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寿司シェフとしてフィンランド移住→倒産→漫画がコミックアワードに 週末北欧部chikaが見つけた仕事を“減らす”働き方

CREA WEB / 2024年9月18日 11時0分

 フィンランド移住の夢を追う日々を描いた、書き下ろしコミックエッセイ『北欧こじらせ日記』シリーズで大人気の週末北欧部chikaさん。フィンランド式スタイルや考え方を紹介した新刊『フィンランドくらしのレッスン』を上梓されました。

 2022年に寿司シェフとしてフィンランドへ単身移住した週末北欧部chikaさんへインタビュー。フィンランドでのリアルな暮らしについて、お話をお聞きしました。


日本にいたときは「今は仮暮らしだから」と

──まずは新刊でフィンランドでの暮らしを「レッスン」と表現された理由から教えてください。

 日本にいたときは、「いつかフィンランドに住む」という夢があったので、いつも「今は仮暮らしだから」と我慢していました。「仮暮らしだから大型家具は買わないようにしよう」とか、「仮暮らしだからペットは飼わない」「仮暮らしだから出会いは後回し」など、「仮暮らし」であることを理由に、いつも何かを我慢して生きてきたように思います。

 だから2022年に寿司職人として単身フィンランドに移住し、4カ月経ってようやく自分のアパートが借りられることになった時は、「これからは、我慢せずに生きられるんだ」とウキウキした気持ちでした。


フィンランドに2022年に移住したchikaさん

 さっそく、大好きだったフィンランドの有名家具ブランド店へ大型家具を買いに出かけたのですが、そこでふと、「家具ってどうやって選ぶんだっけ」と、戸惑ってしまって……。それまで「仮暮らし」しかしてこなかったので、自分がどういう暮らしをしたいか、どんなふうに家具を選べばいいかが、まったくわからなくなっていたんですよね。

 移住から2年が経った最近になってようやく、まわりのフィンランド人の友達や同僚から暮らしの作り方や生き方を教わりながら、少しずつ自分らしい暮らしが作れるようになってきたので、「これは、自分のふり返りとしても描いてみよう」と思い、「くらしのレッスン」としてまとめました。


『フィンランドくらしのレッスン』より(©週末北欧部chika/集英社)

──「フィンランドへ移住したら求めていた暮らしができたというわけではなかった」と、ご著書でも描かれていますよね。

 そうなんです。移住する前は、フィンランドに移住さえすれば、これまで我慢していた大型家具も買いそろえて、自然と自分が憧れていた暮らしができると思っていました。でも、いざ家具を買おうとすると、ひとつひとつの家具選びや色使いも「これから一生使うものだから」と力みすぎて、選べなかったんです。

 アパートが決まった時に、勢いでベッドだけ買ってしまったんですけど、そのベッドを見ながら、「家具すら選べない“暮らし初心者”の自分をなんとかしなくてはいけない」と強く思いました。

 また、移住1年目に、思っていた以上に時間的にも精神的にも余裕がなかったというのも、理想と大きく違っていたことでした。寿司シェフとして働いていたレストランの仕事が忙しすぎて、この1年はそれまでの人生のなかで一番働いたというほど仕事ばかりしていたので、暮らし作りにかける余力がまったくなかったんです。それを何とかしたいという気持ちもありました。

働き始めて1年でレストランが倒産

──そんなにお仕事をされていたのは、生活費の不安からですか?

 私は、もしものときに「失敗しても大丈夫」と自分に言える状況をつくらないと怖くて飛び込めないタイプなので、フィンランドで寿司シェフの仕事がなくなったとしても困らないよう、日本にいる間に、とにかく必死で働いてお金を貯めてから行きました。だからお金に関しては、それほど心配はしていませんでした。

 がむしゃらに仕事をしていたのは、「頑張らないと、ここで必要としてもらえない」という不安からです。もともと日本で働いていた時から、自己犠牲的な働き方をするほうではあったのですが、「フィンランド語もまだ満足に話せない自分にできることは働くことだけだ」と思い込んでしまったんですよね。自分が貢献することで、そこに自分の居場所を作りたいと、必要以上に頑張ってしまいました。

 あとは、フィンランドの制度上の理由も大きかったと思います。フィンランドでは、勤続1年以上の社員は、有給で1カ月間のサマーホリデーがもらえるんですけど、勤続1年未満の社員はこのホリデーがもらえません。だから、日本の会社よりも休・祝日の日数が少なかったと思います。そんな自己犠牲の精神と法律上の問題から、毎日朝から夜まで働きづめで、「暮らし」にかける余力がまったくありませんでした。


『フィンランドくらしのレッスン』より(©週末北欧部chika/集英社)

──そんなに一生懸命働いたのに、働き始めて1年でレストランが倒産します。寿司シェフとしてほかのレストランへの転職ではなく、個人事業主という道を選んだのは、寿司シェフの仕事がそれだけキツかったからですか?

 きっかけになったのは、「どんなことでも、好きでいられる範囲が人それぞれにあって、それを超えた働き方を許容できるほど、僕は寿司シェフの仕事が好きなわけではない」という同僚の言葉だったと思います。

 それまでは、「自分が好きでやっているんだから、大変でも我慢しなきゃ」という固定概念があったのですが、同僚の言葉を聞いて、人生の柔軟性を高めるために、自分で働き方を決めていいんだと、はじめて思えたんです。

 そこであらためて自分は人生で何を大事にしたいだろうかと考えた時に、「寿司シェフの仕事も好きだけど、もっと目の前の人や自分の感情を大切にした生き方がしたい」という思いが湧き上がりました。それで、漫画家の仕事を頑張ってみようと、個人事業主の道を選びました。


『フィンランドくらしのレッスン』より(©週末北欧部chika/集英社)

──フィンランドでは自分の人生の時間を大事に考える方が多いのですね。「減らす働き方」、「エンプティネスを楽しむ」でも、必要に応じて雇用されるゼロ時間契約「ゼロコントラクト」や、何もしない空っぽの時間「エンプティネス」を楽しむフィンランド人の暮らしを紹介されています。

 そうですね。人生の柔軟性を高めるために自分で働き方を決めるということや、仕事を続ける・辞める以外に「減らす」という考え方があるということなどは、フィンランドで暮らしてはじめて知った生き方でした。暮らしていくために収入はもちろん大事ですが、フィンランド人は「今の自分にとって必要なのは何なのか」ということを考えながら生きている人が多いように感じます。

 私が失業した時、就職支援スタッフさんからも「自分がいちばんしたいことをした時、人の生産性は最大化する」と教えていただきました。私が出会うフィンランドの人々がみな楽しそうなのは、「自分で選んだ」という人生の選択をしているからかもしれません。

編集・デザインを手がけた漫画『Suomi-friikin päiväkirja』

──「自分の人生を自分で決める」というのは、幸せの基準を自分で決めるということなのでしょうか。

 そうだと思います。フィンランドで暮らしはじめて、「自分自身が大事にしたいことを、意志を持って守る」ということが人生には不可欠だということを学んだように思います。

 たとえばそれは、私の場合は、晴れた夏の日にソフトクリームを海の上の橋で食べることや、静かな湖畔でペールエールを飲むことのように、とても小さなことです。これは人によってさまざまで、大自然の中で過ごす時間だったり、家族と一緒に過ごす時間だったり、それぞれ違うと思います。他の人から見たら些細なことでも、自分にとっては大事なことを、大げさに大事にしながら守っていく。それが豊かで幸せな人生につながるのだと、日々感じています。


フィンランドの書店に並ぶchikaさんが編集・デザインした漫画 (chikaさん提供写真)

──フィンランドでの暮らしにも慣れてきて、次の目標は?

 移住前は、「何があっても3年間は頑張る」ということだけ決めて、フィンランドへやってきました。20代の頃に働いていた職場で「まずは3年」という働き方をしたことが自分の性に合っていたので、今回も「1年目はがむしゃらに頑張り、2年目で壁にぶつかり、3年目で軌道に乗せる」というプロセスを思い描いていたのですが、2年目の壁がまさかの「失業」という予想外の展開だったことで、移住前に考えていた目標や計画とはまったく違う人生を歩むことになりました。

 でも、「倒産」「転職」という強制的なリセットで、「自分を自分にしていた要素」が見えてきたのは、逆にラッキーだったと思っています。

 今は、フィンランドでも作家の仕事ができたらいいなと考えています。そのためにフィンランド語のレッスンをはじめ、自分で手作りのフィランド語の漫画を作りました。

 本屋に売り込みに行き、自分でデザインから装丁、編集まで手がけた漫画『Suomi-friikin päiväkirja』(「フィンランドオタク日記」)を、本屋さんで取り扱っていただけることにもなったのですが、なんと、この漫画が今年のフィンランドコミックアワードのファイナリストにノミネートされたとご連絡をいただき、まさかの展開に驚いています。


『Suomi-friikin päiväkirja』(「フィンランドオタク日記」)はフィンランドコミックアワードのファイナリストにノミネートされた (chikaさん提供写真)

 寿司シェフを辞めた時は、同僚や仕事仲間がほしいと思っていましたが、漫画家や作家コミュニティに顔を出すようにしていたら、翻訳者の方をご紹介いただいたり、作家仲間ができたりと、新しいコミュニティも広がりました。

 自分の意志を大事にしながら、このまま新しい景色に向かって進んでいきたい。それが次の目標です。

文=相澤洋美

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