「メイクで薬物依存の皮膚を再現」河合優実の役作りメソッドを変えてしまった少女「杏」の存在の大きさ
CREA WEB / 2024年6月7日 7時0分
河合優実に会いたい! そう思って実現したのがこのインタビューだ。
少し先の未来を描いた映画『PLAN75』の儚げなオペレーターから、1986年に生きる少女を溌剌と演じたドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系)まで血の通った女性をヴィヴィッドに体現してきた、才能の塊。そんな彼女の最新作が、『あんのこと』だ。
コロナ禍の東京で起きたある事件をモチーフにしたこの映画で彼女が演じるのは、少女時代から母によって売春を強いられ、ドラッグに依存するようになってしまった21歳の杏。刑事の多々羅(佐藤二朗)や、雑誌記者の桐野(稲垣吾郎)との出会いで、ようやく自分の人生を取り戻そうとするが――。『SR サイタマノラッパー』の監督、入江悠がパンデミックでの経験を交えて作ったこの映画で、彼女は「香川杏という女性を生き返す」という感情労働に挑んだ。
実話を基にしながら実話から離れて演じる難しさ
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――実在したある女性についての新聞記事がベースの作品ということで、どんなふうに杏という役にアプローチしたのか、またどんなお気持ちで演じられたかを教えてください。
実在の人物がモデルなので、すごく強い気持ちがないと演じられないなと思っていました。稲垣さん演じる桐野のモデルとなった新聞記者の方が全面的に協力してくださって、監督の入江さんと一緒にその方に会いにいったりもしたんです。
お会いした時点で脚本はほぼ出来ていましたし、映画と現実はまた別であり、「彼女の再現をやる」わけではないというのを前提に置きつつも、その方から彼女に関するあらゆるお話を聞かせていただきました。
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伺ったお話で特に大きなヒントになったなと思うのは、記者の方が彼女を思い出した時に一番思い浮かぶ姿を聞いたとき。「本当にずっとニコニコしてて、大人の影にちょっと隠れたがるような、子供みたいに照れちゃうような女の子」という印象だったそうなんです。それって多分、脚本を読んだり、境遇を聞いただけでは、私の頭の中には浮かんでこなかったと思うので、そのイメージを大切にしたいと思いました。
一方で、映画にすると決めた時点で、「一旦実話から離れないといけない。そうじゃないと生きていた彼女に失礼になる」という話を入江さんとしていたので、すごく難しいことですが彼女の存在と適切に距離を取ろうとしていました。
「力を使い切れるように」「誠実に」自らに言い聞かせる撮影期間
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――杏は、少女時代から母親に売春を強要され、その苦しさから薬物依存に陥るという壮絶な人生を送ります。演じるのはかなり辛く、難しいものがあったのではないでしょうか?
難しかったですね。いろんな役がありますが、境遇や生活の感覚をイメージしやすい役と違って、今回は(杏の人生を)考え抜かなきゃいけないし、さらにそれを体に落とし込まなきゃいけない。
実際の新聞記事は、更生したあとの彼女の姿を取材したものだったそうですが、役作りでは薬物を使っている人の姿や、薬が抜けた状態のことを色々と調べたり、映像を見たりしました。映画の中では薬物を使う姿は少ししか出てこないのですが、メイクさんに協力してもらって薬物が抜けていない状態の皮膚を再現してみたり、仕草や体の動かし方を工夫しましたね。
――杏が参加する薬物更生者の自助の会や、DVなどから逃げてきた女性のシェルターなども、映画ではリアルに描かれています。こうしたことを知って、河合さんの中にも変化がありましたか?
自分と違う境遇にいる人がたくさんいることは頭ではわかっていても、自分が疑似体験をしたこと、そして映画にしていったことで、理解は変わってきました。
自助会は、多々羅(佐藤二朗)のモデルとなった警察の方が、薬物で捕まった人を更生させてあげたいという思いから自主的に作った会だったそうなんです。逮捕する側の人がこういう活動をしていたことを全然知りませんでしたし、同時に、セーフティネットがないから自分たちで助け合わないといけない状況なんだということを、肌で感じました。
また、こうした問題についてどんなふうに発信され、人々がどういうふうに受け止めているのか、ということにも思いを馳せるきっかけになりました。
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――そこまで過酷な人生を送った杏に寄り添って演じていると、河合さん自身の気持ちが追い込まれそうな気がするのですが、撮影中、精神状態を保つためになにか心がけていたことはありますか?
