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かつては散髪のため韓国へ渡っていた?「対馬」の少し不思議なヒストリー伝統とモダンが交差する活気溢れる島へ

CREA WEB / 2024年9月21日 11時0分

#309 Tsushima
対馬(長崎県)/第3回


竜宮伝説が残る和多都美(わたづみ)神社。拝殿に向かって5つの鳥居が並び、うち2つは海中にあります。

 旅には“不思議な縁”というものがあるなぁ、とつくづく思った今回の対馬の旅。

 そもそも対馬へ行こうかなと思ったきっかけは、友人が同じ長崎県の福江島に移住したから。

 肝心な友人とはすれ違って会えなかったけれど、ひょんなことから知ったデザインホテル「hotel sou」の桑田隆介さんが故郷の対馬に宿をオープンするとのこと。かねがね“国境の島”を見てみたいという思いがあり、この機会に訪れてみたのでした。


厳原港まで徒歩5分の、中心地の厳原の大町通り沿いに位置するhotel jin。

 桑田さんのデザインホテル「hotel jin(ホテル ジン)」は、対馬の中心地・厳原(いづはら)のメインストリートにデンと構えていました。黒い瓦屋根に白壁の、明治元年に建てられた2階建て。かつては「有明荘」という名の旅館だったそう。

 その築155年の古民家を、人気建築家の長坂常(スキーマ建築計画)氏がリノベーション。そのスペースの斬新さには、もうびっくりです。


1階にはレセプション、そして左右に分かれた階段が。将来的にはイベントスペースとして活用する計画も。

 全2室あるのですが、1階はほぼ何もない空白のスペース。その1階中央に、東西に分かれて階段が配置されています。通常、2階建ての旅館なら階段は1カ所で客室は並んだ造り。この建物では、客室につながる階段が異なり、客室の間は吹き抜け。隣の部屋にダイレクトには行けない造りになっています。ちょっとしたカラクリ屋敷のようです。


客室の間に吹き抜けのある造り。カギは番号をプッシュするスタイル。スタッフは常駐というわけではありません。

 それぞれの客室は二間からなる間取り。どちらも畳敷きで、カラダを包む重めのフトンが用意されています。室内にテレビはあえて置かず、1980年代のカセットテープ(山下達郎とサザンオールスターズ)とプレイヤーをセット。

 広いバスルームには、それこそ両手両足を広げられるほど巨大なバスタブが置かれています(お湯をためるには時間がかかるかも⁉)。バスアメニティは自然派の「SOMALI」、肌触りのいいタオルやパジャマなど、ディテールにおもてなしの心が感じられます。


フトンは社長が睡眠環境診断士などの資格を持つ新川桂株式会社のこだわりのもの。

居酒屋「お多幸」と飲みやすさ抜群の焼酎「やまねこ」

 対馬ではhotel jinを滞在拠点とし、食事はもっぱらホテル裏手の川端通り界隈へ。桑田さん絶賛の居酒屋「お多幸」を訪ねてみると、満席状態。ガイドブックに紹介されているわけでもないのに島の常連さん、韓国からの観光客、ビジネス客、ごちゃ混ぜの状態です。


お多幸名物のひと口カツ。サク、ジュワッ! 濃厚ソースも美味です。

 評判のひと口カツや上海焼きそばをつまみながら、対馬の焼酎「やまねこ」をぐびり、ぐびり。飲みやすくて、お酒が進んでしまいます。

 実はこの「やまねこ」の蔵元である「白嶽酒造」へは、その日訪ねていたのだけれど、営業時間外だったために翌日、出直すことにしていました。すると、お多幸で囲炉裏を挟んで向かいに座っていた御仁が白嶽酒造の関係者だというじゃないですか。翌日の見学の約束をして、こちらも関係があるという醤油醸造所ともつないでもらいました。

