驚きに満ちた「歌集みたいな演劇」が生まれるまで《ロロ・三浦直之×上坂あゆ美×鈴木ジェロニモ鼎談》
CREA WEB / 2024年8月23日 17時0分
ロロの新作公演「劇と短歌『飽きてから』」は、劇作家である三浦直之さんと歌人の上坂あゆ美さんが戯曲と短歌をやりとりしながらつくった作品。上坂さんはキャストの一人として出演も。さらに、歌人としても活動する芸人の鈴木ジェロニモさんが今作で演劇に初挑戦します。3人に、新しい試みがふんだんに入った今作について伺いました。
歌集のような演劇をつくりたい
──「劇と短歌『飽きてから』」は、三浦さんと上坂さんがやりとりを重ねて脚本をつくっていったそうですね。この取り組みは、どんなふうに始まったものですか?
三浦 去年、ロロで『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』という芝居を上演したんです。1〜4分くらいのすごく短いエピソードを30個くらい、バーッと連続して上演する作品で。歌集みたいな演劇になるといいなと思って、執筆中によく短歌を読んでいたんです。
人生の一瞬しか描かれないけれども、その一瞬のなかにそこで描かれた人物が生きた時間とか、その人の暮らしが広がっていくようなものにしたいと思っていたら、上坂さんの歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)にはまさにそれがあるな、と感じたんです。一首一首は短い言葉の連なりなのに、その中にすごく長い時間が閉じ込められている。そこで上演のときにアフタートークをお願いして、「歌集みたいな演劇をつくってみたいんですけど、一緒にやりませんか」と。
上坂 いちばん最初にお会いした時も言われて、その後アフタートークでも。
三浦 上坂さんがアフタートークに出た日に、ちょうど鈴木ジェロニモさんが観に来てくれていて。僕はそれまで面識がなかったんですが、上坂さんが紹介してくれて、「じゃあ一緒にやりましょう」と。
──初対面でジェロニモさんも参加することが決まったんですか。
三浦 一緒に飲んで、その時のノリで(笑)。
ジェロニモ 僕はもともとロロの作品が好きで。この日に打ち上げに参加させていただくことになって、この場での振る舞いが評価されるのではないか、と。
三浦 オーディションだと思ってたの?
ジェロニモ ひそかに(笑)。
上坂 実際にはオーディションとかもなく、私が「ジェロさん、一緒に出ようよ〜」と言って実現しました。
「飽きる」というテーマ、その怖さ
──短歌と戯曲とをやりとりして作品をつくっていくという形式はあまり聞いたことがありませんが、上坂さんは誘われたとき、どんな気持ちでしたか?
上坂 最初から、今も、ずっとワクワクしていて。三浦さんから、演劇の脚本をずっと書いていると飽きる、「これでいいのかな」という気持ちになることがある、と伺って、すごくわかる気がしたんです。
私も短歌ばかりをずっとやっていたら短歌のことを嫌いになりそうで怖かったので、エッセイを書いたり、ラジオに出たり、いろんなことをして今がある。だから、三浦さんと一緒にやったら、観たことのないものが楽しくできるんじゃないかと思いました。
三浦 ただ、上坂さんに最初にタイトルを持っていって「最近いろんなことに飽きてきている」というお話をしたとき、上坂さんは「飽きるという感覚がわからない」と話されていたんです。それがすごく面白いなと思いました。飽きることに共感してつくっていくより、それに対して距離があるところから始まるほうが、今までと違うものがつくれるんじゃないかと。
上坂 そう、最初はわからなかった。それはいま思うと、きっと「飽きる」という言葉を使うことを避けていたんです。「このままでは嫌いになってしまうかも」という感覚を、飽きると形容しない。飽きる前に別のことに取り組む。そうやって「飽きる」こと自体を避けてきた。そういうめっちゃ細かい部分の、自分の心情に気づいた。「飽きる」と言っちゃっていいんだ、という発見がありました。
三浦さんと私とは、そういう部分も、作品をつくっていくなかでも、「違うな」と感じることが多くて、面白いです。
ジェロニモ 僕も芸人としてネタをつくったり舞台に立っていく中で、飽きるという言葉が自分から出るのってすごく怖いことだと思っていたんです。最初は好きではじめたことだし。だから、三浦さんが最初のテーマの時点から「僕はけっこういろんなものに飽きていて」とさらっとおっしゃるのが衝撃でした。飽きた上で創作に向き合うということを自分に課しているのかな、と。
あと、飽きるって「飽和」の飽でもあって、何もかもがサブスクで摂取できるコンテンツ飽和時代だからこそ、自分が何を面白いと思うのかを考える必要がある。そんな、いまの時代の話でもあるのかな、とも思いました。
お互いが違うからこそ、今まで書けなかったものが書けた
──実際、三浦さんと上坂さんはどのように作品をつくっていかれたんですか?
三浦 打ち合わせを何度かして、それを元に書いた途中までの台本を上坂さんにお渡ししたら、いくつか短歌をつくってくださったんです。その短歌に「これだったらこういうシーンが面白いかな」と膨らませていったという感じです。
──三浦さんにとっては、いままでにないやり方ですよね。
三浦 めちゃめちゃ面白かったです。短歌の説明みたいなシーンになっては面白くないし、かといって短歌と全く関係のないシーンがあってもお客さんはきょとんとしてしまう。どんな距離感で短歌と劇が配置されるのがいいんだろう、この短歌をどう飾るといちばんしっくりくるんだろう、と考えるのが楽しかった。
今回、短歌だけでなく「原案」としても上坂さんの名前をクレジットさせてもらいましたけど、それは上坂さんとの打ち合わせのやりとりが自分の中ですごく大きかったからで。
──どんなやりとりですか?
