【未知なるフィリピン美食新時代③】 ジャングルを抜けてたどり着く ネグロス島のファインダイニング
CREA WEB / 2024年7月4日 11時0分
フィリピンの経済は、このところずっと右肩上がり。美食を求める人が国内にも増え、才能ある料理人が育つ一方で、在来の食材や食文化を継承しようというムーブメントも広がりつつあります。名家の家庭料理から、話題のファーム・トゥ・テーブル、VIP気分で味わうプライベートダイニング、最先端のファインダイニングまで、一挙ご紹介!
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伝統的な家庭料理を歴史ある邸宅で
欧風の街並みが美しいシライ市の「カーサ・A・ガンボア」は、1939年に建てられたアメリカンコロニアルスタイルの邸宅。完全予約制のプライベートダイニングで、上質の家庭料理を味わうことができます。
裕福な砂糖農園主によって建てられたこの邸宅は、その娘であり食の研究者、著名なフードライターでもある、故ドリーン ガンボア フェルナンデスが暮らした場所でもあります。
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「カーサ・A・ガンボア」は現在、ドリーンの義理の姉にあたるリン・ベサ・ガンボアさんから、その娘で著名なフーディーとしても知られるリーナ・ガンボアさんに受け継がれ、伝統的な家庭料理を提供するダイニング、ギャラリー、イベントスペースとして使われています。ダイニングでの料理内容や時間(朝食、昼食、夜で各1組限定)、予算は相談次第でアレンジ可能。
今回いただいたのは、ランチブッフェ。旨みたっぷりの地鶏のスープに、小イカにレモングラスを詰めた串焼き、ポークリブのグリルなど、いずれも親しみやすい家庭料理でありながら、ソフィスティケートされた逸品揃い。代々食べることが大好きなガンボア家の味が、この島の風土と食の豊かさを物語っています。
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故ドリーン・ガンボア・フェルナンデスは、著書『Tikim, Essays on Philippine Food and Culture(ティキム、フィリピンの食と文化に関するエッセイ)』に、「食べ、味わうことは、とても親密な冒険であり、人間の経験を深く掘り下げる」と書いています。
その言葉通りの体験が叶う「カーサ・A・ガンボア」での食事。ネグロス島の家庭に根付いた料理の奥深さを知りたいなら、ぜひ旅程に組み込んでみてください。
カーサ A ガンボア Casa A. Gamboa
https://www.facebook.com/CasaAGamboa/
話題のFarm to tableダイニングへ
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バコロド市の「ラナイ バイ フレッシュスタート」は、同市内でオーガニックショップやカフェ、ジュースバーなどを手掛ける企業「フレッシュ スタート」の直営レストラン。オーナーのラモン ウイさん&フランシーヌさん夫妻は、フィリピンのオーガニック運動を牽引するリーダー的存在です。
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食材は、自家農園の有機野菜のほか、小規模生産者の農産物や、イタリアのスローフード協会によって「味の方舟(Ark of Tast)」に認定されたものも積極的に使用。
味の方舟に認定されるのは、固有の在来種や、伝統製法でつくられる加工食品、伝統漁法による魚介類やその発酵食品などで、ネグロス島にはそうした食材が(認定されていないものも含め)豊富にあるのです。
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この店で使われる肉や乳製品も、オーガニックまたはそれに近いもので、ケミカルな調味料は基本的に不使用。風土に根ざし、人を癒す食の原点がここにあります。
メニューは比較的カジュアルで、旅行中に不足しがちな野菜をたっぷりと食べられるのが魅力。フレッシュスタート社は、マニラなどで活躍する著名なシェフたちにも食材を提供しているため、名だたるシェフが料理やカクテルのレシピを提供しているそう。
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「ラナイ」がオープンしたのは、パンデミックの渦中だった2021年12月のこと。ネグロス島でも多くの店が一時閉店や営業形態の変更を余儀なくされましたが、一方で健康志向やオーガニック食品への関心は高まりました。
安心して食事を楽しめる場所として、地域社会や観光客に新たな食の選択肢を提供している「ラナイ」。オーガニックの可能性を広げる拠点としても注目されています。
ラナイ バイ フレッシュスタート LANAI by FreshStart
https://www.facebook.com/LanaibyFreshStart/
ネグロス島の最旬ファインダイニング
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ネグロス島はおいしいものに事欠かない島ですが、世界水準のファインダイニングというと、限られています。
バコロド市から南へ、車を飛ばすこと約1時間余り(約55キロ)。古き良き漁師町でビーチリゾートでもあるハイニガランの市街地から、鬱蒼としたジャングルや畑を抜けたところに、まさかのファインダイニングがありました。
その名は「サウマファーム バー&キッチン(SAUMA Farm, Bar & Kitchen)」。バコロド市にある人気レストランのオーナーであり、国際的な料理イベントにもフィリピン代表として参加している気鋭のシェフ、ドン アンジェロ コルメナーレスさんが家族で営む完全予約制のプライベートレストランです。
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料理はおまかせコースで7品ほど(1人7000円くらい。総予算は要相談)。地元の新鮮な旬の食材を使用し、ゲストに合わせてカスタマイズしたメニューを提供しています。今回はディナー利用でしたが、日中なら周囲に広がるファームを少し歩いて、料理に使われる食材を見学するなど、プライベートレストランならではの過ごし方も相談可能です。
この日のスターターは、グァバジャムを添えた鶏レバーのパルフェ、チョリソ入りのルンピア(春巻き)、ピリ辛のスープが入った小籠包。魚はウリバライという淡水魚で、グアバチャン(発酵調味料)やココナッツのソースに発酵ミントオイルで風味づけ。
サラダは、この地域の伝統的なスープ「LASWA(ラシュワ)」を再構築したもので、ナス、カボチャ、四角豆、タロイモの葉といった野菜をモリンガのドレッシングで。
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フィリピン風ラーメン「バッチョイ」も、ユニークなスタイルで登場。揚げた卵麺や米麺が入ったボウルに、ややとろみのあるボーンブロス(牛骨、豚骨などのだし)を注ぎ、自家製のチチャロン(豚皮を揚げたもの)をトッピング。おいしいスープを吸った揚げ麺の食感が楽しく、具材がないぶん、スープの複雑な旨みを堪能できます。
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肉料理のひとつは、ネグロス島名物のレチョン(子豚の丸焼き)のイメージ。低温でじっくりと火を入れた豚肉の表面を香ばしく焼き、タマリンドや生姜、にんにく、レモングラスを効かせたソースと、豚レバーのムースを添えています。一緒に魚の燻製入りフライドライスがついてくるのがフィリピンならでは。
もうひとつの肉料理は、アドボ。やわらかく焼き上げたローカルビーフを、ココナッツビネガーや中国醬油、マスコバド糖などでつくる甘酸っぱいソースでいただきます。
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「日本やフランスなどのテクニックも取り入れながら、自分なりに島の食材へのリスペクトを表現していきたい」と話す、シェフ・ドン。食材への理解の深さと確かなテクニック、調和の取れた料理の数々は、国内外のVIPにも高く評価されています。
サウマファーム バー&キッチン SAUMA Farm, Bar & Kitchen
https://www.facebook.com/profile.php?id=61556775315626
マニラで行くべき2つのレストラン
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マニラの中心地は、いまや東京に引けを取らない大都会。世界的企業のオフィスが入る高層ビル、ハイブランドが並ぶファッションビルやショッピングモール、レストランも、カジュアルダイニングからファインダイニングまでよりどりみどりです。フィリピンの美食シーンを体験するなら、やはりマニラは外せません。
フィリピン×イタリアの人気店
ネグロス島からマニラまでは、国内線で1時間強。まず足を運んだのは、巨大ショッピングモール・ロックウェル内にあるレストラン「グレース パーク(Grace Park)」です。ネグロス島出身のシェフ・マルガリータ フォレスさんは、2016年「アジアベストレストラン50」で、アジアの最優秀女性シェフ賞に選ばれた実績の持ち主。10以上の支店があるカジュアルイタリアン「シボ(CIBO)」のオーナーシェフとしても有名です。
「グレース パーク」では、ローカルの食材でフィリピン料理を捉え直し、マルガリータさんの真骨頂と言える、フィリピンとイタリアの食材と文化をかけあわせた料理を提供。
例えば、フィリピン産の大きな川エビをカニミソやバター、にんにく、カラマンシー(柑橘の一種)のソースで仕上げた一品は、まさにフィリピン×イタリアンのハイブリッド。フィリピン人もイタリア人も(そして日本人も)大好きな味です。
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気取らず温かいダイニングの雰囲気と、フィリピンとイタリアの豊かな食が融合した料理の数々。初めてなのにホッとする、みんなが「大好きな味」がここにあります。
グレース パーク Grace Park
https://www.margaritafores.com/
最先端のファインダイニング「helm」
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マニラのフードシーンで、もっとも注目されているシェフの一人が、ジョシュ ボートウッドさん。コペンハーゲンの「noma」などで多彩な経験を積み、マニラで4つのレストランを経営しています。なかでも特に尖っているのが「ヘルム(helm)」。
店内は、最奥にあるキッチンに照明があたり、客席はあえて暗くした劇場型のレイアウト。シェフのアイデアをビビッドに反映した料理をワクワクしながら眺め、味わい、その背景を謎解きのように考える、クリエイティブな食体験が叶います。
メニューリストは、ほぼ素材だけが書かれたシンプルなもの。ただ、食後にくれるQRコードを読み込むと、もう少し詳しい情報が分かるようになっているので、メモや撮影はそこそこにして、食事を楽しみましょう。(ディナーコースは1万5,000円~25,000円くらい)。
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国際経験豊かなシェフのこと、ルーツとなるフィリピンやイギリスのテイストだけでなく、東南アジア諸国や北欧、東欧の食文化からもインスピレーションを得ているよう。なかには和のエッセンスを取り入れた料理もあります。
例えば、「Chawanmushi,clam,dill」という一品は、そのまま日本の茶碗蒸しにヒントを得たもの。ムール貝やマテ貝などの複雑な旨みに、からすみとりんごのレリッシュ、ディルオイルの色と風味をまとわせていただきます。
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店名のhelmとは「舵」を指す言葉。この先鋭的なダイニングは、シェフ・ジョシュが自らの創造性とリーダーシップを発揮する場であり、その舵は自分自身が握っているのだと宣言しているかのようです。
メニューは季節ごとに変わり、次に訪れるときは、まったく違う印象を受けるかも。シェフがどのような方向に舵を切るのか、楽しみで仕方ありません。
ヘルム helm
https://www.joshboutwood.net/restaurants/helm
【協力】
フィリピン政府観光省 https://philippinetravel.jp/
文・写真=伊藤由起
協力=フィリピン政府観光省、shifumy(江藤詩文)
写真協力=Kazuki Kei Kiyosawa
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