物書き・SYOさんの「いま人に薦めたい愛読マンガ」7冊「“時代”を鋭利に切り取った傑作です」
CREA WEB / 2024年9月20日 11時0分
CREA夜ふかしマンガ大賞2024
選考委員31名の愛読書と「マンガを読むときのマイルール」
この秋、発表された「CREA夜ふかしマンガ大賞2024」。選考委員を務めてくれたのは、小説家、お笑い芸人、ミュージシャン、マンガ家、テレビプロデューサー、ベテラン書店員など、各界を代表するマンガ好きの31名。
CREA2024年秋号では紹介しきれなかった、選考委員の皆さんのほとばしるマンガ愛を大公開!
「夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品」「人生で思わず夜ふかしして読んだ作品」「マンガを読むときのマイルール」など、マンガ好き必読のアンケートです。
SYOさんが「夜ふかしマンガ大賞に推薦するマンガ」
◆『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』魚豊/小学館
舞台は現代日本。「人生が始まっている気がしない」と日々悶々と暮らす非正規社員の青年が陰謀論に傾倒していくラブコメ。
「『チ。』で新たなジャンルを打ち立てた感のある魚豊先生の新作は、まさかの陰謀論。なかなか生活水準を浮上させられない純朴な青年が恋に落ち、思い人を助けようと陰謀論者に立ち向かうのですが逆に取り込まれ……。
コロナ以降の“不信の時代”や貧困社会、格差に生きづらさを鋭利に切り取った傑作。陰謀論者の解像度が高すぎて1話からドハマりしてしまいました」(SYOさん・以下同)
◆『霧尾ファンクラブ』地球のお魚ぽんちゃん/実業之日本社
「同じクラスの霧尾くんを“推し”ている藍美と波の推し活ライフを描く本作。初めこそ、ふたりの生態をケタケタと笑いながら読めるのですが(どうやったらこんな面白いセリフや表情を思いつくのかいつも驚嘆します)、どんどん切ない方向に転がっていき――。それでもやっぱり笑わせてくれる本作、底が知れません」
◆『相席いいですか?』河上だいしろう/集英社
「部下とのコミュニケーションがうまく取れないバリキャリの女性・椿とおっちょこちょいの女子大生・桃子がカフェで相席したことで仲良くなり、お互いの悩みを相談し合うほっこりコメディ。自分にもこんな存在がいたら……と思いつつも、言葉選びが絶妙なボケ・ツッコミに吹き出してしまう楽しい時間――。これは実写化くるのでは!? と思いながら読み進めています」
人生で思わず夜ふかしして読んでしまったマンガは?
◆『違国日記』ヤマシタトモコ/祥伝社
突然、両親に先立たれた少女・朝を人見知りの小説家・槙生が引き取ることに……。まったく性格も異なるふたりの、ぎこちなくも愛おしい同居生活が始まる。
「ヤマシタ先生の作品は、言葉の一つひとつが沁み込んでくるぶん、心身が整った静寂の中で読みたくなります。そのため仕事や家事、子どもの寝かしつけ等が落ち着いた夜中まで読むのを我慢して、没入するようにしています。特に『違国日記』は1ページ1ページゆっくり時間をかけて(心身に)浸透させたため、気づくと夜ふかししていました。新作『SUGAR GIRL』も夜中に読みましたが、作品の雰囲気と実世界の温度がシンクロしたような感覚に陥って心地よかったです」
SYOさんの「マンガを読むときのマイルール」
「基本的に紙派なので、なるべくリラックスした体勢で読めるようにリクライニング付きのゲーミングチェア+クッションテーブルのコンボを愛用しています。そして、そのあとに予定を入れないこと。そうしないと集中できないし、余韻にも浸れないんですよね……。例えば単行本だったら1時間半くらいは空けます。
『週刊少年ジャンプ』などだと昔はネタバレを踏みたくないので夜中に急いで読んでいましたが、最近はスマホもPCも遠ざけてデジタルデトックスした状態で日中に読むようにしています。作品によって“いつ読むか”は変えているかもしれません」
今、最も注目している新人作家とその作品は?
◆『阿武ノーマル』原作:川上大和、作画:タイジュン/講談社
OL・阿武英子は29歳、独身、彼氏なし。ものごとの価値基準は「普通」か否か。「普通」に固執する彼女を取り巻く新感覚サイコサスペンス。
「群雄割拠のマンガ界においては日々素晴らしい新人作家が台頭していますが、本作のおふたりにおいては目の肥えた読者の予想を超えてくる作品強度と遊び心が際立っていると感じます。
『普通』になりたい“サイコ”な女と他人を蔑む中身のない男が最悪の出会いをするのですがいつしか妙なバディみたいになっていき――。毎話更新が楽しみです。ぜひこのままオリジナルロードをぶっちぎってほしいです」
食欲の秋に読みたくなる「グルメマンガ」は?
◆『きのう何食べた?』よしながふみ/講談社
2DK男ふたり暮らし。毎日ちゃんと仕事してごはんを作って一緒に食べる。弁護士の筧史朗と美容師の矢吹賢二の食生活をめぐる物語。
「これを超えるグルメマンガに出合える気がしません。作品としても抜群に面白いですし、メニューのチョイスが絶妙なんですよね。一時期、本作の影響でラタトゥイユづくりにハマりました」
2024年秋に読みたい「動物マンガ」は?
◆『ラーメン赤猫』アンギャマン/集英社
猫が経営する一風変わったラーメン店が舞台。唯一人間の従業員となった珠子、ワケアリの猫の従業員や客たちの人情味溢れるドラマが展開する。
「本作はいわゆる“動物を愛でる”作品とは一味違います。訓練によって人語を話すことができたり、技能や資格を身に着けた猫たちが営むラーメン屋のお話。ほんわかした設定ではなく現実的な世界観で猫たちや人々の交流を描いており、細かい点まで配慮が行き届いているため、ある種の搾取感がないのが素敵です」
物書き
SYO(しょー)さん
映画雑誌の編集などを経て独立。映画やドラマ、マンガ、アニメといったエンタメ系からライフスタイルまで幅広く執筆。トークイベントや映画情報番組などにも出演。
■発表! CREA夜ふかしマンガ大賞2024
眠りにつく前のひとときに、日中のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる力のあるマンガを称える「CREA夜ふかしマンガ大賞」。昨年からはじまった一般読者による投票を一次選考として、200作品以上が候補にあがるなか、2024年のナンバーワンが決定しました。
文=大嶋律子(Giraffe)
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