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「鳴神シェフの料理教室に通ってる」 「ふーみん」のママ(78)が語る 歳を重ねても学び続ける“原動力”

CREA WEB / 2024年5月31日 7時0分

 創業は1971年、ランチタイムの行列はもはや骨董通りの日常風景、幅広い世代から愛され続ける店、東京・南青山の「中華風家庭料理ふーみん」。数々の名物料理が生まれたその厨房で約45年にわたり腕を振るったオーナーシェフの斉風瑞(さいふうみ)さんは“ふーみん”“ふーみんママ”の愛称で親しまれてきました。

「ふーみん」を70歳で勇退し、現在は神奈川県川崎市の新たな拠点、「斉」で1日1組のお客様をもてなすふーみんさんを訪ね、「ふーみん」と“ふーみんママ”の約50年の食の歴史を中心に新天地でのこれからについて、そして、創業50周年を記念したドキュメンタリー映画についてお話を伺いました。生涯現役でありたいと願うふーみんさんの今、そしてこれからとは?


南青山「中華風家庭料理ふーみん」の厨房で、約45年にわたり腕を振るったオーナーシェフの斉風瑞(さいふうみ)さん。

一人で涙をポロポロこぼした日々もあった

1986年5月、40歳のときに現在の南青山・小原流会館地下に移転。席数は神宮前の店の3倍以上に。店のテーマカラーとロゴは常連客だったイラストレーター・灘本唯人さんに依頼。同じく常連のイラストレーター・五味太郎さんが描いたにんにくの絵がシンボルマークに。

斉風瑞 南青山のお店は広すぎるんです、私にはね。最初はとにかくちゃんと回転させなくちゃいけない! って頑張らなくてはなりませんでしたから。オープンキッチンにしたのは、お客様の表情を見ていたいという思いからです。美味しそうに召し上がってる方もいれば、ときにはちょっとつまらなさそうにして召し上がっている方もいらっしゃいます。私は「ふーみん」にお越しいただいたお客様が食事をされる1時間か2時間の間は、幸せにな気持ちになっていただきたいんです。その思いはずっと変わりません。

ランチ営業もスタート。ランチタイムにできる行列は現在も変わらない。

斉風瑞 お店のメニューの基本は自分が食べたいもの、好きなもの。私は辛いものが苦手だからエビチリや麻婆豆腐、回鍋肉は作らなかったんです。でも、ランチを始めてから、そういったみなさんが好きな中華の人気のメニューもたくさん勉強しまして、麻婆豆腐と回鍋肉はランチの看板メニューになりました。

※ランチ限定「豚肉の梅干煮」(通称「梅定」)は、斉家の定番料理に梅干しを加えてさっぱりと仕上げた超人気メニュー。


「お客様の表情を見ていたい」と語るふーみんさん。

 たくさんのお客様に来ていただいて、おかげさまでお店は人気店になりました。でもね、労多くして功少なしというか、私はどうしてこの仕事をしているんだろうって悩んで、一人で涙をポロポロこぼした日々もあったんですよ。息の抜き方がわからないから仕事でいっぱいになっちゃったの。真面目なんですね。

 そんなときにお友達から渡された一冊の本のおかげで吹っ切れて、料理との向き合い方も少し変わったように思います。私たちの体は食べもので作られ、日々の食事で性格だって変わることもあります。だから私はもっともっと責任を持って、愛情を込めて料理を作らなくてはいけないんだということに気付いたんです。それからは体が喜ぶ料理、心を癒やす料理を強く意識するようになりました。

ふーみんさんのお気に入りのメニューは?

常連客たちの間では「ねぎワンタン」「豚肉の梅干煮」「納豆チャーハン」の人気が特に高く、この三品は常連客でなくとも注文率の極めて高い人気メニューとして知られる。

斉風瑞  「ふーみん」の原点でもある「ふーみんそば」もおいしいんですよ。ラーメン好きの私としては推したいところ(笑)。そういえば「ふーみんそば」の取材ってほとんどなかったような……なぜかしら。

 私は外食をして、後で喉が渇くことがあるんですけど、それってちょっと嫌な気分でしょう。だから「ふーみん」では、喉の渇かない料理を心がけていて、「ふーみんそば」もそうなんです。軽やかでおいしいスープをたっぷり召し上がっていただきたい。飲み干す方も多いんですよ。


開店当初からの看板メニュー「ふーみんそば」。ⒸEight Pictures

 メニューから外してしまった「ガーリックチャーハン」も以前は大人気のメニューだったんです。「ねぎワンタン」同様、どのテーブルにもあったくらい。それなのにメニューから外した理由は私が腱鞘炎になってしまったから。ご飯を炒めている途中でお酒を加え、まとまってしまいそうになるご飯を手早く炒めてパラっとさせるのがポイントなんですが、これがなかなかの重労働。腱鞘炎になってしまって、これは無理だと諦めたメニューです。

現在78歳。作ってみたい料理は?

2016年、70歳になったことを機に「ふーみん」を甥の瀧澤一喜さんに任せ勇退。2017年には妹の芳子さんと共に「食+α研究所」を立ち上げてワークショップの開催や出張料理人など、新たな食の探求を続けた後、2021年、神奈川県川崎市高津区に「斉」をオープン。厨房からキッチンに場所を移して1日1組、大きな窓の向こうに豊かな緑が見える明るいダイニングルームでおまかせ料理8皿のコース料理を提供している。すでに人気料理、名物料理も誕生しているもよう。


1日1組のレストラン「斉」にて。

斉風瑞 余裕ができて楽しく料理しています。ここではやりたいことがいろいろあって、例えば「牛肉そば」をお出ししたい。使うのは、牛肉のあばら骨の「ゲタ」と呼ばれる骨と骨の間の部位。それをカットして水から煮て、アクを取り生姜やネギを入れて塩で味付けした旨みたっぷりの牛肉のスープにそばを入れて、仕上げに小口のネギをのせます。青山のお店でできなかった理由はスープと肉のバランス。スープはどんどんなくなって肉が残ってしまいます。その肉を使う料理を考えていてできたのが麻婆豆腐なんです。ひき肉の代わりに柔らかく煮込んだ牛肉をカットして使う牛肉コロコロの麻婆豆腐。大人気なんですよ。

 それに、毎日ではないけれど、ポツリポツリと新しいメニューも誕生しています。フランス料理・鳴神正量(なるかみまさかず)シェフの料理教室に通っているので、「あ、これいい、使おう!」なんていうこともあります(笑)。研究や勉強ということではなく純粋においしいからよく行くのは下北沢にある居酒屋さん「楽味」。私はお酒がまったく飲めないのですが、ここはメニューが豊富で、どれもおいしくて私の好み。近所だったら毎日でも行きたいくらい。季節を感じられるのも魅力です。


ふーみんを引退した今も、斉風瑞さんの創造力は衰えない。

 私は、体が喜ぶ料理を提供したいとお話ししましたね。薬膳はまだまだ勉強不足ですが結局、季節の巡りや自然の流れに沿ったものを食べることが食で養生する薬膳になるんだというのが私の中での結論。だから、そういう意味での季節感は大事にしたいと思っています。

 ここでは、おまかせのコースでお料理を提供していて、ご予約いただいたお客様には「アレルギーや苦手な食材があったらおっしゃってください」って伺うんですけど、ある方が「ここでは苦手な食材を言わないようにしてるって」おっしゃったんです。以前、その方にはニラの花を使った料理をお出ししたんですけど「実はニラが苦手だったけど美味しく食べられたから。ここだと苦手意識がなくなるの」と。とっても嬉しかったですね。ますます頑張らなくっちゃって思います。

 それから、チャーハンが食べたいというお客様がけっこういらっしゃいます。でも、一般家庭の火力でもパラパラには炒められるけれど、ちょっと口当たりが違うので私としては納得がいかないんです。ここの火力で作ることができるおいしいチャーハンを研究中です。

「私の料理ってホッとする料理なんだ」

2021年から、「ふーみん」創業50周年を記念したドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』の撮影を行う。(2024年5月31日公開)

斉風瑞 監督の菊池久志さんは、「ふーみん」を任せている甥、瀧澤一喜の小学校・中学校の同級生で、家族みたいな人。私たちは親しみを込めて“菊ちゃん”って呼んでます。「映画を撮りませんか」って言われたときは私も甥も「え? どういうこと?」って感じでした。映画なんて考えたこともありませんでしたから。

 でも、監督の熱心な説得もあり、じゃあ50周年記念に撮っていただこうかなって。撮られているっていう意識はあまりなくて、いつの間にか映画ができちゃったっていう感覚。緊張せずに自然体でいられましたし、すごく楽しかった。監督の趣味の範囲で作る記録映画かなって思っていたから全国で上映されると伺ってびっくりしましたけどね。


映画『キッチンから花束を』5月31日公開。ⒸEight Pictures

映画の撮影が始まった2021年には17年ぶりにNHK「きょうの料理」出演。

斉風瑞 スタジオでスタッフの方々が「ね、ホッとするでしょう」って、話しているのを聞いて、「私の料理ってホッとする料理なんだ」と、気づきました。私は料理の修業もしていないしプロの味じゃないと思うんです。レストランの味じゃない家庭料理だからかしら、と。それから以前、お世話になっていた方がお店に来られて「ここの料理には心がある。心を感じるのよ」って言ってくださって、とっても嬉しかったですね。

 25歳でお店を持ったときには、これが一生の仕事になるなんて思ってもみませんでした。たくさんの方が応援してくださって、私の料理を求めてくださる限りそれに応えたいと思っています。


「斉」という新天地を得て、心と胃袋を満たす、ホッとする料理でゲストをもてなすふーみんさん。そのキッチンで「ふーみん」の定番的な料理を進化させたり、諸事情でメニューから消えた料理を復活させたり、新たな発想の料理が生まれたり、生涯現役を掲げる彼女はたくさんのお客様の笑顔を励みに、人との縁を大事にしながら楽しく料理を作り続けています。


ほがらかな笑顔が印象的なふーみんさん。

斉風瑞(さい・ふうみ)

1971年、25歳のときに東京・神宮前に「中華風家庭料理ふーみん」を開店。1986年、40歳で現在の東京・南青山に移転。オーナーシェフとして厨房に立ち続け2016年、70歳を機に「ふーみん」を甥の瀧澤一喜さんに任せ勇退。2021年、75歳のときに神奈川県川崎市に「斉」をオープン。著書に『青山「ふーみん」の和食材でつくる絶品台湾料理』(小学館)、『ふーみんさんの台湾50年レシピ』(小学館)などがある。

「ふーみん」

所在地 東京都港区南青山5-7-17 小原流会館B1
電話番号 03-3498-4466

文=齊藤素子
写真=榎本麻美

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