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「推しはZAZENBOYS向井秀徳さん」俳優・玉置玲央が明かす“家族との日常生活”を大事にする理由

CREA WEB / 2024年8月11日 18時0分

 ひとつひとつの質問を噛みしめるように受け取りながら、時間をかけて答えを探していく姿がとても好印象の玉置玲央さん。インタビュー後編では長く舞台に立ち続けている玉置さんの舞台やお芝居に対する考え方や役作り、そしてプライベートの過ごし方などについて質問。推し活についてもお話を伺いました。


自分にとって一番「居心地のいい場所」は……


玉置玲央さん。

――玉置さんと言えば、昨年出演されたNHKドラマ10の『大奥』の黒木役やNHK大河ドラマ『光る君へ』の藤原道兼役などドラマ作品でも目覚ましいご活躍ですが、ご自身の中でブレイクのきっかけみたいなものはありましたか?

 ありがとうございます! どうでしょう。あまり自分で感じたり、考えたことはないかもしれませんが、直近で言ったら『光る君へ』はものすごく多くの方に観ていただいて、いろんな反響もいただいたので、『光る君へ』なのかもしれませんね。

 いろんなインタビューでも答えたのですが、『光る君へ』の道兼はこういう人物で合っているのかなと、ずっと探しながら取り組んできたんです。手応えがなかったというわけではありませんが、模索しながら向き合ったので、ターニングポイントというのはピンとこないというか……。

 それこそ、『大奥』の黒木は、自分で言うのもなんですが、「いい仕事してやったぜ!」と思ったりしましたけど(笑)。

――道兼と黒木は同じ時代劇という括りにはありますが、時代も異なりますし、方やダークな役で片方は善人です。役作りはどのようにされていますか?

 例えば、『大奥』には原作があるので、原作から拾えるものを拾い、台本に書かれている情報から拾えるものを拾い、そのうえでまず、一回リハーサルで自分の手札を出してみて、ディレクターや監督の方の手札と擦り合わせる作業を行います。

 自分であまり完成させないようにして、共演者や監督とのやり取りで最終的に形を作っていくという方法が多いのかなと思います。


玉置玲央さん。

――映像作品でもご活躍されていますが、今年はすでに2本の舞台に出られていて、今回が3本目。舞台に出演され続ける、玉置さんの想いを教えてください。

 舞台は、身体的にもメンタル的にも大変ですし、そんなにやらなくていいんですよね(笑)。おかげさまで映像のお仕事も増えてきましたし、いろんな知り合いも増えてきて、メインのフィールドを変えてもいいのかもしれないとも思ったりもします。舞台をやらないで、映像に専念する、とか。

 でも、どうして自分が舞台をやるんだろうって考えたときに、結局一番居心地がいいのが舞台だからだと思うんです。じゃあ、“居心地”ってなんだろうってことですが、それは、はっきりとはわからなくて……。でも感覚で言うなら、呼吸しやすいとか過ごしやすいとか、泳ぎやすいとか、そんな感じ。日常生活に伴ったリズムを作りやすいというのもあります。

 舞台は観客の方に目の前で“体験していただく芸術”なので、そこもやっぱり好きなんですよね! 目の前に受け取って下さる方がいて、今、その場にいてその方々に対して少しでも“影響”することができる。何かを渡すことができるんです。それを受け取ってくださるのも嬉しいし、それらがすべて目の前で起こっているという事実も好きなんです。

人間はここまで熱量を込められるんだ――そんな熱い姿を、ぜひ目に焼き付けてほしい


玉置玲央さん。

――お忙しいと思いますが、プライベートの時間はどのように過ごされていますか?

 日常生活をちゃんと営むというか、なるべく普通に過ごすみたいなことを意識していますね。僕、演劇やお芝居、俳優業が日常生活に侵食していくのがすごく嫌いで……。要は、一睡もしないでセリフを覚えるとか、若い頃の劇団の俳優さんとかは深夜までバイトして、3時間だけ寝て稽古場に来て、セリフを覚えることに追われて……というのがあまり健全じゃないと思うんです。

 もちろん、それで生まれる素敵な作品もあるだろうし、その人の人生は尊重すべきだと思うけれども、僕個人としてはそうしたくない。きっぱり分けているというわけではないですが、ご飯食べて、休んで、家族との時間を過ごし、稽古場に来たら、ちゃんと稽古する。当たり前なんですけど、それをやるというのが日常。僕自身、大切にしていることですね。

――そう思うようになられたのはいくつくらいからですか?

