「痛みを訴えても“気のせい”と言われ…」『極悪女王』指導役・長与千種が語る80年代の狂気と「少女たちとの絆」
CREA WEB / 2024年9月26日 17時0分
80年代の女子プロレスブームを牽引したダンプ松本とクラッシュ・ギャルズら選手たちの群像を描くNetflixシリーズ「極悪女王」の配信が始まった。本作にはプロレススーパーバイザーとして、長与千種が参加。ブームの一翼を担った張本人は、当時を振り返りながらどんなことを思うのだろうか。近年プロレスファンであることを公言したジェーン・スーが、その胸の内を聞いた。
『週刊文春WOMAN2024秋号』より一部を抜粋・編集し掲載する。
俳優をプロレスラーにすることはできるのか?
スー 私は73年生まれなので、ドンズバのクラッシュ・ギャルズ世代です。あの頃はテレビの中にいる悪徳レフェリーの阿部四郎に向かって、本気で「むかつく~!」と泣き叫んでいました。
長与 ありがとうございます。
スー 当時は生の試合を観に行ったことがなくて、実はプロレスにハマり始めたのはコロナ禍後半から。あの頃は興行が少なかったので、YouTubeが入口でした。
それからずっとガンバレ☆プロレス(所属選手の多くが兼業レスラーのインディープロレス団体)が好きで、この3年はほぼ全通(すべての大会を観戦すること)しています。並行して王道も観ておいたほうがよいと思い、新日本プロレスなど大きな団体の大会も観に行ったりしました。
長与 ガンプロはファミリー感が満載ですよね。
スー はい、みんな個性的です。
長与 きっとスーさんの琴線に触れるのは、みんなで何とかしようと努力している姿勢なんでしょうね。私が設立した団体Marvelousもそこは共通すると思います。本作では私を始め、Marvelousの選手が一丸となってプロレス指導に当たりました。でも、最初ははたして短期間で俳優さんをプロレスラーにすることができるのか? と不安で。
スー そうですよね。
長与 Marvelousにも18歳の練習生が2人いるんですけど、その子たちもプロテストを受けられるところまでに1年近くかかっているんです。そこで、当時の自分たちを振り返ってみたんですが、あの頃は「見て盗め」が当たり前で、誰も教えてくれないままプロテストに挑んでいました。
だとしたら、今みたいに細かく手取り足取り教えるのではなく、当時のような環境に戻した方が今回の撮影には適しているのではないかと思い、必要最低限の要点だけを徹底的に叩き込む方法に。すると俳優の方々はみるみる上達し、恐ろしいほど力を発揮してくれたんです。
スー ゆりやんレトリィバァさん、唐田えりかさん、剛力彩芽さん始め、他のレスラー役の俳優のみなさんも全員、本当に素晴らしい表現力でした。受け身って一般の方が取れるようになるまでどれくらい練習が必要なんですか?
試合は99.9%、役者が演じた
長与 受け身は大きく分けて3通りあるんです。それぞれの受け身をさらに分解したものを2年の撮影期間で徹底して教えていたんですが、早い人だと半年でできていましたね。ありがたかったのは、彼女たちが10キロ、15キロとすごく増量してきてくれたこと。体にマットを1枚巻く感じになるので、受け身も上手くなるんです。
スー 撮り方もあるんでしょうけど、みんな当たり前に受け身をとっていて驚きました。
長与 力強くてシンプルイズベストな技もたくさん出てくるんですけど、それも俳優としての体の表現が加わることで説得力が増して見えるんです。
これはやっと言えることですが、試合は99.9%役者が演じています。これまでもプロレスを題材にした作品はありますが、ここまで役者がやるというのはなかったですよ。もちろんもしものことがあったときにすぐスイッチングできるようにプロレスラーは待機していましたが、みんな役者陣の試合を観ながら勉強になると唸っていましたね。
スー 撮影の準備のため、俳優さんたちはMarvelousの道場に通われていたわけですよね。
長与 有名無名関係なく、みなさん船橋の駅からバスに乗って道場通いしていました。この一日一日を絶対に無駄にしないという気合を毎回感じましたよ。常にトレーナーさんが付いていたので、万全のケア体制のもとで練習できたのもよかったです。
スー 大きな怪我もなく。
長与 ただ、撮影中にゆりやんさんが頭を打ってしまって。そのときは監督を始め多くの方々が話し合い、インターバルをしっかり取り、回復を待ってから撮影を再開しました。自分も経験がありますが、怪我には安静が一番ですから。周りの方も、彼女自身もしっかりケアをしてくれていました。
スー 80年代当時って、今みたいにロキソニンが市販薬では買えないじゃないですか。あの頃、痛み止めはどうされていたんですか?
