この家族を毎日観ていたい!「幸せとは 何か」のヒントが 『おいハンサム!!』に詰まっている
CREA WEB / 2024年6月21日 6時0分
深夜帯での放送ながら「ありそうでなかった新感覚のホームドラマ」として、大きな反響を呼び、シーズン1、さらにシーズン2の放送、そしてこのたびの映画化と、今、最も注目を集めている『おいハンサム!!』の魅力に迫ります。
「有害性のない頑固おやじ」という発明
家ではステテコに腹巻き姿の頑固おやじに、夫を立てつつ一家を仕切る専業主婦の母、そして娘たち。2022年のシーズン1放送開始当時、登場人物の設定だけを知った段階でちょっと心配してしまった。これ、伝統的家族観(伝統とかいって突き詰めればせいぜい明治~昭和のモデルに過ぎないのだけど)を強固なものにするための保守的なドラマかな? と。でも、まったく違いました!! とにかく安心して観られるホームドラマです!
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まず、主人公の伊藤源太郎(吉田鋼太郎)の男らしさにまったく有害性がない! だいたいこういうキャラは時代遅れのステレオタイプな価値観を持っている存在として描かれがちだけど、会社でも家でも有害性を見せないんです。
ちょっと強引なところもあるけど、それは役職を全うし、リーダーシップを発揮するため。「男はこう振る舞うべき」という謎の行動規範を示したり、男性優位の意識で部下や家族を見下すような態度を取ったりしないんです(というか、めちゃめちゃ愛している!)。むしろ本作は、従来は美徳として許容されていただろう有害な男らしさをきっちり批判し、それに代わる理想的な人間性を再構築しているようにすら感じます。
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男性は自身の男性性が脅かされたと感じるとそれを取り戻そうと有害な行動に走りやすいというけど、源太郎はそのようなことは一切せず、主体性を持って行動し、自信に満ち溢れている。ゆえにタイトル通り「ハンサム」(品格があって礼儀正しく、相手の立場を尊重できる人のこと。性別問わず!)なんです。
オヤジ世代の主人公が時代に合わせて成長する内容でもない。最初からアプデされている状態なの、嬉しくないですか? 「こんなこと言ったらハラスメントになっちゃうか」とかギャグっぽく言ったりしないんですよ? わざわざ加害が描かれることもなく、ストレスなく観られるというのは何より大事。だからこそ、配信で何度も見返せるんです(おもしろすぎて何周したことか)!
人間はおもしろおかしいぐらいがちょうどいい
そんな源太郎のもとに集う家族ももちろん最高。母の千鶴(MEGUMI)はつかみどころがないから能天気のようにも、懐が深いようにも見える。それは高めで軽めに仕上げられた喋り声のたまもので、それによりとにかく“普通のお母さんじゃない”と感じさせるからすごい。でも所作は適度に雑でリアリティがある。かつて田中好子さんが演じていたような(『ちゅらさん』再放送観てます)THE 日本の母親像とはまったくかけ離れた、新しい母親像をMEGUMIが見せてくれています。
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それに三姉妹のキャスティングも秀逸。長女・由香に木南晴夏、次女・里香に佐久間由衣、三女・美香に武田玲奈。性格はバラバラでわかり合えないこともあるけど、家族としてつながっている。現実の姉妹間にあるような微妙な関係性や距離感の再現度も高めなんです。そんな3人の会話劇も見事。『ブラッシュアップライフ』で3人の女性たちによるトライアングル雑談の良さを知っているあなた、その姉妹版がすでにあったんです!
さらに家族に関わる大森(浜野謙太)や渡辺(太田莉菜)、美香の同僚のシイナ(野波麻帆)、美香の彼氏のユウジ(須藤蓮)などほかのメンバーもとにかくクセ強め。描いているのは日常なのに、このワールドに普通の人なんていないんです。でも、日常ってそれでいいのかも。
幼稚園から集団行動が始まり、協調性を叩き込まれ、成績で優劣をつけられ、受験による勝ち抜き戦が行われ、社会の優良な歯車(量産型)になることをよしとする教育を受けて育つと、真面目なやつこそ優秀だと思いがちだけど、本当にそうなんだっけ?
