1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

永明の返還後「パンダパパの跡継ぎ」 求め和歌山県知事が訪中。気になる 中国側の反応、母娘パンダの今後

CREA WEB / 2024年9月22日 11時0分


永明の娘の結浜。現在、アドベンチャーワールドには結浜を含む4頭のメスのパンダがいる。(筆者撮影)

「永明(えいめい)パパの跡継ぎにぜひ和歌山県に来てほしい、という県民の熱い希望を伝えさせていただきました」

 中国を訪問した和歌山県の岸本周平知事は、7月30日(火)の定例会見でこう語りました。永明はアドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)にいたオスのジャイアントパンダ。同パークで生まれ育った17頭のパンダのうち、16頭の父親です。永明が昨年、約28年半ぶりに中国へ戻ったので、同パークにはオスのパンダがいなくなり、繁殖できなくなりました。そのため「跡継ぎ」が望まれているのです。

 岸本知事は7月21日(日)~26日(金)に山東省、四川省、北京市を訪問。7月24日(水)午前10時~午後1時は、四川省にある成都ジャイアントパンダ繁育研究基地(以下、成都基地)に滞在して、成都基地のトップである尹 志東(いん・しとう)主任と意見交換しました。

 会談には、アドベンチャーワールドを運営するアワーズ(本社:大阪府松原市)の山本雅史社長らが同席。中央政府でパンダを管轄している国家林業草原局 国際合作司の吴 青(ご・せい)副処長と中国動物園協会の鄭 広大(てい・こうだい)会長も北京から来て同席しました。

日中の政府間交渉が必要

 尹主任は、アドベンチャーワールドにおけるパンダの飼育・繁殖技術の高さを評価しつつも、「永明パパの跡継ぎを」との要望に対し、「受け止めました」という回答にとどめました。

 岸本知事は「和歌山県やアドベンチャーワールドと成都基地の合意で進む話ではなく、日本政府と中国政府の間で交渉いただくような大変大きな外交案件との印象を持ちました」と7月30日(火)の会見で報告。「今回の成都基地への訪問は、パンダパパの跡継ぎにお越しいただくためのキックオフだったと考えています」と話しました。

 今後は「日本政府の要路にも働きかけて、県民の皆様のお力を借りながら、着実に粘り強く、跡継ぎをお呼びする努力をしていきたい」(岸本知事)方針で、県選出の国会議員を通じ、場合によっては岸本知事の外務省とのパイプも使いながら、外交関係者に働きかけていく考えとのことです。(取材した7月下旬時点)

 なお、同じくパンダがいる施設でも、都立施設の上野動物園と違い、アドベンチャーワールドは、前述の通りアワーズが運営する民間施設なので、パンダ誘致において和歌山県は直接の窓口にはなりません。


成都基地で。左から、国家林業草原局国際合作司の吴青副処長(左から2人目)、中国動物園協会の鄭広大会長(左から3人目)、成都基地の尹志東主任(左から4人目)、和歌山県の岸本周平知事(左から6人目)、アワーズの山本雅史社長(左から8人目)。(写真:和歌山県提供)

中国側と会談。和歌山県の岸本周平知事は右手前5人目。(写真:和歌山県提供)

前和歌山県知事も訪中

 前和歌山県知事の仁坂吉伸氏も「パンダを実際にお借りするためには、基地の意向に加えて、中央、地方政府の結構たくさんの手続きが必要です」と和歌山県研究会のウェブサイトで7月11日(木)に指摘しています。

 仁坂氏は「中央政府同士は外務省も動いてくれるだろうし、それに和歌山県には中国政府に大変重きを置かれている二階俊博代議士の存在があるので、できる限り中央政府に積極的な対応をするよう働きかけをしてくれるだろう、だから問題は四川省政府だ」と考え、四川省とも日頃から良好な関係を築けるように、四川省とも日頃から良好な関係を築けるように、四川省庁や成都基地を2019年10月に訪問したと述懐しています。2019年3月に白浜町へ来た成都基地の張志和主任(当時)にも仁坂氏は成都で再会しました。この張氏は日本のパンダファンの間でも知られている人物です。