 白嶽酒造では専務取締役にして杜氏の伊藤真太郎さんが、大きなタンクが連なる蔵内を案内してくれました。創業1919年の白嶽酒造は対馬唯一の造り酒屋。対馬は島の面積のほぼ9割を占める森林により水資源が豊富。地下20メートルから汲み上げた水は、えてして硬水になりがちだけれど、かつて大陸と地続きだったことから、対馬では軟水で酒造りができるそうです。


かつて使用していた釜の甑(こしき)を説明する、伊藤真太郎さん。

 対馬の名峰から名前をもらった日本酒「白嶽」は賞に輝く看板アイテム。1970年まではこの銘柄一本だったそう。1970年になって麦焼酎8:米焼酎2をブレンドした麦米焼酎の「やまねこ」が登場。すっきりと澄んだ、飲みやすい焼酎です。


飲みやすかった「やまねこ」を自分土産に……。

 続いて川沿いにある「つしま総本舗」へ。こちらは1887年創業で、かつては数軒あったものの今ではここだけの醤油醸造所。店内にはオーソドックスな醤油のみならず、タイ、イカ、カツオなどそれぞれの魚に合うようにつくられた刺身醤油や、アオサ入り醤油など、バラエティ豊か。醤油ソフトクリームもコクがあって、おすすめです。


川沿いにあるつしま総本舗。表通りから一本入ったエリアの散策が面白い。

「寅さん」シリーズのロケ地にもなった対馬。美しきマドンナ松坂慶子さんの当時の写真が店内に。

対韓国とのボーダーツーリズムも計画中?

 歴史ある産業がある一方で、新たな風を吹き込むお店も。川端通りで見つけた「YELLOW BASE COFFEE」は、対馬出身のご主人と福岡出身の奥様の熊本さんご夫妻が切り盛りするカフェ。美味しいコーヒーが評判となって、島の人にとってもツーリストにとっても、憩いの場になっています。


オリジナルブレンドのコーヒー豆、それに合わせた焙煎の本格派。

 実は、hotel jinの桑田さんとYELLOW BASE COFFEEの熊本さんは、幼なじみだとか。二人にはかつて東京や大阪で過ごした時期もあったけれど、対馬に戻ってビジネスを始めたという共通点があります。

「対馬はかつて海外との交流・交易で栄え、10万石を誇った城下町。中央の朝廷と諸外国との関係のバランスをとってきました。令和の今、そんな歴史を持ち、これだけ外国に近い日本、面白くないですか?」と桑田さん。

 ちなみに島にトンネルがなかった頃、島北部の人は南部の厳原へ行くのに4~5時間かかったとか。そのため髪を切るにも韓国へ行っていたそう。そんな近い外国・韓国の旅を絡めたボーダーツーリズムも思案中だとか。

「おこがましいかもしれないけれど、島の子供たちが対馬でワクワクして、ここでもちゃんと稼げると思えるようになるには、自分たちの世代ががんばらないと」と熊本さん。


川端通り界隈のミュージックバー「風音家(かざねや)」。古色蒼然とした外観から、扉を押すにはちょっとハードルが高いように思うけれど、迎えてくれるのは笑顔のマスター。

 対馬、これから何かが起こる予感がします。それにしても、いろんな人と偶然からつながった対馬の旅。だから旅は面白いのかもしれません。


韓国展望所から望む、水平線ににじむ釜山の街明かり。ボーダーツーリズムの可能性を感じます。

対馬

●アクセス 空路は長崎空港または福岡空港から約35分。海路は博多港(福岡)からフェリーで約4時間40分~5時間、高速船は約2時間15分

取材協力 
対馬観光物産協会 https://www.tsushima-net.org/
ORCオリエンタルエアブリッジ https://www.orc-air.co.jp/

おすすめステイ先
hotel jin https://www.hoteljin.com/


古関千恵子(こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●Instagram https://www.instagram.com/chieko_koseki/

文・撮影=古関千恵子

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