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「対話を重ねていくから、やっぱり映画の現場が好き」『ぼくのお日さま』若葉竜也が考えた「愛」

CREA WEB / 2024年9月20日 17時0分

 第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された映画『ぼくのお日さま』。吃音のある少年・タクヤは、少女・さくらがフィギュアスケートを練習する姿に心を奪われ、フィギュアスケートをはじめることから物語は動き出します。さくらのコーチで元フィギュアスケート選手の荒川のもと、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめますが、ある日――。

 登場人物の心模様を、雪の結晶のように繊細で美しく描いた作品。奥山大史監督と、荒川の同性の恋人・五十嵐役を演じた若葉竜也さんに、今作が作られたきっかけや、奥山監督が五十嵐役を若葉さんにお願いした経緯をお聞きしました。


奥山大史監督(左)と若葉竜也さん(右)。

想いをうまく言葉で伝えることができない主人公

――今作は、映画と同じタイトルのハンバート ハンバートが歌う楽曲『ぼくのお日さま』が創作の源となったそうですね。制作のきっかけを教えてください。

奥山 2019年に公開した映画『僕はイエス様が嫌い』の撮影を終えた後、幼い頃から習っていたフィギュアスケートを題材に映画を撮りたいと考えていたのですが、ただ実体験を基に話を形作っても思い出再現ビデオにしかならず、プロットが前に進みませんでした。そんな時にハンバート ハンバートさんの『ぼくのお日さま』を耳にして、惹かれて繰り返し聴くうちに、書きかけのプロットの主人公が、どんどんと歌詞に出てくる少年に吸い寄せられていく感覚がありました。そのまま書き進めてみたら、『これは映画になるぞ』と思えてきたんです。

――池松さんが演じるコーチ・荒川は、同性の恋人・五十嵐と暮らしています。五十嵐役は、若葉竜也さんにあて書きしたそうですね。

奥山 池松さんに3枚くらいのごく短いプロットを渡したら、「僕、この映画に出ます」とそのタイミングでおっしゃってくださったんです。そして、荒川役を池松さんに演じていただくとなった時に、どなたが恋人としてイメージが湧くか、そして新鮮さもあり観てみたいと思えるか、と考えて真っ先に思い浮かんだのが若葉さんです。

 当時、お会いしたことはなかったんですけど、出演作をいくつも拝見していたので、きっと若葉さんなら背景説明の少ないこの役にも、説得力を持たせて台詞を発して下さると思いました。それで、まだオファーもしていない段階で、若葉さんの写真を印刷してパソコンの前に何枚も貼って、声を思い浮かべながら台詞を書き進めました。

――脚本を書く時はいつもそうするんですか?

奥山 どうでしょう。あて書きすることって、これまではあまり無いんです。『僕はイエス様が嫌い』も、出演者のほとんどが子どもでしたから。子どものキャスティングって「あれに出ていた子、良かったな」って思った時には別人くらい大きくなっているのが常なので、役者を一から探すことから始まるんです。だから、あて書きするというのは、新鮮でしたし、挑戦でもありました。その方がすでに演じた役をトレースするような人物像では、きっと引き受けていただけないですし。

「奥山監督作品で、池松さんが出演するならぜひ」

――若葉さんは、どういう経緯で五十嵐役を知ったんですか?

若葉 別の映画に向けて準備していたタイミングでした。共通の知人が、「池松さんが出演する映画に、若葉の名前があるらしいよ」って教えてくれたんです。詳しく聞いたら、監督は奥山さんだと知って「すごく興味ある」と思って、「プロットと台本をください」とすぐに伝えました。

――すでに奥山監督の存在はご存じだったんですね。

若葉 そうですね。監督が撮影した『僕はイエス様が嫌い』は、周りからの評価が高かったですし、僕自身も興味があったので拝見していました。その時の演出が素晴らしかったので、ぜひご一緒したかったんです。

 五十嵐役を僕にあて書きをしたという経緯は知らなかったんですが、いただいた台本を読んだら求心力がすごくて、「これはいいものができるかも」と感じました。実際、ご一緒したいキャストの方々が集まっていたし、主演の池松さんとは、対話しながら演じられると思っていたので、「ぜひ出演します」とご連絡しました。

奥山 若葉さんの出演する作品は色々見てきましたが、今作ではこれまで観たことのない若葉さんが味わえると思います。衣装合わせの前に、二人きりで話す時間をいただいたのですが、その時に「過去にも同性愛者の役をご依頼いただいたことはあるけれど、その時は踏み出さなかった」とお話されていたので、出演を決心いただけたことが嬉しかったですね。と同時に、これは責任重大だ、と。


奥山大史監督(左)と若葉竜也さん(右)。

吃音や同性愛を物語に取り入れた理由は?

――吃音や同性愛を取り入れた理由はなぜですか?

