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「ここまでの成功は予想していなかった」『ソウルの春』キム・ソンス監督が語る韓国でヒットするポリティカル・ノワール

CREA WEB / 2024年8月9日 17時0分

韓国の近現代史を顧みるポリティカル・ノワールの成長

 韓国で昨年11月に公開され、1300万人の観客動員を記録した映画『ソウルの春』。この作品は、1979年10月26日に、独裁者とも言われた朴正煕大統領が、自らの側近に暗殺された出来事から始まる。韓国ではここ10年程の間、近現代史を元にした映画が続々と作られているが、1979年の大統領暗殺を元に作られたのがウ・ミンホ監督の映画『KCIA 南山の部長たち』であり、『ソウルの春』はその直後のことがフィクションを交えながら描かれているのだ。

 韓国では2010年代半ばあたりから、社会問題を盛り込んだノワールと呼ばれる一群が制作されるようになり、また韓国の近現代史を顧みるポリティカル・ノワールも増え始め、その観客動員数も500万人……1000万人……と徐々に支持を集めるジャンルへと成長していった。また、史実を元にした作品が次々と作られることで、観客はパズルをひとつひとつ組みあわせているような感覚で、韓国の歴史を知ることができている。

 しかし、コロナ禍になったことで、劇場で映画を見る人が激減し、1000万人を超えるヒット作が生まれなくなったが、2022年の5月に公開されたマ・ドンソク主演の『犯罪都市 THE ROUNDUP』が韓国で実に三年ぶりに1000万人を突破。


キム・ソンス監督 © 2023 PLUS M ENTERTAINMENT& HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.

 一方、アクションとともにヒットの定番ジャンルであったポリティカル・ノワール作品の多くの制作はストップし、公開作も以前に比べて減ってしまった。このジャンルは公開されれば1000万人のヒットが期待されるからこそ、韓国のトップクラスの俳優がこぞって出演するし、時代設定もあり製作費もかさむ。

 移り変わりの激しい韓国で、もはやこのポリティカル・ノワールは過去のようにヒットを生み出し続けるジャンルではなくなったのかと思っていたところに公開されたのが『ソウルの春』であり、2023年の11月に公開されると、またたくまに1300万人の動員を記録した。このニュースは、韓国映画が低迷を脱したことを感じさせるのと同時に、ポリティカル・ノワールの復活も感じさせた。

 この『ソウルの春』を監督したキム・ソンスにインタビューした。監督は『アシュラ』(2016年)などノワール映画を数多く手掛けてきたが、史実を元にしたポリティカル・ノワールを撮ることには慎重で、2019年の秋にこの話を制作会社の代表から持ちかけられたときには丁寧に断ったこともあったという。しかし、翌年の夏にはシナリオを手に取り、⼀つの軸を据えて脚色作業に没頭して完成に至った。制作をしていたときに監督はここまでのヒットを予測していたのだろうか。

ヒットを予測していたのか

「まったく予想していなかったですね。もちろん、この映画をたくさんの人に見てもらいたいという気持ちはありましたが、ここまでの成功は予想していませんでした。なぜ1300万人もの観客を動員したのかについても、はっきりとはわかっていません。準備段階では、むしろ弱点の多い映画だとも思っていたんです。

 まず、お金がたくさんかかっていますし、内容的にも深刻で、観客から好まれる内容ではないと思っていました。その上、45年も前の話ですし、登場人物も、“おじさん”ばかり。この映画が若い世代や女性の観客に、何か訴えかけるものがあるのだろうかと、映画を作っているときは非常に悩んでいました」


『ソウルの春』より © 2023 PLUS M ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.

 物語の核になる登場人物はふたり。大統領暗殺事件の合同捜査本部長に就任し、その混乱の最中で新たな独裁者の座を狙うチョン・ドゥグァン保安司令官をファン・ジョンミンが演じた。そして軍人としての信念に基づいてチョン・ドゥグァンの暴走を阻止しようとする首都警備司令官イ・テシンをチョン・ウソンが演じている。

 この二人というのは、キム・ソンス監督の『アシュラ』でも主要な人物を演じている。しかも、ファン・ジョンミン演じる悪徳市長と、彼に最後まで食ってかかる、チョン・ウソン演じる汚職警官という関係性は、『ソウルの春』にも重なるように感じる。キャスティングにはどのような意図や経緯があったのだろうか。

「まずチョン・ウソンさんとは、1997年の『ビート』という作品をはじめとして、長年一緒に映画を作ってきた信頼関係がありました。ファン・ジョンミンさんとは『アシュラ』で初めてご一緒したのですが、映画の撮影を通してすごく良い印象を持ちました。


キム・ソンス監督のメイキングカット © 2023 PLUS M ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.

 ファン・ジョンミンさんは今や、韓国を代表する俳優ですが、私に対する印象も悪くなかったんじゃないでしょうか。私の中でもお二人は特別な存在でしたので、この映画でも俳優として演じてもらいたいという気持ちがあったんです。この映画は、シナリオができた段階で私のところに持ち掛けられたものでした。

 その話を持ってきた会社の代表から、チョン・ドゥグァン保安司令官の役にファン・ジョンミンさんはどうかと相談がありまして、まずはジョンミンさんをキャスティングすることになりました。イ・テシンについても、さまざまな話し合いを経てウソンさんになりました」

 キム・ソンス監督は現在63歳。1995年イ・ビョンホン主演の『ラン・アウェイ-RUN AWAY-』で監督デビューし、1997年にはチョン・ウソンが主演の『ビート』、1999年には、チョン・ウソンとイ・ジョンジェという二人の主演作『太陽はない』を監督した。

 その後も、チョン・ウソンやチャン・ツィイー主演の時代アクション『MUSA -武士-』(2001年)、パンデミックの世の中を描いた『FLU 運命の36時間』(2013年)、そして『アシュラ』や本作に至るまで、コンスタントに映画を監督してきた。そんな監督の目に、昨今の韓国映画の変化はどのように映っているのだろうか。

1980年代後半の韓国の映画界

「大変難しい質問ですね。私が映画界に入ったのは1980年代後半で、その当時は、『ソウルの春』のような歴史を扱う映画は、作るのがなかなか難しかった。というのも、検閲などもあったりして大変だったんです。でも2000年代あたりから、創作の自由が認められ、だんだんと緩和されていくようになりました。

 そうなると、近現代史におけるシビアな歴史を扱う作品というものも作ることができるようになりました。今の韓国の映画界には、80年代90年代の民主化運動に関わった人たちが一定数いますので、その人たちによって映画界が動いているという部分もあるんです。『ソウルの春』の企画をされた代表が携わっている作品には、近現代史を見つめなおす作品がたくさんあります。

 こうした映画がたくさん作られる背景には、映画監督の中に、一定数、社会的なテーマに対して関心を持っている人が、ほかの国よりも多く存在しているということが関係しているのかなと思います」

文=西森路代

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