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神話の森で自然とアートを感じながら最上の「ととのい」体験を〈前篇〉【佐賀県・武雄温泉】御船山楽園ホテル

CREA WEB / 2024年7月12日 11時0分


チームラボ《小舟と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング – Mifuneyama Rakuen Pond》2015, Interactive Digitized Nature, 13min 24sec, Sound: Hideaki Takahashi。©teamLab, courtesy Pace Gallery

 週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。

 旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。今回訪れたのは、佐賀県・武雄温泉にある「御船山楽園ホテル」。サウナ界のミシュランガイド「サウナシュラン」で3度グランプリに輝いたホテルで、福岡空港から車で約1時間10分で到着する。


お殿様の庭と別邸が、現代版癒やしの楽園に変貌を遂げる


これがホテルのフロント!? あっと驚くデジタルテクノロジーによる世界が広がる。

 決して新しいホテルではない。高度経済成長時代に建てられているから、むしろハード面では古さも目立つ。だが、数々のイノベーションで進化を続け、滞在とともにワクワクが広がる。

 江戸時代に、第28代武雄領主の鍋島茂義公が造り上げた池泉回遊式庭園「御船山楽園」の山の上。まずは入り口で衝撃を受ける。扉が開くと、そこにはあっと驚くピンク色のデジタルアートの世界が広がっていた。不規則に配されたランプが薄紅色や白色に明滅し、とてもホテルのフロントとは思えない。

 フロントを彩る色彩は、春には菜の花や桜、初夏はアジサイ、秋には紅葉といった具合に、御船山の植生のように、季節に合わせて変化するそうだ。


何もないところに滝が出現。チームラボ《かみさまの御前なる岩に憑依する滝》2017, Digitized Nature。©teamLab, courtesy Pace Gallery

 幻想的な空間は、デジタルテクノロジーの力を使って生み出されたもので、アート集団・チームラボの作品。「チームラボ かみさまがすまう森 - ジーシー」という展覧会で、ホテル内や15万坪の御船山楽園を舞台に創作活動を行い、今年で10年目になる。

 御船山は標高210メートル。300万年前に有明海から隆起してできた雄々しい山で、日本書紀に登場する神功皇后が新羅からの帰りに「御船」をつないだとされることからその名がついた。

 3月下旬には2,000本の桜、4月中旬から5月上旬には20万本の久留米つつじや平戸つつじが咲き誇り、樹齢200年の大つつじや樹齢170年の大藤など、古木も見られる花の名所である。

 夏の夜には、約3メートルの巨石にデジタルの水を落下させ、滝を描いた「かみさまの御前なる岩に憑依する滝」や、人が歩くと桜ともみじの森が色を変えながら明滅し、音色を響かせる「夏桜と夏もみじの呼応する森」など幻想的なデジタルテクノロジーを使った作品が出現する。

 2024年の「チームラボ かみさまがすまう森 - ジーシー」の開催期間は7月12日(金)~11月4日(月)で、大人1,200円(平日)~を払うと入場できる。


鍋島直大公の別邸を移築。こちらは居間として使われていた、最も格式のある「老松の間」。

 ホテル内では入り口のデジタルテクノロジーによる世界とは打って変わって、歴史を感じる和の佇まいとも出合える。

 第11代佐賀藩主・鍋島直大公が大正5(1916)年から5年間かけて御船山楽園に建てた別邸を移築した「内庫所」は、鍋島藩御用林から切り出した最高級の木材を使い、贅を尽くした空間である。

 なかでも貴賓室「老松の間」は直大公が居間として使っていた居室で、本間だけでも15畳あり、折り上げ格天井、四方柾目の床柱、接ぎ木されていない約9メートルの長押と鴨居、千本格子の欄間など、端正な空間が広がっている。床の間には、明治の三筆と称される、書家・中林梧竹の書が飾られ、露天風呂もついていて、とても素敵である。

「内庫所」には大公の奥方が使った準貴賓室や落ち着いた和室もあり、すべて露天風呂付き。落ち着いた和の空間に浸りたい人はこちらの客室を選びたい。

温泉とサウナの相乗効果で、デトックス&リラックス


復活した薪サウナは男女それぞれあって、裸で入れる。窓が切り取られ、自然を感じられる空間だ。

 このホテルはサウナもすごい。サウナ界のミシュランといわれるサウナシュランで2019年から3年連続グランプリを受賞した。

 大浴場「らかんの湯」には、真っ白なメディテーションサウナあり、よもぎの薬草スチームサウナあり、薪サウナあり。メディテーションサウナの中はアロマ氷のクーゲルを溶かして香りを蒸散させたり、御船山の天然水でロウリュをしたり、驚きと楽しみに満ちている。

 2021年にできたときに話題を呼ぶも、一旦休止していた薪サウナが、1年3ヵ月かけて、今年3月に復活した。御船山の古石を積み上げたサウナストーンを地元の間伐材を使った薪を使って温め、輻射熱でアツアツである。御船山の天然水をかけるとセルフロウリュもできるが、木の床はつま先立ちでも熱いくらいなので、ひたすら目をつぶって座る。強力な熱気に包まれて、ブワッと玉の汗が噴き出してくる。


