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岡崎京子が描いた少女たちの 願いと抵抗は『虎に翼』の 「はて?」に繋がっていく

CREA WEB / 2024年8月27日 17時0分

 日本のアイドル像を塗り替えた「自己主張するアイドル」小泉今日子と「永遠の少女の自立」を描いたマンガ家、岡崎京子。80-90年代の日本で旧来的な女性像に抗い、自由でいることを模索した「2人のキョウコ」が切り開いた道。そこから社会学者の米澤泉さんが導き出した、女性が真に自由に楽しく生きてゆくための方法とは?


「永遠の少女」の自立を目指して

──小泉今日子と岡崎京子は、アイドルとマンガ家という表現ジャンルは違えど、80-90年代に最もエッジィで影響力のあったファッション誌というメディアに深く関わっていた人でした。米澤さんは岡崎さんのマンガをどのように見ていたのでしょうか? 

 私自身はふわふわした恋愛を描いた少女マンガには深く入り込めなかったんです。でも、岡崎さんのマンガは絵柄も登場人物のファッションもおしゃれで、とんがった80-90年代の空気がすごくリアルに描かれていて、スッと入り込めた。当時、ファッション誌でマンガが連載されること自体、ものすごくセンセーショナルで、新しいものが出てきた!というワクワク感がありました。

──「ROCK」や「東京ガールズブラボー」が連載されていた『CUTiE』は、『宝島』のスピンオフ雑誌として創刊されたもので、当時盛り上がりつつあったクラブシーンやストリートカルチャーの情報が盛り込まれた雑誌でした。個性的なものを好む女の子にとって、岡崎さんのマンガはまさに「リアルな私たちが登場する少女マンガ」だったわけですね。

 岡崎さんは80年代の終わり頃に単行本のあとがきで「まだ新しい女の生き方は登場していない」。「それなら自分自身が作っていくしかない」と書いています。当時岡崎さんは20代でしたが、自分が表現者として、あるいは1人の女性として、生きていく上でロールモデルにできる大人の女性はまだ現れていないと思っていた。だからこそ、岡崎さんは自分の居場所を探して彷徨う女の子を繰り返し描いたんですね。


おしゃれを求めて北海道から上京した、金田サカエの青春ストーリー。『東京ガールズブラボー』(宝島社)

──米澤さんは、そんな岡崎さんの作品を「大人になりたくない女の子たちのあがき」と評しています。結婚して妻や母になるといった生き方に疑問を抱き、自由でいたいと願う女の子は、今では多数派だと思うのですが、当時はまだまだマイノリティだったのでしょうか?

 そう思います。今では30歳で結婚していない人は都会では当たり前で、むしろ20代で結婚するとなんでそんなに早く結婚するの?と言われるようになりましたが、80年代から90年代前半までは、30歳までに結婚しなければいけないようなプレッシャーなどがすごくあった。旧来的な女性の道からはみ出した女性が、どう生きていけばいいか。本の中では戸川純さんを例に挙げて書いていますが、生理のことを口にすることがタブーだった時代にランドセルを背負った個性的なファッションで生理の歌を歌う女性が、ある一定の人々に受け入れられていたことは、今振り返っても画期的な現象だった。社会も女性自身も、女性性をどう扱うべきか模索していた時代でした。

──仕事を持って経済的に自立した女性は増えたけれど、それで真に自由に生きられるかというと、社会的にはまだまだ女性に対する様々な圧があって、誰もが葛藤を抱えていた。

 自由でありたいと抗いながらも現実はまだまだ難しい時代だったと思います。ファッションひとつとっても、ボディコンシャスなものが流行っていましたし、女は女らしく、男は男らしくという圧はあった。「彼氏いない歴○年」といったような言い方があったように、絶対に恋愛しないといけない圧も強く、その延長線上に結婚があったので、そこからはみ出すことは、かなり勇気が要ることでした。

ハードな世界を生き抜くためにおしゃれとおしゃべりを続ける

──岡崎さんが『ヘルタースケルター』で描いた、整形を繰り返してゆくヒロインは、そんな社会圧に対するアンチテーゼでもありました。その一方で岡崎さんは、ハードな現実を楽しく生き抜く術として、おしゃれと女友達とのおしゃべりを繰り返し描いていました。

 今でいうエンパワーメントとシスターフッドの重要性を早い段階で描いていましたよね。小泉さんもそれは同じで、シンディ・ローパーが1983年に発表した『Girls Just Want to Have Fun』という曲に当時からシスターフッドを感じていたと発言されています。


トップスターであるりりこの知られてはいけない秘密を描く。第7回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞&第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作品。『ヘルタースケルター』』(祥伝社)。

──女性はライスステージの変化で物理的にも心理的にも関係性が分断されがちですが、最近は違いを認めた上で連帯しようという意識が強まっています。

 女性が仕事を持つようになって経済的にも精神的にも自立してきたのも、シスターフッドを継続しやすくなっている要因ですよね。私が教えている大学でも、結婚も恋愛も別にしなくても楽しいと口にする子も多くて、いろんな意味で生きやすくなってきたなと感じます。

──そんな今、この2人について考えることはどのような意味がありますか?

 恋愛や結婚をしないことも含めて、多様な生き方が認知されてきましたし、この20~30年でいろんなことが激変しましたよね。

 やっぱり今、連続テレビ小説『虎に翼』のような国民的ドラマでフェミニズム的なことがさらっと描かれる時代になったけれど、私たちは最初からここにいたわけではない。小泉さんや岡崎さんや、その他のいろんな女性の抗いがあったから今にたどり着いているのだと俯瞰してみれば、それが未来に繋がってゆくと思います。

 日本が豊かでマスメディアが力を持っていた時代と比べると、今はSNSやYouTubeという武器があって、自分の気持ちひとつで誰でも世界に何かを発信できるようになった。閉塞感を打破するのはそこかなと期待しています。


©NHK

──自由に生きたいと思う人が日常の中で今すぐ実践できることがあれば、教えてください。

『虎に翼』でヒロインがよく言う「はて?」って、すごく大事なことだと思うんです。上野千鶴子さんは「常識の関節外し」と表現していますが、世の中で当然とされていることにも、これって本当に正しいの?というスタンスで接すると自分自身がすごく楽になります。常識を疑う「はて?」の精神は大事ですね。

米澤 泉(よねざわ・いずみ)

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。社会で「取るに足りない」と思われることから社会の本質を掬いとることを研究の目的とする。

文=井口啓子

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