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映画『ルックバック』のポスターデザインを手掛ける大島依提亜の原点はアキ・カウリスマキ

CREA WEB / 2024年8月26日 11時0分

 大島依提亜さんは映画や美術展のグラフィック、ブックデザインなどを数多く手がけるアートディレクター。中でも映画の世界観を印刷物というフィジカルなものに落とし込むマニアックなパンフレットはファンが多く、入手困難になることも。

 この連載では、大島さんが手がけた映画パンフレットを中心に、「映画の余談」をゆる~くしながら「大島さんの頭の中」を覗いていきます。聞き手は、その昔、大島さんと映画のパンフレットを作っていたこともある編集者・ライターの辛島いづみです。 


映画パンフレット作りの基本は故・川勝正幸さんに教わった

――今は、どんな映画のビジュアルに取りかかっているのか、という話から聞かせてください。

大島 現在は邦画を準備中です。黒沢清監督の作品に関わっていて。

――おお! 今秋公開される(9月27日公開予定)『Cloud クラウド』ですね。公式サイトによれば、主演は菅田将暉さんで、SNSが拡散する憎悪の連鎖と集団狂気を描くサイコスリラー。すでにポスタービジュアルも2種類公開されていますね。


監督・脚本:黒沢 清  主演:菅田将暉  9月27日公開。©2024 「Cloud」 製作委員会

大島 デザインしました。そして今回、タイトルもやらせてもらったんです。「動かしてみたいんですけど」って無理を言いまして。

――「Cloud」という文字にかかっている雲のような部分が動くんですか?

大島 そうです。めちゃめちゃうれしかったです。

ーーそういえば。現在、公開中のアニメ映画『ルックバック』のポスタービジュアルも大島さんが担当しています。大島さんがアニメ作品を手がけるのは結構レア。

大島 そうなんです。原作は『チェンソーマン』の藤本タツキさんの漫画で、数多くのアニメ作品に関わってきた押山清高監督が映画化をされたんです。主人公の声を河合優実さんが担当しているのも結構話題で。

――7月上旬の映画動員ランキングが、『それいけ!アンパンマン』を抜いて1位になったと。わたしは以前、漫画を読んですごく感動したんです。漫画に魅せられた二人の少女の青春物語で、自分の10代の頃を思い出すなあって。映画はまだ観られてないんですが。

大島 ぜひ観てください。ストーリーはコミックとほぼ同じですが、漫画とアニメの演出の違いがよくわかるので面白いと思います。

「映画を観たくなるパンフ」が川勝イズムの真骨頂

――そして、アニエス・ヴァルダ監督によるジェーン・バーキン主演作『アニエスV.によるジェーンB.』と『カンフーマスター!』のビジュアルも大島さん(8月23日より公開)。1988年の作品のリバイバル上映なんですが、これ、本来なら、川勝正幸さん(注:ポップカルチャーに造詣が深いエディター&ライター。映画のパンフも数多く手がけた。2012年没)とタッグを組んでほしかった案件。ヴァルダの『百一夜』は川勝さんがパンフを手がけましたし、ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンスブールは川勝さんのフェイバリットカップルでしたから。

大島 ぼくも真っ先に川勝さんを想起したので、タッグを組んでるつもりでデザインしています。

――川勝さんと大島さんの出会いは、2005年に日本で公開されたウディ・アレンの『さよなら、さよならハリウッド』からでした。当時わたしは、川勝さんのもとで映画のパンフを一緒に作っていましたから、よく覚えています。

大島 ぼくがまだ駆け出しのデザイナーの頃でした。2003年にアキ・カウリスマキ監督の『過去のない男』のビジュアルをデザインしたときに、川勝さんがパンフレットに寄稿してくれたんです。厳密にいえば、それがいちばん最初の出会いになるのかな。


『過去のない男』のパンフレット。

――そうですね。そこで、川勝さんが大島さんのデザインが素晴らしいと感心し、ウディ・アレンのパンフレットを作ることになったとき、「ぜひ大島さんと一緒に」って。

大島 なつかしい。そこから、エディターとデザイナーという関係でいろんな映画のお仕事をご一緒しましたが、映画の世界観をどんなふうにポスタービジュアルで表現するのか、パンフレットというモノにどう落とし込んでいくのか、基本の部分を川勝さんに教えてもらったように思うんです。

――単なる付録としてのパンフではなく、「映画を観たくなるパンフ」が川勝さんの真骨頂でしたもんね。

大島 そういう意味では、「川勝イズム」を引き継いでいるつもりです、ぼくは。

大島依提亜(おおしま・いであ)

アートディレクター。映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。最近の仕事に、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『カモン カモン』『怪物』、展覧会「谷川俊太郎展」(東京オペラシティアートギャラリー)「ムーミン展」など。

文=辛島いづみ
写真=平松市聖

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