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女性たちに勇気を与える、朝ドラ 『虎に翼』。「スンッ」とするのは美徳なんかではありません!

CREA WEB / 2024年5月31日 7時0分


©NHK

 女性には参政権がなかった時代に日本初の女性弁護士となり、のちに裁判官になった三淵嘉子さんをモデルにした連続テレビ小説『虎に翼』。女性差別が色濃い中、男性ばかりの法曹界に飛び込んだ彼女の半生を描いたドラマに、勇気をもらっている人も多いはず。心折れそうになる現実に、私たちはどう立ち向かっていけばいいのかを教えてくれる物語にもなっています。観る者の心を揺さぶる『虎に翼』の魅力を深掘りします。


朝ドラ=男性優位社会下で生きてきた女性たちの物語


©NHK

『虎に翼』から再び朝ドラを観始めたという方、おかえりなさい! 初めて視聴習慣ができたという方、いらっしゃい! ようこそ朝ドラの世界へ。

 本作について「フェミニズムドラマ」という見方や、語られ方をたくさんされていますが、言わせていただきます。朝ドラって、ずっとそういうものなんです! 朝ドラ=家父長制と男性優位社会下で生きてきた数多の女性たちの物語といっても過言ではありません!

 本作が特別ということはなく、これまでも多くの作品で女性や少数派の人々の生きづらさや、それを強いる社会を描いてきています。近年は男性が主人公の作品もありますが、基本的に朝ドラは女性が主人公。女性が夢を持って自分らしく生きる姿を描く作品群に、フェミニズムの精神が息づいていないわけがないんです。

タイトル・サブタイトルで伝統的な男女観をぶっ飛ばす!


主人公の夫・佐田優三を演じる中野太賀。©️文藝春秋

 ただ本作にはその精神を明確に伝えようとする、確固たる意欲を感じます。その表明は、サブタイトルにあり! 朝ドラは週の内容をあらわすサブタイトルも注目のポイントです。『カーネーション』ではタイトルになぞらえて、サブタイトルはすべて花言葉で統一(最終週はカーネーションの花言葉という抜かりなさ)、パティシエを目指す女性が主人公だった『まれ』はその週に登場するお菓子の名前入り、故郷の沖縄料理に夢をかける女性が主人公の物語『ちむどんどん』は沖縄料理や特産物の名前入り、『ちりとてちん』と『ごちそうさん』はダジャレを駆使したサブタイトルで内容を伝えていました。

 本作のサブタイトルは、第1週の「女賢しくて牛売り損なう?」に始まり、「女三人寄ればかしましい?」「女は三界に家なし?」と、女性にまつわることわざや慣用句を疑問形にしたもの。同じく弁護士を目指す女性が主人公の朝ドラ『ひまわり』も「出るクイは打たれるの?」など、ことわざに疑問符をつけていたので、本作も受け継いでいることがわかります。

『ひまわり』との差異として挙げられるのは「女性」にまつわる言葉のみをピックアップしていること。毎週のサブタイトルをみていくと、女性に関する格言はなぜか女性を侮蔑するようなものが目立つことがわかってきます。

 古くから言い伝えられてきことわざには伝統的な男らしさ・女らしさが如実に表れています。男にとって大切なのは勇気や決断力であるとされているものが多いのに対して、女にとって大切なものは男を元気づける愛嬌だとされているものばかり。男は威勢が良く堂々としている姿が好まれ、女は美しくおしとやかで、控えめが好まれる。現代の感覚からは「はて?」ですよね。『虎に翼』のサブタイトルは、本作は「だから女は……」と語られる言葉を一つひとつ検証し、そこに性差は関係ないことを示してくれています。

 タイトルであり慣用句の「虎に翼」は強い者に一層の強さが加わり、勢いが増すことを喩えた言葉。「弁慶に薙刀」と同様の意味であり、男性に対してイメージしやすい言葉です。それを、女性が主人公の作品のタイトルにつけて仕上げる。もうそれだけで支持するに値するのではないでしょうか。

平等は戦後の新憲法で定められた権利

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

 日本国憲法第14条を冒頭にかかげた本作。終戦を迎え、寅子(伊藤沙莉)はこの条文に出合います。改めて見聞きすると、なんて素敵な条文なんだろうと思いませんか? 寅子からすると、余計にそうでしょう。だって、大日本帝国憲法時代には、これに該当する一般的な平等原則の規定はなかったわけです。そして第24条では、家族に関して個人の尊重と男女平等も定めています。日本で人権保障が発展したのは、現憲法のおかげです。

 現憲法ができる前の不平等さは、ドラマで知る通り。封建的な家族制度や慣習のもとで、女性は若くして結婚し、家のために自分を犠牲にして働くことがよしとされ、家事労働と育児に専念させられ、その自立は抑圧されていました。

 それに加え、本作においては法律上も妻は無能力者とされ、財産は夫の管理の下におかれ、離婚にともなう財産分与請求権もなく、経済的に自立することも不可能な地位におかれていたこともしっかり強調。抜け落ちがありません!

