瀬戸康史が、高橋一生との出会いをきっかけに考えた“理想の俳優像”「個性は逆にないほうがいい」
CREA WEB / 2024年9月10日 17時0分
ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』や映画『違国日記』など、映像作品での活躍が話題の瀬戸康史さん。『彼女を笑う人がいても』や『笑の大学』など舞台にも精力的に出演しており、その確かな表現力は演出家や演劇ファンからの信頼も厚い。
クローンを作ることが可能になった近未来を舞台にした舞台『A Number―数』は、秘密を抱える父親と、自分がクローンであることを知った息子の物語。クローンを含む3人の息子役に挑む瀬戸さんは現在、「生みの苦しみ」の真っ只中だという。
それでも魅了される舞台への思い、そして困難に直面しても常にポジティブでいられる、ハッピーなマインドを育んだ原点に迫ります。
「どう生まれたか」よりも「どう生きていくか」
――『A Number―数』は父親役を演じる堤真一さんとの二人芝居ですが、戯曲を読んでどんなメッセージを受け取りましたか?
堤さんもおっしゃっていましたが、「お父さんはなぜ息子のクローンを作ってしまったのだろう?」と思いました。ロボットが製造されるのとは大きく違い、クローンが作られるのは、別の心が生まれていくイメージがあるんです。
父が息子のクローンに会いたいという気持ちはわからなくはない。でもやっぱり、人間がやっちゃいけないことだという印象を受けました。
僕が演じるクローンを含む息子の3役は同じ遺伝子ですが、物語の最後に登場するマイケルは、ほかの二人と違ってとてもポジティブな生き方をしているんです。それは、彼の育った環境がよかったから。最終的には「どう生まれたか」よりも「どう生きていくか」が大事なんですよね。自分次第でいい方向に転換できるという考えはすごく共感できましたし、希望を持てる物語だと思いました。
舞台に対する思いが変わった瞬間
――瀬戸さんは7年前、今回演出を手がけるジョナサン・マンビィさんのワークショップを受けたことがあるとか?
30人くらいの役者が参加してある戯曲をやったんですけど、本当に楽しくて。誰かの意見を否定するわけでもなく、それぞれの役者と「この戯曲ってどうだろう?」と対話を重ねるジョナサンさんの姿がとても印象的で。いつかご一緒したいと思っていたので、「『A Number―数』をやりませんか?」と言われて「ぜひお願いします!」という感じでした。
――ドラマや映画での活躍はもちろん、舞台にも精力的に出演されています。瀬戸さんがそれほど舞台に魅了される理由は?
うちの事務所には「俳優集団D-BOYS」という若手俳優グループがあって、僕も17歳から加入して舞台に出演していました。まだ全然芝居をやったことがない段階から、いろんな演出家さんと組ませてもらって。今となってはとてもありがたい経験でしたが、当時の僕はすごく怖かったんです。「失敗したらどうしよう」とか、「稽古でどう動こう」とか、作品と関係ないことばかり考えていました。
そんな中、2015年に『マーキュリー・ファー』で初めて白井晃さんの演出を受けたときに、自分の内面を全部見抜かれて、プライドも何もかも一度全部壊されたんです。それからですかね。舞台に対する思いが変わったのは。
余計なことを考えなくなったし、何をしても恥ずかしくないと思えるようになったんです。それは本当にありがたかったし、いい出会いに巡り会えているなと思います。
まずは自分の心が「やりたい」と思う仕事をすること
――白井晃さんをはじめ、前川知大さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、三谷幸喜さん、栗山民也さん、そしてジョナサン・マンビィさんなど、錚々たる演出家とお仕事を経験されてきました。「いい出会いに巡り会えている」とのことですが、出会いを生み、育んでいくためにどんなことを意識されていますか?
若い頃は「誰とお仕事をしたい」という意志もなかったし、事務所が持ってきてくれたお仕事をやるという、完全に受け身だったんです。23~24歳くらいからちょっとずつ「人生は一度きりだから、好きなことをして生きていきたい」と意識が変わっていって。そこからすごく楽しくなったし、今は本当に好きな仕事をやれているように思います。
媚を売って気に入られようとも思っていないです。わりと僕は、第一印象で変な感じに受け取られることがないので、それはありがたいですけど(笑)。
自分が選んだお仕事だったらどんな辛いことも頑張れるし、責任感も生まれる。まずは自分の心が「やりたい」と思う仕事をすること、そして全力で楽しむことが、結果的にいい出会いにつながる気がします。
――「やりたい」お仕事とは?