 20代前半です。僕が所属している『柿喰う客』という劇団の主宰である中屋敷法仁が家族を大事にするタイプの人間で、常々こんなことを言っているんです。「ヤンチャをしながら面白い作品を作るのも悪くないけど、家族をきちんと愛して、日常生活をちゃんと営んで、ちゃんと寝て起きて、おいしいご飯を作って食べて、それで面白い作品を作れたほうがもっといいじゃん」って。確かにそうだよなって、そう思って。

 だからうちの劇団の稽古は夕方くらいに終わって、うちに帰って家族と食事したり、お芝居を観に行けそうだったら行くとか、もしバイトがあるなら夕方からのシフト入れなよ、みたいな感じでやっています。


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――『朝日のような夕日をつれて』は演劇を“推し”ている方々に愛されている最たる作品のひとつだと思いますが、玉置さんの“推し”は何でしょうか?

 推し! 推し活ですね(笑)。『朝日~』の中に「人間は17歳の感性に回帰する。(17歳の時に聴いた音楽、17歳の時に見た映画、)17歳の時に愛した文化に残りの人生は支えられる」というセリフがあるのですが、それをすごく実感していて。

 僕が中学生くらいの頃、『NUMBER GIRL』というバンドがあったんです。そのフロントマンの向井秀徳さんという方が、今はZAZEN BOYSという名前で一部メンバーも変わって続けられているんですが、僕が中学生のときから今、39歳に至るまで少なくとも20年以上、向井秀徳さんの音楽と人間性に何となく触れながら生きているんです。

 だから、「鴻上さんが書いた『17歳のときに~』という台本、めっちゃ言い当ててるじゃん!」と思ったのですが(笑)、僕にとっての推し活はその向井秀徳さんであり、NUMBER GIRLであり、ZAZEN BOYSという音楽なんだと思います。

――この作品の中には、男二人が「ゴドー」が来るのを待ち続ける…という劇作家サミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』を下書きに書かれた部分があります。この10年間で玉置さんが待ち続けて“やってきたゴドー”と“いまだ、待ち続けているゴドー”についてお聞かせください。

 生きていくうえで、僕は“ご褒美が必要”だと思っています。それは何でもいいんです。おいしいものでもブランドもののバッグでも、人によって全然違うと思うのですが、僕にとっては“面白いお芝居”がご褒美。敬愛する演出家の方との創作、大好きな先輩との共演……そういうのが本当に嬉しいご褒美なんです。

 だから、これまでやってきた『ゴドー』は、ご褒美のようなお芝居であり、今なお来ない『ゴドー』も、ご褒美のようなお芝居。ずっと多分、この先も僕にとってはご褒美のような舞台、お芝居が『ゴドー』であり続けるんじゃないかと思います。

――10年ぶりの再演ということで、初めて触れる方も多いと思います。80年代の小劇場のイメージを残しながらも、時代とともに変化してきたこの作品のどんなところを見てほしいと思われますか?

 この作品はお芝居という形を借りていますが、人間はこんなに真剣に何かに打ち込めるし、もっというと、30歳になっても39歳になってもいっぱいふざけられるし、すごい熱量を込めることが出来たり、届けることができる――。そんな姿が舞台上にどんどん出てくるんです。

 それゆえに、ここまで残ってきている作品だと思いますが、初めて触れる方には、こんなに人間って素晴らしいんだ、ここまで表現できるんだよ、こういうふうに振り切れるんだよという姿を見届けていただけたら嬉しいですね。

 そして、何度も観てきたこの作品のファンの方はどうぞ広い懐で2024年の『朝日~』を受け入れていただけると嬉しいです。

玉置玲央(たまおき・れお)

1985年3月22日生まれ、東京都出身。劇団『柿喰う客』所属。劇団以外でも、『リア王』『ジョン王』『パンドラの鐘』『Birdland』など数多くの作品に出演。近年は映像での活躍も目覚ましく、初出演映画『教誨師』では自己中心的な死刑囚・高宮を好演し、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。2023年『大奥 Season2』の黒木役、2024年大河ドラマ『光る君へ』では藤原道兼役を好演。今最も注目される俳優のひとり。

文=前田美保
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=西川直子
スタイリスト=森川雅代

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