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「気がつけばSCPに夢中に…」ネット発のホラー“きさらぎ駅”“八尺様”に触発された作家・梨の原点

CREA WEB / 2024年7月19日 11時0分

梨さんの原点とは

 2020年から海外の創作ホラーストーリーサイトである「SCP財団」で人気作を連発、2021年には自身のnote「瘤談」がインターネット上で話題を集めたほか、2022年には初の単著となる『かわいそ笑』を発表して多くの読者を恐怖させたホラー作家の梨さん。

 2024年7月19日からは、三越前福島ビルにて展示型イベント「行方不明展」の開催も予定されるなど、まさに令和時代を代表するホラー系クリエイターの一人だ。後編では梨さんの創作ルーツや、変わりゆく今の時代における「ホラー」のあり方などを聞いた。

※この展示はフィクションです


「行方不明展」の展示物 Ⓒ行方不明展製作委員会

ネット発のホラーが入り口だった

――ホラー好きになるきっかけとなった作品などあれば教えてください。

 多くのホラー好きの方は、きっと小さい頃に「口裂け女」とか「トイレの花子さん」のようなフォークロア(民間伝承)や都市伝説に触れてきたのが原体験だったのではないでしょうか。これは1970年代と1990年代にそれぞれオカルトブームが起きたのと関係しているのですが、私はその後に生まれた世代です。

 なので、幼少期はこうしたフォークロアそのものや、そうしたものをプロが編集した怪談ではなく、ネット上の匿名の存在が生み出した“ネットロア”が入り口になっています。花子さんより先に「八尺様」と出会った世代と言えばわかりやすいでしょうか。なので、きちんとした「作品」として世に出ている民俗学者・常光徹先生の「学校の怪談シリーズ」や、稲川淳二さんの怪談などは後になってから知りましたね。


ホラー作家の梨さん。

――2021年のnoteに投稿された「瘤談(こぶだん)」で梨さんを知られた方も多いですが、ホラーファンの間では梨さんといえば「SCP」という方も少なくない印象です。「SCP」との出会いも作家人生の上では大きなものだったのでしょうか。

 非常に大きかったです。実はSCPとの出会いはネット掲示板上で画像荒らしに遭遇したのがきっかけでした。彼らはネットに落ちている“恐怖画像”を脈絡なく掲示板に連投して嫌がらせをする愉快犯なのですが、日がな一日そういう場所に入り浸り、大抵の恐怖画像は知り尽くしていた当時14歳の私にとってはなんてことない存在でした。

 けれど、ある日それまで見たことがない恐怖画像たちが貼られるようになって、「これはなんだ!?」と調べるとどうやら「SCP」という海外の創作怪談サイトから引っ張ってきたものだとわかったのです。

読者を虜にする“考察要素”との向き合い方

 SCPを簡単に説明すると、世界には人類を脅かす無数の怪異・現象・物品が存在し、それらを確保・収容・保護する全世界規模の秘密組織が「SCP財団」だという設定のもと、彼らが閲覧する“報告書”という形でユーザーが創作怪談を作っていくコミュニティサイトです。

 私が育ってきたネットロア怪談の多くは、怪談に乗っかりながら掲示板上を盛り上げる“ごっこ遊び”的な性質があったので、気がつけば夢中になっていましたね。


「行方不明展」の展示物 Ⓒ行方不明展製作委員会

 またSCPの執筆ハードルの高さにも心惹かれました。書き込めばすぐ掲載されるような甘いものではなく、執筆用のルールブックに隠された秘密の暗号を見抜かないとそもそも執筆すらできません。それに執筆しても読者による評価が一定数を下回れば「〇〇時間以内に修正して高評価を得ないと記事は自動削除されます」といった通知が表示されるなど、SCPはとにかく管理人たちによるチェックが厳しいのです。

