「エキストラ以外仕事がなかった(笑)」 藤原季節×林 知亜季×毎熊克哉 映画『東京ランドマーク』制作秘話
CREA WEB / 2024年5月24日 17時0分
藤原季節さん主演の映画『東京ランドマーク』の公開がスタート。2018年に撮られた自主映画で、メガホンをとったのは林 知亜季監督。林監督と毎熊克哉さんが所属するEngawa Films Projectが製作した。
まだ何者にもなっていない稔(藤原季節)とタケ(義山真司)が、高校生の家出少女の桜子(鈴木セイナ)と出会うところから始まる、青春スケッチ。所在なさ、家族との葛藤、コントロールできない感情……若者たちの心の痛みや揺らぎが我がことのように感じられ、彼らの表情がいつまでも脳裏から離れない、そんな映画。藤原さん本人と重なるような、リアルな25歳の姿がそこに刻まれていた。
「今、撮りたい」という衝動からスタートした本作について、10年来の友人関係について、主演の藤原季節さん、林 知亜季監督、プロデューサーの毎熊克哉さんに語ってもらった。
「この人、絶対に売れるな」と…
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毎熊克哉 この3人の中で最初に出会ったのは林さんと僕で、15〜16年前になります。当時は林さんも役者をしていて、端的に言って、エキストラ以外に僕ら仕事がなかったんです (笑)。
どうしたらいいだろうという中で、自分たちで撮れば、自分たちをメインキャラクターにした作品ができるんじゃないか? と、柾 賢志と佐藤考哲と俳優仲間4人で2008年に「Engawa Films Project(以下、Engawa )」を立ち上げました。林さんがカメラを手に入れて、最初に監督をやり始めた。世には出してないですけど、結成初期は林さんの出演作もありましたね。
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林 知亜季 そういえば、ありましたね。
毎熊 そうしてEngawaで短編を撮って、「Engawa Times」というYouTubeチャンネルを始めた頃に、今度は季節と僕が出会いました。
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藤原季節 小劇場の一般公募の舞台でした。僕が19歳の時、毎熊さんがEngawaの人たちに僕を紹介してくれたんです。
毎熊 Engawa の皆と合うんじゃないかなと思って。当時からいろんな俳優に出会ったけど、なかでも季節は特別輝いていたというか、「この人、絶対に売れるな」と思いました。人を惹きつける人だなと。
藤原 へえー(笑)。今、考えると当時の毎熊さんは20代半ば? 僕は今年31なので、出会った頃の毎熊さんの年齢をとうに越えちゃったんですよね。その後、映画『ケンとカズ』(2016年 小路絋史監督)に誘っていただきましたけど、もし今、あのカズを演じるような年下の俳優が現れたら、脅威を感じると思います。
そのくらい毎熊さんは当時から老成していたというか、黙っていても雄弁に何かを伝えられるような、沈黙の似合う男でした。
毎熊 (笑)。林さんと初めて出会ったのはとあるワークショップですけど、鮮明に覚えています。俳優を目指す若者がたくさんいる中で、場違いなくらい、独特のオーラを放っていた。「変なやつが来た」という印象でした。
林 昔から、周囲には変人扱いされてました。
毎熊、藤原 (笑)。
林 それで、アメリカの高校に行かざるを得なくなったところも。でも、アメリカでも退学になったから……。今は、今いる知り合いを大切にしておこうと思っています(笑)。
藤原季節と親友・義山真司のリアルな関係性や感情をフィクションに
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――『東京ランドマーク』を撮ったのは6年前だそうですね。制作の経緯を教えていただけますか?
藤原 僕はEngawa Films Projectで林さんの撮る短編がすごく好きだったんです。ある時、僕も出演できそうになったのですが、直前でダメになってしまった。林さんの映画に出演する運命を逃してしまった。それならチャンスを取り戻さないと、と「林さんの映画に出たいです」と直談判しました。当時、林さんはフランスに住んでいらしたんですよね?
