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【第2弾決定】歌舞伎『刀剣乱舞』脚本家が語る図録に“脚本全文”を収録した理由「三日月宗近の一騎打ちで万雷の拍手」

CREA WEB / 2024年8月28日 17時0分

 2023年7月新橋演舞場にて上演された、新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』。大人気ゲーム『刀剣乱舞ONLINE』の初の歌舞伎舞台化として、大変な注目を集めました。大好評で幕を閉じ、2024年にはシネマ歌舞伎として上映。

 さらに京都南座にて「衣裳展」も実施された本作品が、待望のBlu-ray&DVD化されました。脚本を担当した松岡亮さんに、ともに楽しめる上演台本も収載された公式図録のことも併せて、夏の盛りの東銀座でお話を伺いました。(全2回の前篇。)


松岡亮さん。

歌舞伎ならではの『刀剣乱舞』を作りたいという思い

――まずは新作歌舞伎としての『刀剣乱舞』ができるまでを伺いたいです。

松岡亮さん(以下、松岡):2022年ごろに、尾上松也さんとの話が始まりました。当時はずっとリモートでしたが……。松也さんは「古典味のある新作歌舞伎を創りたい」ととても意欲的で。若い方に楽しんでいただくことを念頭に置きながら、セリフを現代語にするなどはせずに、あくまで「古典歌舞伎」に軸足を置いた作品になりました。

 皆さんご存じの通り、刀剣乱舞には、アニメやミュージカル、舞台など、すでに素晴らしいメディアミックスが存在します。逆に言えば、歌舞伎ならではの刀剣乱舞を作らないといけないと、演出の松也さんや尾上菊之丞さんと話し合っていました。


©NITRO PLUS・EXNOA LLC/新作歌舞伎『刀剣乱舞』製作委員会

初日の幕があくまでは祈るような気持ち

――歌舞伎の美しさも刀剣乱舞の世界も、存分に楽しめる作品でした。新作で、原作は若者を中心に人気のゲーム。冒険でもあったのではないでしょうか。

松岡:刀剣男士や「審神者」について、解説を入れたのは歌舞伎ファンのお客様のためでした。刀剣乱舞と歌舞伎、どちらのファンのお客様にも楽しんでもらえるよう精一杯準備しましたが、初日の幕が上がるまでは、お客様の反応がどうなるかヒヤヒヤしていました。でも、初日の二幕目の終わり、客席から聞こえてきた拍手の熱量と反応がとても大きくて。あ、これは、と思っていたらカーテンコールで、スタンディングオベーションが自然と起こりました。それを見て、ようやく一息ついて喜べたという感じです。

 稽古の時点で手ごたえはありましたし、出演俳優の皆さん、スタッフの皆さんと一丸となって取り組んで作り上げています。ただ、作り手の自信とお客様の反応は必ずしも比例するものではありません。最後はお客様が、どう受け入れてくださるかです。クライマックスの三日月宗近と足利義輝の一騎打ちのシーンの後、万雷の拍手が聞こえた瞬間は、脚本家冥利につきると思いました。


松岡亮さん。

――歌舞伎ならではのシーンなどはありますか?

松岡:踊りの場面でしょうか。足利義輝の宴の場で、刀剣男士がそれぞれ踊ります。振付の尾上菊之丞さんが各刀剣男士の設定などを非常に読み込んでくださって、ふさわしい振りをつけてくださいました。

刀剣乱舞ファンにも、歌舞伎ファンにも楽しんでもらえる作品を目指して

――先ほどカーテンコールというお話が出ましたが、歌舞伎には通常ないものです。写真タイムがあったり、Blu-ray・DVDにも収録されていますが、オリジナルのアナウンスを入れたり、新たな取り組みもされていましたね。

