阪元裕吾監督の『ベイビーわるきゅーれ』がヒットした理由「自意識はマスとオタクの中間くらい」
CREA WEB / 2024年9月27日 11時0分
バイトの面接に落ちる・税金の支払いに追われる・取引先と揉める・慣れない新人研修を任される。そんな身近な“トラブルばかりの日常”と、斬り合い・殴り合い・銃の撃ち合い・死体処理など、“まったく身近じゃない非日常”を、絶妙なユーモアの会話劇と格闘アクションと共に描いてきた阪元裕吾監督。
2021年の『ベイビーわるきゅーれ』が大ヒットした阪元監督だが、今年の9月27日には最新作『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の公開、そしてテレビ東京でドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』の放送も始まっている。
インタビューの後編では阪元監督のパーソナルな部分に迫り、令和を代表するフレッシュなバランス感覚と映像センスのルーツを紐解いた。
逆境でもやりたいことを諦めなかった青春時代
――高校時代は演劇部に所属していたと聞きました。納得できなかったことも多かったそうですが、当時の思い出を伺いたいです。
阪元 いまはどうか知らないですが高校演劇の空気って結構独特で、全国大会に行くような劇ってもう完全に決まってたんですよね。「こういう台本が全国行きます」みたいな。すっごくわかりやすく簡単に言ってしまえば、「社会的」なテーマが入ってたり、高校生の等身大の悩みが描かれたりのどっちかみたいな。僕としては、お笑いトリオの東京03さんのようなコントに近い作品が作りたかったのですが、エンタメ度の高い脚本はあまり評価されなかったので、なかなかソリが合いませんでしたね。
そんな折にギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』という映画に出逢いまして、社会的なメッセージをいかに入れながらどうエンターテイメントやジャンル映画をやるかというという姿勢に感銘を受けました。
――とはいえ、今の邦画界で洋画的なアプローチやジャンル映画的なこだわりを通すというのは、ビジネス的になかなか険しい道のりですよね……。
阪元 大学で映画を学んでいたときも、アクションやホラーといったジャンル映画に対する風当たりは強かったですね。「アベンジャーズが好き」ってだけで「マーベル組」なんて揶揄されたり。アクション映画やホラー映画といったジャンル映画やコメディは賞レースにもあまり引っかからないですし。そんな中でキャリアを積むには、どうしても賞レースで評価されやすい人間ドラマ作品に照準を合わせるという考えはあると思います。
だから、アクション映画にもそうした日本的な風土に落とし込む努力とアイデアが重要だと思ったんです。僕の作品で言えば、殺し屋が日常のすぐそばにいるような世界観を作り、作品ごとにそれをモキュメンタリー調で描いたり、ゆるい日常モノで描いたりしてなじませていきました。
映画の中で一番重要なことは何かを見極める
――インドネシアのアクション映画『ザ・レイド』で使われた武術シラットや、中国・香港合作のアクション映画『イップマン 序章』で使われた詠春拳など、阪元監督のハイクオリティな格闘演出は、作品ごとにアクション監督やコーディネーターが変わっても、芯を変化させず保ち続けている印象です。
阪元 脚本家として、一貫した見せたいものがあるからテイストが保てていると思います。具体的には“物語のラストでちゃんと主人公と敵役のタイマンバトルがある”などですね。
――ディティールよりも構成にこだわるからテイストを維持できるというのは面白い考え方ですね!
阪元 まあ僕はアクションを作ってないしプレイヤーでもないので、構成やセリフでどう盛り上げられるかをずっと考えていますね。ストーリーがあまりにもつまらないとアクションシーンも虚無の心で見ることになってしまうじゃないですか。そうはしたくないので。溜めのシーンはあまり作らないようにしてます。たぶんせっかちな大阪人で20代だからな気がしていますが。
オタクになりきれなかった自意識が切り開いた道
――ジャンル映画的なこだわりを通したいという目的があるなかで“ディティールにとらわれすぎない視点を持つ”など、阪元監督の感覚は非常にフレッシュに感じます。そうした感覚の源泉はどこにあると思いますか。
阪元 思い返すと、最近ツイッターでもたまに見るようになってきた「オタクっぽいのになんのオタクでもない人」、あれって中学時代の自分にも当てはまって。その辺りから繋がるものがあるのかもしれませんが、2000〜2010年代くらいにブームになった、オタク×童貞物映画にも、そのアングラな空気にあまりハマれなかったんです。
めちゃくちゃ鬱屈とした学生時代を過ごしたわけでもないし、すっごいアニメにもはまったわけでもないし、シネフィルになったかと言われればそうでもないし、かと言ってめちゃくちゃキラキラした青春も送ってないし、という、まあ簡単に言えば普通の人だったんですよね自分が。
多分僕は、いわゆるマス層とオタク層の中間くらいに自意識がずっとあったと思うんです。マス層とオタク層が混ざり合う今の時代で作品が評価されるようになったのは、こうした感覚にフィットしたからかもしれません。
――最後に、邦画界でオリジナルの映画を発表していくために大切にしていることがあれば教えてください。
阪元 「ネムルバカ」が発表されたのでオリジナル映画しか撮らない監督ではないのですが、まあそうですね……、「ベビわる」シリーズの笑えるシーンも、やっぱり撮る前とか撮ってる間はぽかんとしていることが多い。「ベビわる1」のヤクザがメイド喫茶に来るシーンとか、試写で見てたんですが俺と伊能昌幸しか笑ってなかったです。
それがやっと「ナイスデイズ」辺りから空気が変わってきて。「ナイスデイズ」の、とある入鹿みなみの独白のシーンでも、録音部の小牧さんが「クソおもしろいなこれ」ってつぶやいてくれて。高校演劇のころからずっと信じてた笑いやアクション、ひいてはお客さんを楽しめることを信じてよかったなと最近感じています。だからあれこれ手を出さず、自分の信じたことをずーっとやり続ける。ですかね。
『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』
2024年9月27日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
配給:渋谷プロダクション
©2024「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」製作委員会
監督・脚本:阪元裕吾
出演:髙石あかり、伊澤彩織
水石亜飛夢、中井友望、飛永 翼(ラバーガール)
大谷主水、かいばしら、カルマ、Mr.バニー
前田敦子
池松壮亮
音楽:SUPA LOVE
アクション監督:園村健介
公式HP:https://babywalkure-nicedays.com/
文=むくろ幽介
写真=石川啓次
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