「アンチエイジングはしたくない」「自分から若い人に話しかけない」…俳優歴46年・光石研が至った“境地”
CREA WEB / 2024年7月6日 11時0分
一生懸命目立とうした成れの果てが、いま。
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これまでに250以上のドラマや映画に出演してきた光石 研さん。演技について質問しても、スタッフの皆さんに助けられているだけ、と多くは語らない。還暦を過ぎても変わらず謙虚で、素敵な大人でいられる理由は?
ロングインタビューの最終回。
やりたいこととやれること、求められることのバランス
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――最新エッセイ『リバーサイドボーイズ』にも書かれていましたが、光石さんは『ピーター・グリーナウェイの枕草子』や『Helpless』に出演されるようになった30代から、俳優のエゴを捨て、作品の一部として役割を果たすことに意識を向けるように、変わられました。その徹底ぶりがすごいなと思います。
すごくもなんともなくて、現場で仕事をしていると、結局は映画は監督のものだし、俳優は作品の一部にすぎないということに行き着くんだと思います。主演の方の関わり方はまた別かもしれませんが、僕のように脇でやっている人間は。
――主演作はどうですか? 去年主演された映画『逃げきれた夢』はカンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品されて、二ノ宮隆太郎監督と共にカンヌにもいらっしゃいました。
カンヌに限らず国内外の映画祭に呼んでいただくことはあるのですが、映画祭に行くと、映画はやっぱり監督のものだなというのを痛切に感じます。
もちろん呼んでいただけるのはありがたいし、カンヌの海岸でおしゃれなお洋服を着せていただいて、写真を撮っていただいたり、取材していただいたりするのは嬉しかったです。でも、僕は出ているだけで何もしていないので(笑)。
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――では、光石さんはどういうことで仕事の充足を得ているのでしょうか?
撮影現場で1カット1カット、OKが出てカットが完成されたときに至福を感じますね。照明部、衣装部、撮影部……スタッフの皆さんと一緒になって完成できたことに喜びを得ます。
――エッセイの中でも「ボクは何もできない」や「俳優を目指すキミへ」という章で徹底して周囲の力に支えられていることを書いておられます。もともと謙虚なご性格もあるとは思いますが、これだけのキャリアを持ちながら、驚きました。
映像では照明や衣装、カメラ、スタッフの皆さんの力で、役に深みを与えてもらっているんですよね。僕はそこに立ってセリフを言っているだけなんです。
――では職人俳優の光石さんとしては、こうして取材が増えたり、舞台挨拶に呼ばれたりすることについてはどう思っていらっしゃるのですか?
呼んでいただくことはものすごく嬉しいです。昔はそんなことはなかったですから。作品の顔として隅っこでも選んでいただけるのはありがたい。ただ、「僕はそんなに貢献はしてないんですよ。呼んでいただいたので、賑やかしに来させていただきました」という気持ちでいます。謙虚でもなんでもなく、本当にそう思っているので(笑)。
――俳優になる方は、程度の差はあっても、人気者になりたいとか、自分を見て欲しいという意識を持っていらっしゃるのだろうという色眼鏡をかけて見ていたかもしれません。
僕も、爪痕を残したいとか、みんなに見てもらいたいと思っていた時期はあったと思いますよ。一生懸命、目立とうとして赤い服を着て現場に行ったり(笑)。その成れの果てがいまなのかもしれないです。やりたいこととやれること、求められることのバランスがありますからね。年をとるとそういうのがわかってくるんじゃないですかね。
ちゃんと腰痛いとか老眼だとか言いたい
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――エッセイの「還暦は先延ばし」の章も面白かったです。イメージする還暦とは違うけれども、それを受け入れているような内容。少年っぽさを持っていたいという意識はありますか?
全くないです。アンチエイジングもしたくないんですよね。年齢を止めたくないし、ちゃんと腰痛いとか老眼だとか言いたいです。
――現場でも光石さんの周囲には、若い女性スタッフさんが集まってくると共演者の方からお噂を伺います。年齢に関係なく、コミュニケーションを上手に取るコツは何ですか?
特にないですね。ただ、尋ねられない限りは、苦労話や自慢話はあまりしないようにしています。僕も自分から若い人に話しかけたりはしてないです。向こうから寄ってきてくれたり、僕に興味を示してくれたりした人には、「こんなおじさんだよ」ってすごくサービスしますけど(笑)。
――サービス(笑)。お若いときには、先輩に対してはどんなふうだったのですか?
