女優・奈緒が、藤ヶ谷太輔と“試行錯誤”「婚活アプリ」から始まる、30代のリアルな恋愛観
CREA WEB / 2024年9月26日 17時0分
清廉潔白な人物から共感に遠く及ばない人物まで、どんな作品・役柄でも自在に乗りこなしてしまう俳優の奈緒さん。相次ぐ出演作品の中でも、情報解禁時から話題を集めていたのが藤ヶ谷太輔さんとW主演を務める映画『傲慢と善良』の坂庭真実役。真実という危うさをはらんだ人物に丁寧に向き合い、生身の人間としてスクリーンに誕生させた奈緒さんに、お話を伺いました。
映画『傲慢と善良』あらすじ
「2023年、最も売れた小説」として知られる辻村深月さんの原作を映画化した同作は、マッチングアプリで出会い交際を始めた、架と真実の物語。婚約直後に真実が突然失踪し、彼女を探すうちに架は真実のパンドラの箱を開けていくことになる。架と真実の恋愛のゆくえ、真実に一体何があったのか…。ミステリーの要素を主軸に置きながら、人間のうごめく情念とそのドラマティックさの濃淡を堪能できる。
婚約直後に謎の失踪…真美を演じるうえで大切にしたこと
――『傲慢と善良』では、親の敷いたレールの上で善良に生きてきたけれど、架との婚約直後に謎の失踪を遂げる真実を演じました。取り組む上で、大事にしたことは何でしたか?
真実を演じるうえで大切にしようと思ったことは、彼女の行動が「善か? 悪か?」みたいなところを、あまり自分でタッチしないようにしようと心がけていました。もしも悪だと思ってしまうと、どこかで、そう見えないようにとか、あるいはそう見せようという思考が生まれてしまうと思ったので。そこはフラットに、なぜ彼女がそう思うのか、なぜそういう行動をしたのかを理解することだけに力を注ぎたいなと思ったんです。判断しないことに気をつけていました。
――真実はどんな人物だと奈緒さんは感じていたんでしょう?
怖がりで大胆な人だな、と思います。人からどう見られるかということをすごく気にしてずっと怖がっていますし、婚約者の架くんからもどう見られているのか、彼からの評価を気にしているところがあって。人からどう見られてるかというイメージと、自分がどうしたいかというところの間で、すごく苦しんでる人に思えました。
それでいて行動とかはすごく大胆なんですよね、パワーとか熱量もすごく持っている人で。彼女が本当の自分を見つける、みたいなことが最後のゴールになればいいなというのが、私の中では少しありました。
藤ヶ谷太輔さん演じる架に感じる「愛おしさ」
――真実のお相手・架のことはどうご覧になっていましたか?
架くんはすごくいい人、魅力的な人だなと思います。とにかく性格がいいというか、計算高くない人なので、自分が不器用なことにもあまり気づいていなさそうな…(笑)。ちょっと抜けている部分も、架くんの魅力だと思います。
人生の中で人から好かれることも多かっただろうし、そして地位や築き上げてきたものもあるから、周りからするとあまり苦労せずに生きてきた人に見えるかもしれない。けど「満たされているからこそ生まれてきた悩み」みたいなものが架くんの中にはあるんじゃないかなと思うんです。
自分自身がどこに向かっているのかとか、自分の選択がわからないみたいなことは、真実と架くんにすごく共通している部分なんですよね。全然違う二人に見えて、二人の実は一致している部分みたいなものが、私は見ていてすごく面白いなと思いました。
――架を演じたのは藤ヶ谷太輔さんでした。藤ヶ谷さんの架っぷりはいかがでしたか?
すごくぴったりだと思いました。藤ヶ谷さんご自身も、架に対してすべてじゃないにせよ「自分じゃないかって思う」というぐらいシンパシーを感じる瞬間もあったそうです。お芝居する中で「わ、架くん、こういうところが抜けてたんだ」とか「こういうところを真実は不安になってしまったんだ」と気づきがたくさんありました。
そうした部分こそ、実は架くんの“善良さ”だと思うんです。架くんがすごくピュアで善良で計算もしないから、真実の計算にも気づかない。気づいてほしいことに気づかないのも、架くんがすごくいい人だからなんだなあって。
藤ヶ谷さんご自身もとても優しい方ですし、ちょっと抜けている部分もあって(笑)、藤ヶ谷さん自身が本来持っている魅力すべてが、架くんとしてみんなが「愛おしいな」と思うエッセンスを加えてくださっていたと思います。
親友も婚活アプリきっかけで結婚しました
――今回真実の役作りのために普段しないことをする、例えば婚活アプリをのぞくなどはありましたか?
