「用意、スタート」がかかってから始めるよりはその前からじわじわと始めていき、本番になったときにしっかり高まっていた方がいいと僕自身も思っていました。石原さんもそう思っていてくれたことが嬉しいです。
他の作品と比べるわけではありませんが――やはり本作においては、演じてはいるけれどなるべく嘘のないものに、溢れている想いの純度の高さを保ちながらやりたいと考えていました。そのために何ができるかを感覚的に拾っていったアプローチの一つです。
現代社会に対して思うこと「聖人君子にはなれないけれど…」
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――青木さんが「豊の気持ちを想像することは自分の思い上がりではないか」と話されていたのが強く印象に残ったのですが、そうした“嘘のなさ”にいまのお話は通じますね。わかったような気にならないといいますか。
この物語は、ドキュメンタリーを観ているような感覚になると思います。同じような経験を持つ方はきっとこの映画を観られないでしょうし、宣伝に伴う予告などを目にするのもつらいかもしれません。「あくまで一つの仕事だから」とそんなレベルで向き合ってしまうのはとても恐ろしいことです。まだまだ僕自身答えが出せていませんし、絶対にわかったふりはできないけれど――豊という人物と彼が生きる世界をちゃんと心に落とし込んで“生きる”ことで、少しでも向き合いたいとは考えていました。
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これはどんなエンターテインメントや表現においてもそうで、役者というのはそもそもが想像力を使う職業です。ただ哀しいかな、『ミッシング』で描かれるような事件は実際にこの世の中にあり、当事者の方がいらっしゃいます。僕ができることはせめて、自分の全部で作品にしっかりと向き合うこと、そしてその先に少しでもこの社会が良い方向に向かう推進力を生み出せるように努力することに尽きるかと思います。
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僕は、同じような経験をされた方に「観てください」とは言えません。しかし、多くの方に観ていただくことでこの作品が社会全体に広がり、もう少し他者に優しく思いやりを持てるようになってくれたら……と願っています。いまを生きる一個人として「この社会は他者に冷たくなっているんじゃないか」と感じますから。情報化社会になって様々な情報が手に入る反面、「相手の立場に立って考える」や「思いやりを持つ」からは遠ざかっている感覚があります。これは自分も含めてですが――もう少し他人に関心があってもいいのかな、とは思います。そういった意味でも、自分への戒めになるような作品でした。もちろんみんなが聖人君子のように生きられないことは理解していますし、僕も偉そうなことを言える立場ではありませんが、一緒に優しさを持てたらもう少し良い方向に向かえるとは思います。
――いま青木さんがおっしゃった“社会の温度”は、多くの方が感じていらっしゃることだと思います。
きっとそうですよね。ただ、そうは思っていても実際行動することは難しいものだと思います。目の前に困っている人がいたら多くの方が「助けなきゃ」と思う反面、「ここで動いたら偽善者ぶっていると思われるかな」といった周囲からの目線に怯えてしまっている節があるのではないでしょうか。それはもしかしたらSNS等の周りからの評価が、直感的に想う事柄に対してブレーキをかけているところもあるのかもしれません。「なんとかしたい、でも誰かからやいやい言われるんじゃないか」という恐怖が、個々人の行動を鈍らせてしまっているのではないかと思っています。
青木崇高(あおき・むねたか)
1980年生まれ、大阪府出身。主な出演作に連続テレビ小説「ちりとてちん」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、映画『るろうに剣心』シリーズ、『ゴジラ-1.0』や、韓国の大ヒット映画シリーズの最新作『犯罪都市 NO WAY OUT』など。Huluオリジナルドラマ「十角館の殺人」が配信中。日仏共同製作映画『蛇の道』、カンヌ国際映画祭選出作品『化け猫あんずちゃん』の公開が控えている。
文=SYO
撮影=榎本麻美
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