僕は結構、先輩の話を聞きたがった方ですね。叱られたときもありましたけどね。
――映画の撮影現場も昔とはだいぶ違うのでしょうね。
主役の方は別として、僕らは監督とは全く話せませんでした。いまはこのご時世ですし、監督も若いし、みなさんものすごくフレンドリーです。
昔はよく怒鳴られていました。スタッフの助手の子と同年代だったから、僕が叱られた後に、助手の子たちが気遣ってくれたりして、仲良くなっていきました。
四十数年間俳優をやっていると、現場にはご一緒するのが二度目、三度目の人がいますし、光石 研という人となりを多少なりともわかってくださる。すごく良くしてくださるし、ミスも助けてくださるんですよね。だからいまは楽しく現場に行かせていただいています。
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――光石さんに注目したのは岩井俊二監督の『スワロウテイル』からなのですが、1990年代は単館系の多くの映画で目にするようになりました。
あの頃、単館系の映画は勢いがありましたからね。それで注目されたのが「バイプレイヤーズ」のメンバーなんですよね。大杉 漣さん、遠藤憲一さん、寺島 進さん、田口トモロヲさんと僕が、『週刊朝日』で特集されて、松重 豊さんも加わり下北沢で「6人の男たちフィルムズ」という特集上映を開催していただいた。あそこが僕の原点だと思います。
――『シン・レッド・ライン』でハリウッド映画に出演されたときに「日本のインディーズ映画を背負ってやってきているんだ」という思いがあったのだとか。いまでは、映画、ドラマ、作品の規模にかかわらず幅広く出演されています。小さな作品にも出られるのは、インディーズ映画出身という意識があるからですか?
インディーズ映画で教えてもらったことが僕の根っこに確かにあります。
ただ、俳優にとって作品の大小ってそれほど関係ないんですよね。だから、あまり気にせずいただいた仕事を、というスタンスです。生前大杉 漣さんもそうおっしゃっていました。
塩・胡椒だけじゃなくてハーブもね!
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――出演を決める基準は脚本が面白いかどうかですか?
それもあります。でも、たとえ脚本がよくわからなくても、「若い監督でいま勢いがあるらしい」とか、「〇〇さんが出るらしい」という理由でもスケジュールが空いていればやりたいと思います。だって、僕がわかってないだけで、若い人にとってはものすごく面白い脚本かもしれませんし。
――では、光石さんは、俳優としてどう見られても構わないということですか?
そうです、そうです。
――監督やスタッフに「(光石 研を)どうぞ自由に料理してください」というスタンス?
なんでもかんでも塩・胡椒じゃダメよ、ときにはハーブなんかも使いなさいよ! と言うときはあります(笑)。そこまではできない、と言うことも多少はありますけどね。
――俳優は作品の一部にすぎないというお考えで、いわゆる俳優論や演技論をあまり語らないのは、論を語ること自体をカッコ悪いと思われているからではないですか?
先日も、「俺たち論がないよね!」と木梨憲武さんと盛り上がりました(笑)。
自分の考えが正しいかわかりませんし、結局、俳優ってナルシシスティックな側面もある職業ですよね。だから、作品全体のことを思って語っているように見えても、突き詰めると自分がよく映りたいだけじゃないか、というふうに傾きかねない。それはすごく嫌なんですよね。
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――いまの境地を下の世代に伝えていきたいというお気持ちはありますか?
それはないです。時代がまるっきり違いますから。賀来賢人くん、柄本時生くん、岡田准一さんなど、いまや俳優さんがプロデュースもなさっている。若い人たちには若い人たちのやり方があると思っています。
若い人たちが、こういうガラパゴスのようなおじさんをつかまえて、「この人(作品のことを)よくわかってないけど、そこに座らせとけ」と撮ってみたら、作品が面白くなるというようなこともあるかもしれないから、大いに利用してもらいたいですね。
大真面目にどこかふざけていたい
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――従来の還暦のイメージからは程遠いとご自身はおっしゃっていますが、光石さんは俳優としてプロフェッショナルでありつつ、無理して若ぶろうとしていないのに若々しい。「ニュータイプ」の大人だと思います。
それはどうでしょう(笑)。
――「エフォートレス(気楽な)思考」という言葉も最近聞きますし、服もゆったりしたサイズが流行っているなど、いまは気張らずに生きる、自然体が広く求められている気がします。
いやいや、そういう人もいるかもしれないけれど、伊勢丹のメンズ館の2階のような、ビシッとしたスタイルが好きな人もきっとたくさんいますよ(笑)。
――新しい素敵なおじさんの先頭に立っている自覚はないですか?
全く! そんなこと1ミリも思ってないです!!
――では、いま若い人たちが光石さんを慕ってきているのは、不思議な感覚ですか?
内心、「嘘つけ」と疑っています(笑)。
もちろん、いろいろなお仕事でお声がけいただけるのは嬉しいし、ありがとうございますという気持ちでいます。
意味深い俳優論を僕に期待する若い俳優は「このおじさん、論がないよ」と失望して離れていきますけど(笑)。
ふざける、と言うと言葉があまりよくないけれど、ずっとふざけていたいんですよね。お芝居だって、冷静に考えたら、おかしな行為だと思いません? いきなり大人が大声で怒り出したりして。
大真面目にどこかふざけていたいんですよね。(最初から読む)
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光石 研(みついし・けん)
1961年生まれ、福岡県出身。高校在学中に映画『博多っ子純情』のオーディションに合格し、主演デビュー。以降、映画、ドラマなど映像を中心に活躍。主演映画『逃げきれた夢』は第76回カンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品・第33回 日本映画プロフェッショナル大賞 主演男優賞を受賞。映画『ディア・ファミリー』が公開中。『南くんが恋人!?』(テレビ朝日)が7月16日より放送スタート。
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=大島千穂
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