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「“結婚”をロマンスめいたもので包んでしまってよいのか」作者が語るマンガ『1122』の出発点

CREA WEB / 2024年6月14日 7時0分

 2016年に連載が開始されるや否や、「婚外恋愛許可制」「セックスレス」など、踏み込んだ描写が話題を呼び、大きな注目を集めたマンガ『1122(いいふうふ)』。結婚とは何かを問いかける渡辺ペコさんの話題作がこの夏、ドラマ化されます。

 相原一子(あいはらいちこ)と二也(おとや)は結婚7年目の仲良し夫婦。しかしセックスレスで子供がいない二人は、夫婦仲を円満に保つため「婚外恋愛許可制」を選択する……という、これまでにない物語です。

 結婚している夫婦も3組に1組は離婚する時代。「結婚って何だろう」「いい夫婦って何だろう」――鋭い観察眼とユーモアで、現代社会に生きる私たちを取り巻く違和感を、丁寧にすくいとってきた漫画家・渡辺ペコさんにお話を伺いました。


“結婚”をロマンスめいたもので包んでしまってよいのか


マンガ『1122』の作者・渡辺ペコさん。

――結婚・夫婦とはどういうものだと思いますか? ペコさんの結婚観について伺いたいです。

 まず世間的な結婚のイメージもちょっと変わってきてはいるとは思います、特に若い方たちは。ただ、自分の年代やもう少し上の世代の方だと、家制度・家父長制の名残りというか、結婚に対する意識が旧式のまま引き継がれてしまっている部分が往々にあると思います。家事や育児などの性別役割分担の意識なども、固定化されてしまっていたり。それにフィクションなどではロマンチック・ラブイデオロギーに乗っかって、ずっと結婚がロマンスのゴールであるかのように扱われてきていた。結婚を幸せと結びつけたり、ロマンスめいたもので包んでしまう考え方には、私はずっと違和感がありました。そういうものだとしたら、結婚はしたくないと思っていたんですよね。ただ実際には結婚は、制度として助かる、というか便利でいいところもあるんだろうなと感じていました。

――生活面や金銭面では、メリットになると。

 結婚は華やかなものではなく、制度としてわりと地味なものというか、堅実なものとして考えた方がいいのではないかと思っていました。大きな決断なのだから、普通に落ち着いて決めたほうがいいと思うんですよね。大事な契約を酔った勢いなんかではしないじゃないですか。それと一緒で、恋愛でふわ〜っとしているときに契約を交わすのはやめておこうと考えていました。

「私にとって結婚は、なんだか怖いもの」


ドラマ『1122 いいふうふ』より。©渡辺ペコ/講談社 ©murmur Co., Ltd.

――婚姻制度自体に興味を持たれたのはいつからですか?

 興味というと良い意味で捉えられてしまうかもしれませんが、そうではなくて。私の両親は結婚に失敗した典型で、私はその失敗例みたいなものをつぶさに身近で見てきたんです。決して失敗したことがダメというわけではなく、私の両親はうまくいかないことについて、きちんと話し合えていなかった。そういう夫婦はわりといると思います。それなのに永遠の愛を誓う婚姻制度って、一体何なんだろうと疑問に感じていました。

――それでは結婚について前向きに考えられないですよね。

 当時はそうでした。付き合っている男性からプロポーズを受けることは幸せで、嬉しいことなのだという影響を少女漫画などからは受けましたが、私にとって結婚は、なんだか怖いもの。だからお付き合いした人が結婚を匂わせてきたら、ちょっと警戒してしまうほどでした。自分が未成熟なままでは、大きな契約を交わしたときに、自分に対しても相手に対しても責任が取れないじゃないですか。だから、もっとちゃんとした大人になってからじゃないと結婚なんかできない、という感覚はありました。

「不倫は最低」という一点張りの見方が多かった


『1122』第1巻より。©渡辺ペコ/講談社

――『1122』では夫婦間で「婚外恋愛許可制」を認めています。これは海外などではそれなりに普及している「オープンリレーションシップ/オープンマリッジ」(パートナー同士が相互の合意の下で、他の人とのデートやセックスを許容する関係)のように感じました。日本ではまだモノガミー(婚姻や性的関係、恋愛関係において1人の相手とのみ関係を築くこと)が当たり前とされているなかで、世間の反応はいかがでしたか?

