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「森山未來さんの動きは絵に起こしや すい」実写→アニメ化の制作陣が絶賛 37歳の化け猫を演じた森山の凄さ

CREA WEB / 2024年7月19日 7時0分

 映画『化け猫あんずちゃん』で、「ロトスコープ」という手法で、お芝居をアニメに落とし込んだ久野遥子監督にインタビュー。

 映画の魅力やロトスコープの面白さについてお聞きしました。


カツ丼好きで仕事は按摩、パチンコが趣味の37歳の猫


久野遥子監督。

──久野監督はもともと原作の『化け猫あんずちゃん』ファンだったそうですね。

 はい。『化け猫あんずちゃん』の、というよりも、高校生くらいの頃から原作者のいましろたかしさんのファンでした。

 いましろさんの作品って、結構ビターなというか、生きることの難しさや葛藤を描いた作品が多いんですけど、そのなかで『化け猫あんずちゃん』は、主人公が猫だからか、あまり重くないというか。重いものを背負っていたり、人生に苦悩したりするキャラクターも登場しますが、あんずちゃんはそれに引きずられずに「にゃっはっは」と傍観していく。そんな猫らしい軽やかさを持ちながら、一方では「カツ丼好きで仕事は按摩、パチンコが趣味の37歳のおっさん」らしいふてぶてしさみたいなものも併せ持っていて、それがすごく印象的でした。


©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

──『化け猫あんずちゃん』の映画をロトスコープでやろうというのは、久野監督のアイデアですか?

 もともとはプロデューサーの近藤(慶一)さんのアイデアです。

 近藤さんはもともと実写畑の方で、私は近藤さんが助監督として参加された岩井(俊二)監督の『花とアリス殺人事件』で、ロトスコープアニメーションディレクターとしてはじめてお会いしました。近藤さんは、その前に山下(敦弘)監督の『苦役列車』にも助監督として参加されていて、山下監督と『化け猫あんずちゃん』が好き、という話をしていたらしいんですよ。

 その後、近藤さんは「クレヨンしんちゃん」のプロデューサーをされるようになったんですけど、いましろたかしさんの原作漫画をロトスコープでアニメ化する企画を思い立ったときに、山下監督と私のことを思い出してくださり、お声がけいただいた、という経緯です。

 最初にお話をいただいてから、映画完成まで9年くらいかかっているという、実は壮大な作品です(笑)。

60~80秒の長いワンカットにロトスコープの魅力が凝縮


あんずちゃんの特製ぬいぐるみ。首から下げているガラケーがポイント。

──実際に制作するにあたり、大変だったのはどんなところでしたか?

 実写とアニメーションのワンカットの長さの違いです。

 普通の商業アニメだと、ワンカットは長くても6〜7秒くらいで、短いと1秒未満というものもザラです。でも山下監督はワンカットが12秒くらいが普通で、長いと30〜60秒くらいのもあったりしたので、戸惑いました。 

 アニメーションは一般的に1カットの中で意図しない、矛盾がないように美しく描く技術が求められます。なのでワンカットの尺が長くなればなるほど、アニメーターさんの負担が増えるのですが、『化け猫あんずちゃん』では最長で80秒のワンカットがありました。

 かりんちゃんの複雑な感情が描かれているカットがあるのですが、ワンカットのなかでかりんちゃんの揺れ動く感情の高まりが長尺でていねいに描かれていて、これまでにない挑戦的なカットだと感じました。

──ワンカットの尺が長いというのは、実写の撮り方なんですか?

 これは実写がというより、山下監督の味だと思います。山下監督はお芝居を大事にされている方なので、お芝居を見せるためにカットを割らない、という選択をされることが多々あります。

 あまり長いと、途中でカット割りしようかという話も出るんですが、ワンカットで見せたほうが芝居が伝わると判断したときには長くなります。アニメとしては、尺がのびるほど作業が大変になるのはわかっていても、一緒に編集をして間近で山下監督が演出したカットを見ると、「ここは割らないほうがいいよね」と思えてしまう場面も多くありました。そんなふうに、お芝居の良さを勉強できたことも、今回の貴重な体験でした。


インタビューを見守るあんずちゃん。

──人間が人間を演じるのではなく、人間が化け猫を演じる、というのは実写だとハードルが高いように感じます。

 そうですね。そこは、あんずちゃんを演じてくださった森山(未來)さんの存在が大きいと思います。

 山下さんは監督を務めた『苦役列車』で森山さんとご一緒されたときから、その身体能力の高さに注目されていたそうです。あんずちゃんをロトスコープで、という企画がもちあがったときから、あんずちゃんを演じてもらうなら森山さんがいいと思っていたとお聞きしました。

 あんずちゃんは猫でありながら、冴えない37歳のおじさんでもあり、その両方のバランスを森山さんはすごくいいあんばいで出してくださったなと思いました。

森山未來さんは動きに“ノイズ”がないとアニメーターの間で話題に


©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

──実写からアニメ化する際に、猫であるあんずちゃんと、人間であるかりんちゃんではやり方が異なるのですか?