長与 痛みを訴えても「気のせい」って言われていました(笑)。どこが痛いか伝えても、塗り薬のサロメチールしか出てこないんです。当時は病院に行きたいと言うと敗者の烙印を押される。次の試合に入れてもらう権利を無くしてしまうので、言えなかったですね。
あらゆる手段で応援してくれた少女たち
長与 本作はクラッシュ・ギャルズの対角にダンプ松本がいる構図ですよね。でも、もう一人主役がいると私は思っているんです。それは、応援してくれた少女たち。
今でも応援してくれるファンの方々も昔は少女だったわけで、かつてどんな応援をしてくれていたのか聞いてみたんです。するともう、中学生時代から全国を一緒に回っていたらしいんですよ。
スー ご家族と一緒に?
長与 いいえ、友達と。駅の掲示板等でやりとりをして。
スー は~すごい! 昭和だ!
長与 先生と交渉して学校を休んだり、遠征費に関しては青春18きっぷなど格安チケットを使ったり、遠征先で仲良くなった友達の家に泊まったりしていたそうです。チケットはダフ屋さんに安く譲ってもらったりして。
スー ダフ屋、いましたね。
長与 当時からありとあらゆる方法を駆使して応援してくれていたと知って、目からウロコでした。
スー 長与さんは当時の少女たちの声援をどう感じていましたか?
長与 目黒の事務所の近くに女子高がいくつかあったんです。走っていると同年代の女の子たちから、「一生懸命やってるから応援したくなる」「今度観に行く」と言われて、その子達が観に来てくれるようになりました。
今でも覚えているんですが、後楽園ホールで相方と初めてタッグを組んでダイナマイト・ギャルズと対戦した試合で、10人くらいの子たちが初めて紙テープを投げてくれたんです。両手いっぱいに持ったテープを一生懸命に。それが嬉しかった。それからは女子高生たちがどんどん増えていって、客席を埋めてくれるようになりました。同じティーンエイジャーとして、この子たちのためにも頑張らなくちゃと思いましたね。
私たちはいろんな葛藤を抱えて勝負の世界に挑んできたけど、それは観客の少女たちも同じなんです。応援してくれていた人は自己投影してくれていたんだと思います。私たちも同じで、彼女たちのことを考えないときなんてなかった。きっと、お互いに励まし合っていたんです。
だからこそ、強い人でいなきゃいけなかった。何度倒れても立ち上がらなきゃいけなかった。私はその姿勢をプロレスの試合を通して伝えていた気がします。
スー 紙テープは買ってきたものをそのまま投げられるわけじゃないと、プロレスを生観戦するようになって初めて知ったんです。全部一回ほどいて巻き直す大変な作業がある。その子たちがどんな気持ちでテープを準備してリングに立つ選手に向かって投げていたんだろうと想像すると、涙が出てきそうです。
少女たちのパワーで、客層の男女比が逆転した
長与 それまでプロレスは男性がメインの観客でしたし、私が新人の頃はまだ変なお客さんがいっぱいいました。お酒を飲んでいる方も多いからか、女子選手を性的な対象としてまなざしてきて「脱げよ」という言葉を浴びせてきたり、実際に脱がそうとする人もいました。客同士の殴り合いや選手とのいざこざも日常茶飯事。
でもいつの時代もそれを救うのは少女たちなんです。少女たちのパワーが今までの流れを全部変えてくれました。客層の男女比も逆転して。
スー 残念ながら80年代も現代も、何かを頑張る女性とそれを応援する女性がいても、最終的に利益を吸い上げていくのは男性という構造はそんなに変わっていないと思うんです。でも、選手と少女たちの間に生まれた絆だけは、絶対に誰にも奪えないというか、搾取できない。
長与 だから今でもつながっていられるんですよね。彼女たちは歳を重ねた今でも応援に来てくれるし、「お願いがあるんだけど、うちの子たち今度試合やるから、よかったら応援してくれない?」と言うと、大概の人は足を運んでくれようとする。なかなか若い選手にはついていけないと言葉を濁しながらも、娘や息子を連れてきてくれて、今度は子どもたちが応援してくれるようになる。
だから、あのときの人たちとはたぶん死ぬまで一緒なんだと思います。少女たちがいなかったら、クラッシュもダンプも存在し得なかった。
※全日本女子プロレスを経営していた松永兄弟への愛憎や、SNSの登場によるプロレス界の変化、現在のダンプ松本との関係などについて語った全文は『週刊文春WOMAN2024秋号』で読むことができます。
ジェーン・スー
1973年生まれ東京出身。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のパーソナリティとして活躍中。近著に『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)。
長与千種
1964年生まれ長崎県出身。80年に全日本女子プロレス興業(全女)でデビューし、83年にライオネス飛鳥とクラッシュ・ギャルズを結成。2016年にMarvelous Prowrestlingを設立し、代表と運営、さらにプロデューサーとして活躍中。
文=綿貫大介
写真=平松市聖
ヘアメイク(スー)=藤原リカ(ThreePEACE)
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