 私は、「結婚」「夫婦」について考えたいのでこの漫画を描いたんですけど、反応としてはやはり「公認不倫」という言葉が独り歩きして、不倫をするやつなんて最低だという見方がとっても強かったように思います。二也に対する非難の声はとくに多かったです。一子も女性用風俗を利用して二也以外の男性と関係を持ちますが、それよりも男性側の不倫に対する嫌悪感がよく耳に入ってきました。私は「婚外恋愛許可制」に至るまでの過程として、一子のちょっとした乱暴さや粗暴さ、思いやりの無さも描いていたのですが、なにより「不倫は最低」という一点張りの見方が多かったです。

―― 一般的な浮気や不倫との違いは、夫婦間で双方の合意があるか否か。本作が合意の下での「婚外恋愛許可制」を描いたのは、結婚することで個人の身体が相手の所有欲、独占欲に支配されるのはおかしいという疑問もあるのでしょうか。

 そうですね。身体や感情は個人に属しているものなんだけれども、結婚というものは気持ちは別としても、一応、性的な関係は夫婦間だけという決まりですよね。それで全然いける人ももちろん、いると思います。ただ、人生は長期に渡るもの。人間の感情や身体の状態は、性別問わず変わることがあると思うんですよね。

コミュニケーションとしてのセックスは必要か?


『1122』第1巻より。©渡辺ペコ/講談社

――たとえばセックスレスになる要因として、セックスをすること自体が苦痛に感じるようになった、相手に性的関心を抱くのが難しくなった、身体の事情によってセックスができなくなってしまったなどが挙げられます。夫婦間にセックスがあることが当たり前でそれに喜びを感じる人も多い一方で、逆にそのことが難しく、問題を抱える夫婦もいます。

 良い悪いの話ではないんですけど、そういうものも含めて、“揺らぎ”が出てくるのは当然なんじゃないかと考えていました。

――従来の性生活は夫婦を結びつける大切な絆だと考えられてきましたが、現代では夫婦関係に性生活は重要ではないと考える人々が増え、望まないセックスを拒否することもできるようになってきました。それによるセックスレスがこの物語のはじまりでもありますが、夫婦生活において、(生殖目的以外の)セックスはどのように捉えたらいいのでしょう。

 コミュニケーションの一つになり得るものだと思います。だからこそ、お互いが共通の認識で同じように楽しめたり、同じぐらいの関心度であればいいんですけど、そうとは限らない。当初は同じだったとしても、お互いの環境が変わるにつれて差が生じてくるものです。だからこそ、すり合わせは必要だろうなと思います。金銭感覚とかもそうじゃないですか。さまざまな感覚の違いがありますが、どれも重要なものとしてちゃんと話し合うことが大切だと思います。ただ、日常会話自体が少ないカップルもいますし、関係性によってはその話し合いが難しい。話し合いってある程度お互いが成熟していないとできない高度なコミュニケーションだなと思います。それができないから、いきなりキレてしまったり、逃げてしまう人が出てくるんですよね。大切な話ができるようになるには、知性や学歴などとは別に、人間としての精神的な成熟度をある程度鍛える必要があるんだろうなと思います。


ドラマ『1122 いいふうふ』より。©渡辺ペコ/講談社 ©murmur Co., Ltd.

―― 一子側の不貞行為が女性用風俗の利用だったこともポイントだと思います。対価を払ってサービスを受けたことに対して、男性である二也が「若い男を金で買った」と嫌悪感を示す様もリアルでした。一子があえてお金を介したサービスを選んだ理由はなんですか?

 二也が美月に恋愛的な好意を抱いているのに対して、一子も恋愛だとちょっとくどくなるなと思っていました。それに「どっちが純度の高い恋か」みたいな話にはしたくなかった。二也が恋でうっとりしているとしたら、一子は恋ではなく、性的な欲求や精神的なものを満たすためにサービスを利用するという対比にしてみたかったんです。それに対して二也が嫌悪感をあらわにする描写も描きたかったことです。双方がパートナー以外とセックスをしたことはそれぞれに切実な思いを抱えての結果なんですよね。

渡辺ペコ(わたなべ・ぺこ)

漫画家。北海道生まれ。2004年、「YOUNG YOU COLORS」(集英社)にて『透明少女』でデビュー。以後、女性誌を中心に活躍。繊細で鋭い心理描写と絶妙なユーモア、透明感あふれる絵柄で、多くの読者の支持を集める。2009年、『ラウンダバウト』(集英社)が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。2020年に完結した『1122(いいふうふ)』(講談社)は、夫婦とは何かを問いかける話題作として大きな注目を集め、現在累計146万部を超えている。その他の著書に『にこたま』(講談社)、『東京膜』『ボーダー』(集英社)、『変身ものがたり』(秋田書店)、『昨夜のカレー、明日のパン』(原作 木皿泉/幻冬舎)、『おふろどうぞ』(太田出版)などがある。現在、「モーニング・ツー」(講談社)にて『恋じゃねえから』を連載中。

文=綿貫大介
写真=佐藤 亘

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