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「死んでも誰かと一緒なら…」小松菜奈と松田龍平が『わたくしどもは。』で感じた“死生観”

CREA WEB / 2024年5月31日 11時0分


小松菜奈さんと松田龍平さん。

 劇場を出たときには、まるで一度生まれ変わったかのようにいつもの風景が少し違って見えるーー。

 富名哲也監督の最新作『わたくしどもは。』は、佐渡島の金山跡地を舞台に、過去に心中したらしい男女が、名前も記憶もなくしたまま再会する魂の物語。圧倒されるような佐渡の自然と悲しい歴史を背負った金山跡地を背景に、俳優たちがその佇まいや肉体表現で静かに綴る詩歌のような映画である。

 現世と来世の狭間の世界を体現し、彷徨える恋人たちを演じた小松菜奈さんと松田龍平さんに話を聞いた。


鑑賞後に想像する余白がある作品


©️2023 テツヤトミナフィルム

――完成作をご覧になっていかがでしたか?

松田 なんて言ったら良いかな。全体的に言葉が多い映画じゃないんですけど、なんか、ゆっくり役者の言葉を汲み取りながら観られる映画だったなと思って。観終わった後に心地いい風が吹いていて、そんな映画でした。

小松 観る方に解釈を委ねる作品ですよね。田中泯さんや森山開次さんらがダンスや肉体で表現される場面や、能のシーンがあったり。鑑賞後に、どういう意味だったんだろうと、想像する余白があるんです。それぞれの受け取り方によってきっと違った印象になるのが面白いなと思います。

松田 佐渡の景色は素晴らしかったですね、そんなに大きい島ではないんですけど、緑も鬱蒼としてパワーがありました。難しい説明は必要なく、感覚で受け止めればいいのかなと。

小松 佐渡島ならではの自然を映していましたよね。鳥のさえずりや風の吹く音など、目を瞑ると本当にその空間にいるような、魂がそこに飛んで行ってしまうような不思議な感覚になりました。

――現世と来世の狭間のような世界。ふたりは名前の記憶を失い、「ミドリ」「アオ」と名付けられます。バックボーンのない人物を演じるのはいかがでしたか?

小松 最初にいただいた台本では、それぞれの登場人物のバックボーンが描かれていたのですが、それがブラッシュアップされるうちに、言葉ではなく表情や佇まいで語るような表現方法に変わっていきました。

松田 そうですね。セリフも、もう少し人間味があるというか、キャラクターが表れている感じだったんですけど、少し古風な、敬語というか、無機質なセリフに変わって。富名監督の現場でガラッと変えられる潔さがあって、なんか安心できたんですよね。――馴染みのない話し方なのでなかなかセリフを覚えられなくて、最初は苦労しましたけど、話し方の癖も「現世に置いてきてしまった」と考えると納得できました。

小松 私の演じるミドリは自分のことを「わたくし」と言うことになって……。

松田 そういえば(現場で)初めの方は戸惑っていたよね?

小松 はい。普段使わないので、自分に落とし込むのが難しくて、「大丈夫でしたか?」と何度も監督や松田さんに聞いてしまいました。

松田 「俺もわからないけど、たぶん大丈夫」って(笑)。小松さんが大丈夫なことだけはわかりましたね。

人は生きていても、魂になった後でも意味みたいなものが必要なのかもしれない


松田龍平さん。

――ミドリとアオについてはどんなふうに捉えていましたか?

松田 ミドリは異様な世界に来てしまったことに戸惑っているところがありましたけど、アオは自分が現世にはもう生きていないことを知ってしまっているのかなと思って。時間が止まってしまった死後の世界で、ただそこにいる。というイメージがありました。

 アオが窓から外を眺めているシーンがあるんですけど、そのシーンを撮ってるときに、「あ、僕が演じてるアオやここにいる人たちは心霊写真でたまに写りこんでしまう霊みたいな存在なのかな」と思って(笑)。外を理由もなく眺めているとうっかり写り込んでしまう霊のやつ。

小松 (笑)。確かに、そういう写真ありますね。

松田 そんな気持ちでいたら、息苦しくなったりして。呼吸は生きている証のようなものじゃないですか。だから、気配を消そうとすると体全体が縛られるような感覚になっていって。まあ、今思えば違うアプローチの仕方もあったのかもしれない、けど(笑)。

小松 そうだったんですね。


©️2023 テツヤトミナフィルム

松田 元々恋人同士だったであろうふたりが、死んでしまって、記憶も感情も現世に置いてきてしまったからか、再び死後の世界で再会しても誰だかわからないんです。それでも、どこかでつながっているような感覚の中にいるふたりの描き方が素敵でした。だんだんとミドリの存在が、アオにとって、そこにいる意味になっていく感覚がありました。

小松 映画の中でも、生を感じるときと、死を感じるときと揺らいでいる感覚がありました。前世での思いが強かったから、ふたりはまた出会えている。ミドリとアオがトンネルを歩くシーンがありますが、「カットがかかるまで歩いてください」と監督に言われたんです。でも、トンネルがものすごく長くて、歩いても歩いても辿り着けない。出口の見つからない感じが、離れられないふたりの関係性と重なるようだなと。

松田 それから面白かったのは、死後の世界でも皆、何かしらの仕事をしているんです。人は生きていても、死んで魂になってしまった後でも何か、役割というか、そこにいる意味みたいなものが必要なのかもしれないなって思って。アオは警備員のようなことをしていたし。

小松 ミドリも掃除をしていましたね。

松田 幽霊になったからといって自由に飛び回ったり、やりたい放題ができるわけじゃなくて、生きていたときのようにまた働いて、何かそこにいる理由というか、意味みたいなものを探すのかもなって。

島の独特な空気感が、物語の不思議な世界と融合


©️2023 テツヤトミナフィルム

――本作は佐渡金山がロケ地。旧相川拘置支所や新穂大野の古寺など、印象深い場所で撮影されています。

小松 金山には、江戸時代に流されて過酷な労働をさせられたという悲しい歴史もあります。行く前はわからなかったけれど、実際にその場に行くと、映画に描かれているような魂や見えないものの存在があっても不思議じゃないと思わせるところがありました。島の独特な空気感が、物語の不思議な世界と融合していたように思います。

松田 佐渡は今回初めて行きました。山と海が近くにあって気持ちがいいんですけど、当時金山として栄えた名残が島全体にノスタルジックな雰囲気を感じさせて。そのバランスが絶妙で。あと坑道は独特の空気があったよね?

小松 ありました。外は蒸し暑いのに、坑道に入るとすごくひんやりしていて。

松田 夜道を歩いててゾクゾクする感じと妙な安心感があって。映画の中の雰囲気と近いものを感じました。


©️2023 テツヤトミナフィルム

――本作を経て、死生観のようなものは変わりましたか?

小松 死んでも誰かと一緒にいられるのならある意味、幸せなのかもしれないと思いました。なぜ、お化けを怖いものと捉えるようになってしまったのかなと改めて考えてしまいました。誰でもいずれは亡くなりますし、生きた人の延長と考えるとそんなに遠い存在ではないですよね? 見えないから怖いと感じてしまうのかな。

松田 良い霊もいるかもしれないし。

小松 そうですよね。

松田  まあ、逆に恐ろしい霊もいるかもしれないからね……。色んな霊がいると思うと、そこは生きていても一緒だけど。

小松 確かに。お化けも、生きているうちに伝えたかったことが伝えられなくてそこに留まっているだけなのかもしれないと思い始めたら、ホラー映画が全然怖くなくなってしまいました(笑)。

松田 (笑)。『わたくしどもは。』のような世界があると思ったら、死ぬこともそこまで怖くないような気持ちになります。

俳優にとって大事なものは「思いやり」


小松菜奈さん。

――最後に。おふたりは俳優にとって大事なものは何だと思いますか?

松田 うーん、なんだろう……。

小松 「思いやり」かな。ひとりでできる仕事ではないですし、照明部さんや撮影部さんや、それぞれの部署の方に補っていただいて、俳優は成立します。誰が欠けてもできないし、一緒に作ってくださる仲間だと思うので、思いやりを忘れずにいれば、みんなが豊かになれるんじゃないかなと思いますね。

松田 思いやりかー。

小松 現場では初めてご一緒する人も多いし、勝手なことはできないですよね。

――もし気の合わない人がいたら、どう対処しますか?

