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寅子は“変わり者”、では花江は?朝ドラ『虎に翼』で描かれてきた「さまざまな女性の在り方」のこと

CREA WEB / 2024年9月27日 6時0分

「法律を学びたい女の子なんて変わり者」から始まった朝ドラ


連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

 先日『ハマれないまま、生きてます: こどもとおとなのあいだ』という本を出版した栗田隆子さんと書店でイベントを行った。そのときに、栗田さんが話題にしていたのが「変人が生きやすい世の中が生きやすい世の中だ」ということだった。

 コラムを書くにあたって『虎に翼』を1話から改めて見直してると、この栗田さんの言葉が幾度となく思い出された。

 第2週の冒頭では、『虎に翼』の主人公の猪爪寅子(伊藤沙莉)の母親のはる(石田ゆり子)は、法律を学ぶために明律大学の女子部に通うことになった娘に対して「いったいどんな子が来るのかしら。法律を学びたい女の子なんて変わり者に決まってます」とつぶやいていた。

 法律の道を志し朝鮮半島から日本に来た留学生・崔香淑=チェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)が兄と日本に来た経緯を語る場面でも、「周りから見れば変わり者きょうだいです」と自嘲気味に言うと、それを聞いた桜川涼子(桜井ユキ)が「変わり者、いいんじゃなくて、私は好きよ」と、続いて寅子も「私もです」と返すやりとりがあった。司法省で働くことになって出会った久藤判事(沢村一樹)も、裁判官の小橋浩之(名村辰)から「変わり者」と何度も評されていた。法曹界で活躍したいと考える寅子の同窓の女性たちも、はるさんの言う通り、女学校を出て結婚するという多くの人が進む人生を選ばない時点で「変わり者」だろう。

『虎に翼』は、寅子も含めて、数多くの「変わり者」が出てくる話なのである。しかし、このドラマで「変わり者」というのはネガティブな意味ではない。


連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

 はるが寅子に言った「変わり者」という言葉も、学びたい女性に対して偏見を持っているということではなく、当時の社会一般的な考え方を代表しているだけだろう。そこには、皆と同じように女学校を出て結婚するしか幸せになる道がなかったこと、それ以外の道を選んだ女性には、いばらの道が待っているのだと考えられていた当時の状況がうかがえる。

 この朝ドラは、猪爪寅子が、そんな風に「当たり前」になっていることに対して、何か違和感を感じたときに、「はて?」と疑問を抱きながら、状況を少しずつ変えていく話であった。

さまざまな女性の在り方を描いたドラマはわたしたちの気分を楽にしてくれる


連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

 寅子は、とにかく、いろんな常識や「当たり前」と思われていることに対して「はて?」と疑問を持ち、黙っていられない。それは彼女が親になっても変わることはない。仕事にまい進するばかりに、娘の気持ちが理解できなかった時期もあったし、恋愛の機微や人が自分に向ける気持ちのニュアンスが掴めず、裁判官の星航一(岡田将生)から結婚したい意志をほのめかされても気付くことができない。しかし、「当たり前」を問う気持ちがあるからこそ、ふたりは法律婚をせず、苗字も変えることなく人生のパートナーとなったのだった。

「はて?」というのは、見ているとフェミニズムの要素でもあると言えるだろう。その逆は「スンッ」である。「スンッ」とは、理不尽なことがあっても仕方がないとスルーし、何事もなかったようにやり過ごしている様を指しているのだと受け取れる。「はて?」と「スンッ」を描くことで、さまざまな女性の在り方が見えるようになっていた。

「さまざまな女性の在り方が見えることの重要性」というのも、冒頭で話した栗田さんとのイベントで私が指摘したことである。女性の在り方に、望ましい形があるとされていれば、それにあてはまらないもの、つまり「変わり者」は生きにくい。しかし、女性の生き方が一様ではなくて、みんなどこか「変わり者」なのだから、周囲と同じ人生を送らなくてもいいと思うドラマがあれば、多様な女性を描いているということになるし、そこには世の女性たちの気分を楽にしてくれる面があるだろう。


