1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

「フィンランド戦の涙の意味も初めは…」バスケAKATSUKI JAPANの激闘を映画化大西雄一監督が描いた“ 追体験”

CREA WEB / 2024年6月6日 11時0分

 2023年に行われた「FIBAバスケットボールワールドカップ」で、アジア勢最高位を獲得し、48年ぶりに自力でのパリオリンピック出場権を獲得した「バスケットボール男子日本代表 AKATSUKI JAPAN」。長い苦難の歴史の末に手にした快挙に感動した人も多いのではないでしょうか。

 パリ五輪を目前に、あの熱狂がスクリーンで再び蘇ります。

 ワールドカップでの激闘の日々を、密着映像や独占インタビューなどを織り交ぜて描いた、映画「BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち」で監督を務めた、大西雄一さんに制作の舞台裏を語ってもらいました。(全2回の前篇。)


「やったことがないものはやりたい性分なので」


大西雄一さん。

――今回が初監督作品ということですが、まずこの映画の誕生までの経緯を教えてください。

 今もそうですが、僕は元々、テレビ番組を手掛けていまして。社会派と呼ばれるようなドキュメンタリーであったり、アートドキュメンタリーだったり、色々な番組を作ってきました。ただ、スポーツ系のドキュメンタリーにはあまり縁がなかったんです。

 それがコロナ禍のときに、MLB(メジャーリーグ)が短縮シーズンになって、「こういうときこそ野球ファンは野球を求めている」というテーマのドキュメンタリー番組を作ることになって。不思議なもので、一度番組を作ると同じようなオファーが来るんですね。そこからスポーツ番組の仕事をいただけるようになって。


大西雄一さん。

 そんなときに以前、お仕事でご一緒させていただいたプロデューサーの方から、「今度バスケットボールの映画を作るので、監督をやりませんか?」と言われたんです。劇場版の監督なんてやったことがなかったんですけど、基本的に僕、やったことがないものはやりたい性分なので、「やります!」と即決しました。

――映画はワールドカップ前から企画されていたのですか?

 いえ、9月にワールドカップが終わってから、日本の好成績を受けて、あの激闘を残そうという話になったそうです。僕のところにオファーが来たのは11月で、実際に取材などが始まったのが2月末ですね。

「完全ににわかファンです(笑)」

――結構なスピード感で作られたんですね。元々バスケットボールはお好きだったんですか?

 いや、それが全然(笑)。オファーをいただく前から、ワールドカップは見ていましたが、たまたまテレビをつけたら、2試合目のフィンランド戦が放送されていたという感じで。ただ、その試合を見て、「日本ってこんなに強いの!?」って一気にハマって、そのあとはビールを片手に観戦を楽しんでいました。でも、バスケの基礎知識はありませんから、フィンランド戦後に選手たちがなぜ泣いていたのか、涙の意味も分からなかったですし、オーストラリア戦は仕事で見られなかったし、完全ににわかファンです(笑)。

 だから、最初は「90分に5試合なんて入らないよ」って、勝った試合と五輪進出が決まったカーボベルデ戦にだけフォーカスして、ドイツ戦とオーストラリア戦は端折ろうと思っていたぐらい(笑)。

――ゼロからのスタートという感じだったんですね。

 そうですね。だから僕の中では、この映画はハンデ戦だと思っていて、プレッシャーもものすごくありました。というのも、テレビで初めてバスケのワールドカップを見たという僕のような人と、Bリーグの試合を、お金を払って会場に行って応援しているファンでは、バスケに対する熱量が違うわけです。中には試合開催地の沖縄まで足を運んだ人もいるかもしれない。そういう熱烈なバスケファンの方が見ても満足できる映画を作らなきゃいけないわけです。

 そこで最初に話をいただいた11月から、実際に撮影が始まった2月まで、めちゃくちゃ勉強をしましたし、ワールドカップの試合映像は5試合すベて50回以上は見直しました。ワールドカップに関して言えば、日本の誰よりも見た自信があります(笑)。


大西雄一さん。

――テレビ番組ではご自身で現場取材をされると思いますが、今回の映画は既存の映像を多く使っていますよね。普段と違う作業も多かったと思うのですが、どんなことに注意をしていましたか?