小松 そういう人もいるんだな、と思いながら対応します。シャッターを下ろすことはしないですね。

松田 思いやりは確かに大事ですね。


©️2023 テツヤトミナフィルム

――『わたくしどもは。』の撮影現場はどんな雰囲気だったのですか?

松田 全て島での撮影だったから、みんな佐渡島に泊まっていて。アットホームな感じがありましたね。

 佐渡島の皆さんの、協力ありきの映画だったと思いますし、ほんと良くしてもらって。色んな具が入ってるたい焼きを昼はまず食べに行って。廃校のお店のコーヒーもおいしかったし。

小松 ご自身で作られたお米やお野菜を使ったメニューを出しておられて。朝にはおにぎりをみんなに配ってくださって、本当においしかったですね。

 オフの時間もあって、私は海をボーッと眺めながら音楽を聴いたり、「アカ」を演じた田中椿さんのお母さんに車で自然の美しいところに連れて行っていただいたりしていました。ここでマイナスイオンをたくさん吸っておかなくちゃと思って(笑)、たっぷり癒されました。

松田 でも、自然の癒しも貪りすぎるとやばいんですよ。

小松 どういうことですか?

松田 前に川で撮影していたときにマイナスイオンを浴びなきゃって日傘もささずに貪りはしゃいでいたら日に当たりすぎて日射病みたいになっちゃって。

 色んなものからキッカケをもらって役につなげようとするところがあるから、寒いとか暑いみたいなことすらも落とし込もうとしちゃって。日射病になっちゃうみたいな。いや、ほんと日射病はやばいよ。

小松 それは大変でしたね(笑)。

松田 ほんと、何かに頼りすぎないでちゃんと台本読まないとだよね。一つ大人になれました(笑)。

小松菜奈(こまつ なな)

1996年生まれ、東京都出身。2008年にモデルデビュー。14年長編映画初出演の『渇き。』で、第38回日本アカデミー賞新人俳優賞など、多数受賞。映画『沈黙-サイレンス-』(16年)でハリウッドデビュー。『閉鎖病棟―それぞれの朝―』(19年)で、第43回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『糸』(20年)で第44回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。最近の主な出演映画に『さよならくちびる』(19年)、『さくら』(20年)、『ムーンライト・シャドウ』『恋する寄生虫』(ともに21年)、『余命10年』(22年)など。2016年からシャネルのアンバサダーを務めている。


松田龍平(まつだ りゅうへい)

1983年生まれ、東京都出身。99年『御法度』で俳優デビュー。第23回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか、数々の新人賞を総なめにする。2013年『舟を編む』で、第37回日本アカデミー賞最優秀男優賞ほか多数受賞。最近の主な出演映画に『モヒカン故郷に帰る』、『ぼくのおじさん』(16年)、『散歩する侵略者』(17年)、『羊の木』『泣き虫しょったんの奇跡』(ともに18年)、『影裏』(19年)、ドラマに『大豆田とわ子と三人の元夫』(TBS 21年)、連続ドラマW『0.5の男』(WOWOW 23年)、『いちげき』(NHK 23年)、『ケンシロウによろしく』(DMMオリジナル23年)など。『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』が24年公開予定。

小松菜奈さん衣装クレジット

ジャケット 145,200円、スカート 99,000円/共にアクネ ストゥディオズ(アクネ ストゥディオズ アオヤマ 03-6418-9923)
中に着ているシャツ 66,000円(参考価格)/アヴァヴァヴ(サカス ピーアール 03-6447-2762)
シューズ 24,200円/アルム(https://almofficial.com/)
リング「ココ クラッシュ」左手 人さし指 (上)246,400円 、(下)638,000円、中指 (上)451,000円、(下)264,000円/全てシャネル(シャネル カスタマーケア 0120-525-519)

文=黒瀬朋子
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=小澤麻衣(mod’s hair)(小松さん)、Taro Yoshida(W)(松田さん)
スタイリスト=遠藤彩香 (小松さん)、石井大(松田さん)

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