松岡:松也さんを始め若い俳優さんを中心とした座組でしたので、皆さんはSNSの力も存分にご存知でした。かつて、歌舞伎の評判はクチコミで広がっていったものです。今回我々が目指したのはいわば「デジタルクチコミ」。松也さんもどんどんアイディアを出してくださいました。終演後のアナウンスもせっかくだから、刀剣男士でやろうと。新作だからこそ挑戦できたことはあると思います。図録もそのひとつですね。


歌舞伎ならではの「踊りのシーン」について話す松岡亮さん。

お客様のおかげで作ることができた図録

――歌舞伎でこうしたものを出すのは本当に珍しいですよね。

松岡:衣裳さん、床山(かつら)さん、小道具さん、舞台美術家、そして俳優の皆さん、ありとあらゆるこだわりが詰まった、刀剣乱舞らしさと歌舞伎の美しさが詰まったものをお届けしたいと思いました。この作品を作り上げるには、数多くの苦労がありました。

 刀剣はもう歌舞伎の世界ではお手の物ですが、刀剣男士たちの扮装をどうアレンジするかと。髭切・膝丸は短髪で洋装です。演出を担った松也さんを中心に、床山さん、衣裳さんがそれぞれアイデアを持ち寄って「洋装のキャラクターをどう歌舞伎に落とし込む?」と相談を重ねたわけです(笑)。


原作にはない三日月宗近の裃姿 ©NITRO PLUS・EXNOA LLC/新作歌舞伎『刀剣乱舞』製作委員会

――三日月宗近は裃姿でも登場します。

松岡:刀剣乱舞のキャラクターといえば、誰もがイメージする姿があります。裃姿はゲームに出てきたことがないのですが、やはり歌舞伎の場合、主人公がずっと同じ衣裳というのはあまりないものです。歌舞伎の魅力の一つが、きらびやかな衣裳でもあると思いますし。歌舞伎らしさ、三日月宗近らしさも取り入れて、松也さんがギリギリまで悩みながら作った衣裳でした。

――廻り舞台全体を効果的に使った美術も印象的でしたが、松也さんはどのように構想されていたのでしょうか。

松岡:松也さんは当初から、これまでの歌舞伎でありそうでなかった歌舞伎を作りたいと仰っていて、それが舞台美術の面でも反映されました。特に二幕目の広庭の場面は松也さんのこだわりが詰まった舞台美術です。演出家としての松也さんは、確固たる信念を持ちながら、共演者の皆さんやスタッフの皆さんの意見も尊重し、この作品を作り上げられました。共同演出の菊之丞さんとのバディ感も大変頼もしいものでした。

 今年の春に南座で行われた衣裳展もご好評いただいて、報われた気持ちでしたね。衣裳展の図録に、名ゼリフを入れようという話があったんですけれども、もうそれなら脚本を全て載せたらどうでしょうかと提案させていただきました。

お客様の作品への愛に応えたい

――普段、新作歌舞伎の脚本が、図録などに掲載されることはないですよね。

松岡:歌舞伎座のすぐ近くに、松竹大谷図書館という歌舞伎を始め、松竹製作公演の上演台本を収める専門図書館がありまして、スタッフである僕たちもよく利用するのですが。


©NITRO PLUS・EXNOA LLC/新作歌舞伎『刀剣乱舞』製作委員会

――銀座松竹スクエアにある図書館ですね。貸出はされていませんが、貴重な演劇・映画資料が多数閲覧可能です。

松岡:新作は著作権の関係で複写ができません。ある時、調べものがあって訪れたら、刀剣乱舞の脚本を閲覧されている方がいて。よくよく見ると、歌詞やセリフなどを書き写されていたのでびっくりした経験があるんです。そんな、コピー機がなかった時代のようなことを、平日しか開いていない専門図書館にわざわざ来て行ってくださるなんてと感激しました。そうしたお客様の作品への愛に応えたい、脚本を全て掲載することが僕からできる御礼ではないかと思いました。

 令和の時代に歌舞伎を作り続ける俳優・スタッフの思い、そしてファンへの思い……。後篇では脚本の魅力についてさらに伺います!

文=宇野なおみ
写真=山元茂樹

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