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執筆中に頻発した霊障「カジョーラー」事故物件に10年以上住み続ける芸人松原タニシが紡ぎ上げた「恐い怪談」

CREA WEB / 2024年8月10日 17時0分


文藝春秋社内で行われたフォトツアーも併せてお楽しみください。

「事故物件住みます芸人」として知られ、怪談イベントにも引っ張りだこの松原タニシさんが、待望の新著を上梓した。

 その名も『恐い怪談』(二見書房)。これまで多くの怪異に触れ、語ってきたタニシさんが、正面から「怪談」に取り組んだ意欲作だが、なぜ今改めて「怪談」なのか?

 今作の執筆に至る経緯から聞いてみた。


真っ向から「恐い怪談」に取り組んだ


もともと作家のカンヅメ部屋だったという社内スタジオでは、頻繁に怪異が起きている。ちなみに担当編集Mには、スマホの位置情報が少し離れた「〇〇大学病院」となり、ジワジワ近づいてくるという現象が起きた。なにか書き残したことのある御霊が版元を訪れようとしていたのだろうか(恐い話はここだけです)?

――新著のタイトル=テーマを『恐い怪談』とした意図を聞かせてもらえますか。「恐い」と「怪談」、2つの言葉の重複がそこはかとなく不気味です。

 2012年からテレビ番組の企画で事故物件に住み始めて、その体験や、人から聞いた不思議な話をそのまま書き、話してきました。でも、真っ向からの怪談って、あまりしてこなかったんじゃないかなと思って。結果的に恐いと思ってもらえることはありましたが、自分自身では、そこまで強く「恐さ」を意識していなかったんですよね。

 ただ、「恐い」というのは主観なので、その人のバックボーンや生き方によって何を恐いと思うかは違ってくるし、子どものころにすごく恐かったものが、大人になると全然恐くなくなったり、逆に大人になってから気づく恐さもある。

 自分でも気付かなかった思い込みや妄想、他者の誘導などを排除して、それでも成立する恐い怪談ってどんな話なのか、興味があるんです。そういう意味で『恐い怪談』は、自分にとって何が「恐い」「怪談」なのかを探す旅路のような本になりました。

 そもそも最初は、旅がメインの本を書こうと思っていたんですよ。旅行記の途中にちょこちょこ恐い話が入ってくるような本をイメージしていたんですが、それを“思考の旅”みたいな感じにできたら面白いかもしれないと思って。

 1話から100話まで、いろいろなタイプの“恐さ”を巡って帰って来る旅。普通の旅のように、元の場所に帰ってこられるかどうかはわかりませんが。


地下の通称「開かずの扉」の向こう側。23区内とは思えない闇と静けさが広がっていた。

――帰る場所が事故物件という人もいますしね。本には全100話の実話怪談が収録されていますが、百物語を意識したのでしょうか。

 百物語(※すべて語り終えると怪異が起こるといわれる)のフォーマットといえばそうですが、100という数字はある程度まとまった数というだけのことで、深い意味はありません。読み方や読後のことはすべて読者に委ねたかったので、あえて投げっぱなしにしています。話のチョイスや構成は、もちろん意図したものですが、気にせず読んで欲しいです。

恐怖をひとつずつクリアする怪談クエスト


はたしてタニシ氏のスマホに写ったものは……?

――執筆で力を入れたこと、あるいは苦労したことは?

 100話ってそれなりの量があるのですが、書くのが大変だったというよりは、どの話を選び、どういう順序で並べるかについてすごく悩んだし、時間をかけて考えました。ひとつひとつの恐怖をクリアしながら、恐さの本質を掘り下げていき、100話目で「恐い怪談」が完成するという本にしたかったので。

――読み進めていくと、事件性のある話、おかしな言い伝えや因習、幽霊なのか妖怪なのか、神様なのかよくわからない存在、祟りや呪い、常識が通じない恐怖など、世の中にはこんなにもいろいろ種類の恐い話があるのかと驚きます。

 そう感じてもらえたらうれしいです。1話1話が別の話なのでどこから読んでも構わないのですが、最初から順に読んでもらうと、僕の頭の中の「恐いってなんだろう、怪談ってなんだろう」を探る旅を追体験できると思います。第1話と第100話は、僕の中では対になっている話なんですよ。

執筆中の怪現象「カジョーラー」


「開かずの扉」の最深部には謎の器具が並んでいた。ここでどのような行為が行われていたのだろう。

――すべての話が、『恐い怪談』を構成するのに必要なパーツということですね。繰り返し読むことで、新たな発見もありそうです。ちなみに今回、執筆中に恐い現象などは起こりませんでした?

