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演劇界の重鎮の舞台に6度目の出演 「実直に、舞台で、人間を生きる」 仲野太賀に“ハマり役”が多いワケ

CREA WEB / 2024年8月24日 11時0分


仲野太賀さん。

 言わずと知れた演技派俳優・仲野太賀さん。映画やドラマに引っ張りだこだが、1~2年に1回のペースで舞台にも出演。それも、演劇界で厳しいことで有名な岩松了さんの作品にこれまで5回も出演してきている。10月には6作目の岩松作品『峠の我が家』で初めて主演することになった。恩人と呼ぶ岩松作品の魅力について語ってもらった。


「自分は間違っていなかったのかな」とホッとした


仲野太賀さん。

――仲野さんは、13歳で俳優デビューされて、映像に魅力を感じていらっしゃったのが、岩松さんに出会われてから、舞台にも積極的に出演されるようになったそうですね。

 僕がまだ何もできなかった10代の頃、岩松さんのワークショップに参加させていただき、オーディションで拾っていただいたのが『国民傘-避けえぬ戦争をめぐる3つの物語-』(2011年)でした。以来、自分のなかの視野が広がりました。


仲野太賀さん。

――今回、6度目のオファーを受けて、どう思われました?

 嬉しかったです。岩松さんにもプロデューサーのM&Oplaysの大矢亜由美さんにも、『国民傘』から、たびたびお世話になっていますが、その状況に甘えていては絶対にいけないと思っています。ですから、新しい作品に呼んでいただくたびに、「一生懸命頑張ってきてよかった」「自分は間違っていなかったのかな」と心からホッとするところがあります。30代になり、成長した姿をお見せしたいと思いますし、主演をやらせていただくというのも感慨深いです。今回は二階堂ふみちゃんとご一緒できるというのもなんというか胸がいっぱいになりましたね。

「僕自身からは生まれない言葉」を浴びることの喜び


仲野太賀さん。

――二階堂さんは岩松作品は『不道徳教室』以来、11年ぶりだそうです。

 僕がふみちゃんと舞台でご一緒するのは今回と同じM&Oplaysプロデュースの『八犬伝』以来、映像でもかなりお久しぶりです。もちろん、さまざまな作品で活躍されているのは観ていて、昔から信頼している仲間の一人です。僕たちが尊敬する岩松さんの舞台で共演できるというのは、本当に幸せ以外の何物でもないですね。

――前作の『いのち知らず』のときには、稽古で、「岩松語録」をノートにつけていたそうですが、岩松さんの演出は他の演出家の方と大きく違いますか?

 大きく違うということもないのですが、同じということもなくて。岩松さんのおっしゃる言葉の一つ一つにハッとさせられることが多くあります。岩松さんの戯曲はセリフも美しいですし、生きることや死ぬこと、人と人の関係など、深い物差しで捉えていらっしゃるんだなというのを、演出を受けるたびに感じます。僕自身からは生まれてこないような言葉で、その役のあるべき到達点に導いてくださいます。


仲野太賀さん。

――『いのち知らず』では、勝地涼さんと演じられた男同士の絶妙な距離感、友情関係に胸打たれました。岩松さんの舞台は、交わされる言葉はたわいもないのに、本心が言葉と裏腹だったり、違う次元の物語が浮かび上がったり。観る人によって、感じとる風景の深度が異なる気がします。お稽古では真意を確認しながら作っていくのでしょうか。

 我々は書かれた台本通りに演じて、それぞれの解釈を稽古場に持ち寄り体現していく感じです。演出も、「ここはこういう意味だからこうしてくれ」という具体的なものではなく、抽象度は高いけれど核心をつくようなことを言われることが多いです。

 観客として岩松さんの作品を観るときによく感じますが、言葉を尽くしても伝えきれない何かが劇場に漂う感じがありますよね? その空気に心を奪われてしまう。それが何かということを言葉で限定してしまうのは憚られるようなものが。

「僕たちは普段、わかったふりをしてしまう」


仲野太賀さん。

――まさに劇場でしか感じ取れない、体験できないものですね。

 はい。あえて言葉にするなら「人間のやりとりを見た」というような。

 岩松さん自身も、言葉で説明できることや理解できたと思うことをよく疑問視されます。「わかる」ということは、それはもう自分の中にあるもの。でも、自分の範疇を超えた、わからないものの存在の方がずっと大きいし、そこにこそ真実味があるのではないか、と。

 僕たちは普段、わかったふりをするし、わかったようなことを言うし、わかった気持ちになってしまうけれど、そうではない何かを岩松さんは描こうとしているのかなと思います。そういうものが今回も出てくる気がしています。

――なるほど。

 こんなふうに言うと難しいもののように感じられるかもしれないですけど、僕らも難しい芝居をしているわけではなくて、実直にシンプルにそれぞれの人間を生きようとして、人間たちのやり取りを見せているんですよね。


仲野太賀さん。

――去年出演された宮藤官九郎さんの舞台『もうがまんできない』は、爆笑の連続のような舞台でした。岩松作品は、クスクス笑うことはあっても、客席の反応は全く違うと思うのですが、どう感じていらっしゃいますか?

 宮藤さんの舞台は会場がドッと沸いて、演劇の素敵なあり方の一つだなと思います。岩松さんの舞台は、ピンと張り詰めた空気感があって、お客さんがものすごく集中して観てくださっているのが舞台上からもよくわかるんです。

 岩松さんは以前「表に見えているものが全てではなくて、水面下でドラマは起きている」とおっしゃっていました。舞台上で見せている人物の言動と、内側に抱えているものは必ずイコールではなくて、お客さんは水面下で起きている物語を逃さないようにじっと観ている。

 そういう岩松さんの素敵な世界、物語をぜひ楽しんでいただけたらと思いますね。

仲野太賀(なかの・たいが)

1993年生まれ、東京都出身。2006年俳優デビュー。21年の映画『すばらしき世界』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、ブルーリボン賞助演男優賞、22年にエランドール賞新人賞を受賞。最近の主な出演作に映画『笑いのカイブツ』『熱のあとに』『四月になれば彼女は』(全て24年)、ドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ 22年)、『いちばんすきな花』(フジテレビ 23年)、『虎に翼』(NHK 24年)など。『新宿野戦病院』(フジテレビ)に出演中。映画『十一人の賊軍』が11月1日、『本心』が11月8日に公開。

文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=高橋将氣
スタイリスト=石井 大

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