連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

 女子部の仲間である山田よね(土居志央梨)は、普段からパンツスーツなどの服装を身に着け、言葉遣いにしても他の女学生のような所謂「女性らしい」(と思われているような)ところがない。なんでもはっきりと口にするよねと寅子は、ときに口論になったり、寅子が妊娠を隠していたことが分かった後は、しばらく交流を絶ったこともあるが、なんだかんだとお互いの人生の近くに存在し続けている。よねは「私は男になりたいわけじゃない。女を捨てたかっただけだ。自分が女なのかと問われれば、もはや違う。恋愛云々は、男も女も心底くだらないと思っている人もいる」とも言っている。

 冒頭から「変わり者」と書いてきたが、 『虎に翼』を見ていると、世の中にいる“多数派”ではないと思われている人たちを「変わり者」とひとくくりにすることすら、妥当なのかと思えてくる。

梅子も花江も…多様な「変わり者」が描かれていた


連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

 結婚して子育てをしながらも、子どもたちを父親のような家庭を顧みない大人にしたくはないと考え、法律を学んでいる梅子も、多数派に見えて、多数派ではないひとりである。梅子が夫の浮気と急逝、それによって義母の世話を強いられたり、浮気相手と遺産相続で争わないといけない状況になったりしながらも、「直系血族及び同居の親族は、互いに扶(たす)け合わなければならない。」という民法第730条を逆手にとって、すっきりとした顔で家族の前を去っていくシーンは忘れられない。

 このドラマの中では、最も多数派の考え方を持っていると思われていた花江ですら、「変わり者」ではないとは言い難い。

 花江はもともとは、女学校から寅子と一緒であったが、学生時代に結婚を決めることが女性の幸せだと思っているような、当時の女学生の中では多数派の中のひとりであった。寅子の兄でもある夫を戦争で亡くしてからも、猪爪家の一員として、寅子や寅子の弟や、自分や寅子の子どもたちと一つ屋根の下で家族として生きてきた。しかし、外で働く寅子たちに対して、コンプレックスの気持ちがないわけではない。寅子の友人たちが、花江を女中と勘違いしたときにはショックを受けたこともあった。


連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

 そんな花江がアメリカ人を家に入れた際、英語を話しているのを息子たちに驚かれるが、それを見て寅子が「あなたたちのお母さんは、女学校を出ているのよ」と説明をするシーンがある。筆者は花江のような家で家族を支える立場ではないが、隣で生き生きと活躍する女性を見ているだけで、自分には何もできないと引け目を感じていた時代があるために(実際にはそんなことは思う必要はないが)、花江の気持ちが痛いほどわかるのだった。

 寅子のような法曹界で活躍する女性たちがこのドラマでは主流であるからこそ、多数派だと思える花江ですら、多様な「変わり者」の一人なのではないかと思えることは興味深い。

彼女たちの描かれ方は、「憲法14条」に繋がる

 ここまで書いてきてわかるのは、ドラマに限らず、世の中で多数派ではないこと、つまり「変わり者」はたくさんいて、多様であるということは、ごくごく当たり前のことであり、このドラマが決してマジョリティに焦点を当てて描こうとしたのではないということだ。

 その中には、朝鮮から日本に来た崔香淑(ハ・ヨンス)や、同性のパートナーと交際している轟太一(戸塚純貴)なども重要なこととして含まれるだろう。

 この視点を得ることで、『虎に翼』は、「インターセクショナリティ」、つまり、人種、性別、階級、性的指向、性自認など複数の個人のアイデンティティが組み合わさっていることを意識しながら、社会を見ることのできるドラマであることに気付く。

 それは、ドラマの中で何度も出てきた憲法14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という条文ともぴったりと重なるのだ。

文=西森路代

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