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〈フランスでは約800円なのに…〉日本のアフターピルはなぜ高額なの? 意外と知らない「経口中絶薬との違い」

CREA WEB / 2024年6月1日 11時0分

 避妊の失敗、同意のない性交や性被害に遭ってしまった時。望まない妊娠を主体的に終わらせる選択肢があることを知っておきましょう。



産婦人科医 宋美玄先生。

 産む・産まないも含め、性や身体の決定権は自分自身にあることを意味する「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という言葉が、2023年あたりからよく使われるようになった。その背景には、同年に「アフターピル(緊急避妊薬)」の薬局での試験販売、「飲む中絶薬(経口中絶薬)」の承認・処方が開始されたことも大きい。望まない妊娠やその可能性がある時、落ち着いて判断できる自分でいるために。両者を取り巻く現状やメリット・デメリットを産婦人科医の宋美玄先生に伺った。

アフターピルを薬局で

「まず、アフターピルは、排卵を抑制して妊娠が成立しないようにする薬です。フランスで1999年に承認された『ノルレボ錠』は世界約50カ国で使われているアフターピルですが、日本で承認・対面診療での処方が開始されたのは2011年と遅く、オンライン診療による処方が可能になったのが19年で、23年になってようやく、処方箋を必要としない薬局での試験販売がスタートしました。

 薬局での販売がなぜ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの大きな一歩かと言えば、アフターピルは性交から服用までの時間が短いほど避妊率が高くなるから。医師の診察なしに薬局で買えたほうがアクセスは速くなり、その分、避妊効果も期待できるわけです」

 現在は、研修を受けた薬剤師がいて近所の産婦人科との連携が取れるなどの条件をクリアした全国145の薬局で試験的に販売されている。

「試験販売で大きな問題がなければ、いずれは薬局で普通に購入できるようになるはずです。ただ、懸念としては、日本は飛び抜けて価格が高いんです。先日訪れたフランスでは、薬局で4.8ユーロ(約800円)で買えました。ところが日本では、世界で安全に使われている薬であっても一から治験の必要があるために、数千~1万数千円ほどします。高額ゆえに若い世代にアフターピルが届きにくいことは問題点の一つですが、クラウドファンディングで集めた資金をもとに、24歳以下の女性に対しアフターピルの費用を負担する取り組みをしている団体もあります。そのような情報を知っていることが、いざという時に自分を助けてくれるはずです」

●アフターピル(ノルレボ)の妊娠阻止率


日本産科婦人科学会(2016)緊急避妊法の適正使用に関する指針(平成28年度改訂版)を参照。

72時間を過ぎても、120時間以内ならこんな方法も


©アフロ

子宮内避妊器具「ミレーナ」(通称リング)を性交後120時間以内に挿入すると緊急避妊効果が期待できる。費用は5万円ほど。

手軽とは言い難い飲む中絶薬


©アフロ

 アフターピルが妊娠の可能性がある性交の直後に服用するのに対し、経口中絶薬は妊娠が確定したあとに服用して中絶をするための薬。諸外国では30年以上前から使われており、妊娠22週まで服用できる国もあるが、日本では初めて承認された経口中絶薬ということもあり、現時点では、妊娠9週0日までの使用に限られている。

『飲む中絶薬』と聞くと手軽な感じがしますが、妊娠を終わらせるための薬ですから、服用して、はい終わりというわけにはいきません。アフターピルと同時に語られることが多いせいか、経口中絶薬を薬局で購入できると勘違いしている人もいるようですが、経口中絶薬は母体保護法指定医がいて、かつ、入院の設備がある医療機関・診療所でないと扱うことができません」

 経口中絶薬を取り扱っている医療機関は東京都でも11施設ほど(24年2月現在)。医師が処方した2種類の薬を36~48時間空けて服用する必要があるため、医療機関には2日に分けて足を運ぶ必要がある。

「1剤目で子宮と赤ちゃんの間を剥がし、36~48時間空けてから2剤目を飲んで子宮を収縮させ、赤ちゃんを体の外に出します。重たい生理痛ほどの痛みや経血量がありますし、排出が確認されるまで最長で24時間クリニックで待機しなければなりません。また、1割未満と言われていますが、24時間経っても中絶が確認できない場合は、従来の掻爬法や吸引法で処置することになります」

 子宮に挿入した器具によってかき出す掻爬法や吸い取る吸引法では、子宮を傷つけるのではないかと不安を抱く人もいる。しかし、働く女性のライフスタイルを考えるのであれば、これらの方法のほうが現実的とも言える。

「経口中絶薬は、通常1~3日の休みが必要です。一方、掻爬法や吸引法は麻酔などのリスクはあるけれど、手術は10~30分程度で半日あれば終わります。いずれの場合も人工中絶は保険適用外で、費用は10~15万円ほど。どんな方法にもメリットとデメリットがあるので、他人の意見に惑わされることなく、納得できる方法を自らの意思で選択することが何よりも大切です

●経口中絶薬の流れ


経口中絶薬の流れ。

リプロダクティブ・ヘルス/ライツを知る3つのKeyword


©アフロ

#01 不同意性交等罪

 被害者が「同意しない意思を形成し、表明や全うすることが困難な状態」で性交等を行う罪のこと。2023年7月13日に施行。

「『強制性交等罪』『準強制性交等罪』が統合されて、『不同意性交等罪』になりました。性交同意年齢が13歳から16歳に引き上げられたのもすごく大きなニュースです。男性も女性も大切なのは、自分の体の主権は自分にあり、他人にも一人ひとりの主権があると認識することだと思います。今後、積極的同意でなければ同意でない、というカルチャーが形成されていくことを期待しています」

#02 卵子凍結の助成

 2023年9月、東京都は都在住の18~39歳(採卵実施日における年齢)の女性を対象に、最大30万円の助成をすると発表した。

「助成を受けるには、都が開催する説明会への参加、凍結卵子の保管更新時の調査協力などの条件があるものの、オンライン説明会に約7300人が応募するなど、反響の大きさが話題にもなりました。現在、卵子の時間を止める技術は卵子凍結しかなく、高齢不妊に抗う一つの方法としてはありだとは思います。けれど、必ず妊娠に繋がるものではないという不確かさを理解しておく必要はあるでしょう」

#03 生理休暇

 雇用形態を問わず、生理日の就業が著しく困難な時は休暇を請求できることが労働基準法の第68条で定められている。

「生理休暇の取得率は1%程度と低く、無給の会社が多いようです。ただ、生理休暇を取得できる場合でも、そこがゴールではありません。休みたくなるほどつらい生理痛の場合、子宮内膜症などの病気が原因の場合もあるので、その生理休暇を受診のために使っていただきたい。生理痛は低用量ピルの服用で軽減できるケースが多く、ピルはいくつかの種類から選べるので、気負わず相談してください」

●お話を聞いたのは……

産婦人科医 宋美玄先生

医学博士・性科学者。丸の内の森レディースクリニック院長。2児の母。子育てと産婦人科医を両立しながらメディアにも露出して、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場から積極的な啓蒙活動を行っている。

文=今富夕起
写真=深野未季、アフロ

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