 まず、今回の映画の大きなテーマの1つが「追体験」でした。

 今回、素材となった試合映像はFIBAの国際映像だったので、テレビ中継のような実況や解説は入っていないんですね。実況が入っていないということは、床を鳴らすボールやバッシュの音、ファンの声援がダイレクトに聞こえてくるということ。つまりテレビで見ていたときと、受ける印象が全然違っていたんですね。最初に映像を見たときは「現地ではこれを見て、これを聞いていたのか」と驚きましたし、僕が作るものはこの現場感を再現しなくてはいけないと強く思いました。

 テレビの実況が入っているものをもう1回繋ぎ直しても、それはテレビの特番でしかないですよね。そこで実況も解説も省いて、生の音を伝えることにしました。代わりに、多少の解説は必要なので試合展開のナレーションスペシャルブースターとして会場にいて、現場の熱量を知っている広瀬すずさんに、ナレーターをお願いしました。

 それと、テレビは、狙うべき視聴者層は時間帯にもよるので、誰が見てもわかりやすく作ることを求められることが多いのですが、映画ではバスケファンの方に満足していただきたいと思い、基本的なルール説明などのナレーションは極力除外しました。

12人それぞれの役割にフォーカスしたい

――苦労したことはありますか?

 何を取捨選択するかですね。

 例えば、先ほどのフィンランド戦での涙。よくよく勉強をしていくと、日本代表の苦難の歴史があるからこそ、あの涙につながっていくわけで、絶対に描かないわけにいかない。そうなると他の部分を削らないといけない。

 今回、選手12人とコーチ3人、日本代表OB2人、計17人へのインタビューをしましたが、皆さんのお話を聞くたびに、プレーに違う意味合いが見えてきて。

 さらにみんなが知っていることはもう描かなくていいと思っていたので、取材が終わると毎回選手が所属するチームの広報の方に「今日初めて聞いた話はありましたか?」と聞きました。


大西雄一さん。

 その中で「あの話は初めてでした」「あそこまでディテールを細かく話しているのは初めて聞きました」と教えてもらったものは、どうしても映像にのせたい。だから取材に行くたびに構成が変わっていって、「やばい、これエンドレスで終わらないな」と思っていましたね(笑)。

 独占インタビューも大変でした。シーズン中での取材だったので、チーム事情で15分しか取材ができないこともあって。そうなると取材項目を絞り込まないといけない。全員に聞きたい質問もあったし、12人それぞれの役割にフォーカスしたい。抜き出した映像を持っていって、選手に見てもらったり、限られた時間の中で何を聞くかは、すごく悩みました。

 でも、取材をしていく中で、僕の考えと皆さんの思いが合致していく瞬間というのがあって。だからすごく手応えを感じましたし、たくさんの方に楽しんでもらえるものになったと思っています。

大西雄一(47)/監督

主な制作・演出歴
NHK BS 「WRC世界ラリー選手権」(2021年~継続中)
NHK BS1 「ワースポMLBスペシャルぜんぶ見せます! 激闘2020MLB」(2020年)
NHK総合 「テレビはどう伝えた?! 激動の世界」(※テレビ放送70年企画)
NHKBS4K・ブレミアム「よみがえれノートルダム大聖堂」(日仏共同制作)
NHKBS4K・プレミアム「天才ピアニスト・ブーニン 9年の空白を越えて~ハケ岳復帰公演 完全版~」
NHKスペシャル「ビジョンハッカー 世界をアッブデートする若者たち」ほか多数
NHK BS 「デジタル・アイ 北朝鮮 独裁国家の隠された“リアル”」
<映画> 2015年ドキュメンタリー映画「アンデスの英傑日本人・天野芳太郎の生涯」

文=林田順子
写真=石川啓次

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください