「ピアノに喩えるなら俳優は1本の 指のような存在」恋愛映画に初挑戦 古川琴音が感じたプレッシャー
CREA WEB / 2024年7月2日 11時0分
大河ドラマ『どうする家康』、『幽⭐︎遊⭐︎白書』『みなに幸あれ』などで、存在感のある演技を見せ、注目を集めている古川琴音さん。この度映画『言えない秘密』で、初めてのラブストーリーのヒロイン役に挑戦した。台湾で爆発的にヒットした同名映画が原案だ。トラウマを抱えた音大生の湊人(京本大我)と出会う、ヒロインの雪乃役をキュートにミステリアスに演じている。
数々の美しいピアノ曲で彩られる、ノスタルジックで切ない恋物語。本作について、苦労したピアノ連弾について、たっぷり語ってくれた。
「ピュアすぎるくらいピュアな女の子を私が演じられるだろうかとプレッシャーに感じた」
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――台本を読んで最初にどんな感想をお持ちになりましたか?
「こんなにみずみずしくてロマンチックな物語があるんだ」と心が躍りました。原案となった台湾映画の『言えない秘密』も拝見しましたが、美しいピアノの旋律に乗って物語が進み、途中からのトーンの変化にも驚きました。怖いくらいの一途な思いがこの物語の最も美しいところだと思ったので、そこを大切に演じたいなと思いました。
――古川さんが演じられた雪乃はどんな女の子だと思いましたか?
少し浮世離れしているというか、ミステリアスな印象ですよね。でも、演じる時にはそこはあまり意識しませんでした。台本通りに演じていれば、自ずとミステリアスに見えてくると思ったので、それよりは湊人に寄せる思いの方に集中していました。
湊人に会うたびに、自分に向けられる表情や言葉によって、どんどん「好き」のポイントが貯まっていくというようなイメージを持っていました。
――古川さんにとっては、初めての恋愛映画のヒロイン役です。ホラーやヒューマンドラマと現場の雰囲気は何か違いがありましたか?
恋愛映画ならではだと思ったのは、やっぱり相手役の方との距離が近いことですよね。肩が触れ合ったり、目を見つめたり、これは全然違うなと思いました。
これまで個性的な役をいただくことが多くて、物語中でスパイスのような役割を求められてきたと思います。ただ、雪乃はそれとは逆に儚げで、存在も謎に包まれています。ピュアすぎるくらいピュアな女の子。物語だからこそ成立する、理想の人格です。好きな人のために自分を捧げようとする、ピュアな魂を具現化したような無垢な存在だと思いました。
私が演じる雪乃が、そういう美しい存在としてちゃんと見ていただけるだろうかと最初はプレッシャーに感じていました。
――ご自身に似ているところはありますか?
雪乃と同列に語るのはなんだか申し訳ないですけれど、一途というか猪突猛進なところは私にもあるかなと思います。好きな曲はずっとリピートして聴くことができますし、配信ドラマを寝る間も惜しんで2、3日で一気見してしまうタイプです(笑)。
「ピアノに喩えるなら、俳優は1本の指のような存在」
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――本作ではピアノの演奏が物語の中で重要な位置を占めています。湊人と雪乃の連弾のシーンは、ふたりの響き合う様が言葉以上に初々しく伝わってきました。
ありがとうございます。私も、連弾の手だけが映っているシーンはすごく印象に残っています。手が交差するところでドキドキしたり、次第に楽しくなったりする様子など、ふたりの心臓の高鳴りが聞こえてくるような感じがしました。
――ピアノの練習は相当大変だったのではないでしょうか?
自分たちでも「頑張ったね!」と言い合えるくらい、頑張りました(笑)。少しでも空き時間があれば、ずっと練習をしていました。
私は子供の頃に5〜6年ピアノを習っていたことがあるので、指の感覚を思い出せたのですが、京本さんはピアノ自体が初めて、ゼロからのスタートだったそうです。しかもショパンなど、難しい曲を弾かなければいけなかったので、本当に大変だったと思います。
湊人と雪乃は次第に距離を縮めていきますが、京本さんとは初共演だったので、連弾の練習が、役の関係性を作る上でとても助けになりました。練習を重ねていくうちに、少しずつ心を開いていくことができた感じがします。
――ピアノの演奏とお芝居に似ているところはありますか?
そうですね……。ピアノは、曲が作られた時代背景や作曲家について学んで、自分なりにそれを読み解いて、現代の感性を使って弾くものだとピアノの先生に伺いました。
それは、監督の過去作を観たり、脚本を読んだりしながら、その物語は何を表現したくて、自分の役はどういう役割を果たし、その物語を自分はどう感じたのかを役に落とし込む作業に似ているなと思います。
ただ、ピアノの演奏はひとりで成立しますが、映画はカメラや照明、衣裳、美術、演出などがなければできません。ピアノに喩えるなら、俳優は1本の指のような存在なのかもしれませんね。
――河合勇人監督からはどのようなお話がありましたか?
監督は雪乃のことをとても深く理解されていて、シーンを撮影する前に雪乃がどれだけ苦しい思いをしたかなど、その都度お考えをシェアしてくださったんです。時折、目を潤ませながら、そういうお話をしてくださって。雪乃を一緒に演じていただいている気持ちになりました。現場には雪乃がふたりいたと思います(笑)。
「おばあちゃんになったら、また観返したい作品」
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――本作に限らず、古川さんは映画制作の中で、どういう時に楽しさを感じますか?
演じている間に感情が湧き上がる時でしょうか。台本は最初に3回続けて読むのですが、1回目に全体像を掴み、2回目では自分の役割を考えながら読んで、3回目は役の目線で入り込んで物語をたどります。
でも、最初に台本を読んだ時の印象を、なんとか形にしようといつも思っています。
撮影までに台本を繰り返し読んで、背景やその人物の感情の流れをしっかり頭に叩き込むのですが、そういう頭で考えたことを超えて、相手役の方の言葉や行動によって自分の心がふっと揺さぶられた時は演じながらもちょっと感動します。
「この子はこんな気持ちだったのか!」と演じながら発見するような感覚になって、楽しいですね。ただ、そこに至るまでは本当に難しくて、そんな奇跡の瞬間が毎回起こせたらいいなと思うのですが。
――『言えない秘密』は「秘密」が大きなキーになっています。古川さんご自身は近しい人に自分を曝け出すタイプですか? それとも秘密主義ですか?
言わなくていいことはもちろん言いませんけれど、もともとそんなに秘密は持っていないです。相談などはすぐにしてしまうタイプ。でも、湊人くらいシンパシーを感じる相手がいたら、私だったら、大きな秘密も「実はね」と打ち明けてしまうと思います(笑)。
――改めて、完成作をご覧になっていかがですか?
こんなことを言うのは本当に恥ずかしいのですが、胸がいっぱいになってしまって、自分の出演作を観て初めて泣きました。雪乃がこんなふうに恋に落ちて、あの生き方を選んだことが完成された映画を観て、自然に飲み込むことができて。それがすごく嬉しかったです。
――2回拝見しましたが、物語を知った上で観返すと、雪乃の言動の真意がわかり、より泣けてきますよね。
そうなんです! 私も初号(試写の1回目)で観た時に、まだ誰も泣いていないかなり早い段階でじわっときてしまって。京本さんも同じようなことをおっしゃっていました。湊人と雪乃の気持ちを知った上で物語を追うと、またグッとくるところがあると思うので、ぜひ2回観ていただきたいです!
これまで自分が演じた役の中でも、雪乃はフレッシュで大切にしたいキャラクターでした。将来おばあちゃんになったら、若い時のキラキラした感情を思い出したくなって、こっそり観たくなるんじゃないかなと思います(笑)。
古川琴音(ふるかわ・ことね)
1996年生まれ、神奈川県出身。2018年俳優デビュー。最近の主な出演作に大河ドラマ『どうする家康』(23年 NHK)、映画『偶然と想像』(21年)『みなに幸あれ』、『雨降って、ジ・エンド。』(共に24年)など。映画『お母さんが一緒』が7月12日、『Cloud クラウド』が9月27日に公開。
文=黒瀬朋子
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