 実はあったんですよ。オカルト的に言えば霊障、医学的に言えば単なるストレスだと思うんですが、書こうとするとなぜか体が痒くなるんです。

 特に、〆切が近くなると蕁麻疹がブワーッと出て、痒みのなかで執筆するという状況が続いていたのですが、この間、イベントで訪れた沖縄でその話をしたら、「それはカジョーラーですね」って言われて。

 カジョーラーというのは、悪霊の仕業で起こる蕁麻疹のことで、沖縄ではよくある現象として捉えられているそうです。若い人でも、おじいちゃんおばあちゃんがそう言うのを聞いたことがある人は多いようで、イベントのお客さんのなかにいた皮膚科の先生は「私はカジョーラーでも治せます」とおっしゃってました。

――皮膚科で治るんですね。その痒みは、特定の話を書こうとすると起こるとか、何らかのパターンがあったのでしょうか。

 いや、どうやったかな……そう言えば、本の終盤の10話くらいは本当に最後のほうに書いたのですが、カジョーラーが頻発しました。〆切のストレスといえばそれまでですけれど、実際、さまざまな恐さを煮詰めて濃縮したような話が続くのも、その終盤あたりなんです。蕁麻疹は恐いっていうより、困ったことですけれど。


午後1時の敷地内で。なんという暗さだろう。

――後日談がある怪談はありますか? 昨年刊行された『恐い食べ物』に収録されている、タニシさんが16軒目に住んだ事故物件の後日談が『恐い怪談』に収録されていて、戦慄が走りました。

 今回はまだ目立ったことは起こっていませんが、終わったと思っていた話が、まだ終わっていなかったということは、たまにありますね。それと、後日談とは違うのですが、怪談の本を出したり、人前で話したりすると、似たような話が次々と集まってくることが多いです。

 今回の本に、手のひらから金粉が出る人の話を入れたのですが、それをYouTubeで話したら、「私も出ます」っていう人がけっこういて。怪現象かと思いきや、意外とよくあることなのかもしれないなと思ったり。

編集M (話を聞いていたCREA編集部・M氏が急に)私も出ますよ、金粉。

 えっ。

編集M 今日は出ないみたいですが、同じ金粉体質の人がいると出やすいんです。

――金粉体質。初めて聞くワードです。

 ほらね(笑)。こんなふうに集まってきた話、いろいろな地域で聞かせてもらった話を材料として、『恐い怪談』は生まれました。10年以上にわたって事故物件に住み、ちょっとやそっとの霊現象では恐がれなくなってしまった僕が、いまどんな話を恐いと感じるのか、そしてみなさんは何を恐いと思うのか、この本を道しるべに、探ってみてください。


何度も言うが午後1時の敷地内で。なにかに衝き動かされるようにポーズを決めるタニシ氏。社内探訪も後半に続く。


松原タニシ(まつばら・たにし)

1982年、兵庫県生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。ここ10年は“事故物件住みます芸人”としても活動し、2024年7月現在までに17軒の事故物件を渡り歩く。レギュラー番組『松原タニシの生きる』(ラジオ関西)、『松原タニシの恐味津々』(MBSラジオ)などのほか、怪談企画の番組、怪談イベントに多数出演。著書は、映画化もされた『事故物件怪談 恐い間取り』のほか、『異界探訪記 恐い旅』『死る旅』『恐い食べ物』(すべて二見書房)などがある。
X @tanishisuki


恐い怪談

定価 1,650円(税込)
二見書房

文=伊藤由起
写真=志水 隆

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