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“イリオモテ”じゃないヤマネコが長崎県・対馬にいる! 100頭の絶滅危惧種に会いにいく

CREA WEB / 2024年8月24日 11時0分

#307 Tsushima
対馬(長崎県)


北端近くの韓国展望所。対馬では韓国の携帯電話会社の電波をキャッチして、国際ローミングサービスに接続しちゃうこともあるとか!?

 長崎空港からORCオリエンタルエアブリッジの小型機で約35分。九州本土と韓国の間に浮かぶ国境の島、対馬。韓国までは直線距離にして約50キロ、一方で九州の博多港までは132キロ。実は、異国の方が近かったりします。

 島は南北82キロ、東西18キロと細長く、沖縄本島と北方領土を除けば佐渡島、奄美大島に次いで3番目の大きさ。島の真ん中あたりに入り組んだリアス海岸や小さな島がこちゃこちゃっと浮かぶ浅茅湾が位置し、上島と下島を分けたようなカタチになっています。

 そして島の約9割が山間部。お隣に浮かぶ平坦な壱岐と好対照をなしています。


天候が芳しくなく……。烏帽子岳展望所はクローズ中で、上見坂公園から見下ろした浅茅湾。

 “国境の島”とはいえ、空港から中心地の厳原(いづはら)へ向かう国道沿いには無印良品の大型店舗に大型スーパーマーケット、郊外型のドラッグストアが続き、なかなか暮らしやすそうな環境。


左:想像以上に都会だった対馬の中心地。右:幹線道路から一歩奥に入ると、川沿いの小道が。

 けれどそれも下島の厳原周辺に限られ、浅茅湾の万関橋を越えて上島に入ると、濃密な自然の中へと分け入っていく感覚がします。


浅茅湾にかかる万関橋。ここから北が上島。

マジックアワーの韓国展望所からの眺めがきれい!


『魏志倭人伝』にて“山が深く、道は獣道のように細い”と評された対馬国。おそらく異国の人の目に映ったのと同じ自然が広がります。

 まずは、“国境”を感じようと北端近くの韓国展望所へ。気象条件が整えば韓国・釜山が肉眼で見られるそう。


今年リニューアル。韓国の建造物をイメージしたという韓国展望所。

 到着した時はちょうど日没。茜色の空が淡いパープルへと変わる、マジックアワーでした。空の色の移ろいに圧倒されていたら、水平線に街灯がぽつり、ぽつりとまたたき始めました。


水平線に釜山の街灯がにじんでいます。手前は航空自衛隊の海栗島分屯基地。韓国まで約40キロ。実はこちらの方が国境の島!?

 海を隔てて自国から外国を眺めるのは、はじめての体験です。先人たちはどんな思いで隣国を眺めていたのだろう、と想像が膨らみます。

 朝鮮半島や大陸に向けて開かれた日本の窓口だった対馬。その歴史は長く、この島最古の紀元前6800年頃の越高遺跡からは九州と朝鮮半島、双方からの品が出土し、それは対馬が両国の懸け橋だった証だそう。3世紀の中国の歴史書『魏志倭人伝』の中にも、大陸から日本への道において最初に見える日本として対馬国の記述があります。


透明度の高い美ビーチ、三宇田海水浴場。韓国からの観光客にも人気のスポット。

 大陸との交流や交易は続くも、白村江の戦いで日本・新羅・唐の国境がほぼ確定してからは時として国防の最前線になることも。それでいて、戦場になった過去はないため、貴重な史料が残されたタイムカプセルだとも言われています。


道路の脇に置いてある、昔ながらの養蜂の巣箱。詳しくは次回に……。

 グンとさかのぼって、今から数万年前。対馬は大陸と陸続きになったり、離れたりを繰り返し、今の独立した島になりました。こうした島の成り立ちから、対馬の生物相はユニークな状態になっています。

 大陸からやってきたもの、日本本土の生物、対馬で進化した固有種。3タイプの動植物が同居する、いわば生物のクロスロードになっています。

 大陸系の代表格といえば、ベンガルヤマネコの亜種のツシマヤマネコ。空港などにも目撃情報マップが張り出されていて、出会いを期待してしまいます。まずは情報収集を、と対馬野生生物保護センターへ。主席自然保護官の柴原崇さんから話を伺うことができました。

ツシマヤマネコの保護活動がおもしろい


対馬空港で迎えてくれるツシマヤマネコ。

 今、対馬には約100頭のツシマヤマネコが生息しているそう。自然が豊かな上島にはある程度の頭数がいて、下島は一時いなくなったのではと言われた時期もあったけれど、少しずつ目撃されることが増えてきているそうです。


島内のあちこちに看板が。

 山の中で孤高に生きているようなイメージがあるけれど、実はヤマネコは里山の生き物なのだとか。

「餌となるネズミなどは田んぼや畑、間伐した森などに多いので、寝床は森の中でも餌場は里山。方言で“タネコ”と呼ばれるのは、“田んぼにいるネコ”だから。

 農家さんもヤマネコにやさしい米づくりをしているところもあります。減農薬を基本とした『佐護ツシマヤマネコ米』を生産したり、作付け時期をかえることによって収穫時期をずらしたり。もし一気に収穫してしまうと見晴らせて隠れる場所がない。徐々に刈ることで、餌とヤマネコ、どちらにも隠れる場所ができるわけです。地元の方はこういう形でも保護活動に協力してくれています」


対馬野生生物保護センターで会えるかなたくん。

 対馬野生生物保護センターにはケガをしたり衰弱したりしたヤマネコを24時間体制で収容しています。1992年から統計を取り始め、これまで416頭を収容。そのうち救護された個体は114頭。親離れの季節である10~12月は、人間社会に慣れていない子ヤマネコが交通事故に遭うケースが増えるそう。


かなたくん、ほとんど寝ています。

「弱ったヤマネコを見つけたらまず通報していただくことが、私たちにとって大切です。だから救護してくださった方にはその個体に名前を付けてもらっています。リハビリが終わり、ハイライトとなるヤマネコを森に帰すセレモニーでは、その役目を見つけてくれた方にお願いしています。通報後はこちらが預かりっぱなしではなくて、その方と一緒にここまでがんばりました、という意味で」


食事時間だからと起きたけれども、やっぱり眠そう……。

 通報すると、そのヤマネコに名前を付けられるとは。ちなみに、これまで命名された名前には“犬小屋桃太郎”という珍妙なものも。その理由は「犬小屋におったオスだから」。干されていたブリにしがみついた状態で発見された“ブリ”ちゃんもいたそうです。


対馬野生生物保護センターではツシマヤマネコに関する様々な知識が得られます。

 ちなみに、今回、上島の無人直売場で見かけたネコがもしや……と思い、写真を柴原さんに見てもらいました。すると、「あ、イエネコちゃんですね」とにっこり。それはそうでしょうけど、残念……。ちなみにツシマヤマネコの特徴は、お腹のまだら模様と耳の後ろが白いことだそうです。


ツシマヤマネコに違いない! と運命の出会いを感じたのですが……。本物のヤマネコに会いたい人は専門のガイドをお願いすれば、遭遇確率がアップするそうです。

対馬

●アクセス 空路は長崎空港または福岡空港から約35分。海路は博多港(福岡)からフェリーで4時間40分~5時間、高速船は約2時間15分

取材協力
hotel jin https://www.hoteljin.com/


古関千恵子(こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

文・撮影=古関千恵子

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