1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

岩合光昭と角田光代が、初の対談。「猫のかわいさの“後ろ”にあるものを写し留めたい」「猫は、使者」

CREA WEB / 2024年6月7日 7時0分

 1998年に日本の女性誌ではじめて「猫」を特集し、パイオニアだったCREAが、終わらない猫ブームが続くいま、12年ぶりに、猫と人との幸せな関係を紐解きます。

「CREA」2024年夏号の「猫のいる毎日は。」特集。その一部を抜粋し、掲載します。


 動物写真家の岩合光昭さんと作家の角田光代さんによる特別対談が実現。猫を表現するおふたりが、「猫の愛で方」を語り合います。


「猫好きの人は、どんな猫種であれ、どんな柄であれ、猫であるだけで好き」


対談は作家・角田光代さんのご自宅で、角田さんの愛猫・トトちゃんも交えながら。ついつい顔がほころぶ。

「猫はとにかく美しい。飛び上がったときの筋肉、足の運び、目の動き……一つひとつが素晴らしい」──岩合光昭

「猫が好きな人ってどんな猫種でも柄でも猫であるだけで好き」──角田光代

岩合 角田さんはトトちゃんと出会うまで、猫とは全く縁がなかったんですよね。

角田 そうなんです。トトは、漫画家の西原理恵子さんのおうちで生まれたんですが、私の心の準備ができる前に、突然やってきた、というのが実感です。

岩合 そのあたりのいきさつは、本を読ませていただきました。

角田 ありがとうございます。私はトトが我が家にやって来るまで、猫の顔がみんな違うって知らなかったんです。犬は顔も大きさもそれぞれ違うけれど、猫はだいたい同じだろう、と。それが、女の子は女の子らしい顔をしているし、男の子は男の子らしい顔をしている。外で生きている猫は、ちゃんと外で生きている顔をしている。“世界の再認識”ぐらいの、大発見でした。猫がこんなに違うのなら、たとえばスズメならスズメにもそれぞれに違いがあって、一羽のスズメをずっと見ていれば、その違いがわかるんじゃないか、と思いました。

岩合 その通りだと思います。犬の違いがわかりやすいのは、ヒトの手が加えられている、ヒトがつくったものだからです。猫はつくれない。ヒトが変えようと思っても、大きさも変わらない。猫は“猫の大きさ”なんです。

角田 あぁ、なるほど。

岩合 犬と猫とではそもそものルーツから違うんですよね。犬は、主に狩猟用にその形を変えてきました。

角田 犬好きの人って、その犬種が好きな方が多いような気がします。トイプードルが好きな人はトイプードルの写真集が欲しい、みたいな。でも、猫好きの人は、どんな猫種であれ、どんな柄であれ、猫であるだけで好き、という。

岩合 僕は犬の写真も撮らせていただいていて、犬の写真展もやっているんですが、(写真展に)来られたお客さまは、「これ、うちと同じ犬種だけど目が違うんだよね」と。自分の犬にはすごく興味があるんですけど、よその犬にはあまり興味がない。

角田 自分の犬、が基準なんですね。

岩合 そうなんです。でも、猫(の写真展)だと「うちの○○ちゃんにそっくり」と。

角田 (笑)。もう、どの猫を見ても、わあぁっ! って思います。

猫の美しさには野生がある


お気に入りの“バリバリボウル”でくつろぎつつ、「ニンゲンの会話も、ちゃんと聞こえてますよ」のトトちゃん。10月で14歳だが、「身体が若い」と、岩合さんからお墨付きをいただいた。

岩合 角田さんは、猫のどういうところが好きですか?

角田 歩くときに音をたてないとこや、触り心地がくねくねしているところでしょうか(笑)。あと、人間と対等な気がするところがすごく好きかもしれないです。岩合さんは、どんなところが?

岩合 まずは、猫の美しさですね。とにかく美しい動物だと思います。猫というのは、原型に近い形、原型そのままの美しさ、野生を感じる動物だと思います。動きもね、どこかへ飛び上がったりするときの筋肉だとか、足の運び、目の動き、耳や鼻、そういう一つひとつの動きがとても素晴らしい。僕は12年前から『岩合光昭の世界ネコ歩き』(NHK BS プレミアム4K、NHK BS)というテレビ番組を始めたんですが、それまでに野生動物の番組をたくさんつくっていました。ホッキョクグマ、クジラ、パンダとか。でも、「ネコ歩き」は反響が全く違いました。多分、10倍、20倍くらい「ネコ歩き」のほうが大きい。

角田 そうなんですか。

岩合 そこで、自分が今まで野生動物を通じて伝えたかったこと──自然や人間のなかにあるものを感じてもらうこと──を、猫を通じて伝えるのは素晴らしいことなんじゃないか、と。なので、猫を撮るときは、そういう撮り方をしています。かわいさはもちろんなんですが、かわいさのなかのもっと後ろにあるもの、それを写し留めたいな、と思っています。