自分が演じる姿が全く想像できない台本はすごく興味を抱きますね。今回の『A Number―数』は難解な戯曲なので、武者震いをしながら「挑戦してみよう!」と思いました。
高橋一生さんとの出会いをきっかけに……
――俳優としてのご自身の個性は、どんなところにあると思いますか?
役を演じる上では、個性は逆にないほうがいいのかなと思っていて。僕が目指しているのは「馴染む」こと。その作品の色や世界にどう馴染めるかが、ずっと僕のテーマです。もちろん作品によるとは思いますが、『マーキュリー・ファー』で共演した高橋一生さんとの出会いをきっかけに、そう考えるようになりました。
――瀬戸さんは常々、ご自身のことを「ポジティブ」だとおっしゃっています。それはもともとの性質だと思いますか? それとも環境によって育まれてきたもの?
ずっとポジティブかと言われたら、そうではなくて。上京したての頃は子どもだったし、すごく大人が怖かったんです。福岡から出てきて、標準語も喋れないし。いろんなことをマイナスに考える思考になっていた自分がすごく嫌でした。なんか負けてるような気がしたので、無理やり笑ったり、面白いものを見たりしたこともあります。
ただ、自然に囲まれた福岡の田舎で育ったので、それによって心が豊かになったとは思います。福岡って博多祇園山笠があったり、お祭りが盛んです。河童の伝説があるうちの地元にも祭りがあって、子どもの頃からお祝い事に積極的に参加していたので、ハッピーなメンタルが育まれたのかもしれません(笑)。
半径数メートルの人を幸せにできたら
――家族という少し狭い範囲ではいかがですか? 今の瀬戸さんは、ご家族の中でどのように形成されていったのでしょう?
親が共働きだったので、子どもの頃から「親が大変だから手伝いをしなきゃ、お兄ちゃんとして頑張らなきゃ」みたいな気持ちは強かったかもしれません。1個下の妹と一緒に、4個下の妹を保育園に送り届けたりもしていました。精神面で大人になるのは早かったかもしれませんね。
親から叱られた記憶があまりなくて。勉強も含めて、選択を委ねてくれたことも大きかったです。塾に通うのも、部活に入るのも、すべて自由に決めさせてくれました。まあ、もしかしたら僕らが気づかないうちに親にうまく誘導されていたのかもしれないけど(笑)。ありがたい環境だったなと思います。
――インスタグラムでは、「どうやって生きていくか、幸せに人生を送れるかは自分次第」と発信されていました。瀬戸さんが思う幸せな人生とは?
まずは自分が幸福であること。そして身近な人が幸せであることですかね。もちろん世界中の人の幸せを願うけど、自分一人でできることは限られていますから。半径数メートルの人を幸せにできたらと思っています。
――では、ご自身を幸福にする方法は?
本当は絵とかも描きたいけど、今はそれよりセリフを覚えなきゃいけなくて。稽古場へ向かう車で聞くラジオが唯一の気分転換だったけど、今では車の中でもセリフをずーっと言っています。舞台の稽古中は考えなきゃいけないことも多いし、やっぱり苦しい時期なんですよ。
好んでやっている仕事とはいえ、やっぱり辛いときは辛い。ずっと気持ちよく幸せに過ごしたいけど、今は生みの苦しみに向き合っています。ただ自分が苦しんだ分、その先には必ず「ハッピーなことが待ち受けている」と信じてやっています。それがメンタルを保つ方法かもしれません。
瀬戸康史(せと・こうじ)
1988年5月18日生まれ、福岡県出身。2005年にデビュー。近年の主な出演作はドラマ『ルパンの娘』シリーズ、『私の家政婦ナギサさん』、『院内警察』、『くるり~誰が私と恋をした?~』、映画『愛なのに』、『違国日記』、舞台『関数ドミノ』、『23階の笑い』、『日本の歴史』、『世界は笑う』、『笑の大学』など。映画『スオミの話をしよう』が9月13日公開。
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=田村和之
ヘア&メイク=小林純子
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