2024年3月にできた水風呂は光を取り込んで、リラックス効果満点。

 薪サウナで体が温まったら、水風呂へも行ってみよう。2024年3月に完成したタイルの水風呂には大きな浴槽にシャキッと冷たい御船山の天然水が張られている。水の中に入るとその冷たさで目が冴え、水のゆらぎが天井に映って、幻想的な雰囲気である。

 窓の外に目をやると、太古の昔には海だった御船山の地層を眺めることができる。

「植物が育つ水と光、そして土壌を感じられる環境に身を置いて、自分が植物の種になった気分でサウナに蒸され、水風呂に浸かるイメージで入ってほしい」と小原嘉久社長は話す。

 薪サウナの屋根には、御船山の土を敷き、鳥がフンをしたり、どんぐりが落ちたりといった循環する生命活動の中で、次第に緑化するように設計した。年月とともに自然と一体化する、森のサウナなのだ。


暖炉で焼くかんころ餅がめちゃくちゃおいしい。

 水風呂のあとは休憩室へ。みかんのドライフルーツ、塩を付けて食べるプリンのほか、デトックスウォーター(レモン、オレンジ、シナモンと、キウイ、りんご、ミント)、サウナ用に焙煎した温かい番茶、水出し緑茶などドリンク類も充実している。

 暖炉では、さつまいもの自然な甘みがおいしいかんころ餅を炙って食べる。休憩室では体の曲線に沿って脱力できるリラックスチェアに寝そべって、優雅な時間が過ごせる。季節のよい時季には外へ出て涼むのも気持ちいいだろう。

「御船山ゆかりの僧・行基が、讃岐で造った古代サウナ『から風呂』も、江戸時代の庶民の風呂も蒸し風呂だった。サウナはフィンランドのイメージがありますが、日本古来の文化なんです」と小原社長。日本人が親しんできた蒸し風呂文化に想いを馳せ、究極のサウナを楽しもう。

客室も寝具も料理も。「ととのう」方法を指南


客室に置かれた「サウナの手引書」にサウナの入り方や注意事項が記されている。

 よくいわれるサウナの「ととのう」は、熱いサウナと冷たい水風呂に交互に浸かったあと、外気浴をすることで体がより温まり、脳内が恍惚感で満たされる状態のことをいう。

 このホテルでは「サウナの手引書」まで作って、「ととのう」ためにはどんな入り方をしたらいいのかを指南している。

 手引書によると「ととのう」方法はこうだ。

(1)6~12分、サウナ室で汗をかく

(2)水風呂に入る

(3)タオルで水分を拭き取って休憩(外気浴)をする

 この1セットを3~5回繰り返す。時間の目安は、サウナ6:水風呂1:休憩6

 といった具合だ。サウナに入る前には水分補給をしたり、食後は2時間空ける。さらに、最後に温泉に入ると相乗効果が望める。


移動なしでサウナに入れる、サウナが付いた206号室。

 サウナ推しのホテルだから、サウナ室付きの客室も2部屋ある。ドラマ「サ道2021」の最終話でロケが行われた206号室の客室は、真っ白いソファが窓際でカーブを描き、大きな窓から緑いっぱいの景色も望める。大浴場のメディテーションサウナの雰囲気にも似ている。

 このサウナ付き客室の中にはプライベートサウナ、水風呂、シャワーがあり、サウナではセルフロウリュも楽しめる。

 私の泊まった客室はサウナ付き客室ではなく、「内庫所」の和の趣ある一室だったが、寝具にはイタリア製高反発寝具・マニフレックスのマットレスが採用され、無重力感というか、宙に浮いているみたいに体が楽で、ぐっすりと眠れた。サウナの効果か、良い寝具の作用か、その両方の相乗効果か。快適性を追求した、よく考えられたホテルという印象だ。


出汁はスッポンとカツオ。地場の食材を使った「楽園なべ」。

 夕食は食事処で、A5等級の佐賀牛と武雄若楠ポークせいろ蒸し、新玉ねぎや里芋、アスパラの塩ゆで、有明・玄界灘から届くシマアジのお造りなど、山海の幸をふんだんに味わった。

「楽園なべ」はスッポンとカツオ出汁のスープに、自然薯をすりおろした団子、舞茸などのきのこ、クレソンがたっぷり入ったヘルシーな鍋。スッポンを使っているから濃厚で旨みが強い。

 ご飯は自家製佐賀牛の山椒カレーだった。創作会席料理でカレーが出てくるというのはかなり自由な発想。追いスパイス付きで「発汗」にもこだわっている。

 翌朝は窓の外の緑を眺めながら、気持ちが上がる朝食を。ハーフバイキングスタイルだから自由度が高く、自分で油揚げを焼いて味噌汁に入れたり、シェフに自家製ポークハムを切ってもらったり、食べたいものを選ぶことができる。ヘルシーな温泉豆腐の鍋も起きぬけの胃にやさしいメニューだ。

 サウナでも食でもととのう、究極の癒やしがここにある。

御船山楽園ホテル

所在地 佐賀県武雄市武雄町大字武雄4100
電話番号 0954−23−3131
料金 老松の間1泊2食1人3万8,980円~、サウナ付き客室同4万80円~
サウナ 大人1人4,450~5,950円(日時により変動)
https://www.mifuneyama.co.jp/


野添ちかこ(のぞえ・ちかこ)
温泉と宿のライター/旅行作家

「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、旅の手帖(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。
https://zero-tabi.com/

文・撮影=野添ちかこ

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