――梨さんの作品は読者に事件の全貌を考察させ、創作であることは明示しながら現実と創作の境界線を曖昧にする工夫が特徴的ですが、こうした作風はなぜ生まれたのですか。

 これもSCPの影響ですね(笑)。あのサイトでは基本的に世界観に沿った“報告書”という体裁でしか物語れないので、事件の証言や断片をつなぎ合わせていくことで壮大な怪奇現象の全貌を描写するしかない。編集後記的な解説要素を挟み込む余地がないのです。それに慣れ親しんできたこともあって、自然と読者に考察させるような作風におもしろさを感じるようになっていたのかもしれません。

 現実との境界を曖昧にするというのは、ネットロアが持つ性質と不可分だったから染み付いた特徴に思えます。ネットロアは掲示板に“本当にあったこと”として書き込まれ、それに乗っていく文化なので明確な作品としての線引きがほぼないのですよ。


「行方不明展」の展示物 Ⓒ行方不明展製作委員会

――考察要素はそのハードルの高さも楽しさのひとつですが、それゆえ読者の読解力も試されます。このあたりのバランス設定は非常に難しそうですが……。

 考察要素は自分にとっての武器ですが、同時にそれ一辺倒になってもいけないと思っています。「意味怖」をご存じでしょうか。これは「意味がわかると怖い話」の略称で、一見するとなんてことない話が、隠された断片を考察することでゾッとするというホラーのジャンルです。

 でも、このジャンルのとある話に、あまりにも文脈からかけ離れた知識を用いないと真相にたどり着けないものがあって、それを読んだときに一瞬“意味怖の弱火アンチ”になったことがありました(笑)。

 “意味がわからないと怖くない話”“読者の理解力がないと楽しませられない話”というのは、ジャンルの間口を狭めてしまう一因にもなりうる。だから、私は考察要素を取り入れつつも、それがなくても楽しめる構造はどこかしら残すように心がけています。言ってしまうと考察型ホラーって王道のストーリーテリングへのカウンターでしかないのです。こういうものはいつか必ず読者が疲れます。そうなったときにも残るような作品を今後は作っていきたいですね。

ホラーを再解釈する視点

――ネット発のクリエイターたちの手でJホラーは再び活発に動き出してきた感覚がありますが、今後はどういった作品を生み出していきたいとお考えでしょうか。

 「行方不明展」に関しての話でも少し触れましたが、本来だったら眉をひそめられるような行動であっても、そこに込められた気持ちや理屈は、必ずしも責められるものばかりではないのではないか? この視点でホラーを再解釈していくことが大事になってくるかもしれません。


梨さん。

 一般的な“常識”でレッテルを貼られがちな時代だからこそ、ホラーという繊細なジャンルを守りながら、多くの方に楽しんでいただけるものを届けられたら嬉しいです。とはいえ、今後は“ホラーを掘り下げていくと違うジャンルに着地した”と感じられる新境地も見せたいと思っていますので、あまり構えずに待っていていただけると嬉しいですね。

ホラー作家・梨×闇×大森時生による
「行方不明展」

2024年7月19日(金)〜開催決定


行方不明展」とは?                      
「行方不明」
どこへ行ったかわからないこと。行方知れず。
出かけたまま帰ってこず、行き先や居場所がわからない状態。
[類語] 失踪・失跡・蒸発・神隠し・家出・消息を絶つ

会場には、貼り紙、遺留品、都市伝説など、様々な行方不明にまつわる物品や情報を集め分類を分けて展示します。みなさんも「行方不明」の痕跡を辿り、理解を深めていただければと思います。
なお、本展で紹介した行方不明者を捜索する必要はありません。
※この展示はフィクションです。

タイトル:行方不明展
場所:福島ビル
住所:東京都 中央区 日本橋 室町1-5-3 三越前 福島ビル 1F
※東京メトロ「三越前駅」徒歩2分
開催時間:11:00〜20:00 ※最終入場は閉館30分前
※観覧の所要時間は約90分となります。
料金:2,200円(税込)
主催:株式会社闇・株式会社テレビ東京・株式会社ローソンエンタテインメント

WEBサイト:https://yukuefumei.com/
X(旧Twitter)アカウント:@yukuefumeiten
Instagramアカウント:@yukuefumeiten/
YouTubeアカウント:@yukuefumeiten
TikTokアカウント:@yukuefumeiten

文=むくろ幽介
写真=山元茂樹

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