本当に自分が辛くて追い込まれる、みたいな記憶はあんまりないんです。
確かに、ぐっと力を使うような大変さは、他の作品に比べて絶対にありました。そういう集中力や気力がないとできなかったから、一日の初めに、「今日も最初から最後まで自分の力を使い切れるように」とか、「できる限り誠実にできるように」と、自分に言い聞かせていたという感じでしたね。
河合優実の演技スタイルを変えた「杏」の存在
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――「彼女の人生を生き返す」という入江監督からの言葉が、映画のプレス資料にありましたが、「生き返す」とは具体的にどんな作業だったんでしょうか?
監督が私にくださった手紙に書いてあった言葉でした。
それは、どうシーンを構築するか、どう人物を撮るか、という、監督が今まで映画で描きたいものを描くためにされていたであろうことを一旦傍において、“この映画の中だけではあるけれど、河合優実の体を通して、彼女が生きているということを、もう一度見つめようとしている“ことだと思ったんです。
私は、人物を演じるにあたって、映画の全体を通してその人がAの状態からBの状態に変わるからこういう道のりを辿ろう、ということを脚本を読みながら考えることが多いんです。そして映画にたくさん出てくる人物のひとりとして、どういう役割を担うかを考える。
でも今回は、彼女の人生を「生き返す」ために、杏自身にできるだけフォーカスしようと考えるようになりました。いつもはもっと視野が広い気がします。
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――母からの虐待など過酷な日々の中で、杏は多々羅や桐谷との出会いを通して生きる実感や、希望を見出していきます。河合さんも演じながら幸せを感じましたか?
はい。暴力から逃れるためのシェルターになっているマンションで、杏に自分の部屋が与えられたときとか、稲垣吾郎さんと佐藤二朗さんと関わり合っているときは、私自身も光を感じていました。実際に、「杏が前を向いている姿が心に残った」と言ってくれた方も多いんです。
――印象に残っているシーンは?
強く印象に残っているのは、薬をやめていた杏がもう1回使ってしまったシーンですね。入江さんは普段演技に対してあまりオープンに感想を言わない方なんですが、あの撮影が終わったとき、ポンと背中を叩いて「よかったよ」って言ってくれたんです。その後、LINEが送られてきて「僕は今日の撮影を通して香川杏という人を尊敬できました」と。
撮影ももう中盤だったので、一緒に映画を作っていくうえで入江さんとさらに手を繋げた気持ちになりました。
――佐藤さんや稲垣さんとも現場ではコミュニケーションを取っていましたか?
はい、撮影の合間によくお喋りしていました。佐藤さんも稲垣さんもすごく優しくておおらかな方でした。映画のなかでも、おおらかな大人二人の存在で杏は更生の道を歩めたわけですが、役柄を超えて、私自身を安心させてくれる部分もありました。
誰にこの映画を観て欲しい?
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――河合さん自身にもこの映画を通して、少しでも世の中が良くなってほしい、という想いはありますか?
ありますね、というか、それしか目指すところはないと思います。
きっとどんな映画も、“ちょっとでも世の中を良くするためのもの”なんじゃないかなと思います。
さっき杏を演じる上で辛くなかったと言いましたが、彼女の映画をどういう風に人に届けるかということには重い責任感を感じていて。自分を奮い立たせて頑張って世に送り出そうとしている部分がありますね。本当に本当に、たくさんの人に届けなくては、と感じています。
――この映画を特に観てほしいという時、具体的に思い浮かぶ人はいますか?
妹、ですね。大学生なんです。映画を好きな人や、杏の人生に興味がある人はもちろん、若い人、これからの日本や社会の一端を担う人に届けばいいなと思います。パッと思い浮かんだのは妹の顔ですが、その世代の人たちに観てもらえたら一番嬉しいですね。
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河合優実(かわい・ゆうみ)
2000年12月19日生まれ、東京都出身。2019年にデビュー。主な出演作は映画『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』『PLAN 75』『少女は卒業しない』、ドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系)など。ドラマ「RoOT / ルート」(テレビ東京ほか)では地上波ドラマ初主演を務めた。待機作には劇場アニメ『ルックバック』(6月28日公開)がある。
文=石津文子
撮影=平松市聖
スタイリスト=杉本学子(WHITNEY)
ヘアメイク=上川タカエ(mod's hair)
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