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「クライマックスのセリフを思いつく 生き方ってしんどい」20年描き 続ける漫画家が辿り着いた漫画道

CREA WEB / 2024年5月25日 11時0分

 看護師・アヤと不動産会社で働く・シュウ、そして猫のミケの暮らしを描く料理漫画『にゃーの恩返し』(文藝春秋)。普通とちょっと違うのは、2人の恋のキューピッドが猫のミケだということ。ミケは週に1回2人の仲を取り持つために、猫肌(ひとはだ)脱いで温かな料理を作ってくれます。


『にゃーの恩返し』(文藝春秋)。

 著者の山崎紗也夏さんにミケのモデルとなった保護猫「ばる」の存在や、漫画を描き続けて感じる気持ちの変化を伺います。


ミケのモデル・保護猫「ばる」が家へ来た日


『にゃーの恩返し』第1話より。

――『にゃーの恩返し』に登場する猫のミケは、山崎さんの飼い猫「ばる」ちゃんがモデルだそうですね。どういう経緯で家へ来たんですか?

山崎 私は昔から猫が飼いたかったんですけど、パートナーで漫画家の和泉晴紀が「コレクションしているレコードをひっかくから」と嫌がったのでやめていたんです。でもコロナ禍をきっかけに仕事場を引き払って、少し広い家に引っ越したから、猫が1匹いてもいいじゃないか、と思ったんですよね。それで彼に保護猫の譲渡会へ一緒に行ってもらって、猫を選んでもらうことにしました。「自分で決めたなら、気に入るだろう」と思って。

 彼が選んだ猫は譲渡会で一番ハンサムな猫で、引き取り希望者が多くて倍率は10倍でした。その猫がばるなんです。主催者が飼う人を選ぶ形式で、幸いなことに職業が漫画家で在宅時間が長いからか我が家に来ることに決まりました。当時、生後3カ月くらいでしたね。


家に来たばかりの頃のばるちゃん。(写真提供:山崎紗也夏さん)

――普段はどんな風にばるちゃんと過ごしているんですか?

山崎 仕事部屋に「撫でてくれ」とよく来るんですよ。足元まで来てくれれば撫でられるのに、私が気付くとわざと2メートルくらい先まで走って床にドーンと寝そべるんです。まるで「ここで撫でろ」と言わんばかりに。

――可愛いですね!

山崎 やっぱり、猫がいると笑顔が増えるのでいいですね。夫と喧嘩していても、それぞれが猫に話しかけていたら、いつのまにかお互いに笑い合っているんです。雰囲気が明るくなりました。

――素敵ですね。山崎さんは、過去に猫を飼ったことはあるんですか?

山崎 幼い頃は犬や猫を飼っていました。田舎だったので、野良猫なのか家猫なのか、わからないような状態でしたけど。当時の猫は、家でご飯を食べたら出て行って、ノミをいっぱいつけて帰ってきていましたね。

 大人になってからはメダカやハムスターを飼いました。自分で猫を飼うのはばるが初めてです。ばるはよく食べて動く猫で、ちょっとやせ形なんです。だから漫画に出てくるミケもやせ型で、香箱座りなんかはあまりしないんですよね。

漫画は根性で描き上げるもの


『にゃーの恩返し』の作者の山崎紗也夏さん。

――山崎先生はこれまでたくさんのヒット作を世に送り出してきましたが、転機となった作品はどれですか?

山崎 だいぶ前ですけど、『マイナス』(ナンバーナイン)を描いた時は根性がつきましたね。一番つらかったんです。投げ出したくても投げ出せない。漫画は根性で描き上げるものだと学びました。


『マイナス』(小学館、全5巻)。

 そういう意味で言うと、『にゃーの恩返し』もひさびさに根性が必要ですね。今はアシスタントを入れずに一人で描いているので、けっこう時間がかかるんです。ほかの漫画と比べると工程的な面倒くささが3倍くらいあるので。粘り強さが大切です。本当に猫の手も借りたいくらいですね。うちのばるは邪魔しかしないんですけど(笑)。

――面倒くささを乗り越えるためのルーティンはありますか?

山崎 瞑想をしていた時期もありますけど、今は家事ですね。部屋が片付いてないと集中できないから、作業の合間に片づけています。あとは1日3杯までのコーヒー。それ以上飲むと気持ち悪くなってしまうので。

――エッセイ漫画『ダーリンは55歳』(小学館)でパートナーの和泉さんが料理をする場面を描いていましたけど、山崎さんも料理をされるんですか?


『ダーリンは55歳』(小学館、全1巻)。

山崎 しますよ。特に連載が始まってからは資料のために料理を作るので、夫から「やればできるんじゃない」と認知されて、毎食任されるようになってしまいました。

 毎日起きたら家事を片づけて、10時から12時まで漫画を描く。昼食を取ったら、18時まで描く。それから夕飯の準備をして、晩酌でストレス発散をしていますね。朝昼晩ずっと夫と一緒なので、たまに息苦しいです(笑)。

安定して描き続ける漫画家へ


1993年9月、「ヤングマガジン増刊ダッシュ」にて『群青』でデビューした山崎紗也夏さん。

――漫画を長く描き続ける中で、変化した部分はありますか?

山崎 クライマックスのセリフのために漫画を描いていた時期があるんですけど、そういうセリフがなくても漫画を描けるようになりたいと思って、今はそっちに注力しています。

「セリフのために描く」って強烈なメリハリがあって描きやすいんですよ。読切漫画ではよくそういう作り方をしてきたんですけど、一つのセリフのために漫画を描くってすごく贅沢なことで、そのご褒美がないと描けないという状況は漫画家を続ける上でいかなるものかと思い始めたんですよね。

――しかし、読者としてはクライマックスのセリフに感銘を受けることも多いのでは……?

山崎 そうなんですけどね。クライマックスのセリフを思いつく生き方ってしんどいから、若いうちしかできないと思うんです。世の中や何かに対して憤りを抱えて、それが作品として昇華されていくわけですけど、作者の気持ちが揺れ動かないと出てこないものなんですよ。そういう日々は、生きるのがつらいです。

 私は揺れ動かずに安定して描き続けたいので、今は違うところを練り上げたいと思っています。

髪の毛を描くと疲れが取れる

――山崎さんが漫画を描き続けるエネルギーはどこから湧いてくるのでしょうか。

山崎 単純に、「漫画を描くのが好きだから」に尽きますね。漫画を描いていると疲れがたまるけど、描いている時が一番楽しいので疲れを取るためにまた漫画を描くというサイクルを続けています。辛い状況もファンレターを励みに乗り越えられました。それでもなお漫画を描くのが好きなので、これは一生変わらないんだと思います。

――何を描いている時が一番楽しいですか?

山崎 女の子を描くときですね。特に髪の毛フェチなので、髪の毛を描くと疲れが取れる気がします。


『にゃーの恩返し』第6話より。

『にゃーの恩返し』は手が抜けない漫画で、生活を描くってこういうことなのかもしれないなと改めて感じています。ぜひそういう細かな描写を、読者の皆さんには楽しんでもらえると嬉しいです。

山崎紗也夏(やまざき・さやか)

1974年栃木県生まれ。1993年「ヤングマガジン増刊ダッシュ」の『群青』でデビュー。代表作にドラマ化した『シマシマ』(講談社)、『サイレーン』(同)、『レンアイ漫画家』(同)のほか、『アンダーズ』(文藝春秋、原作/鈴木大介)などがある。

文=ゆきどっぐ
撮影=深野未季

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