三浦 たとえば僕は、田舎のロードサイドの風景、イオンがあったり、チェーン店が並んでいるような風景にすごくなじみがあるんですよ。それは好意的な、エモい思い出としてストックされているんです。
でも上坂さんはそれに対して違った記憶を持っている。その感じがちゃんと作品に反映されるといいなと思っていました。僕は全肯定で描いていきがちだけど、今回はそうならないバランスを見つけたい、と。その結果、今までだったら書けなかったようなセリフとかシーンが書けた。それがすごくうれしかったですね。
上坂 さっき三浦さんが言ったような、思い出や感触や価値観の違いみたいなものが、打ち合わせでしゃべればしゃべるほど出てきたんです。最初は「大丈夫か?」と思ったんですけど、それが登場人物のキャラクターのよさになっていて。全肯定でも、全否定でもない、温度やリアリティを持った話になった、すごくいい作品になったなと思いました。
──つくっている途中で他者の視線が入ったことで、新しいものが。上坂さんはこの作り方で短歌をつくってみて、どうでしたか?
上坂 最初は往復書簡のようなイメージでいたんです。でも、予想がついてしまうとお互いつまらないし、短歌と脚本の距離感を大事にしたいと思ったとき、結果的には三浦さんの最初の脚本を見て、私が何首も送って、使えるところで使っていただく、というやり方をとったんですよね。
だから私としては、脚本の内容に合わせてつくるというより、三浦さんを振り回そうと思って、脚本を無視して、全然関係ない短歌ばかり作ってみたりして。それを受け止めていただく、という形で今回できています。
三浦 こうやって一緒につくるからには、自分の思い通りにならない方が面白いから。
上坂 短歌ありきでつくっていただいたシーンも、短歌だけだと絶対こうはならないよな、というところに話が進んでいって、読んだときに驚きが常にありました。
部活のような感覚で臨んでいる稽古
──そうやって2人がつくった脚本を受け取って、ジェロニモさんはどう感じましたか?
ジェロニモ 最初にPDFで受け取った時点でもうめちゃくちゃ面白い、と思って。稽古が始まって紙の台本で読み始めても面白いなと実感しているんですが、立ち稽古をやってみると、ロロの皆さんは最初からセリフが全部入っている振る舞いで、素晴らしくて。
データ上で面白かったことが立体的になっていく過程にいま自分が立ち会えている、それを特等席で観させていただいているという喜びとともに、自分もこの作品を構成する一人なんだから頑張らないと、とも思います。稽古帰りの電車で上坂さんと「やっぱ、俳優さんってすごいっすよね」「いやちょっとマジで頑張りましょう」と話しています。
上坂 本当に。
ジェロニモ 芸人が、というか僕がコントで演技するときって、内容さえ合っていれば自分の言い方や語尾にしてしまうことが多いんです。でも俳優のみなさんは、台本上に書いてある文字、一字一句そのまま同じ言葉なのに、その人から出てきた言葉のようにセリフを発している。セリフの中に生きている人間の命を入れ込むのがすごくうまい役者さんだし、劇団なんだなと、毎日感じています。でも稽古場ではビビってる感じは出さずに「めっちゃ面白いっすね」とだけ言ってます。
上坂 私、小学校から大学受験までコンテンポラリーダンスをやっていて、その一環でミュージカルに出たこともあるんですが、大人になって、しかも仕事としてやるのはもちろん初めてなので、めっちゃ楽しくて。本気で稽古のたびに「もっとうまくなりたい」と思うんです。大人になって、そんな本気で思うことってあまりないので、すごくいい部活みたいな感覚です。
三浦 2人もほんと、めちゃめちゃ素敵で面白いですよ。普段のロロとは違う空気をつくってくれています。
三浦直之(みうら・なおゆき)
宮城県出身。劇作家・演出家。2009年、主宰としてロロを旗揚げ。「家族」や「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。ドラマ脚本提供、MV監督、ワークショップ講師など演劇の枠にとらわれず幅広く活動。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。
X:@miuranaoyuki
上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)
1991年、静岡県出身。2017年から短歌をつくり始める。2022年2月に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)を刊行。「小説推理」「web TRIPPER」にてエッセイを連載中。銭湯、漫画、ファミレスが好き。
X:@aymusk
鈴木ジェロニモ(すずき・じぇろにも)
1994年、栃木県出身。R-1グランプリ2023の準決勝に進出するなど、人力舎所属のピン芸人として活動する一方、歌人として数多くの文芸誌に作品を発表している。第4回・第5回笹井宏之賞最終選考。
X:@suzukigeno
劇と短歌『飽きてから』
公演日程 8/23(金)~9/1(日)
会場 渋谷・ユーロライブ(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
原案 三浦直之、上坂あゆ美
脚本・演出 三浦直之
短歌 上坂あゆ美
音楽 Summer Eye
出演 亀島一徳、望月綾乃、森本華(以上ロロ)、上坂あゆ美、鈴木ジェロニモ
特設サイトはこちら
文=釣木文恵
撮影=佐藤 亘
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