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「前向きで背中を押してくれる条文」渡辺ペコさんが語る『1122』の冒頭に憲法第24条を入れたワケ

CREA WEB / 2024年6月14日 7時0分

 2016年に連載が開始されるや否や、「婚外恋愛許可制」「セックスレス」など、踏み込んだ描写が話題を呼び、大きな注目を集めたマンガ『1122(いいふうふ)』。結婚とは何かを問いかける渡辺ペコさんの話題作がこの夏、ドラマ化されます。

 相原一子(あいはらいちこ)と二也(おとや)は結婚7年目の仲良し夫婦。しかしセックスレスで子供がいない二人は、夫婦仲を円満に保つため「婚外恋愛許可制」を選択する……という、これまでにない物語です。

 結婚している夫婦も3組に1組は離婚する時代。「結婚って何だろう」「いい夫婦って何だろう」――鋭い観察眼とユーモアで、現代社会に生きる私たちを取り巻く違和感を、丁寧にすくいとってきた漫画家・渡辺ペコさんにお話を伺いました。


漫画ではかなり“嫌われていた”二也が映像では…


マンガ『1122』の作者・渡辺ペコさん。

――まずは『1122 いいふうふ』ドラマ化決定を受けての率直なお気持ちをお聞きします。

 実は本作『1122』は、編集部を通してこれまでいくつか実写化を希望するのご連絡をいただいていました。しかし、いろいろな事情があったと思うんですけど、それらはすべて流れてしまって。その度に落胆してしまうので、もう実写化のご連絡をいただいても喜ばないようにしていたんです。ただ、今回佐藤順子プロデューサーからお話をいただいた際の文面からは、作品からいろいろなものを受け取ってくださったことが伝わってきて、素直に嬉しくなりました。そのときはまだ具体的なキャストの話などはありませんでしたが、信頼できる方が携わってくれるのであれば、今回はうまく事が運ぶといいなと思っていました。

――できあがった作品を観られた感想はいかがでしたか?

 まだ胸がいっぱいで、思い出すだけでうるっときてしまいます。やはり、まずは高畑充希さんと岡田将生さんが引き受けてくださったことが大きいです。第一話から高畑さん演じる一子がすぐに寝転がってゴロゴロしてしまう穏やかな感じと、岡田さん演じる二也が率先して家事をしてくれている様子にきゅんきゅんしてしまいました。すごく素敵な関係性ですよね。最初は二人が醸し出す空気感に心地よさを感じていました。そして話が進んでいくうちに、自分が完全に“意図していたわけではないんだけれども、意識はしてた”ことが画面から見えてきてびっくりしました。


ドラマ『1122 いいふうふ』メインカット。©渡辺ペコ/講談社 ©murmur Co., Ltd.

――どのような場面でしょうか。

 たとえば、岡田さん演じる二也は序盤から見ていくと、甲斐甲斐しく相手をケアしてくれる優しい夫。でも徐々に、優しすぎてちょっと何を考えてるのかがわからないという部分が見えてくるんです。私が自分で漫画を描いていたときは、実際にこういうのらりくらりとした男性は結構いるんじゃないかなと思っていたけれど、世間のリアクションをみてみると、そんな二也はかなり嫌われていたんですよ。やはり不倫男性はそういう目で見られます。漫画のキャラとしては読者の方々に怒られていたんですけど、映像で観ているとより人物像が立体的に立ち上がってきたことで、ただの“理解ができない不倫夫”ではなく、この人は“優しいんだけど、掴みどころがない。なんでこんなにいろんな人に優しく接してしまうんだろう”みたいに、どんどん興味を持ってしまうようなキャラクターに仕上がっていました。

「自分が無意識でやっていたことがダイレクトに伝わってきた」


ドラマ『1122 いいふうふ』より。©渡辺ペコ/講談社 ©murmur Co., Ltd.

――たしかに不倫の描写は生身の人間が演じるとより生々しくなるので、不倫夫への風当たりは漫画よりも強くなるのではないかと思いましたが、岡田さん演じる二也にあまり嫌悪感を感じませんでした。

 そうなんですよね。一方で、高畑さん演じる一子ちゃんの二也に対する甘え方は、まるで親を求めているかのような、親に対してできなかった甘え方をしているように感じました。そしてそんな一子のことを理解しながら、二也は受け止めてくれているんだろうなと感じました。さらに二也は西野七瀬さん演じる美月とのやり取りのターンから、表情や言葉がどんどん出てくるようになってくる。掴みどころのない人の、人間らしい姿が垣間見れて面白かったです。どれも自分で考えて描いていた人物像だけど、実写になってより私も登場人物の理解が深まった感じがします。

――ほかに気になったシーンはありましたか?

