「かわいいし面白いから楽しい時間」三姉妹の長女を演じた江口のりこが語る、魅力的な家族のエピソード
CREA WEB / 2024年7月14日 17時0分
ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍し、作品ごとに違う顔を見せる俳優、江口のりこさん。彼女が参加した『お母さんが一緒』は、ペヤンヌマキさんによる同名の舞台を原作に、『ぐるりのこと。』『恋人たち』などで知られる橋口亮輔監督が9年ぶりに手掛けた作品。家族の面倒さと愛おしさを描いたこの作品を端緒に、江口さんに自身の家族のことや作品への取り組み方のことなどを聞きました。
参加を決めた理由は橋口亮輔監督だったから
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──映画『お母さんが一緒』は、親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹を描いた作品ですね。
温泉旅館という密室で3人の会話劇が続くシチュエーション自体が、まずすごく面白いですよね。(内田)慈ちゃんと(古川)琴音ちゃんといっしょに三姉妹の役をやれたことは、とてもよかったなと思います。琴音ちゃん演じる三女・清美の恋人を演じた青山(フォール勝ち)さんも含め、みんなでいっしょに作っていったな、という感覚です。
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──江口さんのもとにはたくさんのオファーが届くと思いますが、この作品に参加しようと決めたポイントは?
それはもう、橋口亮輔監督だったからです。実際に橋口監督の現場を経験してみて、監督とお仕事できたことは、いまの自分にとってすごく大きな財産になりました。楽しかったし。
でもそれは決して、手放しの楽しさじゃないんです。厳しさも不安もあった。そんな気持ちでリハーサルをして、本番を迎えて、どっぷりと作品に取り組むことができたのは嬉しかったですね。
──厳しさも不安もある、楽しさ。
とにかく撮影がハードだったんです。日数もなかった中で、旅館に缶詰になって、監督の期待に応えようというので一生懸命になっていた。でも、監督やキャストのみんなと一緒に作るなかで弥生像を探っていくという作業は、楽しい時間でしたね。
──橋口監督の演出はいかがでしたか?
監督は、「こんな感じかな」と一人何役も動いて見せてくれたりして。だから私たちも監督のマネをして役を演じていく面もありました。ただ、言葉で具体的に「こう演じてほしい」とかはあまり言わないんです。
その代わり、リハーサルの中で「この前僕、こういう人に会ってね。こういうことを言っていて、こんな人だったんだよ」と全然関係ない話をするわけですよ。でもそれは役を演じるにあたってすごく大きなヒントになったりする。そういうアプローチをされる監督でした。
姉妹で一緒にいる時間は本当に楽しかった
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──映画では、姉妹として何十年といっしょにいるからこそだな、と思える会話のテンポに心地よさを感じました。姉妹を演じるうえでなにか気をつけた点や、話し合ったことはありましたか?
もう、撮影中は絶対的にずっと一緒にいるわけですよ。現場に向かう車の中でも、待ち時間も一緒だし。そうするとね、別に何も話さなくても3人で1つみたいな感じが出るんです。「こんなふうにしよう」と話し合ったことなんて一度もなかったですけど、やっぱり橋口さんという大きな柱がそこにあって、3人ともそれをしっかり見て演じていくと、どうしたって同じ方向を向くことになるわけですよね。
このチーム感を作ってくれたのは監督だなと思いますし、3人一緒にいる時間は本当に楽しかったです。空き時間はどんな話したかなあ。とりとめもない話です。琴音ちゃんは食べ物の話が好きで、慈ちゃんがいちばんしっかりしてたかな。私は割とぼんやりしてましたね(笑)。
妹と過ごす面白くて楽しい時間
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──江口さん自身も兄妹がいらっしゃいますが、今回演じた長女・弥生という役柄に共感した点は?
弥生と私は年齢もほとんど一緒だし、独身という状況も似ています。私と違うところは、母から何かを強要されていないという点かな。弥生は母に「こうしなさい、ああしなさい」と言われていたけれど、私は本当に自由にやらせてもらっています。ただ、妹に対して「お母さんにこうしてあげて」みたいに言っちゃうところは弥生と似ているかもしれない。
──妹さんについ口出しをしてしまう。なぜそういうことを言ってしまうんでしょう?
それはやっぱり、妹がしっかりしてないからですよね(笑)。まあ妹からしてみたら「お前が言うな」と思っているでしょうけど。家族って自分のことを棚に上げて、色々言っちゃいますから、難しいですよね。
──たしかに。家族や兄妹との関わり方で、江口さんが心がけていることはありますか?
ある程度、距離はあったほうがいいなと思いますね。家族だけれども別々の人間だし、別々の人生を歩んでいる。そのことを気に留めておかなくてはいけないなって。家族だからって何から何までやってあげたりするのは違うじゃないですか。
──距離をとる。
たとえば、私は兄妹の中でも、住んでいるところが近いこともあって、特に妹とよく遊ぶんですよ。スーパーに行ったり、ご飯を食べに行ったり。で、妹と会うとやっぱりかわいいし、面白いから楽しい時間なんです。でも連日会いすぎると腹が立ってきます(笑)。
反抗期は35歳くらいになってから来た
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──映画では母との関係性も描かれていましたが、お母さんとの関係はいかがですか?
母が何かを強制してきたことはないし、うちの家族はいい家族だなって思ってます。だからなのか、反抗期も遅かったですね。35歳くらいになってから来た。だいぶ大人になってから、母に反抗したくなってしまう時期がありました。
──それは何か、理由があったんでしょうか?
何に対してイラッとしたかというと、子供扱いするところかな。「もう大人なのに」って。いちばんイラッとしたのは、たけのこの季節にたけのこを一本丸ごと買って、たけのこご飯を作ったという話をしたら、母が「えらいねぇ」と言ったこと。こうして話すとめちゃくちゃしょうもないことじゃないですか。
でも「そんなことで褒めてくるなんて、まだ子どもだと思ってんの?」とすごく腹が立ってしまった。当時はそれに腹を立てる自分のことも嫌になりました。嫌いなわけじゃないのに、イラッとしてしまうことがある。それは家族ならではの感情なのかもしれない。不思議ですよね。
自分の正体みたいなものは知らせないほうが絶対にいい
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──こうした家族をテーマとした作品だと特に、いまのように江口さんご自身の家族の話を伺ってしまいます。どんな作品でも「役に近づくためには」とプライベートなことを聞いてしまうことがあります。こうやってインタビューで自身のことを聞かれることについて、江口さんはどう思ってらっしゃいますか?
私、本当に不思議だったんですけど、「あなたと、演じた役との共通点は」という質問、よくあるじゃないですか。なんでそんなこと聞くのかなと思うんですよ。
──たしかに、聞いてしまいます。
でも、それを聞くことによって、「あなたってそういう人なんですね」というのをとっかかりに話が広がる。そういう目的があって質問されるのかなと、ある時納得したんですけど。まあ、どの役も演じたのは自分自身だから、自分の話はしなきゃしょうがないですよね。
ただ、こういう俳優業をやっていると、自分の正体みたいなものは知らせないほうが絶対にいいと思っています。知らせていいことなんてひとつもないと。ただ、こうして取材を受けているからには、「いや別に」と言ってる場合じゃないですから、「これだったら話してもいいか」ということを話しちゃうわけですけども。
──では、自分のことを話したり、書いたりすることについては決して積極的ではない?
自分の考えとか思いをエッセイにしようとか、そういうことは思わないですね。俳優さんが書かれたものを読むのは好きですけども。
──自分の言葉を発するのは、やはり俳優という仕事の中で役としてさまざまな言葉を発することとは、まったく別の感覚ですか?
役の発言は、もうそれは人が考えたセリフですから。「つまんなかった」と言われても、「私関係ない」と思えますからね(笑)。でも、バラエティだったり、そういう風な場所って、自分から出た言葉で自分が責任持たなきゃいけない。そういう違いですかね。
仕事におけるターニングポイントはない
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──先ほど今回の映画に参加した理由を「橋口監督だったから」とおっしゃっていましたが、いつも作品を選ぶときは、「監督がこの人だったら!」とか、「この役柄だったら!」と、なにか反応するものがある作品を選んでいくんでしょうか?
そうですね。まあ、中には反応しないものもあります(笑)。それでも「これはやらなきゃな」という思いがあればやりますし。……私は仕事を、わりと大きく捉えているのかもしれません。作品は一つひとつ違うけれども、芝居をしていくということはどの仕事でも、どの場面でも一緒で。ある仕事でうまくいかなかったところがあったとしたら、「じゃあまたの機会にできるようになればいい」と次に持っていく。そんなふうにして、自分のなかで仕事は丸ごと全部、繋がっている気がします。
──江口さんはさまざまな作品に出演されていますが、他のインタビューでターニングポイントになった作品を聞かれても「とくにない」と話されていました。それはやはり仕事を「大きく捉えている」からなのでしょうか
どんな現場でも、その都度学ぶことや課題があるんですよね。作品によっては、ヒットしてそれを機にたくさんの方に知ってもらうことができたというものはありますけれども、自分にとってはそれが特別というわけではないんです。そういう意味で、ターニングポイントってないのかなといつも答えちゃいますね。
──作品が変わっても演じるということは同じだから、反省や後悔をいつかどこかで挽回できる、という考えなんですね。
はい。ある時に言われた言葉が、何年か経って「あ、あの時言われたことってこういうことだったのか」とわかることもある。それが面白いなと思いますね。
[衣装クレジット]
ドレス 176,000円/BLAMINK(03-5774-9899)、その他/スタイリスト私物
江口のりこ(えぐち・のりこ)
1980年、兵庫県出身。2002年、三池崇史監督『金融破滅ニッポン 桃源郷の人々』で映画デビュー。以降、ドラマ・CM・映画などで活躍。映画『愛に乱暴』(8月30日(金)公開)、『ブルーピリオド』(8月9日(金)公開)、連続テレビ小説『あんぱん』(2025年春放送)など出演作が続く。
『お母さんが一緒』
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原作・脚本:ペヤンヌマキ 監督・脚色:橋口亮輔(『ぐるりのこと。』『恋人たち』)
出演:江口のりこ 内田慈 古川琴音 青山フォール勝ち(ネルソンズ)
配給:クロックワークス
製作:松竹ブロードキャスティング
上映時間:106分 ©2024松竹ブロードキャスティング
公式HP:https://www.okaasan-movie.com 映画公式X: @okaasan_movie
映画公式Facebook:movie.okaasan
7/12(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
文=釣木文恵
写真=佐藤 亘
スタイリング=清水奈緒美
ヘアメイク=草場妙子
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