黒沢清監督作での役柄に困惑? 刺激的な現場を振り返る『Cloud クラウド』出演・奥平大兼
CREA WEB / 2024年9月27日 11時0分
黒沢清監督による最新作『Cloud クラウド』で、菅田将暉演じる転売屋の主人公に雇われる青年・佐野を演じる奥平大兼。デビューから4年、若手演技派俳優へと成長し、8月に公開されたばかりの『赤羽骨子のボディガード』では司令塔役を演じるなど、さまざまな役柄に挑戦している彼のキャリアを振り返る【後篇】。
ヒロインに寄り添う役を演じるときの考え方
――ドラマ「最高の教師」で同級生役だった當真あみさんとは、24年放送のドラマ「ケの日のケケケ」でも琥太郎役で共演しています。
2人の関係性がそもそも恋愛じゃないし、當真さんが演じたあまねを、ちゃんと人としてリスペクトしている役だったと思うんです。だから、『君は放課後インソムニア』のときに感じた「役としてではなく、自分だったら、相手にどう接して、どういう気持ちになるか?」という感覚で、當真さんを見ながら「こういうところ、頑張っているんだな」「こういうこと、思っているんだろうな」と思いつつ、お芝居していました。もしかしたら、ヒロインに寄り添う役を演じるときの根本的な考え方は、あまり変わってないかもしれないですね。
――23年の年末にはドラマ「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島」が配信。壮大なファンタジーにおいて、ドラゴンを操る少年・タイムを演じました。
この話をいただいたときに、漠然と明るい性格の役とか、ぜんぜん違う世界観の話とか面白そうと思っていたんです。ここまでファンタジーなオリジナル作品は、あまりないと思いましたし、萩原健太郎監督とプロデューサーさんの「これを映像化したいと思っている」という話にめちゃくちゃ熱量を感じましたし、カッコいいなとも思いました。とにかく、やったことがない役だったので、「もしかしたら、自分の中で新しい発見があるのかもしれない」と思いながら、お芝居させてもらいました。
――24年に入り、3月に鈴鹿央士さんとW主演を務めた『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』が公開。3歳年上の鈴鹿さんとの共演はいかがでしたか?
お芝居のタイプでいうと、央士くんと僕はぜんぜん違うと思うんです。央士くんは自分が考えていることを、僕や監督にちゃんと言葉で伝えてくれながらお芝居するので、とても論理的というか分かりやすい。僕はあまり言葉に出して言わないし、たまに思いつきでやってしまうというか、感覚的だったりするので、とてもうらやましいし、央士くんのようになりたいと思いました。
「どうすればいいんだろう?」という不安で現場に向かった最新作
――8月には『赤羽骨子のボディガード』が公開。敵か味方か分からない、これまたミステリアスな3年4組の司令塔・染島役を演じました。
ここまでエンタメに振り切った映画はやったことがなかったので、「自分が出たら、どうなるんだろう?」っていう気持ちでしたし、言い方が悪いかもしれませんが、「やったれ!」な気分だったのは事実で、新しい自分探しと同時にエンタメ寄りのお芝居をする勉強になりました。
集団でお芝居するというのは「最高の教師」と同じだったんですけれど、司令塔という役柄上、みんなの前でお芝居をするというか、みんなが見ている中でお芝居することが初めてで、めちゃくちゃ緊張しました(笑)。
それにお客さん含め、みんなに対して説得力を持たせなきゃいけない役柄なので、エンタメ寄りのお芝居だけじゃなく、物語の主軸に沿ったシーンでのお芝居の使い分けは、とても勉強になりました。
――そして、最新出演作『Cloud クラウド』では、菅田将暉さん演じる転売屋の主人公・吉井の助手となる佐野を演じています。初めての黒沢清監督作はいかがでしたか?
最初、脚本を読んだとき、アクションなどは現場でやってみないと分からないところもありつつ、正直なところ「佐野というキャラはどういう人間なんだろう?」「この人とこの人は、どんな関係性なんだろう?」と思うところはありました。
それで、衣装合わせのときに黒沢監督にお話しする機会があったので、正直に聞いてみたところ「そこはあんまり気にしなくていいよ」と言われたんです。なので、表面上の役作りはしたのですが、中身というか心情に関しては、作り込まずに現場に行きました。
――そこから佐野の不気味さみたいなものは、どのように出したのでしょうか?
クランクインのときは、「本当にどうすればいいんだろう?」という気持ちだったのですが、監督にお聞きしながら、彼のさりげない立ち姿や目線、あと自信を持って言葉を発することで、「そういうキャラに見せるんだな」と、だんだん気づいていきました。吉井さんに対する態度に関しては、じつは前半と後半ではあんまり変えていませんね。
今まで作品を作ってきた人たちと、もう一度仕事したい
――奥平さん自身のキャリアにおいて、本作はどのような一作になりましたか?
本当に刺激的な現場でした。菅田さんはもちろんですけれど、周りの大先輩の役者さんたちのお芝居を、間近で見ることができて、すごく勉強になりましたし、実際に面白かったです。例えば、吉井さんに解雇されるシーン。普通だったら対面して話すのに、後ろを向いていて、日常的には不自然なのですが、画として見たときに面白い演出が初めての体験だったんです。そういう意味でも、初めての感覚ばかりで、刺激的だったんです。
――4年前のインタビューで「今後はいろんなキャラを演じたい。どんな役を演じてもしっくりくる、それを求められるような俳優になりたい」と答えていました。実際、そのような俳優になれていると思いますか?
4年前よりも技術的なことやいろんなことを吸収してきたので、そのときの純粋さみたいなものを恋しくなることがあるんです。その気持ちは忘れたくないですし、4年前の自分が言っているなら、できれば叶えてあげたいですね。
最近、「どういう役をやりたい」「どういう作品に出たい」という気持ちは、正直あんまりないんです。ただ、この4年間で、いろんな監督さんや共演者の方といろんな繋がりができたことの嬉しさがあるので、そんな今まで作品を一緒に作ってきた人たちと、もう一度お仕事できればと思っています。
奥平大兼(おくだいら・だいけん)
2003年9月20日生まれ。東京都出身。20年公開の『MOTHER マザー』で俳優デビューし、同作で「第44回日本アカデミー賞」新人俳優賞、「第94回キネマ旬報ベスト・テン」新人男優賞、「第63回ブルーリボン賞」新人賞などを受賞。23年公開の初主演作『君は放課後インソムニア』などでTAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するほか、24年も『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』『赤羽骨子のボディガード』などの公開が相次ぐ。
文=くれい 響
写真=平松市聖
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