 一子が女性用風俗を利用したことが、二也にバレたあとのやり取りです。映像で観ると、二也が一通り非難したあとに、結構一子も強い言葉で言い返していて。結末は知っていたのに、あれ、この二人、大丈夫かな? と心配になって観てしまいました。ここは一子の真剣さ、切実さも伝わるいいシーンでしたね。二也がいなくなったあと、戻ってきてくれたときはなんだか泣けてしまいました。漫画のときは「すごく不器用な二人ですね」という感想をいただくことが多かったのですが、私はそういうつもりはないまま描いていたんですね。でも、映像で観ると、みなさんが仰るようにすごく不器用な二人だなと思いました(笑)。


『1122』第5巻より。©渡辺ペコ/講談社

――たしかに、高畑さんと岡田さんが演じた一子と二也は、よりじれったさ、不器用さが増長して感じられました。

 大丈夫な素振りというか、大丈夫にしようと二人とも頑張っているんだけど、ちょっともろいというか。友達のように仲が良い二人なんだけど、それゆえに不穏でもある。不倫のことを抜きにしても、お互いがお互いに気を遣っている雰囲気が一話から感じられました。監督の演出意図なのか、俳優の意図なのかわからないですが、改めて自分が無意識でやっていたことがダイレクトに伝わってきて本当に面白かったです。

憲法第24条を通して伝えたかったこと


『1122』第1巻より。©渡辺ペコ/講談社

――冒頭で日本国憲法第24条が映されていました。漫画と共通する部分ですが、憲法を入れた意図をお伺いしたいです。

 憲法についての本を読んでいたときに、第24条の条文に目が止まりました。婚姻関係について、両者の平等とお互いの協力が根底にあるのだと明文化していることにとても感銘を受けました。おこがましいですが、自分の考える「結婚」のイメージと近いものが提示されているように感じてこれはアツいなと。それで冒頭に持ってきたいと思いました。

――24条の第1項には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」とあります。

 個人の尊重と男女平等の実現を目的とする第24条には「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と定めています。両性という言葉から、憲法は同性婚を禁止しているという主張があるのも知っていますが、私は「両性=すべての性の両当事者」という意味であると理解しています。同性婚は憲法違反であるとは思っていませんし、憲法を改正する必要はなく、法律を変えることで同性婚は認められるべきであると思っています。この第24条の条文自体は、とても前向きで背中を押してくれるような文言だと感じます。読んだときに、ぐっときてしまいました。

――旧民法では家制度のもと、結婚には当事者の意思だけでなく、戸主による同意も必要とされていました。これを廃止し、女性は財産を持てないなど女性を差別していた家族に関する法制度も改めて、男女平等を保障したのが、この憲法第24条です。

 私は結婚をロマンスの結果とも打算とも捉えていなくて、お互いが向き合って維持していくものだと考えていたので、この条文に感銘を受けました。「こういうことを伝える漫画です」ということがわかりやすく伝わればいいなと思い、冒頭で出しています。

渡辺ペコ(わたなべ・ぺこ)

漫画家。北海道生まれ。2004年、「YOUNG YOU COLORS」(集英社)にて『透明少女』でデビュー。以後、女性誌を中心に活躍。繊細で鋭い心理描写と絶妙なユーモア、透明感あふれる絵柄で、多くの読者の支持を集める。2009年、『ラウンダバウト』(集英社)が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。2020年に完結した『1122(いいふうふ)』(講談社)は、夫婦とは何かを問いかける話題作として大きな注目を集め、現在累計146万部を超えている。その他の著書に『にこたま』(講談社)、『東京膜』『ボーダー』(集英社)、『変身ものがたり』(秋田書店)、『昨夜のカレー、明日のパン』(原作 木皿泉/幻冬舎)、『おふろどうぞ』(太田出版)などがある。現在、「モーニング・ツー」(講談社)にて『恋じゃねえから』を連載中。

文=綿貫大介
写真=佐藤 亘

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