角田 猫の後ろにあるもの……。

岩合 僕たち人間の身体のなかにも、野生ってあるんですよ。角田さんの小説のなかには、そういう野生が垣間見られる箇所が出てくるので、すごく正直な方なんだろうな、と思っていました。

角田 (照れながら)ありがとうございます。自分では、あんまり(野生ということを)考えたことはないんですが。

岩合 僕は人の世界の“(心の)あや”がすごく苦手なんですよ。動物としての自然のなかのヒトは理解してるつもりなんですが。なので、角田さんの小説を読ませていただいて、あっ、そうか、人間って、社会ってこうなのか、と(笑)。

ふたりが出会った世界の猫


「寝てても動いてもかわいい。要するに、全部かわいい」と角田さん。

――岩合さんは世界中で猫を撮影されていますが、自然や文化が違うと猫も違うものでしょうか?

岩合 答えは二つですね。猫はやっぱり猫なんだと思います。でも、人もそうですが、猫も環境によって変わってきます。フランスの猫はやっぱり個性的だし、イタリアのオスの猫は目立つところにいるんですよ。

角田 ミャンマーに行った時、仏教の教え──小さいものに親切にすると、来世で良く生まれる──からなのか、みんなが猫ちゃんを大事にしていたんです。まだ小さなお坊さんなのに、托鉢でもらったご飯をちょっとだけ猫に分けてあげる。自分だってお腹が空いているだろうに、と泣けてきました。

岩合 角田さんは割と泣きますね。

角田 私は泣きすぎなんです。道を歩いていても、ふと、トトが死んだらどうしよう、と思っただけで泣いています。

岩合 それだけ感情が豊かだということじゃないですか? 泣いてばかりいたら、生きるのは大変そうだけど。

角田 ただ泣くだけなので、そこは大丈夫です(笑)。

猫は“今”を生きている


岩合光昭さん(左)、角田光代さん(右)と角田さんの愛猫・トトちゃん。

猫は「愛」。本当に愛すべきもの。──岩合光昭

猫はどこからか遣わされてきた「使者」。──角田光代

角田 今、トトは14歳なんですが、やっぱり、あと何年くらい(生きられる)かな、と考えてしまうことがあります。

岩合 僕はアフリカに住んでいたこともあって、死はごく自然なこととして受けとれるんですが、動物の死といえば、ある母ゾウを思い出します。死を迎えている母ゾウが、家族が傍に来ると、一瞬立ちあがろうとしました。そして、母ゾウの死後、子どもたちは暗くなるまでずっとその周りを回っていましたね。もう周りには草がないのに、根っこを掘るようにして食べて、その周りにもう食べられるものがなくなってしまうまで。翌朝には、子どもたちはいなくなっていましたけど。動物も死を理解するには時間がかかるのだと思います。そもそも、彼らは「老い」を感じていないですしね。

角田 猫には時間の概念がないから、将来を愁うことはない、不安に思うことはない、と言いますね。猫には「今」しかないのだ、と。そういうのは、見習いたいことですし、私も習得したいと思っています。

岩合 我々も、猫のように生きれば老いを感じなくても済むのかもしれない(笑)。

角田 さっき、野生という言葉が出ましたが、以前は集合住宅の10階に住んでいたので、虫が入ってこなかったんです。ここに越してから虫が入って来るようになって、その虫をトトが捕れるようになったら、トトの自己肯定感が上がりました。でも、蝉を咥えているのを見るのはちょっと……。

岩合 僕は逆に「おぉ、やってる、やってる」と。野生みを感じて、素晴らしいと思います。

――最後になりましたが、この特集に出ていただいている方みなさんに、「あなたにとって猫とは」という質問をしているのですが。

角田 私にとっては「使者」でしょうか。どこからか遣わされてきた「使者」なんだと思います。

岩合 僕は気取っていうわけではないのですが、LOVE、「愛」という言葉を。猫は、本当に愛すべきものだと思いますね。

岩合光昭(いわごう・みつあき)

動物写真家。1950年、東京都生まれ。近著にネイチャー・ドキュメンタリー写真集『この素晴らしき世界 What a Wonderful World』。X(@lion007)では愛猫のタマとトモにまつわる投稿が大人気。


角田光代(かくた・みつよ)

作家。1967年、神奈川県生まれ。2005年『対岸の彼女』で直木賞を受賞。近著に『方舟を燃やす』(新潮社)。コロナ禍前に建てた一軒家は愛猫・トトが過ごしやすい工夫が随所にちりばめられている。

 K-POP界のレジェンド、ドンヘさん、ウニョクさんをお迎えしたスペシャルインタビュ―、JOさんと愛猫ミントの貴重な2ショット、SNSで話題沸騰中のマンガ『猫に転生したおじさん』作者・やじまさんによる特別描きおろしマンガ&シール付録など、「猫のいる毎日は。」特集は「CREA」2024年夏号でお読みいただけます。

文=吉田伸子
写真=榎本麻美

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください