舞台に立ち続ける森田剛が「客席は見ない」「見えてしまったらわざとピントをずらす」その理由とは?
CREA WEB / 2024年9月29日 11時0分
殺人犯やヤクザ、戦時下に苦悩するアナウンサーなど、作品ごとに強烈な印象を残す俳優の森田剛さん。10月には赤堀雅秋さん作・演出の舞台『台風23号』に出演する。
赤堀さんは、映画『その夜の侍』や『葛城事件』などで知られるとおり、残酷な世界のなかの人々の悲哀を絶妙なタッチで描いてきた。その独特な世界観と森田さんは親和性がありそうだ。最近の赤堀作品は、なんでもない日常の瑣末な事柄に表れる、人々のずるさや自分本位、素直でない姿をリアルに描写。最新作で森田さんのどんな一面が引き出されることになるか、期待が高まる。
まだ稽古がスタートする前、森田さんに本作や舞台への想いについて、静かに語ってもらった。
ダメな人を演じるのって、実は楽しい
──『台風23号』で赤堀雅秋さんの舞台に初出演なさいます。赤堀さんとは何かお話をされたのですか?
一度、赤堀さんと今回共演する間宮祥太朗くんと3人で食事をしました。ちゃんとお話ししたのはそのときが初めてです。舞台の具体的な話はしませんでしたが、赤堀さんの優しい部分や淋しい部分など、いろいろな面が見られた気がします。
──赤堀さんはご自身の舞台で、つかみどころのないとぼけた親父役を演じては観客の笑いを一気にさらうので、素顔はどんな方なのだろうと思っていました。
僕もまだわからないです。でも、舞台に出る上では、演出家の方の人柄はあまり関係ないかなと思っています。作品をご一緒するなかでどういう方なのかわかる、というのはありますけどね。
──現段階(7月下旬)では簡単なプロットのみだそうですが、森田さんは今回どんな役なのですか?
蒲鉾工場で働いている男です。バツイチで、前の奥さんの弟(間宮祥太朗)からお金を借りているそうです、2万円……。
──微妙な額ですね。返せないのか返さないのか(笑)。
どうなんでしょう? 恋人がいるのに別の女性にも手を出しているような、わかりやすくダメな人。でも、ダメな人を演じるのって、実は楽しいんですよね(笑)。
客席がずっと真っ暗だったらいいのに
──稽古はこれからだそうですが、どんな準備をされるのですか?
いつも決めているのは「台本を覚えていく」ということです。ただ、今回はまだ台本がないので、身一つで行くことになりますね(笑)。
稽古をしながら、役の人物や役同士の関係を作っていく作業は面白いです。ただ、難しさもあります。初日は決まっているから、間に合うのだろうかとストレスを感じることもありますけど、そういうストレスも僕は感じていたいんですよね。
──時間が許せば、ずっと稽古をしていたいですか?
いや、そうとも限らないです(笑)。もちろん、あと1週間、せめて3日あれば……と思うことはありますけど。
演出家や監督のイメージするものを形にしたいという想いは映像も舞台も同様にあります。ただ、映像は監督のものだけど、舞台は本番が始まったら、役者のものというところがある気がします。
──その日、その回ごとに客席の雰囲気が違うそうですね? 天気によっても変わると聞きます。
僕は(客席を)全然見てないです。ずっと真っ暗だったらいいのにと思います。たまに照明の具合で客席が見えてしまうことがあるのですが、そのときはわざとピントをずらします(笑)。それでもお客さんのエネルギーみたいなものを感じるから、舞台と客席は見えない何かでつながっているのでしょうね。
──観客の反応は気になりませんか?
全然気にならないです。たとえば笑いのあるシーンで笑いが起きなかったとき「今日はなぜ笑わない?」と悩む方もいらっしゃるみたいですが、僕はそういうのがないです。笑いが起きようが起こらなかろうがどっちでも構わない。
──役に入り込んでいるから気にならないということですか?
というより、気にする必要はないんじゃない? と思っています。僕が気になるのは客席よりも舞台上。共演者の方が何か心地悪さや違和感を持ったら、僕も同じようにそれを感じるし、演出家の方が「今日は良かったね」とおっしゃったら、それが最高と思っています。
──同じ芝居を何十公演もやることについては、飽きることはないですか?
ないです。その都度、発見もありますし、修正もできますし。役に関して、「通る瞬間」というのがあるんですよ。腑に落ちるというか。
今日はこの人のこのセリフがすごく響くなとか、同じ芝居をしていても日々違うふうに感じています。それが面白いですね。舞台は、そこでしか味わえないものがあるなといつも思います。
「一人芝居はしたくない」その理由は?
──『劇場版 アナウンサーたちの戦争』での、和田アナウンサー役も素晴らしかったです。終盤の和田アナの全力で魂を込めたようなアナウンスに胸を打たれました。森田さんはダンスもお上手ですが、言葉を使った表現が今は楽しいのでしょうか?
僕にとっては、言葉の表現も肉体の表現も、感覚としては一緒です。映像でも舞台でも、お芝居をするなかでのライブ感というか、ちょっと体温が上がるような感覚を得られると楽しいなと思います。
──稽古などで、思うように言葉が乗らない日もありますか?
しっくりこない日はあります。でもそれは、おそらく僕に技術的なものが足りていないからなんだろうと思います。これまで共演してきた方や、舞台を観に行って「力が抜けていていいな」と思う役者さんは、そういう技を持っていらっしゃる気がしますね。
──いつか一人芝居をやってみたいと思います?
全く思わないです。一人じゃ何もできないから無理ですね。
──これまでにも現代劇、翻訳劇、いろんなタイプの舞台に出演なさっていますが、できるだけチャレンジングなことをしたいですか?
そうですね。先の見えないものはいいですよね。予想のつくものは面白くないから。
──森田さんは、俳優業の喜びをどういうところに感じているのでしょう?
役を通して、演じている瞬間瞬間に、「生きている」という感覚を得られたときですかね。でも、稽古で物語が立体的になっていく間も、全部ひっくるめて(喜びを)感じていると思います。
つくづくラッキーだなと思うんです。
今回、こうして赤堀さんと舞台をご一緒できるというのも、こんなふうにチャンスをいただけるのはありがたいなと。自分だけではどうにもできないことですから。
チラシの共演者の方々の顔ぶれを見るだけでもワクワクします。
何をするにも素手でないと……
──森田さんは畑を耕しているそうですが、日常の出来事がお芝居に影響を与えたり、表現とバランスを取っているということはありますか?
畑はもうやってないんですよ、前にやっていたことがあるというだけで。今回取材でものすごく畑について聞かれるんだけど(笑)。
──トーク番組やインタビュー記事に出ていたので皆聞いてしまうんですね(笑)。失礼しました! 観葉植物を育てていらっしゃるんでしたっけ?
植物は育てています。どうだろう、(芝居に)何かしら影響はあるんじゃないですかね。ちゃんと考えたことはなかったけれど。
──森田さんは虫は大丈夫ですか? 触れますか?
できるだけ触りたくないんですけど、土いじりは素手でやりたいんです。だから、枝かと思ってつまんだら虫だったということがあります。
──びっくりしますね! そんなときは悲鳴をあげる?
あげます。でも、手袋をするのはイヤなんですよ。何をするにも素手でないと感覚が鈍る気がして。葉っぱの剪定とか、水やりが必要なのか、触ればわかりますが、どんなに薄くても手袋をはめるとダメです。
──肌感覚を大事にされているというのはすごく森田さんらしい気がします。では普段、お家では裸足ですか?
裸足です。
──いま、植物以外で気になっていることは何でしょう?
いまはミジンコをどう増やすかということしか考えてないです。
──もしかして、飼っていらっしゃるメダカの餌のためですか?
そうです。なかなか増えないんですよ。ミジンコのことで頭がいっぱい(笑)。『CREA』でミジンコの特集をぜひ組んでください。
森田 剛(もりた・ごう)
1979年生まれ、埼玉県出身。俳優。2021年MOSSを立ち上げ、短編映画の企画制作なども手掛ける。最近の主な出演作に映画『前科者』(22年)、『白鍵と黒鍵の間に』(23年)、『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(24年)、ドラマ「インフォーマ」(23年 関西テレビ)、「ワンダーハッチ₋空飛ぶ竜の島-」(23年 Disney+Star)など。映画『雨の中の慾情』が11月29日公開。
Bunkamura Production 2024『台風 23 号』
作・演出:赤堀雅秋
出演:森田 剛、間宮祥太朗、木村多江、藤井 隆、伊原六花 駒木根隆介、赤堀雅秋 秋山菜津子、佐藤B作
東京公演:2024年10月5日(土)~10月27日(日) THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6 階)
問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00) www.bunkamura.co.jp
大阪公演:2024年11月1日(金)~11月4日(月・祝)森ノ宮ピロティホール
お問合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00※日祝は休業)
愛知公演:2024年11月8日(金)、9日(土) 穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
お問合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00※日祝は休業)
文=黒瀬朋子
撮影=佐藤 亘
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