「描きたい俳優はジェシー・プレモンスやティルダ・スウィントン」ヒグチユウコが語る『映画とポスターのお話』
CREA WEB / 2024年9月3日 11時0分
2024年7月に出版された『映画とポスターのお話』(白泉社)は、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』や宮﨑駿監督の『風の谷のナウシカ』といった映画作品をテーマに、画家・ヒグチユウコさんとアートディレクター大島依提亜さんの対談と、手がけたオルタナティブポスター40点余りが収録された、美しい画集のような映画対談集です。
映画好きにはたまらない一冊となった今作。オルタナティブポスターを描いたきっかけや、映画作品が自身の制作に与えた影響について、ヒグチさんにメールインタビューでうかがいました。
オルタナティブポスター制作のコンセプト
――オルタナティブポスターとは、映画作品をテーマにアーティストがリデザインしたアートポスターのことで海外を中心に話題ですが、ヒグチさんがこれまでに観た作品で印象的だったものはありますか?
ヒグチ どの方が描いたかちょっと記憶にないのですが、画像で「かっこいい!」と思った作品は多々あります。大体海外のものが多いですね。
「オルタナティブポスター」という名前は、大島さんと一緒にポスターをいくつも作っている時に、自然とそう呼ぶようになったような気がします。
――絵本をはじめとするご自身の作品については、「観た人が自由に感じてくれれば」とお話しされています。自身の作品作りとポスター制作ではどのような違いがありますか?
ヒグチ 絵本や自分の作品に関してはおっしゃったように、観た方の判断だと思っています。しかし、映画のポスターとなると多少自分の解釈が入っていることもありますが、元になる作品が別にあるので、あくまでもその映画を宣伝したいと言う気持ちで描いています。
ですから、「絵を見ただけで、すべて内容がわかってしまうようなことは避ける」。または、「できるだけ内容を勘違いされないように描く」というのは意識しています。
気に入っているポスターは『めまい』
――今回収録されたオルタナティブポスターで、一番気に入っている作品はどれですか?
ヒグチ 『めまい』です。六本木にある森アーツセンターギャラリーで展覧会を行った際、その時点で完成していたオルタナティブポスターをすべて印刷し直して展示したのですが、「1点だけ、とても大きいサイズにしよう」と提案したんです。その際、私は上記の映画を希望しました。
大島さんの意見も聞きたかったので、前置きなしに尋ねたら、同じ作品を挙げてくださったんです。嬉しかったですね。
あと、『ノーカントリー』も気に入っています。
――ポスター制作に向けて改めて映画を観る時に、注目するポイントはありますか?
ヒグチ 作品によりますけれども、どこが描くべき点なのかもう一度考え直したりしますね。再度映画を見るところからスタートするので、新たな発見もあり、その過程はなかなか楽しいです。
トーマシン・マッケンジーを描くのが楽しかった
――オルタナティブポスターを作る時に、積極的に描きたいと思う俳優はいますか?
ヒグチ 描きたくなる俳優は確かにいるんですけれども、実際その役者がメインで出ている映画だとしても、あえて描かない場合もあります。
『ラストナイト・イン・ソーホー』では、アニャ・テイラー=ジョイは大変魅力的なのですが、「描きたい」となるとちょっと別になりますね。この時でしたら、トーマシン・マッケンジーを描くのが楽しかったです。
若くて可愛らしい、あるいは美しい顔はとても魅力的なのですが、年齢は高めの方が描きたいと思うことが多いです。
ジェシー・プレモンスやマハーシャラ・アリ、國村隼、ティム・カリー、ティルダ・スウィントン、あと何度描いても嬉しいミア・ゴス。挙げてみると老若男女でしたね。こちらもキリがないです。
ヒグチユウコに影響を与えた映画作品
――ご自身の制作に、映画作品が与えた影響は大きいのでしょうか? また、「映画を撮りたい」と思ったことはありますか?
ヒグチ 映画は一番すんなり触れることができ、ストーリーもあって、音もあってと、とても情報量の多いものなので、幼少期から大きく占めていたと思います。
ただ、映画の仕事というのは、私には少し大きすぎます。やはり自分にできるのは絵を描くくらいでしょう。なので末端でも良いので、仲間に入れて欲しいと言う気持ちからポスターを書きたいわけです。
――本書では、フェデリコ・フェリーニ監督の『悪魔の首飾り』から大きな影響を受けたと書かれていますが、ほかにも影響を受けた作品はありますか?
ヒグチ 影響を与えてくれた映画は、ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』がとても大きいと思います。
テレビ放送される映画作品に感じる変化は?
――ヒグチさんは、幼い頃のテレビ放送で映画に触れた経験があるそうですが、昨今は子ども時代に観るとトラウマになりそうな映画はあまり放送されなくなった印象もあります。どう感じていますか?
ヒグチ そうなんです。うちにはテレビがないので、昨今のテレビ事情が全くわからないのですが、今の方たちはサブスクで観たりもするので、逆に幅は広がったんじゃないかなぁと勝手に思ってます。ただ倍速で観ることもあると聞いた時は、衝撃でした。
私が『サスペリア』や『悪魔の首飾り』に出会った事件も、人によってはトラウマ要素があったかもしれないので、万人に全てをお勧めしたいとは思いませんが、「向こうからいきなり飛び込んでくる、そんな出会いもあると良いのでは?」と個人的には思います。「ちょっとの冒険もたまにはいいよ!」です。
SNSもございますし、誰でも簡単に意見ができるようになった昨今では逆に息苦しいことも多いです。一方で、良くなったこともすごく多いので、単に時代の流れなんでしょうね。
ボリス雑貨店で行う『映画とポスターのお話』の展示
――「ボリス雑貨店」(渋谷区)では『映画とポスターのお話』の発売を記念して、9月3日までギャラリー展示をしています。見どころを教えてください。
ヒグチ 「ボリス雑貨店」は雑貨店という名前から勘違いされることが多いのですが、この場を借りて「ギャラリーです」と再度強くお知らせしたいです!
今回大きなポスターを全て貼るのは、スペース的に問題があり、あえて色校正を額装するという形での展示となりましたが、ずらりと並ぶとびっくりする量でなかなか見応えがあります。
実は、描いたオルタナティブポスターは今回の書籍に全て収録できておらず、まだまだあるんです。私たちの関わった映画のDVDやカット、パンフレット、映画に関する小物、そして権利的にポスター化が不可能だった作品なども展示しております。ぜひお時間ございましたら、お立ち寄り下さい。
あと、「映画」というテーマで、デザインチームと偽物の映画のポスターを作ったりもしてますので、笑っていただければ幸いです。
》インタビュー【後篇】に続く
ヒグチユウコ
東京を拠点に画家として活動している。アパレル企業などとのコラボ作品を手掛ける。2019年には、ギャラリー「ボリス雑貨店」(渋谷区)をオープン。著書に絵本作品『ふたりのねこ』(祥伝社)、『せかいいちのねこ』『ギュスターヴくん』(白泉社)などがある。2024年10月から韓国で展覧会を開催。
higuchiyuko.com
文=ゆきどっぐ
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