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林 はい。季節とのやりとりと別に、渡仏前に撮った映画で、義山真司がエキストラとして手伝いに来てくれたんです。そこで初めて真司と会って、すごく魅力的で映画を1本撮りたいなと思いました。そうしたら、その後、ふたりは実はすごく仲が良いということを知りました。
藤原 不思議な縁で、点と点が繋がったんですよね! 林さんが帰国してからは3人で頻繁に集まるようになりました。雑談みたいな感じで、真司と僕の関係や家族の話など、身の上話をしているうちに、ある日林さんが僕らの話をフィクションに取り込んで、脚本を書いてきてくれたんです。
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林 僕は、テーマを先に決めて撮るのではなく、その時に漠然と考えていることや悩みを、「撮る」という行為を通して、自然と考えが整理されて撮りたかったものを見つけていくというやり方をしています。
また、この俳優さんだったら、どういう話がいいかな? というところから着想することが多いです。季節と真司の話を聞くうちに、彼らの置かれている状況のリアルな感情をベースに置いて脚本を書けば、キャラクターを自分ごとのように感じて僕よりも愛着を持って演じてくれるんじゃないかなと思いました。
藤原 (静かに頷いている)
林 季節や真司も説明のつかない魅力を持っているんですよね。ただ、歩いて喧嘩しているだけでも画(え)になるし、撮りたくなります。僕が変な演出をつけるよりも、ふたりがただ話しているだけの方がよほど何かが伝わる気がしました。
3人が「今じゃないとダメなんだ」と訴えたんです
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毎熊 3人が何か始めようとしているという話は漏れ聞いていて、脚本の初稿が上がった段階で、Engawaのメンバー全員が呼ばれました。脚本を読ませてもらって、「来月撮りたい」と言われて、「えー、来月!?」って。
林・藤原 (笑)。
毎熊 その脚本も相当な分量があって、普通に撮ったら超大作の部類に入る。それで結構揉めたんだよね?(笑) 林さんとも季節とも。季節と真司も喧嘩していて。
藤原 僕らよく喧嘩するんです(笑)。
毎熊 それだけ遠慮なく言い合える関係ということなんですけど。僕は、長編を季節主演で撮るのなら、ちゃんと出口(上映先)まで考えて、人に観てもらいたい。焦らずにもっと時間をかけて練ってから撮った方がいいんじゃないかなと思ったんですが、3人はすごく熱量が上がっていて、「今じゃないとダメなんだ」と訴えた。意見がぶつかってしまったので、僕は一旦離れることにしました。
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藤原 結局、4時間弱くらい撮ったんですよね? それを最終的にこのおふたりが編集を頑張ってくださって、70分になりました。
林 仲間内で作っていたので、みんな撮ったものを見たいだろうなと、一応ストーリー通りに繋げた状態でした。もちろん、削るつもりではいましたけど、まさかこんなに短くなるとは(笑)。
毎熊 現場はすごい熱量だったので、僕はある程度静観していた方がいいだろうなと思っていました。現場で撮ったものに思い入れがあり過ぎるとシーンをカットするのはなかなか難しいだろうから、ちょっと距離のある僕なら、思い切って切ることができるかと。カットし難い良いシーンがたくさんあったんですけどね。
あれから6年経って、あの時でないと撮れないものがあったというのは、今はすごくわかる気がしますね。
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藤原季節(ふじわら・きせつ)
1993年生まれ、北海道出身。俳優。小劇場での活動を経て2013年より俳優としてのキャリアをスタート。翌年の映画『人狼ゲーム ビーストサイド』を皮切りに、『ケンとカズ』(16年)『全員死刑』(17年)『止められるか、俺たちを』(18年)などに出演。2020年には、主演を務めた『佐々木、イン、マイマイン』がスマッシュヒットを記録し、『his』(20年)とあわせて同年の第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。翌年には第13回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するなど、デビュー以降、映画のみならずドラマ、舞台など幅広く活動を続けている。映画『辰巳』が現在公開中。著書に『めぐるきせつ』(ワニブックス)。
毎熊克哉(まいぐま・かつや)
1987年生まれ、広島県出身。俳優。主演を務めた2016年公開の映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールのスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017の新人男優賞、第31回高崎映画祭の最優秀新進男優賞を受賞。最近の主な出演映画に『愛なのに』『猫は逃げた』『冬薔薇』『妖怪シェアハウス─白馬の王子様じゃないん怪─』『ビリーバーズ』(全て22年)、『そして僕は途方に暮れる』『世界の終わりから』(23年)、ドラマに大河ドラマ『光る君へ』(24年 NHK)など。現在『好きなオトコと別れたい』(テレビ東京)に出演中。
林 知亜季(はやし・ともあき)
1984年生まれ、神奈川県出身。映画監督。高校時代の3年間、アメリカのニューヨーク州で過ごす。帰国後、演劇のワークショップに参加。知り合った仲間とEngawa Films Projectを立ち上げ、映像制作を始める。Engawa Films Projectの撮影、監督を主に担当。2012年、短編映画『VOEL』がショートショート フィルムフェスティバルに入選する。15年にはパリで1年間ドキュメンタリーやファッションPVなどを制作。『東京ランドマーク』は、初の長編映画となる。
文=黒瀬朋子
撮影=平松市聖
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