結局、理不尽で、窮屈で、正義やルールすら通用しないことが多々ある世の中を生きることに何の不満も持たない人間のままでいるよりも、私たちはもっとこのドラマの面々みたいにおもしろおかしく生きていいのかも! もっと人生をコメディーにしていいのかも! そこまで思わされます。
描かれるのはあくまで「何気ない日常」
登場人物はおもしろいのに、描かれるのは私たちの暮らしと地続きの日常です。だから本作はとっつきやすい「恋」と「家族」と「ごはん」の話題が中心。テーマは普遍的でシンプルだから、気負わずに観られるし、多くの人が共感しやすいというのもこの作品のポイントです。
特に食に関しての描写は秀逸。本作は登場するごはんや食材が重要な意味を持ちます。たとえば、冷蔵庫のすみっこから出てきた「残り7センチのネギ」。源太郎は使いきれなかったネギの切れ端を手に、家族に対して「ピッタリが何だ。やり残しを恐れずに前向きに生きろ。前向きに倒れろ。やり残してこその人生だ」と呼びかけます。何でもきっちりできたら気持ちいいけど、そんなの無理。それに人生は有限。何事にも囚われずに生きる余裕、大事です。
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それに源太郎が不倫で傷ついた由香に対して「自分のために貝を買いなさい。一日一緒にいて、仕事が終わったらその命に感謝して食べなさい」と諭すエピソードも。由香は教えを守り、大きな悩みに似つかわしい貝としてアワビを購入。バッグの中に小さな命が息づいていると思ったら、こっちもしっかりしなくてはとなんか思えてくるから不思議です。仕事を頑張り、一日を終えて調理されたアワビ。翌日出された貝殻のゴミまできれいでした。ありがとう、アワビ(一礼)。
さらに飲食店へのまなざしもいいんです。源太郎と大森らが個人経営のそば屋で食事するシーンでは、フロアを回すおばあちゃんがずっとせわしなく動き回り、入店する客に対して同じセリフを述べる様子が長い間映し出されていました。
いらっしゃいませと言う、注文取り、料理を運ぶ、お茶のおかわりを出す、お会計する。その繰り返し。当たり前に見える動作だし、何の変哲もないと思ってしまう長回し。でもその無駄のない染み付いた動作は本当は当たり前ではなくかげがえのないものだし、そんなお店が存在してくれていることに感謝したくなります。
加えて店じまいしてしまう中華料理屋の閉店日にだけできる行列のエピソードも。そこで描かれていたのは、みんなが今まで通っていたらこんなことにはならなかっただろうという視点でした。代わりのきかないたった一つの大切な存在になるお店だってある。失ってからじゃ遅いんです。
この視座、すごくないですか? 脚本・監督・プロデューサーの山口雅俊さんは『ランチの女王』のプロデューサーでもあったといえば納得する人も多いでしょう。本作はそのイズムをそのまま受け継いでいるんです。新作の映画『おいハンサム!! 』には特に『ランチの女王』ファン垂涎のシーンも! 映画を観終わった後、オムライスが食べたくなります。
「どう生きたらいいか」「幸せとはなにか」のヒントがココに!
伊藤家では毎回、家族会議(リモート可)が行われます。そこで源太郎の口から娘たちに語られるのは、「どう生きたらいいか」という教訓。つまり、「幸せ」って何だっけ? という誰しもが迷う問題へのヒントが金言として飛び出してきます。これは恋にも仕事にも効く特効薬。金八先生不在のこの時代に、自分の経験からしっかりとした言葉をくれる年配者はどれだけいるでしょうか!
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おやじの小言なんてまっぴらだと思ってしまうかもしれないけど、源太郎の言葉は響いてしまうのです。それは源太郎が「ハンサム」(改めて……性別問わず品格があって礼儀正しく、相手の立場を尊重できる人のことです!)だから。信頼に値する人の言葉だからこそ、素直に聞けるし沁みるのです。
人の数だけ人生や生き方があって、悩みも迷いも選び方も決して一括りにはできないけれど、ちょっとつかれたとき、頑張りたいときに思い出したくなる言葉の宝庫でもあるんです(ヒットポイントが0のときだって気軽に観られるのがいいところ!)。
シーズン1とシーズン2(ともに配信あり)、そして映画(安心安定の通常運転で最高)と作品群が増えるのはとにかく嬉しい! 朝ドラのように15分ドラマとして毎日放送してくれませんか?
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最後に伊藤源太郎の金言で締めさせていただきます!
「選ぶことは大切だ。しかし、正解を求めすぎるな。自分の選んだ道を正解と思えること、正解にしていくこと、それが大切なんじゃないか。やり直すことや立ち止まることは、いつでもできる。だから、とりあえず選んだら、とりあえず歩き出しなさい。そして、何度も言うが、自分の選択の責任は自分でとること。それだけは覚えておきなさい。」
綿貫大介
編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
Instagram @watanukinow
X(旧twitter) @watanukinow
文=綿貫大介
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