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型破りのアイドルだった小泉今日子 女の子のあがきを描いた岡崎京子 二人のキョウコの自由への渇望

CREA WEB / 2024年8月27日 17時0分

「結婚して妻や母となること」がスタンダードな生き方ではなくなったからこそ、どんなふうに年齢を重ねてゆけば良いのか不安や戸惑いを感じている人も多いのでは? それを解消するヒントとなるのが、社会学者の米澤泉さんの最新著書『小泉今日子と岡崎京子』。80-90年代に「アイドル」と「少女マンガ」というジャンルで一時代を築き、いまだ熱狂的に支持される「2人のキョウコ」が切り開いた道とは?


押し付けられる「理想の彼女」像にノーを!

──今回、米澤さんが小泉今日子と岡崎京子という2人の女性をフューチャーした理由は何だったのでしょう? 

 私は長年「女性と社会」という観点からファッション誌の研究をしてきたのですが、その中でこの2人がファッション誌に深く関わっていたことに気付きました。たとえば小泉さんは、80年代から『anan』や『Olive』などのファッション誌によく登場していましたし、岡崎さんも『anan』や『CUTiE』などのファッション誌で作品を発表したり、若手女性文化人みたいな扱いで誌面にも登場していました。


岡崎京子の最高傑作とも『リバーズ・エッジ』(宝島社)。2018年には二階堂ふみ主演で映画化された。

 当時の『anan』は流行最先端の雑誌で、いわゆるアイドルやマンガ家が誌面に登場することはまずなかった。そんな時代に2人は『anan』をはじめとするファッション誌を基盤に、それぞれの分野で新しい世界を開拓した。さらにはプライベートでもおしゃれが好きで、若い頃からステレオタイプな女性の生き方に抵抗感を抱えていた。そんな共通点をもつ2人を軸に、当時の社会と女性の生き方について紐解けば、きっと興味深いものになるはずだと確信しました。

──米澤さんが小泉さんについて、男性にとって「理想の彼女」だった従来のアイドル像から逃走して、新時代のアイドル像を切り開いた──と書かれているのを読み、キョンキョンは男性主義的な価値観にノーを突きつけた人でもあったのか!と唸らされました。

 最近はアイドルも多様化してきて、良くも悪くも特別な存在ではなくなりましたが、80年代のアイドルはある種、神格化された存在でしたよね。デビュー当時の松田聖子さんをイメージするとわかりやすいのですが、ファッション的にもヒラヒラしたドレスにふんわりした髪型とメイクで、新人賞をとって「お母さん!」って泣くような、健気で可愛い女性像を体現していた。

──聖子ちゃんも、明菜ちゃんも、結局は「誰かにとっての理想の彼女」を引き受けていた感じはありますよね。

 小泉さんもデビュー当初は「聖子ちゃん路線」を踏襲していましたが、なかなか売れず、それをやめて自分の判断でショートカットにしたら、それが新鮮だということで人気に火がついた。自分のことを「コイズミ」と呼び、当時最先端だったパンクなDCブランドを着こなしていた小泉さんは「誰かにとっての理想の彼女」ではなく「自分がこうなりたい自分」をジェンダーレスに追求した、今でいうセルフプロデュースの走りみたいな人だったと思います。

小泉今日子は従来の生き方に収まりたくない女性たちの憧れ

──従来のお人形的なアイドルとは違う、自己主張するアイドルという道を切り開いた小泉さんは、ニューアカと呼ばれる当時の男性文化人から、自分たちの理解を超えた特別な存在として語られる一方で、雑誌『anan』のエッセイ連載を通して、自らの言葉で語り始めます。

 当時は今みたいにアイドルや芸能人が自分の言葉でファンに向かって話すことはほとんどなくて、特に女性は男性によって一方的に語られるだけの存在だった。だからこそ、小泉さんが『anan』という当時最も影響力のあるメディアで同性に向けて言葉を発信するということは、かなり画期的なことだったと思います。

 しかも、インタビューのようにきれいに整えられた文章ではなく、つぶやくような生の言葉で。添えられた写真もポラロイドで撮った自分の顔や部屋の写真。そんな今のSNSのようなリアルさが、彼女が女性の共感を得るための大きな役割を果たしたように思います。

──小泉さんは2010年に創刊された雑誌『GLOW』の表紙をなんども飾っていますが、そこに添えられたキャッチコピーの「40代女子」や「大人女子」という言葉も、当時多くの女性の共感を集めました。


『GLOW』での連載をまとめた『小泉放談』(宝島社)。

『GLOW』は宝島社が40代の女性をターゲットに創刊した雑誌ですが、「大人の女性」ではなく「40代女子」、「大人女子」という言葉に、自立した大人の女になりたいが、妻や母というステレオタイプな女性の生き方には収まりたくないという女性のメンタリティが集約されていますよね。宝島社は、それ以前に2003年に『InRed』を創刊し、「30代女子」を積極的に打ち出していきました。

 30〜40代の女性をターゲットにしたファッション誌としては、当時すでに光文社から『VERY』や『STORY』が創刊されていました。ただそれらは基本的に結婚している女性に向けた雑誌で、コンセプトも大意として「綺麗なお母さんでいよう」といった従来の良妻賢母的な価値観をはみ出すものではなかった。けれども、時代的にいよいよ仕事をしながら40代を迎えた未婚女性が増えて、たとえ結婚して子供が生まれたとしても、妻や母という役割だけに甘んじず、自分の人生を生きたいと考える女性が増えてきた。そんな新しい雑誌の顔として、常識に縛られず、自分らしさを貫いてきた当時40代半ばの小泉さんは、まさにうってつけの人物だったというわけです。

米澤 泉(よねざわ・いずみ)

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。社会で「取るに足りない」と思われることから社会の本質を掬いとることを研究の目的とする。

文=井口啓子

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