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イマジナリーフレンドは大人こそ必要?映画『ブルー きみは大丈夫』を観て蘇った温かさと罪悪感

CREA WEB / 2024年7月4日 17時0分

昔いた「空想の友達」


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 私には小さい頃、友達がいた。背中に羽が生え、ピンク寄りのオレンジ色をしたスリップドレスを着て、常に私の顔の周りを飛びながら「アノサー」「アンタサー」とギャルのように話しかけてくる友達であった。

 けっして暑さでおかしくなったわけではない。妄想の友人、イマジナリーフレンド(IF)の話である。名前は「ツィー」だった。

 私は身体が弱く、中学2年生くらいまで、よく学校を休んでいたが、彼女がいたから寂しくなかった。あんなにずっと一緒にいていろいろ相談したのに、いつの間に忘れてしまったのだろう。

 ウィキペディア情報ではあるが、イマジナリーフレンドとは、次のような説明が書いてある。なになに――。

『通常児童期にみられる空想上の仲間をいう。イマジナリーフレンドは実際にいるような実在感をもって一緒に遊ばれ、子供の心を支える仲間として機能する。イマジナリーフレンドはほぼ打ち明けられず、やがて消失する。
主に長子や一人っ子といった子供に見られる現象であり、5〜6歳あるいは10歳頃に出現し、児童期の間に消失する。』

 ほうほう。成長過程でいなくなるものなのか。じゃあ、いいか……。

 しかし先日、イマジナリーフレンド(IF)をテーマにした映画「ブルー きみは大丈夫」を観に行き、「じゃあ、いいか」という気持ちが吹っ飛んでしまった。

 叫びたい。本当にごめん! 私のIF、カンバーック!!

 イマジナリーフレンドがいた方、この映画は危険だ。ハンカチが5枚くらいいる。『インサイド・ヘッド』に登場する心の友達・ビンボンもヤバかったが、ブルーは距離感がリアル。だから感謝と同時に、罪悪感がブッシャーと溢れ出る!

「トイ・ストーリー」の罪悪感が蘇る


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『ブルー きみは大丈夫』はまさに、子どもに忘れられたIFの話。彼らは、彼らのことが見える子どもを探さないと消えてしまう。そこで、主人公のビー(ケイリー・フレミング)が、IFが見える不思議な大人カル(ライアン・レイノルズ)と共に、子どもとIFのマッチングサービスを始めるのだ。

 モフモフのIF「ブルー」はトトロを彷彿とさせ、とても触り心地がよさそうだが、なんだか惜しいデザインのIFも多い。シャボン玉の泡のIF「石けんバブル」、緑色のスライムのIF「スライムボール」は、正直カワイイとは言えない。はっきり言ってしまうと雑なデザインである。しかしその雑さが、子どもの落書きから生まれた空想の友達っぽくて、リアルで泣けてくるのだ。


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 しかもIFたちの声がとても感情豊か。吹き替えを見てみると、なるほど、マット・デイモンやジョージ・クルーニーなど大スターたちの名がズラリだ!

 イマジナリーフレンドが、子どもに忘れられる寂しさを語るシーンは、イタタタタ、胸が痛いよ、痛すぎる(泣)。この罪悪感、「トイ・ストーリー」を観たときの感覚と似ている。おもちゃの目線で描かれたあの映画は、子どもの頃、リカちゃん人形の髪の毛を鷲掴みにし、「がははは!」と振り回しながら遊んだ己の過去を後悔するのにじゅうぶんだった。

「いくらガキだったとはいえ、私のした所業は許されるものではない……」と凹みまくった感覚が「ブルー」でも再び――。


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 後悔と感謝が混ざりに混ざって涙腺をドカスカ突いてくる。溢れ出る涙を拭きながらエンドロールを観終わり、劇場が明るくなると、私はすぐ、自分の肩のあたりを見た。そして、何十年ぶりに話しかけてみた。

 いる? もしいるなら、聞いて。忘れててごめんよ。消えないで。

大人版IF?「オルタナフレンド」「タルパ」


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「ブルー」の監督、ジョン・クラシンスキー氏は最近まで「サム・ブレイス」というIFがいたという。作家の村田沙耶香さんは、イマジナリーフレンドが30人いるそうだ。BAILAでの、桐野夏生さんとの対談のなかで、イマジナリーフレンドが30人いることを話し、「存在を否定されると私の命が終わってしまう」と語っていたのが印象的だった。

 私もIFを復活させられないものだろうか。なにか困ったことがあると死んだ父を思い出し、話しかけてみることはある。朝ドラ『虎に翼』で、主人公の寅子が、つらいとき亡き夫の優三さんを思い出すあのパターンである。

 しかし、これはイマジナリーフレンドとは違う気がする。

 調べてみると、大人になってからもイマジナリーフレンドを持つ人はけっこういて、大人のIFは「オルタナフレンド」と呼ぶそうだ。もしくは「タルパ」という特撮ヒーローのような名前のパターンも出てきた。タルパは、1日1時間以上の瞑想を数カ月間続けることでやっと生まれる存在で、感触もあるのだとか。


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 タルパでもオルタナでもいい。もう一度IFに会いたい。想像力には自信がある。思い立ったが吉日、子どもの頃対話した、背中に羽が生え、ピンク寄りのオレンジ色をしたスリップドレスを着た彼女を必死で思い出してみる。そして問いかけてみる。返事が返ってくる……気が……する……。しかしこれがうまくいかない。心のどこかで、

「自分が一人二役やってんなー」

 と冷静に自分でツッコんでしまうのだ。

 再会の道はまだ遠い。でも、いつか会える。きっといつか!


©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 映画『ブルーきみは大丈夫』は、大人が見たほうが刺さるかもしれない。いろんなことを思い出す。胸が痛くなるかもしれないが、必ず「ありがとう」という余韻がある。

 そのうえ、肩のあたりがふんわり温かくなり勇気が湧いたなら、あなたは本当にラッキーだ。

 後ろには、大切な友達がいる。

 そしてこう囁いている。「きみは大丈夫」――。


田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

文=田中 稲

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