 これらが実を結び、和歌山県と四川省は友好県省関係を2022年1月に締結。岸本知事は訪中時の今年7月23日(火)に四川省の施 小琳(し ・しょうりん)省長と会談しました。

成都基地で雄浜と桃浜を視察

 なお、日中友好議員連盟の会長を務める二階代議士は8月下旬に訪中して、中国の王毅外相と8月28日(水)に会談しました。同日夜、中国外交部(外務省)は「王毅氏は、二階俊博氏が中日友好事業へ長期にわたり積極的に身を投じてきたことを高く評価した」と公式サイトに記載。共同通信によると、会談に続く夕食会で、王毅外相は日本へのパンダ貸与に前向きな考えを示したとのことです。日本のどの地域を想定しているかは分かっていません。

 岸本知事は7月24日(水)に成都基地を訪ねた際、永明の子どもでアドベンチャーワールド生まれのオスの雄浜(ゆうひん)とメスの桃浜(とうひん)を視察。アワーズからは山本社長や飼育スタッフら計7人が同行しました。雄浜は永明のように子だくさんのパンダで、子どもの1頭はデンマークにいます。桃浜と双子の桜浜(おうひん)、それに永明の計3頭は、昨年2月22日に中国へ渡りました。

 一行の視察時、「雄浜は背中を向けていて、桃浜は元気そうでした」(同行した和歌山県の職員)。桜浜は見当たらなかったとのこと。ちょうど公開されていなかったのかもしれません。筆者が昨年10月に訪れた際は、屋外の桃浜のすぐ近くに桜浜もいましたが、一行の視察時は暑かったためか、パンダたちは館内にいたそうです。

 一方、永明は現在32歳と高齢なため、成都基地では公開されていません。ある程度の年齢になった高齢パンダは、公開から「引退」することが多いです。

 永明は1歳11カ月だった1994年9月6日、メスの蓉浜(ようひん、1997年7月17日死亡)と一緒に中国からアドベンチャーワールドへやって来ました。以来、パンダの飼育管理や繁殖研究のため、成都動物園や成都基地から延べ70人以上のスタッフが派遣されました。こうした同パークの「パンダの日中共同繁殖研究」は2024年9月で30年となります。

母娘4頭のパンダの今後

 現在、パンダの中国国外への移動は保護や繁殖研究目的の貸与が原則で、中国が貸し出す際はオス・メスのペアが基本。岸本知事の7月24日(水)の会談では、オス・メスのペアかオスだけかといった話には至らなかったそうですが、もしオスだけが来たら、繁殖相手はアドベンチャーワールドにいるパンダとなる可能性もあります。

 現在いるのはメスの良浜(らうひん)とその娘3頭の計4頭。いずれも同パークで生まれました。中国などの研究によると、メスのパンダが繁殖できる年齢は20代前半までとされるので、24歳の良浜の繁殖は難しいかもしれません。娘たちのうち、結浜(ゆいひん)と彩浜(さいひん)はすでに発情しており、末っ子の楓浜(ふうひん)はまだ発情が確認されていません(今年4月時点)。

 ただ、中国がパンダを国外へ貸し出すようになって以来、基本的に、中国国外で生まれたパンダは繁殖のため中国へ渡っています。中国国外で生まれた良浜が中国国外で繁殖したのは、母親が良浜を妊娠した状態で来日するなど特殊事情が重なったためで、世界的にも稀有なこと。もし結浜、彩浜、楓浜のいずれかが中国国外で繁殖すれば、こちらも異例となります。

 今後、アドベンチャーワールドにオスのパンダが来るかどうかは、外交も絡むので予想できませんが、来ても来なくても、パンダたちが幸せに暮らせることを願います。


2000年9月6日生まれの良浜。アドベンチャーワールドで10頭の子どもを生み育てた。(筆者撮影)

2016年9月18日生まれの結浜。(筆者撮影)

2018年8月14日生まれの彩浜。(筆者撮影)

2020年11月22日生まれの楓浜。(筆者撮影)


中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo


パンダワールド We love PANDA

定価 1,650円(税込)
大和書房

文・写真=中川美帆

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください