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年齢とともに早起きになるのはなぜ?意外と知らない「体内時計」と「良質な睡眠」のメカニズム

CREA WEB / 2024年7月14日 6時0分

 一日の3分の1もの時間を占める、睡眠。でも「睡眠はなぜ大切なのか?」という疑問に答えられる人はどのくらいいるでしょうか。

 健康のため? 疲労回復のため?

『眠りで脳は大進化する』(文藝春秋)より、睡眠にまつわる新常識をご紹介します。


「外が暗くなると眠くなる」は間違い!


©show999イメージマート

 私たちは、夜になれば自然と眠くなり、朝になれば自然と目が覚めます。これは太陽が沈んで外が暗くなると眠り、太陽が昇って明るくなったから起きる、つまり私たちの睡眠が外的な環境の変化へ単純に反応しているからだと思われるかもしれません。しかし実は、私たちの体の中に1日のリズムがあらかじめ備わっていて、それが体内で刻まれているからなのです。

 そもそもみなさんは、自分の体内に、このような「体内時計」なるものが存在していることをご存じでしょうか? 例えば、私たちが朝・昼・晩の食事の周期に合わせて空腹を感じるのもまた、この体内時計の存在によって説明ができるのです。「腹時計」のように、いま何時かと時計を見なくても、おおよそ時間のあたりをつけられるのは体内時計の存在によるのです。

 この生来、体の内部に組み込まれた「体内時計」は、ヒトに限らず地球上に生活するあらゆる生物が持っていると考えられています。例えば、朝顔、昼顔、夕顔がそれぞれ朝、昼、夕に咲くのは太陽の光を感知するからではなく、まさに24時間周期の体内時計を内側に持っているためです。光の当たらない真っ暗な環境下でも、あるいはずっと光の当たり続ける環境でも決まった時刻に花は咲きます。日の光ではなく「時間」が開花を司っているのは、太陽だけを頼りにしていては、悪天候や厳しい環境を生き抜けないからです。

約40億年前のバクテリアにも正確な体内時計が備わっていた

 この体内時計の性質をうまく利用したユニークな植物の時計に、「リンネの花時計」があります。

 リンネの花時計は、植物学者のカール・フォン・リンネが1751年に考案したもので、時刻ごとに咲く花を概念的に並べたものです(後に実際につくられた)。リンネの花時計では、午前6時から正午までに開く花、正午から午後6時までに閉じる花、こういった花が1時間ごとに順番に並べられています。

 こうやって並べられた花の状態を観察すれば、咲いているか閉じているかでその場所の時刻が推測できるというわけです。これなら、時差のある場所に旅行に行ったとしても、機械時計が手元になくても、花の状態で時刻を推測できます。花それぞれはもともと「いつ咲くべきか」を内側の時計でわかっているので、生物の共通理解でもある外側で流れている時間についても知らせることができるのです。

 その体内時計の性質をリンネは利用した、と言えるでしょう。ですからこれは、リンネが「作った」時計であると同時に、自然が作った時計にもなっています。この花時計がきちんと機能するためには、花の体内時計がしっかりと機能している必要があります。

 このように、地球の自転のもたらす1日24時間という周期にあわせてサイクルをつくり出す機能のことを「概日時計」と言います

 概日とは、「おおよその1日」の意味です。人間も太陽が出たら起きて活動し、太陽が沈んだら活動を止めて眠る動物です。この24時間サイクルは生活と密接に関わっていますし、おそらく人間が原初から持つ習性に近いものです。

 人間以外の動物、例えば夜行性の動物も「夜に活動する」のですから、この24時間周期の体内時計を自然に体得している可能性があります。

 多細胞生物だけではなく、原始的な単細胞生物であるバクテリアにも、体内時計はあります。地球は約46億年前に誕生し、その数億年後に生命が出てきたと言われていますが、その頃にシアノバクテリア(藍藻)という光合成をするバクテリアが登場しています。このシアノバクテリアにも、正確な体内時計が存在することがわかっています。

 あるいは、地球の公転がもたらす1年365日という季節性の周期を把握する機能もあって、これを「光周性(photoperiodism)」と言い、もしかすると「概年時計」という1年周期の時計が存在するかもしれないと考えられています。

年齢とともに早起きになるのは体内時計の“ある変化”が理由?

 例えばクマは、雪解けの春になると子連れで目撃されますが、冬眠中の冬場に出産をします。秋にシベリアから来る渡り鳥は、春になるとまたシベリアに帰ります。植物にしても、春に植えられたイネは秋に一斉に実りの時期を迎えます。春になれば桜が開花します。ここには季節を示す時計が関わっていて、24時間を示す体内時計と関連しているものの別の現象だと捉えられているのです。

 動物の受胎や繁殖といった定期的に実行される活動も季節を示す時計と関わっていて、周期を作っていることがわかり始めています。人間もふだんは意識できなくても、季節の変わり目に眠たくなる、冬場によく眠れるなど、知らず知らずのうちに内側の時計が外側の環境変化を察知し、季節の移ろいを体感することがあるでしょう。生き物の体の中には、外部環境の変化に内部をあわせていくシステムが備わっているのです。

 話を24時間で一巡りする概日時計に戻すと、体内時計の存在を最も意識できるのは、睡眠と覚醒のリズムが崩れてしまった時かもしれません。時差ボケや不眠症といった体内時計の狂いは私たち現代人の生活とも無縁ではありません。

 ヒトの体内時計は、例えば一晩徹夜をしてもたしかにリズムが元通り回復するのですが、その予想外の出来事がいつもの出来事になってしまうと、別のモデルが形成されてしまいます。具体的には、入眠と起床の時間が一定でなくなり、乱れてしまうことになります。

 あるいは、ふつう人間は、年を重ねていくとだんだん朝早く目覚めるようになりますが、これは体内時計の「大きさ」が小さくなる(あるいは反応が鈍くなる)ためではないか、と言われています。また、体内時計の異常は、夜間勤務する人の体調不良、児童や生徒の不登校の一因になっているとも言われています。

 時差ボケのような「自分の時間が社会とずれている」という問題、あるいは季節性うつ病のような「自分の季節と社会がずれている」といった問題は、決して小さいものではないのです。

文=上田泰己

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