 やり方は同じですが、デザイン的に変えざるを得ないところはあります。たとえば森山さんは細身なので、あんずちゃんにするには等身も形状もかなり変えていますが、かりんちゃんにかんしては、五藤(希愛)さんの体型や髪型をほぼそのまま活かしてアニメ化しています。

 ただ、森山さんはダンサーだからなのか、お芝居に余計な動きがまったくありませんでした。作画をする上でノイズのない動きをされているので、すごく絵を起こしやすかった。これはほかのアニメーターさんたちもみな絶賛していました。

 五藤さんは、あの年齢じゃないとできない表情や動きをしてくれたので、それをいい形で絵でも表現できたと思っています。

──かりんちゃんは原作にはないキャラクターです。映画オリジナルのキャラクターをつくった経緯とこだわりを教えてください。

 あんずちゃんはインパクトのあるキャラクターではありますが、どっしりとしていて物語を動かすキーパーソンにはなりません。長編映画としてみせる場合には、もうひとり引っかき回す強いキャラクターが必要だという話は最初から出ていました。

 そのなかで、山下さんと「ちょっと不機嫌な女の子っていいよね」という意見が出て、親子げんかの末にお寺に置いていかれる11歳の女の子・かりんというキャラクターが生まれました。

 あと、原作にも登場するキャラクターですが、ロトスコープによってオリジナルキャラのような新鮮味が出せたのは、池照町(いけてるちょう)の地元の男の子2人組です。子役の役者さんたちが演じたのですが、昭和の子どもと違って手足が長いうえ、「ヤンキー座り」に慣れていないので、アンバランスなぎこちない動きが逆に独特の味を出していて。それが絵としても表現できたので、非常に面白いニュアンスが出せたなと思っています。

実写チームが驚いた「天気に左右されない」アニメの面白さ


久野遥子監督。

──実写とアニメで、山下監督と意見の相違や見解の違いなどは生じなかったのでしょうか?

 撮影から参加して、山下監督がどんな熱量でお芝居を撮っているのか間近で見せていただいたので、そこに対する不満や意見などはまったくありませんでした。逆にお互いがお互いを尊重し合って、いい形での相乗効果が出せたのではないかと思っています。

 意見の相違ではありませんが、山下監督が「天気に左右されない」ことを面白がってくれたのは新鮮な感覚でした。

 実写の場合、明るいシーンを撮るのに「晴れ待ち」などをしたりするそうですが、ロトスコープの場合は、背景やお天気はあとからどんなふうにも変えられるので、天気に左右されません。

 夜でも昼間にできるし、晴れていてもあとから雨を降らせることもできます。アニメーションを描いているとあたりまえのことですが、山下監督から「アニメーションって面白いね」と言われ、そうか、面白いのかとあらためて気づきました。

──今作を作り終えた感想をお聞かせください。

 実写で撮影したものを徐々にアニメ化していくのですが、少しずつ実写から絵の部分が増えていくので、観るたびにはじめての作品に出会う新鮮さがありました。

 できあがったときは、それまで「実写映画」として観ていたのにいつのまにか「アニメ映画」の味わいも加わって。音楽も入るとまた違った印象になり、それが面白いなと思いました。

 ゼロからロトスコープで長編作品を作ったのが今回はじめてだったので、最初は苦労しましたが、山下さんにとっても長編アニメーション作品にかかわるのははじめてです。「はじめて」を共有できる方とご一緒できたという点では、とても安心感がありました。


久野遥子監督。

──今後挑戦したいことや目標などあれば教えてください。

 今作で私は、あらためてお芝居の大切さに気がつきました。

 これまでは、俳優さんがどんなにいいお芝居をしてもアニメ化することで情報量が減ってしまうと思っていたんです。でも今作で、実写のお芝居って実はアニメに持ってこれるんだということを初めて体感できました。これは、山下監督がお芝居を大事にされていたからだと思います。

 動きが増えれば増えるほどアニメ化は大変にはなりますが、俳優さんのうなずき一つ、動き一つで感情表現は大きく変わるので、いいお芝居を見つけ拾っていくことも大事なんだと気づけたのは大きな発見でした。

 私は実写の監督ではないので、この先実写映画を作ることはないと思いますが、実写でもアニメでもいま、女性の監督も増えてきていますし、これからもどんどん新しい才能が生まれてくると思います。そういう方たちと一緒に、お芝居の大事さをどう自分の世界に持ち込んでいくかということも、考え続けていけたらいいなと思っています。

久野遥子(くの・ようこ)

1990年、茨城県つくば市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2015年、岩井俊二監督による『花とアリス殺人事件』のロトスコープアニメーションディレクターに抜擢され、以降『宝石の国』の演出・原画や、『ペンギン・ハイウェイ』のコンセプトデザイン、映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』のキャラクターデザイン・コンテ・演出・原画等で活躍している。

取材・文=相澤洋美
写真=平松市聖

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