「開けて!」「何やってんだ!」午前0時、勉強合宿所の闇に消えた“白いワンピースの少女”
CREA WEB / 2024年8月11日 20時0分
怪談界きってのストーリーテラーであり、著者累計の売上は40万部を突破した松原タニシ氏。この夏上梓した『恐い怪談』(二見書房)は、タニシ氏が取材を重ねた実話怪談から選りすぐりの100本を構成して書き下ろしたもの。
お盆だもの、タニシさんの珠玉の怪談で涼しくなってみませんか? 2日目は「勉強合宿」。タニシさんが坂口さんという方から聞いたお話です。
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勉強合宿
40年前、ある大学の附属女子校に通っていた坂口さんは、高二の夏に高校主催の勉強合宿に行かされた。合宿所は富士山の近くにあり、終日勉強とテストをくり返すハードな合宿だった。60人ほどの生徒が参加していた。
その日、坂口さんはなかなか合格点を出すことができず、何度もテストをくり返し受けていた。ようやくテストにパスし、部屋を出ると、友達二人が待っていてくれた。
すでに決められた入浴時間は過ぎていたが、ギリギリ間に合うと思い、友達と大浴場へ向かった。
入浴を済ませ「ロビーの自販機でカップラーメン買っていこっか」と、みんなで上の階に上がろうとしたとき、電気が消えた。
「この時間だから電気も落とされたのかな」
「先生に見つかる前に急いで戻ろう」
真っ暗な階段を上がって一階のロビーに出る。すると暗闇のなか、ロビーのソファーに白っぽいワンピースを着た女の子が座っていた。
午前0時を回ったか回らないか、こんな時間に自分たち以外の生徒が部屋の外にいるのはおかしい。女の子は横顔しか見えなかった。
坂口さんはとりあえずロビーの自販機でカップラーメンを買ってお湯を入れながら様子をうかがう。
「あの子、何年生だろうね。同じ学年かな」
「こんな時間に何してるんだろ」
「誰かと待ち合わせしてるのかな」
「私みたいに勉強できなくて思いつめちゃったりしてるのかも」
「どうする、声かけてみる?」
「いや、それはやめときなよ」
そんなことをヒソヒソ言っていると、女の子がスッと立ち上がった。そして、そのままテクテクと歩き、裏口のドアを開け、外に出ていった。
施錠された出口から出て行った少女の正体は…?
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こんな真夜中に外に出ても合宿所は山の中だ。周りは森しかない。
まずい。死ぬ気だ。
坂口さんは直感的にそう思った。
長い人生で考えるとたいしたことではないかもしれないが、思春期の女学生にとって、合宿所という閉鎖的な空間で、勉強についていけず附属の大学に行けないかもしれないという問題を突きつけられることは、自分の存在価値が危ぶまれる窮地なのだ。
友達も同じ考えだった。
「ダメだ、止めなきゃダメだ!」
友達二人がすぐにダーッと駆け出して女の子を追いかけた。坂口さんも急いで裏口のドアに近づく。
「開かない!」
友達が叫ぶ。
「何で!?」
「キャー!」
パニックに陥った二人はダッシュして部屋へ逃げ帰った。
「ちょっと、何があったの?」
坂口さんは遅れて裏口のドアを確認した。ドアには小さな南京錠がかかっていた。
そんなはずはない。三人全員でドアが開くのを見ていたし、女の子が外に出たのもちゃんと見ている。鍵が開かないなら、あの子はどうやって外に出たんだろうか。
状況を飲み込んだ坂口さんは慌てて友達のあとを追った。部屋まで戻ると、今度はひと足先に逃げた友達にドアの鍵をかけられ、中に入れない。
「開けて!」
暗い廊下で騒いでいた坂口さんの声を聞きつけて先生がやってきた。
「何やってんだ!」
友達も部屋から出てきて事情を説明する。
「いま、女の子が外に出ていったんです! でもドアの鍵が閉まってて……」
泣きながら坂口さんたちは訴えた。
「そんなわけないだろ!」
裏口のドアは使用しないため、開かないようになっている。
とはいえ生徒が夜中にひとり、合宿所を出ていったとなると大問題である。先生たちは集まって外を見回り、生徒たちの部屋もすべてチェックしたが、全員が合宿所にいることが確認された。
あの子はいったい誰だったのか。坂口さんは彼女の横顔をいまでも覚えている。
松原タニシ氏が厳選した怪談を100話収録した『恐い怪談』から抜粋。
松原タニシ(まつばら・たにし)
1982年、兵庫県出身。松竹芸能所属のお笑い芸人。事故物件に住み続ける"事故物件住みます芸人"として知られる。YouTube「松原タニシch」、「松原タニシのぞわぞわチャンネル」を運営。ラジオレギュラー番組に「松原タニシの生きる」(ラジオ関西)、「松原タニシの恐味津々」(MBSラジオ)などがある。『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)がベストセラーとなり、著者累計40万部を誇る。
X:@tanishisuki
文=松原タニシ
写真=志水 隆
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