プラスアルファでしたことは、特になかったです。というのも、それぐらいマッチングアプリや婚活が、周りでは普通なんですよね。今の時代に響くお話だなと思っていたので、監督や藤ヶ谷さんとお話していても、すぐに「ああですよね。こうですよね」と弾むくらいでした。実は、私の親友も婚活アプリきっかけで結婚したんです。だから、親友が今の旦那さんと出会うまでの話もずっと聞いていましたし、リアルだなあって思っていました。
――身近な方の体験は作品づくりにも活きたのでは。
そうなんです。例えば今までアプリで何人ぐらいの人と会っていて、それが多いのか・少ないのかなど、実際に使っていないとわからないですよね。人によって感覚はいろいろ違うと思いますが。だから、みんなで「これって今まで何人ぐらい出会ってるのかな?」、「何人ぐらいが多いと思う?」などとすごく話し合ったりしました。そうした話し合いの内容は、確かにこの作品ならではだったかもしれないですね。
「これは私の傲慢さだ」と受け入れて生きる
――奈緒さんは本作について「自分が好きになれなくて蓋をしたい気持ちを“傲慢と善良”という言葉が救ってくれるような、とても希望のある作品」というコメントをされていました。そこにいたった思いも教えてくれますか?
例えば、パートナーのことを“選ぶ”という表現をするときに、私はその言葉自体に何かモヤモヤと気持ちのよくないような、言葉の居心地の悪さみたいなものがすごくありました。それも一つの"傲慢"なのかもしれません。
人間はそういう傲慢な部分がある生き物だし、私はこの作品を観て、原作を読んで「赦そう」と思えたんです。赦そうと思える自分になりました。
何となく「これは傲慢じゃない」と今までだったらもしかしたら手放したかもしれない、蓋をしたかもしれない自分自身の思考や行動についても、これからは「いや、これは私の傲慢さだ」と受け入れて、そこから行動を変えていくこともできる気がしました。そういう意味で、すごく希望をもらった作品でした。
――ご自身の傲慢さを感じる部分について、もう少し伺ってもいいですか? 興味深いです。
自分が知らないことについて、「いや、私はこれで(知らないままで)いいんだ」と自分を納得させてきたときがあったんです。自分の中でまだ知らないものが怖いから、どこか「自分が正しいんだ」と未知のものを少し見下していたのかもしれない。
けど、最近は知れることを知ろうとしない罪みたいなものもあるのかな、と感じたりもしていて。自分が今まで触れてきていないものでも、知れる機会があるんだったら知ることが大事だと思うようになりました。そうした私の今まで蓋をしてきた選択は「傲慢」と名付けようと、今回の原作と出会って思ったんです。
――ご自身の傲慢さを受け入れ、変わられたんですね。
だから、すごくいろいろなことを今まで以上に知りたいと思うようになりました。他人と関わるときも、今までの自分よりは一歩踏み込んでみて、“この人はこういう人だ”と判断するのをやめようと思うようになりました。判断することで自分が安心したいだけなのかもしれないと思うので。
そして今自分を大切にしてくれている人たちを大切にする時間が必要だと感じました。身近な人にほど、思っていることを言えていないから、きちんと対等な目線で伝えようと意識し直しました。
架くんと真実ちゃんを見ていて、私はとにかく羨ましかったんですよね。ここまで自分が思っていることをカッコ悪くぶつけてさらけ出せる人がいることに。私ももう少し自分の傲慢さに蓋をせずに、自分自身が受け入れて「この人と一緒にいたい」という確信を与え合えるような関係性を築けたらいいなと思います。
――ありがとうございました。今の時代に響く内容とおっしゃっていましたが、奈緒さんが特に届けたい思い、大事にしているメッセージを教えてください。
これからの時代、自分で選択するということがどんどん増えていくと思います。選択の自由があるということに、ときに人はストレスを感じてしまうとも思うんです。
『傲慢と善良』で私が演じた真実のように「誰かに決めてもらうほうがラクだ」ということも実際にあるはずなので、自由であるほどかえって自分を窮屈にしてしまうことがあるんじゃないかと、私自身感じたりもしています。
それでもこのタイトルを見て、少しでも自分の中の傲慢さや善良な部分とか、ちょっとでもシンパシーを感じたり、心が引っかかるところがある方は、何かを受け取っていただけるのではと思います。ぜひぜひ、劇場に足を運んでいただけたらうれしいです。
奈緒(なお)
1995年2月10日生まれ、福岡県出身。2013年俳優デビューし、NHK連続テレビ小説『半分、青い』の親友役で注目を浴びる。2019年に『終わりのない』で初舞台、同年『ハルカの陶』で映画初主演を飾る。主な出演作に、ドラマ『ファーストペンギン!』、『あなたがしてくれなくても』『春になったら』、映画『マイ・ブロークン・マリコ』、『先生の白い嘘』など。公開待機作に主演ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系10月期火曜22:00~)など。
文=赤山恭子
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=masaki
スタイリスト=岡本純子
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