 政治に参加する機会・権利を与えられていなかった女性は、戦時中は戦争に協力するための「愛国婦人会」「国防婦人会」に加入させられます。婦人会の活動に精力的な“おばちゃん集団”描写も『カーネーション』をはじめとする朝ドラあるあるですが、女性が主だって活動することが難しかった時代だからこそ、そこにやりがいを感じてのめりこんでしまうのも無理はない気がします。女性たちは、夫や親、子を戦場に連れ去られることに一言の批判をする自由すらないままに、天皇制とそれにともなう軍国主義の犠牲者として敗戦を迎えなければなりませんでした。

 ここでみなさん、『カムカムエヴリバディ』を思い出してください! 1人目のヒロイン・安子(上白石萌音)が生きた時代(『虎に翼』とほぼ同時代)は家父長制が圧倒的な価値観として存在。家長たる男性が権力を独占し、家族全員を支配・統率する家族形態にもとづくこの社会制度は、明治民法によって法的に保証されていました。女性は弱い存在であり、男性の監視下、保護下にある。女性は継ぎたくても家を継げない、結婚の許可は父親が与える、夫はタメ口で妻が敬語……安子はそれに抗うことはなく、むしろ無自覚に受け入れていて、その都度「なんでやろ」と困るくらい。

 たぶん、当時の多くの女性が「なんでやろ」だったと思います。でも、それが当たり前すぎて事の異様さには気づく術もなかった。本作の寅子のように「はて?」ができるようになるには、やはり「知識」が必要なんです。

みんなが翼を得られる社会のために声をあげていい


男爵令嬢・桜川涼子を演じる桜井ユキ。©文藝春秋

 今私たちは、すべての国民の平等や個人の尊重を謳う日本国憲法の下で生活しています。でも、本当にそうでしょうか。たぶん多くの視聴者が、寅子や作中に出てくる多くの女性たちが虐げられている様を、現代に置き換えて視聴しているのだと思います。

 現憲法の下でも、ほんとうの意味での平等はなかなか実現されていません。たとえば結婚後の姓の選択、賃金格差、職場の昇進において女性は男性より不利な状況にあること。入試で女子の得点を一律に減らし、女子の合格者が増えないよう調整されていたこと。セクハラやDV……。これが2024年の現実です。

 寅子が戦ってきた時代と同じことは現代でも起きています。もちろん女性だけでなく、性的少数者、障がいを抱えた人、在日外国人……あらゆるマイノリティに対する不平等な状況、つまり社会的排除もまだ残っていて、さまざまな問題に対して「おかしい」の声があがり、現在も裁判で闘われています。

 本作では女性がやりたいことも言いたいことも言えず、男性の後ろで耐えたり、諦めていたりするときのすました表情として「スンッ」という表現がありました。おおごとにせず、自分が耐えれば良いという考えているときに用いられる表現です。今でもあることでしょう。でもそれ、美徳でもなんでもありません。

 現憲法下においても、その下で生活している私たちが負の歴史を受け継いでそれまでと変わらずにいたら、差別や不合理な取り扱いは、現実社会に温存されてしまうのです。憲法は「ある」だけではあまり価値がありません。それに本作では盾や傘や暖かい毛布のように語られてる法律ですら、まだ人権侵害まがいのものは残っています。法律は国会でつくられるため、多数派や権力保有者に都合がいい意見が優先されがちになっています。そうすると、私たちに保障されていたはずの権利が知らないうちに奪われていた、なんてこともありえます。

 それでもみんなが現状に対して「おかしい」と感じたとき、おかしな意見を覆すこともできるのが憲法の大きな特徴です。おかしなことを正すために使ったときに、「個人の尊重」を掲げる憲法は価値を発揮してくれます。つまり、憲法はあなたの「生きやすさ」の助けになってくれるもの。幸福追求のために存在してくれている。本作を観ているとそう信じたくなります。

 ミソジニーなネット空間や世の中では、反フェミニズムの言説に触れる機会も多く、女性たちの怒りは嘲笑されてしまいます。でも、寅子たちのように戦ってきた人がいるからこそ、今の私たちの権利はある。そう思うと、やはり私たちが今すべきポーズは「スンッ」ではく「はて?」であるべきではないでしょうか。みんなが翼を得られる社会のために声をあげていいんです。『虎に翼』を観ていると、その勇気が湧いてきます。

綿貫大介

編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
Instagram @watanukinow
X(旧twitter) @watanukinow

文=綿貫大介

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