奥山 映画祭でQ&Aを行うと、「多様性を描こうとしたんですか?」と聞かれることもあるんですけど、その思いが先行したわけではないんです。表現が難しいのですが、自分がこれまでに好きだった映画を振り返りながら、心から自分が作りたいと思える映画を突き詰めていったら自然とそうなった、としか言いようがないといいますか。

 とはいえ、どちらも安易に取り入れられるものではないので、特に吃音に関しては当事者の方々への取材を繰り返しました。その過程を通して、吃音や同性愛を個性として描くのではなく、ごく普通にそこにある世界を描きたいと思ったんです。特別視するものでなければ、当然、距離を置いたりするものでもないというか。

――そう思ったきっかけは何ですか?

奥山 一番のきっかけは、吃音のある小学生たちが集まるサマーキャンプに参加したことです。夜のディスカッションで、小学四年生の女の子が、「クラスの友達に吃音を理解してほしいとか、学んで分かってほしいとか別に思わない。ただ放っておいてほしいんだよね」と話していたのが印象に残りました。多分それって、吃音だけに関わらず様々なことに通じる想いなんじゃないかなと思ったんです。

 それで、吃音のあるタクヤにはコウセイという親友、荒川には五十嵐という恋人ができていきました。ただただ寄り添って、絶対に肯定してくれる、そんな人物を近くに置くことがもしもできたら、自分にも吃音や同性愛を描けるのではないかと思ったんです。

同性愛者を演じた若葉竜也が考えた「愛」

――若葉さんは、同性の恋人がいる役柄でしたが、同性愛の取り上げ方について監督とお話ししましたか?

若葉 男性とか女性とか、友達とか恋人とか関係なく、人間が人間を愛おしく思う、みたいなことをやりたいと伝えましたね。

 僕は、監督がお話した吃音の少女の「放っておいてほしい」という言葉に、すごく共感するんです。

 きっと自分が当事者だとしたら、「普通に生きてるだけなんだから放っておいてよ」と思う瞬間があるんじゃないかな。


若葉竜也さん(左)と奥山大史監督(右)。

撮影10分前まで相談した「荒川と五十嵐のシーン」

――映画の撮影は、脚本の順番通りに撮影していくわけではないと思いますが、今作ではいかがでしたか?

奥山 荒川と五十嵐については、映画に出てくる順番でほぼ撮影できましたね。天候に左右されるシーンが少なかったので。

若葉 外で撮ったのは、ガソリンスタンドのシーンくらいでしたね。

――その中で、印象的だったシーンはありますか?

若葉 監督と池松さんと僕で、ずっとコミュニケーションを取りながら撮影したシーンがありましたよね。

奥山 ベッドで横たわりながら、荒川と五十嵐がぽつぽつと語り合うシーンですね。もともとあのシーン、プロット段階では喧嘩に発展するような流れを考えていたんです。でも、脚本を書く過程で五十嵐のキャラクターが固まっていくと、喧嘩をして出ていくような人物には思えなくなってしまいずっと悩んでいたんです。結局、悩んだまま映画の撮影が始まってしまって、移動中に台本を直してはお2人に送って、を繰り返していました。終いには、固まらないまま撮影当日になってしまい、池松さんと若葉さんと台本を囲んでシュート10分前までアイディアを出し合いました。あの時はワクワクしましたね。本来、監督としては情けなく思うべき状況なんですが……。

若葉 全然情けなくないですよ。非常に貴重な時間でしたし、ああいう対話を重ねていくから、自分はやっぱり映画の現場が好きなんだと改めて思えました。結局、最初の台本に戻したんでしたよね?

奥山 戻したところもありましたね。

若葉 対話を積み重ねてから演じるので、同じ台本でも、最終的には違うシーンになったと思えました。荒川と五十嵐の心の機微みたいなものがいっぱい詰まった状態で元のセリフをしゃべるので。

――他の現場でも相談しながら台本について考えることは、よくあるんですか?

若葉 あります。でもあんな贅沢な時間はなかなかないです。僕と池松さんはその場だけでなく、撮影期間中ずっと話し合っていましたから、その時間でお互いの温度とか、言葉の波長が合っていったんじゃないかなと思います。映っていない部分で、荒川と五十嵐の時間を重ねていったとも言えますね。

 何か違うと思ったら、変更するのではなく、初めに戻す方法もあるんだなと思いましたし、対話を重ねたからこそ出てきたシーンだと思いました。

奥山大史(おくやま・ひろし)

1996年東京生まれ。長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞。その後、多数のミュージックビデオで監督や撮影を務めるほか、Netflix「舞妓さんちのまかないさん」で監督・脚本・編集を担当。本作が、今年の第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション部門へ日本作品として唯一選出された。

若葉竜也(わかば・りゅうや)

1989年生まれ、東京都出身。2016年、無差別殺人事件を扱った映画『葛城事件』に出演し、第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。2024年には主演を務めた映画『ペナルティループ』が公開された。このほか、『前科者』『窓辺にて』(以上2022年)、『ちひろさん』『愛にイナズマ』『市子』(以上2023年)など出演作品は多数。公開待機作に『嗤う蟲』(2025年公開予定)がある。

文=ゆきどっぐ
写真=細田忠

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